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楼主: 地獄の天使

おもしろ化合物

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 楼主| 发表于 2006-10-25 20:21:37 | 显示全部楼层
第16話:「かご型立体からまり分子」
 からまり分子
カテナン
は、筆者の嗜好を反映してかこの「おもしろ化合物」にもたびたび登場しています。
オリンピックのマーク
なんてのもありました。
 これまでは、結合を1本切ると2個の分子に分離してしまう鎖状分子の話ばかりでしたが、今回はなんと1本切っても切り離せない立体からまり分子の話です。

 つまり、全体の構造がこんなふうになっているんです。かご型の
ビシクロ
環を2つからみあわせた形をしています。赤いユニットと青いユニットは全く同じ構造ですが、ユニットには上下の区別があり、tail-to-tail型にからまっています。
 ユニットのheadの方には(どちらがheadでもtailでもいいんですが(^^;)、3ヶ所丸い玉がありますが、これがミソで、ここには白金やパラジウムがはいっています。そうです、これは第14話の「
プラチナのネックレス
」と同じ考え方で、Pt-N結合形成の可逆性をうまく使って分子を組み上げるわけです。
 分子全体の構造を描くと、ユニット同士が重なり合って何がなんだかわからなくなりそうなので、ユニットひとつの構造を描いてみました。

 これだけでも相当複雑に見えますが、よく見るとシンプルで美しい構造であることに気づかれるでしょう。上下の三叉部分はいずれも
トリアジン
環で、その2,4,6位に片方(tail側)はベンゼン環、他方(head側)は
ピリジン
環の4位が結合しています。tailの方のベンゼン環の
パラ
位はさらに
メチレン
を介してピリジン環の4位に結合しています。このhead側の三方向のピリジン環とtail側の三方向のピリジン環の窒素同士が3個の白金で結ばれています。この白金にはエチレンジアミンが配位しています。
 さて、立体からまり分子の合成はとても簡単で、白金エチレンジアミン錯体の硝酸塩とトリピリジルトリアジンとトリス(ピリジルメチルフェニル)トリアジンを3:1:1で混合するだけです。白金によってピリジンの窒素が
架橋
されたいろいろな分子種の
平衡混合物
になりそうですが、100℃で3日間加熱すると、熱力学的に安定な分子構造へと収束します。なんと、立体からまり分子の
収率
は65%でした。冷却すればPt-N結合が切れなくなるので、もうほどけません。
X線結晶解析
で見事にからまった構造が確認されました。
 ref. M. Fujita et al., Nature, 400, 52 (1999)
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 楼主| 发表于 2006-10-25 20:23:48 | 显示全部楼层
第17話:「“鬼は外・福は内”異性体」
 有機化学を学ぶときに必ず出てくるのが
異性体
です。ブタンと
イソ
ブタン、二重結合の
シス・トランス
、二置換ベンゼンの
オルト・メタ・パラ

D
-乳酸に
L
-乳酸、なんていうのは説明するまでもありませんが、異性体にはまだまだいろいろな種類があります。「おもしろ化合物」にもすでに
ねじれ異性
とか
位相異性体
とかが登場しました。今回の分子はそれらとはちょっと違って、炭素の反転にともなう異性体です。名づけて“鬼は外、福は内”異性体(^^;。
 二環性のビシクロアルカンというのがあります。代表的なのは
ノル
ボルナンのような
架橋
環構造をもつもので、一般名は
橋頭位

メチン
炭素間の
メチレン
数をm、n、pとすると、ビシクロ[m.n.p]アルカンです。ノルボルナンはm:n:p=2:2:1の例ですね。

 ところで、似たような分子にプロペランとかパドランとかいうのもあって、それぞれビシクロアルカンのメチン間を単結合でつないだプロペラ形の分子と、メチレン鎖でつないだ水車型(外輪船の回転輪がパドル)の分子です。こういう分子もなかなかにおもしろいのですが、それはまたの機会のお楽しみということにして、今回はシンプルなビシクロアルカンに話をもどしましょう。

 さて、ビシクロアルカンのうち対称構造をもつm=n=pの炭化水素を考えます。このうち最小の分子は、ビシクロ[1.1.1]ペンタンで、すべての環がひずみの大きいシクロブタン環からなっているので大変不安定な分子です。このメチン炭素間の
非結合距離
は、0.189
nm
とのことです。普通のCC結合距離が0.154nm、それが分子によっては0.17nmていどまで延びているものがあるそうですから、このビシクロ[1.1.1]ペンタンのメチン間距離は非結合炭素間としては相当近いですね。もちろん3個のメチレンでひきつけられている効果でしょう。

 これは極端な
小員環
の例ではありますが、逆に環を拡大していくとやはり分子にはひずみがかかります。橋頭炭素間のメチレン鎖を3にしたのがビシクロ[3.3.3]ウンデカンで、これくらいになると余裕がありそうですが...。このメチン水素を塩素で置換した1-クロロ体は、塩化t-ブチルなど他の
三級
ハロゲン化物に比べて容易に
ソルボリシス
反応を受けて、
カルボカチオン
を生成することが知られています。これは
正四面体形

sp3
炭素がカルボカチオンになると平面三配位になるためで、つまり橋頭位炭素が平面になることで分子全体のひずみが解消されるために、塩化物イオンの脱離が容易に進行するというわけです。
 ここからが本題なのですが(^^;、ならばもっとメチレン鎖を長くしてやったらどうでしょう。メチレン3個ていどでも通常のsp3形よりも平面の方が安定になるならば、もっと長くすれば橋頭位炭素の配置がひっくりかえって水素が内側を向いた形が安定になるのではないでしょうか。え、想像できないって? 次の図を見てください。










 これはm=n=p=8のビシクロ[8.8.8]ヘキサコサンです。これくらいになると橋頭位炭素が逆の配置のものができるようになります。これまでのビシクロアルカンのように橋頭位水素が外に突き出ているのを“out,out”異性体とすると、片側の炭素がひっくり返って水素が内側へ向いた“out,in”、両方ともひっくり返った“in,in”の異性体が考えられます。それぞれの分子をクリックすると立体構造が表示できます(表示に少し時間がかかります。表示にはChimeプラグインが必要です。ダウンロードの説明は→
こちら
、マニュアルは→
こちら

 実際にこういう異性体が作り分けられているというのが驚きです。どうやって合成するかというと、まず環状ジケトン、シクロオクタデカン-1,10-ジオンからスタートして、
グリニャール反応
で炭素鎖を導入します。このとき環に対して2つの
アルキル鎖

シス
配向のものと
トランス
配向のものができます。炭素鎖を数段階の工程で
増炭
したジエステルに変換しますが、その途中でこのシスとトランス異性体を分離することができます。シスとトランスの区別は、アルキル基がC3の段階では両端の分子内
閉環
反応をするとシス形しか閉環できないことからわかりました。
 最後に、ジエステルを分子内
アシロイン縮合
するとシス体のみならずトランス体も閉環体を与えます。還元してメチレンにしてやってできあがりです。

 この場合、シス体からは“out,out”と“in,in”、トランス体からは“out,in”異性体が生成するはずですが、実際にはシス体の閉環体は“in,in”のみで、“out,out”は生成しませんでした。おそらく水素が外を向いた形はひずみが大きいのでしょう。生成したのが“in,in”であるということは、三級水素の
イオン反応
による臭素化を行なっても反応しないこと(“out,in”は反応する)や計算化学的根拠から推定されています。
 環が大きくなると、両端が外向きの水戸納豆のような引き伸ばされた形よりは、内向きの丸っこい俵形のほうが分子内の非結合相互作用が小さくて安定なのでしょう。「鬼は外・福は内」というわけです(ちょっと苦しいか(^^;)。
 ref. C.H. Park and H.E.Simmons, J.Am.Chem.Soc., 94, 7184 (1972)
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 楼主| 发表于 2006-10-25 20:24:22 | 显示全部楼层
第18話:「ゼノンもびっくり?」
 ゼノンといえばアキレスと亀のパラドクスで有名な古代ギリシャの哲学者ですが、そのゼノンもびっくりな化合物が合成されました。ペンタフルオロフェニルジフルオロキセノン(IV)テトラフルオロボレートという舌を噛みそうな名前の化合物がそれです。やたらフッ素がはいってるのはわかりますが、いったい何者でしょう(笑)。

 ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン、ラドン、とくれば18族の
希ガス元素
です。化学の授業では、電子殻が満たされているために非常に安定な元素で他の元素と化合物をつくらない、だから不活性ガスなどとよばれると習いました。けれど、その希ガス元素とはいえ全く化合物をつくらないわけではなく、特に重い方のキセノンやクリプトンなんかはちゃんと化学結合による化合物をつくるというのも、もう珍しい話ではなくなってますね。はじめての希ガス化合物XePtF6が合成されたのが1962年ですからもう40年近い歴史があります。
 フッ素はきわめて反応性の高い元素ですから、キセノンから無理やり電子を奪ってフッ化物にしてしまうというのはありそうな話です。ところが今回合成されたのは、なんと有機キセノン化合物です。ちゃんとC-Xe結合をもっています。
有機金属化合物
はいまやあらゆる金属について知られているそうですが、有機希ガス化合物となると、ちょっと驚きます。ところが今回初めて合成されたのは有機キセノン(IV)化合物としてはであって、キセノン(II)化合物は1989年にすでに合成されているのだそうです。
 さて、今回の合成法は以下の通り。

 ジクロロメタン中、-55℃で混合するだけで
定量的
に生成します。生成物は黄色の固体で-20℃以上では分解するとのことです。
 で、生成物の機器分析を当然するわけですが、こういう化合物になると
NMR
だけでも4種類が必要になるので大変です。ちょっとデータの一部を引用しておきます。129Xe NMRなんて初めてみました。

 ゼノンもびっくりですね、としめくくればめでたしめでたしなんですが、慧眼の読者諸氏はもうお気づきのように、ギリシャのゼノンはZeno(n)、キセノンはXenon(未知なるものの意)ですから、今回のタイトルは単なる駄洒落なのでした。失礼。
 ref. H.-J.Frohn et al., Angew.Chem.Int.Ed., 39, 391 (2000)
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 楼主| 发表于 2006-10-25 20:24:51 | 显示全部楼层
第19話:「驚異の天然シクロプロペノン脂肪酸」
 天然の高度ひずみ化合物というのはいろいろあって、
ムクゲのステルクリン酸
みたいなシクロプロペン環をもつ
脂肪酸
などは本当に驚きですが、最近シクロプロペノン環をもつ脂肪酸が2種、カビの代謝産物中に見つかりました。

 Eupenicillium alutaceumの生産するalutacenoic acid A(1)とB(2)がそれです。こんなものを生物がつくっているとは驚異です。いったいどうやって
生合成
されるのか大変興味があります。
 シクロプロペノン環自体は
カルボニル

分極
で2π
芳香族性
をもちますから、立体ひずみはともかくとして、安定要素がないわけではないですね。たとえば鎖の長い方の化合物は-20℃では2年以上安定だそうです(そんなに以前にとられてたのね(^^;)。
 こんなへんてこなものがとれてくると、構造は正しいのだろうかと不安になりますが、ちゃんと合成して構造の確認がなされています。う~む、末端のアルコールを酸化する前に
保護
基を落としちゃうなんて大胆ですね。

 当然のことながら天然由来のシクロプロペノンは大変珍しく、今回の化合物が4,5例目だそうです。前にベルリンの故Bohlmannが
セスキテルペン
のイソプロピル側鎖がシクロプロペノンになったやつを報告していたのを原報で読んで驚いたのを思い出しました。余談ですが、ひところのBohlmann、Zdero一派の精力的な植物成分研究はすごかったです。Phytochemistry誌なんかに毎号10報くらいずつ載ってたりして(^^;。

 しかし、こういう突拍子もないものが取れましたというだけなら驚きもまあまあなんですけど、これが生理活性の
スクリーニング
でひっかかってきたというところがほんとに驚きです。
 血液凝固は多段階の連続反応からなりますが、その最終段階を触媒するのがXIII因子(トランスグルタミナーゼ)で、フィブリンの
グルタミン酸
のγ-
カルボキシ基

リシン
のε-
アミノ基

縮合
させて
架橋
分子をつくります。上記の12はいずれもこのXIII因子の阻害活性をμMオーダーで示すそうです。さらに類縁体を合成した結果、2のβ-
フェネチル
アミド
が最も活性が強いことがわかっています。
 いや、おそれいりました(笑)。
 ref. H. Kogen et al., J. Am. Chem. Soc., 2000, 122, 1842.
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 楼主| 发表于 2006-10-25 20:25:21 | 显示全部楼层
第20話:「爆発するサイコロ」
 プラトンの正多面体は高度な対称性をもつ美しい幾何図形なので、これを炭化水素でつくろうという試みが古くからなされています。そのうち最も早く合成されたのが正八面体の炭化水素
キュバン
(cubane、C8H8)です。キュバンという名前は立方体を表すキューブ(角砂糖はcube sugar)からきています。
 構造的な興味はともかくとして、まあこんな炭化水素を合成したからといって何の役にたつんだろうと思われるかもしれませんが、さにあらず。おもしろいことに、このキュバンの水素を
ニトロ基
で置換した
ポリ
ニトロキュバンは威力ある爆薬として有望だそうです。ニトログリセリン、トリニトロトルエンなどが爆薬として使用されているように、分子内にニトロ基が近接して存在するとその威力が増し、計算上はキュバンの水素をすべてニトロ基で置換したオクタニトロキュバンは最強の爆薬となると予想されていました。

 オクタニトロキュバンの分子式はC8N8O16で、ちょうど8CO2+4N2に相当しますから、たしかにクリーンな爆薬になりそうですね。ところが、このキュバン骨格にニトロ基をたくさん導入するのは簡単なことではありません。お互いに対角の位置に置換した四置換体は比較的容易に合成できましたが、それから先はニトロ基同士が隣接するので困難です。このほどやっとオクタニトロキュバンの初合成が報告されました。合成スキームは次のようです。

 既知のキュバンカルボン酸から出発して、
酸クロリド
にしたあと塩化オキサリル存在下光照射でうまいこと一気にテトラクロロカルボニルキュバンが合成できます。こういう四置換体ができやすいのは、置換基同士がちょうど
sp3
炭素のように正四面体の頂点方向に延びていて互いの干渉が最小であることによるのでしょう。これを
酸アジド
に変換したあと、熱
転位

イソシアナート
とし、酸化してニトロ基に変換するとテトラニトロキュバンが得られます。
 ここから先は同じような方法論ではうまくいかないので、ニトロ基の
α位
水素が酸性を示すことを利用して塩基で
アニオン
をつくり、N2O4をはたらかせて五番目以降のニトロ化を行ないます。ただしこの方法でも最高で七置換体が限度で、目的のオクタニトロ体はできません。最後のニトロ基の導入はLiN(TMS)2で発生させたアニオンにNOClを作用させ、
オゾン
処理することで達成されました。生成物は
極性
溶媒によく溶ける安定な白色固体で、
X線で結晶構造が解析
されています。結晶の密度は1.979gcm-1で、計算上は2.12くらいにはなるはずで、密度が高いほど爆薬としてはすぐれているために、より高密度の結晶を追求中とのことです。
 このオクタニトロキュバン、合成法や性質ももちろんおもしろいのですが、なんといっても
NMR
です。1H-NMRではシグナルが出ません(あたりまえ(^^;;)。それで13C-NMRなんですが、対称分子なので1本だけシグナルがδ87.8に出ます。そのシグナルはなんと
J
=8.8 Hzの
三重線
です。結合している14N(I=1、15Nじゃないですよ)との
カップリング
が出ているのだそうです。事実、14N
デカップリング
するときれいな
単一線
になります(原報にチャートあり)。14N核の
四重極緩和
のために普通の13C-NMRで1J(13C-14N)がきちんと見えるなんて例は見たことありませんが、対称な四級アンモニウム塩などでは電場勾配がゼロに近くなるので、検出されるのだそうです。たしかにこの化合物も対称性は非常にいいですからね。
 さて、ついでに母骨格のキュバンの洒落た合成法をみておきましょう。私はこの方法を初めてみたとき、なんてエレガントなんだろうと感心しました。

 頭いいですねほんとに。シクロペンタジエノンの
endo

ディールスアルダー
二量体を分子内光
2+2付加
するとちょうど
ビス
ホモ
キュバン骨格になります。これを2回環縮小反応にかければいいわけですが、それをブロモケトンの
Favorskii転位
と生成するカルボン酸の
脱炭酸
によって見事にクリヤーしています。いうまでもありませんが、キュバン合成の一歩手前のカルボン酸が、今回のオクタニトロ体の出発物質になっています。

 このキュバン骨格の初合成は1964年にシカゴ大学のEatonらによってなされました。今回のオクタニトロキュバン合成はそれから35年もの歳月が経過していますが、同じEatonらの仕事です。
 cf. M. -X. Zhang et al., Angew. Chem. Int. Ed., 2000, 39, 401.
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 楼主| 发表于 2006-10-25 20:25:47 | 显示全部楼层
第21話:「ねじりん棒」
 
不斉炭素
をもたないのに
キラル
な分子はいっぱいあります。たとえば、このシリーズのトップバッター「
ヘリセン
」がそうで、これは
ベンゼン
環がらせん状につながったねじれ分子でした。このようなねじれ分子をもう一つご紹介します。






 絵が上手すぎて(^^;、これが分子?という人は上図をクリックしてみてください(Chimeプラグインが必要です。やり方は
第17話
を見てください)。二つの分子モデルが別のウインドウに表示されますから、並べて表示してそれぞれをドラッグしてみると、お互いに鏡像体になっているのがおわかりと思います。
 シクロプロパンをn個
スピロ
形につないでいった分子が[n]triangulaneで、直列につなげていくとnが4以上で全体のねじれによる
キラリティ
が発生します。このようなねじれ分子は、ヘリシティー(らせん性)表示で、左ねじ形をマイナス(
M
)、右ねじ形をプラス(
P
)と表示します。
 
ラセミ体
の[4]triangulaneは1973年にすでに合成されていますが、このねじりん棒のようなキラルな左ねじ分子(M)-[4]triangulaneが最近初めて合成されました。そのスキームの概略は以下です。

 出発物質からしてかなり面妖ですが、これはbicyclopropylideneのカルボキシレーションで容易に得られるカルボン酸を
光学分割
してつくることができます。このエチルエステルを
Simonns-Smith反応
でシクロプロパネーションすると、
エキソ
体と
エンド
体が41%と28%得られます。次にこのエキソ体の[3]triangulaneを還元、ブロモ化、脱臭化水素でエキソオレフィンに導きます。最後にパラジウム塩触媒下ジアゾメタン処理で目的の(M)-[4]triangulaneが生成しました。
 さてこの(M)-[4]triangulane、
[α]D
= -192.7°を示します。このような不斉炭素によらない分子全体の大きなねじれによるキラリティは大きな
旋光度
を示すことが多く、前述のヘリセンなどがいい例です。しかしベンゼン環の連なったヘリセンと異なりこのねじりん棒の場合はすべての炭素が
sp3
炭素からなっています。一般に、
官能基
をもたない
飽和炭化水素
の場合、キラルな分子であっても
旋光性
を示さないことが知られています。たとえば、異なる
アルキル基
を4個もつキラルな炭化水素は純液体そのものでも旋光性はゼロです。このように
UV/VIS
領域(800-200nm)でまったく旋光性を示さないキラリティを
クリプトキラル
(cryptochiral)といいます。[4]triangulaneは
クロモフォア
をまったくもたないながら、純粋に
σ結合
のねじれ配置だけで旋光性を示している変わった例といえるでしょう。ちなみに、ベンゼン環のヘリセン(π-helicene)に対して、こちらはσ-ヘリセンというのだそうです。すなわち、これはキラルなσ-[4]heliceneの初めての合成というわけです。
 cf. A. de Meijere et al., Angew. Chem. Int. Ed., 1999, 38, 3474.
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 楼主| 发表于 2006-10-25 20:26:29 | 显示全部楼层
第22話:「平面炭素は可能か?」
 
メタン

正四面体構造
といえば有機化学の基本中の基本です。
sp3
炭素のもつ4本の結合は、立体的に正四面体の頂点方向に延びているわけですが、これを平面にしてしまおうという試みがあります。たとえば、
ネオペンタン
の正四面体を平らに押しつぶして平面状にした形(planar neopentane)を考えます。もちろんsp3炭素の正四面体構造は理由があってそうなっているのですから、このように平面にゆがめてしまうのはエネルギー的に大変不利で、実際の分子ではありえません。しかし、では平面四配位分子は存在しえないのかというとそんなことはなく、抗がん剤として有名なシスプラチンは平面構造をとっていて、ちゃんとシスとトランスの異性体があります。

 さて、いかにこういう平面四配位構造を炭素でつくるかという話です。実際の合成的アプローチはいろいろ面白い歴史があるのですがそれは別の機会に譲るとして、今回は本当にこういう構造は実現可能なのだろうかという理論的なアプローチをご紹介します。
 ネオペンタンそのものを平面にするのは不可能ですから、なんらかの置換基をつけて無理やり中心炭素を平らに固定してしまうことを考えます。たとえば平面ネオペンタン構造の上下に
シクロブタン
環をおいて、その各頂点とネオペンタンの4個のメチル基をつないでみましょう。こうしてできたのが"tetraplane"です。図で描くのは簡単ですがこれはいかにも窮屈そうですから、上下の環を少し広げてシクロオクタン環にすると"octaplane"になります。これが今回の出発構造です。ちなみに、こういう一連の同族体を"alkaplane"といいます。

 平面メタンは正四面体メタンより520 kJmol-1不安定と計算されています。メタンのC-H結合の開裂エネルギーはこの値より約100 kJmol-1小さいので、メタンは平面に押しつぶされるより先に分解してしまいます。ネオペンタンではこの平面化エネルギーは880 kJmol-1にも達します。
 "octaplane"の
ab initio計算
では、安定
配座
における中心炭素の結合の平面からのずれ(δ)は5.1°で、炭素あたりの
ひずみエネルギー
は63kJmol-1だそうです。かなり平面には近いもののまだまだですね。ただ、エネルギー的にはこれくらいの値なら実際に合成されている高ひずみ分子と同レベルです。




 実際の"octaplane"分子は、図のように元のネオペンタンのメチル炭素のところが
メチン
になっていて、その水素がねじれて配位しています。ここを動けなくするために
四級炭素
にしてしまったらどうでしょう。ネオペンタンからspiro[2.2]pentaneをつくるように結合を2本つくらせてできたのが、"spiro[2.2]octaplane"です。こうすると、最安定配座のδは3.1°まで減少しました。完全平面構造(エネルギー極大)との差は計算上10 kJmol-1ていどに縮まっています。あと一息です。
 最後のだめ押しに、上下のシクロオクタン環2ヶ所を
メチレン
ブリッジでつなぎます。こうしてできたのが"dimethanospiro[2.2]octaplane"です(構造式をクリックするとChemscapeChimeで立体構造が表示できます、やり方は
第17話
を見てください)。こうすると計算上はδ0°になります。炭素間結合距離は最長(メチレンブリッジ部分)でも159.1
pm
ですから、これまでに合成されている他の分子と比較しても無理な長さではありません。
 さて、実際にこの分子は合成できるのでしょうか? どなたか挑戦してみてはいかがでしょう(笑)。
 cf. D.R.Rasmussen and L.Radom, Angew. Chem. Int. Ed., 1999, 38, 2876.
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 楼主| 发表于 2006-10-25 20:26:47 | 显示全部楼层
第23話:「天然ポリテトラヒドロフランの謎」
 天然物にはおもしろい構造をもったものがたくさんあります。第19話でとりあげた
シクロプロペノン脂肪酸
などはその代表でしょう。今回の化合物はジャマイカ産のミカン科植物Spathelia glabrescensからとられたグラブレスコールという
トリテルペン
アルコールです。

 図のように
テトラヒドロフラン
環が5個つながって両端がアルコールになったおもしろい構造をしています。左右は立体化学も含めて完全に対称であり、実際に
NMR
スペクトルでは半分のシグナルしか観測されず、
旋光性
も示しません([α]D = 0°)。分子は
メソ体
と考えられます。ちょっと見には海洋
天然物
によくある
ポリエーテル
に似ていますが、よく見るとメチル側鎖の規則的配置からトリテルペン骨格をもっていることがわかります。海産ポリエーテルは
ポリケチド
ですから、
生合成
的にはまったく由来が異なるものです。
 それにしても端正な構造ですね。環のつなぎ目部分の立体化学がすべて同じ向きというのがなかなかに美しいです。この立体化学は
NOE
を駆使して決められたものですが、同じ環内の
相対配置
はともかく、ある環と隣の環との関係は分子全体の
コンホメーション
が決まらないと難しそうです。事実、妙なことになりました。
 こんなおもしろい構造をどうやって植物は生合成しているのかというと、おそらくトリテルペン炭化水素であるスクアレンのポリ
エポキシド
から連続的な開環閉環反応でできてくるだろうことが容易に予想されます。そこでXiongとCoreyは実際に生合成類似反応によってこのグラブレスコールの合成を試みました。

 図のように、スクアレンの末端を
Sharpless
ジヒドロキシ化によって
キラル
なジオールにしたあと、
不斉エポキシ化
反応で残りの二重結合をすべてエポキシ化します。できたキラルなペンタエポキシドをカンファースルホン酸で処理すると、予想通りパタパタと転位反応が一挙に進み、目的のグラブレスコール構造のできあがりです。めでたしめでたしといいたいところですが、残念ながら生成物の
スペクトル
はグラブレスコールのそれとは一致しませんでした。どうやら
立体異性
体をつくってしまったようです。反応機構から考えて合成品の立体化学は正しいはずです。念のため合成品のビスp-ブロモベンゾエートを
X線結晶構造解析
にかけてみましたが予想構造と同じでした。とすると、必然的に最初にグラブレスコールとして提出された構造の立体配置が間違っていたということになります。
 グラブレスコールは左右対称なメソ体であり、すべてのテトラヒドロフラン環がシス置換であるというところまでは正しいと仮定すると、考えられる構造は他に3種類しかありません(○○○○○が否定されたので、残りは○○●○○、○●○●○、●○○○●)。もし環の置換様式がトランスも含むとするともっと可能性は広がります。XiongとCoreyおよびそれと相前後してMorimotoら、児玉らによって他に6種類のメソ構造をもつ立体異性体の合成がなされましたが、いずれも天然品とは一致しませんでした。

 ここまでは謎は深まるばかりですが、このうちMorimotoらは類似の部分構造をもつ他の天然化合物との関連から、メソ体ではない
C2対称
構造の異性体を合成したところ、なんとこれが天然のグラブレスコールと一致することがわかりました。ということで、正しい構造は
絶対配置
も含めて下図のとおりという結論になっています。

 ところで、合成品はちゃんと旋光性をもっています(([α]D = -22.4°)。天然由来のものも
CDスペクトル
によって短波長域では合成品と同じ旋光性を示すことがわかりました。なぜ[α]Dがゼロだったのかは不明です。
 単離: W.W.Harding, P.A.Lewis, H.Jacobs, S.McLean, W.F.Reynolds, L.-L.Tay and J.-P.Yang, Tetrahedron Lett., 1995, 36, 9137.
 合成: Z.Xiong and E.J.Corey, J. Am. Chem. Soc., 2000, 122, 4831.; Y.Morimoto, T.Iwai and T.Kinoshita, J. Am. Chem. Soc., 2000, 122, 7124.; 児玉, 日置, 吉尾, 有合化, 2000, 58, 1167.
  付記:glabrescolの正しい構造につきまして、阪市大森本善樹氏よりご教示をいただきました。
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 楼主| 发表于 2006-10-25 20:27:09 | 显示全部楼层
第24話:「窓枠という名の炭化水素」
 平面四配位の炭素はつくれるか、という計算化学の話題は
第22話「平面炭素は可能か?」
でとりあげました。実際の合成化合物でどこまで平面性が達成されているか、というのが今回のお話です。
4枚のガラスがはまった田の字型の窓枠を考えてみます。中心の桟の交差する部分はすべての角度が直角です。これを炭化水素でつくれば平面炭素になりそうです。ただしすべての窓を正方形でつくるのはひずみが大きくて難しそうですね。

 一般にm,n,p,q角形の4枚の窓ガラスからなる窓枠型の炭化水素を[m.n.p.q]fenestraneといいます。"fenestra"は「壁面に穿った窓」の意ですから、さしずめ窓枠炭化水素でしょうか。方形の窓枠は[4.4.4.4]fenestraneになります。構造式で描くと平面のように見えますが、実際の分子は残念ながら平面ではありません。中心炭素はトランス形(1a)ではsp3様であり、シス形(1b)ではピラミッドの頂点様であると予想されます。この[4.4.4.4]fenestraneはその
誘導体
も含めてまだ合成には成功していませんが、窓ガラスが1枚五角形になった[4.4.4.5]fenestrane誘導体(2)が合成されていて、これが現在のところ最も平面に近い炭素ということになっています。1) それぞれの構造をクリックするとChimeで分子モデルが表示できます。









 この2について、
加水分解
p-ブロモアニリンとの
アミド
をつくって
X線結晶解析
が行なわれました。それによると、中心炭素の
結合角
は長手方向が128.0~129.2°、曲がり方向が94.0~116.1°となっています。Chimeでの分子モデルを見ても、ちょっと平面には程遠い感じです。
 ついでに合成ルートをご紹介しておきます。
アルドール縮合
で左上の五員環をつくり、
[2+2]光環化
で左下、右下の四員環を一挙に構築した後、
カルベン
の挿入反応で右上の五員環をつくり、最後に左上の環を
ジアゾ
ケトンの
縮環
で四員環にするというルートです。

 ところで、平面四配位炭素の構築という点で全く異なるアプローチの化合物が最近合成されました。2) Al4C-というイオンはほぼ平面であることが知られていましたが、中性分子としてCAl3Si、CAl3Geが同様に平面構造だそうです。ちなみにAl4Cは
テトラヘドラル
です。

 1) V.B.Rao, C.F.George, S.Wolff and C.Agosta, J. Am. Chem. Soc., 1985, 107, 5732.
 2) L.-S.Wang, A.I.Boldyrev, X.Li and J.Simons, J. Am. Chem. Soc., 2000, 122, 7681.
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 楼主| 发表于 2006-10-25 20:27:27 | 显示全部楼层
第25話:「6枚羽根スーパー歯車」
 
ベンゼン
環(あるいは一般に
芳香族
環)上の2つの炭素間に炭素鎖で橋を架けた分子がシクロファンです。たとえば、
パラ
位炭素同士を-(CH2)n-でつないだ分子を[n]パラシクロファンといいます。また、2つのベンゼン環の2ヶ所を同様の橋架けで結び合わせた形もあり、これがパラ位同士なら[n.n]パラシクロファンです。

 こういう分子は、nが小さくなるほどひずみがかかって不安定になることは容易に想像できます。実際に、[n]パラシクロファンではたぶんn=6が筆者の知る限り最小分子です。そういえば、このシリーズで以前に取り上げた「なわ跳び分子」(
第4話「なわ跳びはお好き?」
)もこの仲間ですね。
 ベンゼン環を2個もつ系では、[2.2]パラシクロファンが有名で古くから研究されています。この[2.2]パラシクロファン、最初は
キシレン
の熱分解反応生成物中から見出されました。p-キシレンを1000℃以上に加熱すると脱水素によってp-キシリレンなどが生成し、ほとんどは
重合
物となるのですが、一部2分子付加反応でパラシクロファンができます。
X線結晶構造解析
によって、2つのエチレン鎖でつながれているためにベンゼン環がたわんでいることがわかりました。

 ところで、[2.2]パラシクロファンは2個のベンゼン環を2つの架橋で結んだ分子です。ではこの架橋をもっと増やしたらどうなるでしょうか。2個のベンゼン環のすべての炭素同士に橋を架けた分子、それが[2.2.2.2.2.2](1,2,3,4,5,6)シクロファンで、別名スーパーファンとよばれています。構造は6枚羽根の歯車のようでまさにスーパーの名にふさわしいですね。2ヶ所だけつないだ分子ではベンゼン環がひっぱられて曲がってしまいましたが、スーパーファンでは6ヶ所すべてが均等にひっぱられるので、ベンゼン環は平面です。でも緊迫した構造であることには違いありません。例によって青色の構造式はクリックするとchimeの分子モデルが表示できますので、ぜひ立体モデルでその美しさを味わってください。






 最後にこのスーパー分子の合成法をご紹介しておきます。手がかりになる
官能基
もなしにどうやったら6本の橋をちゃんとかけることができるのか不思議ですが、p-キシリレンから[2.2]パラシクロファンができたような
環状電子反応
によって大変エレガントにつくられています。

 ref. Y.Sekine, M.Brown and V.Boekelheide J. Am. Chem. Soc., 1979, 101, 3126.
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 楼主| 发表于 2006-10-25 20:27:48 | 显示全部楼层
第26話:「ねじれちょうちん」
 前話の続きです。[2.2]パラシクロファンは2個のベンゼン環を平行に重ねた形をしていますが、その話が出てきたからにはぜひともご紹介しておきたい分子があります。パラシクロファンをさらに多重層に重ねてつなげた分子、その名も「chochin(ちょうちん)」。まずは三層、四層、五層のちょうちんをご覧下さい。左から順に、[3]chochin、[4]chochin、[5]chochin、まったくよくも名づけたりという気になります。









 このちょうちん、よく見ると
キラル
な形をしているのがわかります。ベンゼン環をつなぐ枝が上から下に向かって左へ60°ずつねじれています。これも
不斉炭素
をもたないキラル分子の例です。
 合成法は、やはり熱脱離反応によるp-キシリレン中間体を経る方法で、途中の分子間
カップリング
反応でのユニットの組み合わせによって、三層、四層、五層のちょうちんになります。できあがったちょうちんの
キラリティ
は出発物質にキラルなパラシクロファン誘導体を用いていることによっています。

 ところで、このカップリング反応では片方のユニットに
ラセミ体
を反応させても生成物は片方にねじれたちょうちんになることが知られています。これはねじれを打ち消す方向の組み合わせでは、向かい合った枝の間の反発が生じるためです。

 「分子美学」の提唱者、元阪大工学部の中崎昌雄先生の作です。
 ref. M.Nakazaki, K.Yamamoto, S.Tanaka and H.Kametani, J. Org. Chem., 1977, 42, 287.
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 楼主| 发表于 2006-10-25 20:28:04 | 显示全部楼层
第27話:「三つ葉のクローバー」
 別に手を抜いているわけではないのですが(^^;、またまた前話の続きです。[2.2]パラシクロファンを多層階に積み上げたのが「ちょうちん」でした。今度は三角形に三つつなげた形の分子です。左側のが中央のベンゼン環の3辺からパラシクロファンを生やした形のクローバー型トリフォリアファン、右側がパラシクロファンの高位同族体というべき3個のベンゼン環からなる三角環状分子デルタファンです。







 トリフォリアファンは分子が
3回対称
軸をもつ三つ葉のクローバー型をしているところから名づけられました。四つ葉じゃないのが残念ですが、中央がベンゼンなのでいたしかたありません。この三つ葉の合成は、[2.2]パラシクロファンのベンゼン環をつなぐエチレン鎖をハロゲン化、脱離を繰り返してなんと三重結合にしたものを3分子付加環化させて一挙に中央のベンゼン環を構築しています。途中のアルキン(パラシクロフィン)は直線であるべきsp炭素がほぼ直角に折れ曲っている高度のひずみ分子で、もちろん単離することはできません。

 他方、デルタファンの方は
スーパーファン

チョウチン
合成にも用いられた常套手段である熱反応によるo-キシリレンの付加反応でつくられています。こちらの分子は中央部に空洞をもち、他の分子をとりこんだりできそうです。事実、銀イオンが半分はまりこんだ形の複合体がつくられています。

 ref. trifoliaphane: M.Psiorz and H.Hopf, Angew. Chem. Int. Ed., 21, 623 (1982); deltaphane: H.C.Kang, A.W.Hanson, B.Eton and V.Boekelheide, J. Am. Chem. Soc., 107, 1979 (1985).
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 楼主| 发表于 2006-10-25 20:28:23 | 显示全部楼层
第28話:「イモリは見ずや君が袖振る」
「あかねさす紫野行き標野行き野守は見ずや君が袖振る」
 あまりに有名な万葉集巻一にある額田王(おお、一発変換!)の歌です。これを永井路子はこう訳します。
 “あかね色に匂う紫の草の生いしげる標野をあちこち行き来なさりながら、あなたは盛んに袖を振っていらっしゃる。まあ、そんなことをなさって、野の番人に見つけられませんか。”
 天智天皇が蒲生野(現滋賀県)の標野(御料地)に狩に出たときに妻である額田王が歌った歌ということになっています。その「袖を振っている」のは誰あろう天智の弟、大海人皇子。その返歌が次です。
「むらさきのにほへる妹を憎くあらば人妻ゆゑに吾恋ひめやも」
 “紫の美しい色のように、匂いやかな、あなた……もし、あなたのことが憎らしかったら、何もこんなふうに恋い慕いはしませんよ。もう人妻になっているあなたなのに……。”(同上)
 なんというスキャンダル(笑)。それはともかく、ここに出てくる「袖を振る」というのはこの時代の愛情を表す表現です。なかなか奥ゆかしくていいですね。
 さて、その名も「sodefrin」という化合物があります。構造は以下の通りです。
Ser-Ile-Pro-Ser-Lys-Asp-Ala-Leu-Leu-Lys
 別に変哲もない
デカ
ペプチド
ですね(なあんだ、といわないでください)。この化合物は、アカハライモリのオスの腹部肛門腺から分泌されてメスを誘引する活性をもつ
性フェロモン
です。両生類に見出された初めての
フェロモン
であり、脊椎動物で初のペプチドフェロモンで、10-12M濃度で活性を示します。
 それにしても、イモリの性誘引物質にあっぱれ「sodefrin」とはよくも名づけたものです。こういうセンスは見習いたいものです。構造は別におもしろくありませんが、名前の素敵さは第一級ですね。
 ref. S.Kikuyama et al., Science, 267, 1643 (1995).
 なお、文中の訳は、永井路子「万葉恋歌」、光文社、1995、から引用させていただきました。
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 楼主| 发表于 2006-10-25 20:28:45 | 显示全部楼层
第29話:「ベンゼン環を折り曲げる」
 2個のベンゼン環のパラ位同士をエチレン鎖でつなぎあわせた分子[2.2]パラシクロファンは、
第25話
のマクラでご紹介しました。このとき、平面であるべきベンゼン環の六角形は11 °内側に曲がっていることがわかっています。では、両側のエチレン鎖の炭素を減らして、
メチレン
で結んだ分子にしたらどうでしょう。そもそもそんな分子を合成することはできるのでしょうか。



 この炭素鎖を短くした分子[1.1]パラシクロファンはちゃんと合成されています。こうなるとベンゼン環の六角形は24 °も折れ曲がっています。向かい合ったベンゼン環同士の距離は最短部で約2.4

とベンゼン環の積層構造である炭素の同素体
グラファイト
よりも1 Åも短く、ひずみエネルギーは約100 kcal/molにも達します。いかにも不安定ですぐにもはじけてしまいそうですが、この分子、-20 ℃で数時間は寿命があることがわかっています(室温では分解)。
 合成法は以下のようです。

 シクロヘキサジエンジカルボン酸エステルから出発して、
増炭
して側鎖をプロピオン酸としたあと環化して
ビス
シクロペンテノンとします。次に二重結合にアセチレンを光付加してシクロブテン環とした後、ケトンのα位を
ジアゾ
化して
縮環
反応をすると目的の骨格ができます。エステル側鎖を
アミノ基
に変換したあとメチル化して脱離するとビス
Dewarベンゼン
となり、最後に
光異性化
によって[1.1]パラシクロファンとします。最後の光反応は、ジエチルエーテル:イソペンタン:エタノール(5:5:2)中77 Kで254
nm
の紫外線照射で行なっています。
 なお、無置換の[1.1]パラシクロファンは不安定な分子ですが、適当な
置換基
をつけてやると安定性を増すことができます。たとえば、
テトラキス
(トリメチルシリルメチル)ビス(ジメチルアミノカルボニル)[1.1]パラシクロファン(長い名前だ)は、50 ℃で安定で、100 ℃でも2時間後に8%が分解する程度だそうです。ちなみに、この化合物は
X線結晶構造解析
をされており、これまでにX線で構造が確認されたうちで最も歪んだベンゼン環分子とのことです。

 ref. T.Tsuji, M.Ohkita, T.Konno and S.Nishida J. Am. Chem. Soc., 1997, 119, 8425, H. Kawai, T.Suzuki, M.Ohkita and T.Tsuji, Chem. Eur. J., 2000, 6, 4177.
 なお本稿を書くにあたって、北大院理河合英敏氏に文献所在等の情報をご教示いただきました。
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 楼主| 发表于 2006-10-25 20:29:06 | 显示全部楼层
第30話:「もうひとつのらせんベンゼン」
 このシリーズの第1話にベンゼン環がらせん状につながったねじれ分子
ヘリセン(helicene)
を取り上げました。今回はそれとはちょっと違った形のらせん状ベンゼン環分子ヘリフェン(heliphene)の話です。ヘリセンはフェナントレンのようにベンゼン環を120°の角度で次々につないでいった分子でしたが、ヘリフェンはその120°曲がってつながっているベンゼン環の間に
シクロブタジエン
環を挿入した形になっています。このようにn個のベンゼン環とn-1個のシクロブタジエン環が交互に
縮環
した分子を[n]phenyleneといいます。フェニレンにはアントラセン形の直線状分子とフェナントレン形の曲がった分子があり、この曲がった方(angular [n]phenylene)の同族体が、すなわちヘリフェンというわけです。
 ヘリセンと同様に、n=6以上になると両端のベンゼン環がねじれて重なるので、分子はキラルになります。ただし、ヘリフェン分子はシクロブタジエン環がはさまっている分、ヘリセンよりはフレキシブルなようです。このほどこの形のらせん形ヘリフェン分子が4種類(n=6,7,8,9)初めて合成されました。












 このらせん形ヘリフェン分子、合成してみると色々と予想外の事実が明らかになりました。
 まず個々のベンゼン環の性質ですが、末端のベンゼン環は
芳香族性
をもち、それに対してはじから2番目のベンゼン環はシクロヘキサトリエン形になっていることが
NMR
の結果からわかりました。このように、らせん状に連なるベンゼン環は交互に
非局在
(芳香族)形と
局在
(トリエン)形の性質をもっています。
 これは、スペーサー部分の四員環がシクロブタジエン構造になると
反芳香族性
で不安定となるため、ビスメチレンシクロブテン環構造になるほうが有利ためです。ちょうど、アセン系の縮合ベンゼンがナフタセン、ペンタセンと伸びるにつれて不安定なビスメチレンシクロヘキサジエン構造をとらざるをえないために安定性が低下する、というのの裏返しなわけです。
 次に、らせんの
異性化
反応です。ヘリセンはしっかりした構造なので、n=6でも室温で安定なキラル結晶が得られましたが、ヘリフェンはフレキシビリティが高く、計算で求められた異性化
エネルギー障壁
は、n=6で3.6 kcal/mol、n=7で17.0 kcal/molしかありません(ちなみにヘリセンはそれぞれ、36.2、41.7 kcal/mol)。
 実際に、イソプロピル基やメトキシメチル基を1個導入して対称性を打破した分子を合成し、置換基のメチル基あるいはメチレン水素の非
等価
性の温度依存性(らせんの向きが固定されると非等価になる)を低温NMRで観測してみると、n=6では-70℃でもシグナルが分離せず、n=7では-27℃で分離しました(これから計算した異性化障壁は12.6 kcal/mol)。
 なお驚いたことに、異性化を困難にするためにn=7で両端のベンゼン環にメチル基を2個ずつ置換させた分子をつくったところ、逆に-70℃でもピークが分離しなくなってしまいました。これは、分子のねじれぐあいが高まって
基底状態
のエネルギーが上昇し、かえって
遷移状態
とのエネルギー差が小さくなったためと説明されています。
 [6]helipheneの合成法は以下のようです。

 合成戦略はシンプルで、ハロベンゼンとアルキンをパラジウム触媒で
カップリング
させてジフェニルアセチレンとして、ちょうど分子内で六角形を構成する位置に配置した3個のアセチレンをコバルト触媒存在下光反応で一気に環化してベンゼン環を構築するという手法です。この方法でn=6~9のヘリフェンが合成されました。n=7~9の場合だと、最後の光環化で一度に3個のベンゼン環をつくっています(環化反応の
収率
は2%)。なお、DMTSはdimethylthexylsilyl基(SiMe2(CMe2CHMe2))です。
 さて、ではn=8や9になると異性化障壁は大きくなって
光学分割
が可能になったでしょうか。答は残念ながらNOなのです。[8]helipheneの異性化エネルギーは13.4 kcal/molでn=7よりも1 kcal/mol上昇したに過ぎません。[9]helipheneにいたっては、溶解度の限界である-45℃にしてもモノメトキシメチル体のシグナルがNMRで分離できず、エネルギー障壁は12 kcal/mol以下ということです。このように、一見するとらせんの重なり具合が大きくなってもそれが異性化エネルギーの上昇に直接結びつかないというのはとてもおもしろいですね。
 最後に、らせん状ではなく両端をつないでしまった大環状angular phenyleneに触れておきましょう。



 前にでてきた
ベンゼン・オブ・ベンゼン、ケクレン
にちょっと似ています。ねじれもないし平面で安定そうな分子に見えます。実はこの分子、その名もアンチケクレン(antikekulene)は私の知る限りまだ合成されていません。電子が非局在化すると不安定になる反芳香族のシクロブタジエン環が平面構造では不利になることと、分子全体の外周が24π系、内周が12π系といずれも反芳香族になるために大環状
アヌレン
形もとれないためと思われます(ちなみにケクレンは外周30π、内周18πのいずれも芳香族)。
 ref. S.Han, A.D.Bond, R.L.Disch, D.Holmes, J.M.Schulman, S.J.Teat, K.P.C.Vollhardt and G.D.Whitener Angew. Chem. Int. Ed., 2002, 41, 3223, S.Han, D.R.Anderson, A.D.Bond, H.V.Chu, R.L.Disch, D.Holmes, J.M.Schulman, S.J.Teat, K.P.C.Vollhardt and G.D.Whitener Angew. Chem. Int. Ed., 2002, 41, 3227.
 蛇足ながら、corresponding authorのK.P.C.Vollhardtは、あのボルハルト・ショアー有機化学の著者です。
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