|
楼主 |
发表于 2008-5-8 11:45:46
|
显示全部楼层
「拙者、まちがえました」
「何を」
「人生を」
「とは?」
「拙者、生まれ変わったら、剣を捨てまする」
そして坊太郎は、またはげしく咳いた。しばらく、じいっとそれを見つめていた如雲斎の眼がしだいにひかり出すと、声をおさえてきいた。
「田宮。……すりゃ、何ゆえ、ここに来たか」
「好きな女と|逢《あ》うためでござりまする」
「何と申す」
ここに至って、柳生如雲斎もついに高い声をあげた。
「左様な女がどこにおる?」
「ここにはおりませぬ。四国の丸亀から参るはずになっておりまする」
さすがに坊太郎の顔に、|羞恥《しゅうち》と恐縮の色が浮かんで、さてこんなことをいった。
四年前仇討をとげたあと、じぶんには丸亀で恋人ができた。恋人というより、じぶんを慕ってくれた娘であった。美しい、|可《か》|憐《れん》な娘で、その慕情をいとしいと思いつつ、じぶんはそれをふりすてて、江戸へ去った。剣の道のじゃまになると思ったし、江戸に|虹《にじ》のような望みをかけていたからである。
しかし、江戸につくと同時にじぶんは血を吐いた。それをまた意に介しないほど、じぶんは剣に心を奪われていた――その果てのいま。
「拙者はもはやあと七日と命はありますまい」
と、坊太郎はいった。
命の灯がゆらめきはじめたのをおぼえ出したとき、じぶんの胸にはあの娘の姿が去来した。――じぶんの短い人生は何であったか。ただ|復讐《ふくしゅう》と剣だけを思いつめた荒涼たる青春ではなかったか。じぶんは、誤った。せめて、仇討をとげたあと、剣を捨てて、じぶんを恋う娘と、おだやかでゆたかな生活を送るべきではなかったか。――
このとき、さる人が現われて、四国からその娘を呼んできてやろうといった。しかし、それにしても間に合わぬ。じぶんも、よろめき、よろめき、一歩でも西へゆこう。――
「まことに恐れ入ってござりまする。そこで思い出したは、江戸と丸亀のまんなかあたりにあるこの名古屋におわす柳生如雲斎さま、いちど御引見をたまわりましたる先生におすがりいたし、そのお屋敷を借りて待ち合わせようという約束をむすんだのでござります」
坊太郎はまたがばとひれ伏した。
「ここで逢うて、何とする」
「その女と、ちぎりまする。……」
「……ちぎる」
「実に以て勝手至極、厚かましきはからいにて、全身より汗のにじむのをおぼえるほどにござりまするが、田宮坊太郎、|生々世々《しょうじょうせぜ》[#電子文庫化時コメント 底本ルビ「せゞ」]までのお願い。――」 |
|