千字文9
凌摩絳霄 リョウマカウセウ かうせうを しのぎする
絳霄は、赤き色をあらはす日没の大空なり。コンは此大空を飄々乎として、獨り忍びあそぶ景
耽讀翫市 タンドククワンシ よむことにふけり いちにもてあそび
外に出でゝは、其むかし王氏が書肆ショシの店頭にて、書籍を讀むに耽りたるごとくありて、
寓目嚢箱 グウモクナウサウ めを なうさうにやどす
入りては眼を書籍を入れたる嚢や箱に寄せて、ひたすら文學を研究して、最も樂しくあるさま。
易酋攸畏 イイウシウイ いいう おそるゝところ
易酋(イウは車偏に酋)は輕率なることなり。此かるはづみなることは、最も畏るゝ所にして、愼しむべきことなり。
屬耳垣墻 ショクジケンシャウ みゝを けんしゃうにあつむ
ことわざにいふ如く、壁に耳ありといへば、人なき所にても必ず言行を愼しむべきなり。
具膳餐飯 グゼンサンハン ぜんをそなへ めしをくらふ
飲食するときには、必ず膳を具へて禮義に從ふべし。禮を缺きて食事をなすことあるべからず。
適口充腸 テキコウジウチャウ くちにかなひ ちゃうにみつ
飲食は、口に適ふ食を取れば足る。又、腹に滿つれば可なり。必しも美食を爲すに及ばず。
飽飫烹宰 ハウヨハウサイ あきては はうさいにあき
飽きて空腹ならざるときは、たとひ美味のものを見るとも、飲み食ふことを好まざるなり。
飢厭糟糠 キエンサウカウ うえては さうかうにあく
又、これに反して、飢えて空腹なるときは、糟糠の如き粗食にても厭はず、好んで食ふなり。
親戚故舊 シンセキコキウ しんせきこきう
親族や、ふるなじみは、互ひに往來し音信して、其交情を温めて、親密にすべきことなり。
老少異糧 ラウセウヰリョウ らうせう かてをことにす
老少とは老人と少年とのことにて、兩者各々其食物の糧を異なす。老人は柔かき物を食するなど。
嫡後嗣續 チャクコウシゾク ちゃくこうしぞく
嫡とは、長子即ち總領の子にて、父母の後をうけつぐ者、嗣續は祖先を大切にし血統を嗣ぐ。
祭祀蒸甞 サイシジャウシャウ さいし じゃうしゃうす
而して四時に祖先の祭をなす、其の祭祀は、春は鑰、夏は帝(示偏に帝オホマツリ)、秋は薫、冬は甞といふなり。
稽桑再拜 ケイサウサイハイ けいさう さいはいし
祭祀には、稽サウ(サウは桑偏に頁)とて頭を地につけて再拜することにて、かくも祖先をあがめて祭るべきものぞ。 |