先行研究
ここでは,日本語の文法書の中で,「て形」がどのように分類されてきているかを見ます。アメリカで多くの日本語学者に影響したBernardBlochは,"StudiesinColloquialJapaneseIⅠ:
Syntax"(1946)で「て形」を"Gerund",連用形(Pre-MasuForm)を,"Infinitive",「たり形」を"Alternative"と呼び,それら三つ一括して"Participial"であるとしました。以来,Samuel Martin,AndrewMiller,EleanorJordenといったアメリカの日本語学者の多くは,「て形」を
"Gerund"と呼びます.日本語を生成文法の立場から論ずる久野も,"The Structure of the
JapaneseLanguage"(1973)で,「て形」を"-TeGerundiveForm"連用形(Pre-MasuForm)
を"-IContinuativeForm"としていますし,新しくは"AnZnty10ductiontoJapaneseLinguistics"
(Tujimura1996)でも"Gerundiveform"という用語が使われています.
しかし,"Gerund"をあくまで動名詞であると解釈すると,「て形」を動名詞とすることには些
か抵抗があります。「て形」は,原則として名詞としては機能しないとされているからです。こう
いった抵抗感を反映してか,今日使われている日本語の教科書の殆どが,「て形」を,単に"TEform"
と呼び,ある特定の既存の活用形と結びつけることをしないのが普通です."A studyof
JapaneseClauseLink曙e:TheConnectiveTEinJapanese"(Hasegawa1996)で,筆者も,
Inthisbook,accordingly,IadheretothetraditionalandnoncommittalanalysisofTE
assimplyaconnectivesuffix.…Thissyntacticpropertyofiterabilityisanotherreason
whyTEmustbeconceptualizedasaconnectivesuffixratherthanasaparticlethat
createsgerundsorparticiples.(Hasegawa,1996p.3)
と述べています。ここで長谷川は,「て形」が動詞の-活用形という認識から離れて,「て」が「の
で」「から」「なら」「ば」「と」などと並ぶ"connectivesuffix"であるとします。これは,所謂学
校文法が例えは「書いた」を語幹「書」,活用語尾「い」(連用形),助動詞「た」に分けて分析す
るのに近いものに思われます。
興味深い指摘は,「活用語尾・助動詞・補助動詞とアスペクト」(寺村秀夫,1969)に見られま
す。ここでは「連用形」(Pre-MasuForm)が「現在分詞」,「て形」が「過去分詞」とされます。
日本語の「て形」についての研究ノート
1:「て形」は「現在分詞」と言えるのか
寺村は,そうする理由として「それだけでは陳述(叙述)を完成せず,他の語,他の文と結びつ
いて行く可能性をもっていることを本性とするものである。」(p.39)からと言っています。「て形」
の本性について寺村は12年後もその考えを変えていないようですが,「て形」の呼び名そのもの
に関しては思い直した節があります。
1981年の『日本語の文法』では,
「特定のムードは未だ実現せず,次に文を続けたり,いろいろな補助形式と結びついては派生形を作る」(p.73)とし,「連用形」と「て形」を合わせて「接続形」と呼んでいます。
「て形」は,時制を伴わない活用形が故,文構造を完結することができないということで,「終
止形」と区別され,名詞の直前に位置してそれを修飾する機能がないことから,「連用形」をされ
ます。(『日本文法教室』芳賀,1962)「命令形」「仮定形」などがそれだけで,特定のムードを表
現するのに対し,寺村が指摘するように,「て形」は,ムードが発生する以前の形であると言えま
すが,統語的には,時制を伴う主動詞に接続し,動作や状態が連続して,或いは同時に生起する
ことを意味します。このような意味的統語的機能が存在動詞と結びついて進行,完了などのアス
ペクトを表現すると考えられます。「て形」の性質が概ねこのようなものであるとすると,「て形」
を「分詞」としたBlochの総括的の分類や,寺村のそれが妥当であるように思われますが,「て形」
を「分詞」だとする文法家は,以外に少ない上,これを殊更「現在分詞」と呼ぶのは,私の知る
限りでは,"AnHZstoricalGrammarofJapanese"(1928)を著したSirGeorgeSansomだけで
す。 |