第二十一回
若いときは二度ない------と言う。だから、若い時代を大事にせよ、といった意味である。
なるほど、その通りである。だが、皮肉屋の私は、この言葉に反論したい。確かに若い時は一度しかないが、中年だって、老年だって一度しかないのである。われわれは若い時代を大事にすべきであるが、同様に中年を大事にすべきであるし、老年を大事にしなければならない。①若い時代だけを特別視する必要はないのである。
私自身は先ごろ、五十三歳になった。昔の呼称だと、もう立派な“老年”である。だから、ひがんで言っているのではない。私は、老年には老年よさがあると思っている。(中略)人生のそれぞれの段階には、それぞれに違った②人生のこくがある。私はそう思っている。私たちはそれぞれの段階に特有な人生の喜びと悲しみを味わいながら生きたい。
( ③ )、どうして若い時代だけが特別視されるのか!?私には不思議である。思うに、人々は若い時代を準備段階と考えているようだ。若い時にしっかりと学問や体験の蓄積をしておかないと、後になって困る。だから、若いうちから遊びほうけていてはいけない。と、結局は、若者に自制と禁欲を呼びかけているのである。
でも、私は、④それは間違いだと思う。若い時代に、若い時代に特有の人生の喜び・悲しみを( ⑤ )、中年や老年になって、その段階での人生の喜び・悲しみが味わえない。若者はそのことを銘記すべきである。
(ひろさちや「まんだら人生論(下)新潮文庫による」)
*ひがむ:素直でなくなる
*遊びほうける:遊びに夢中になる
*銘記する:忘れないように心に強く残す
「問1」①「若い時代だけを特別視する必要はない」とあるが、それはなぜか。
1 若い時は一度しかないから。
2 自分が皮肉屋だから。
3 若い時代と同様に、中年、老年も大事だから。
4 老年には老年のよさがあるから。
「問2」②「人生のこと」とは、ここではどのようなことか。
1 人生の特別さ
2 人生の喜びと悲しみ
3 人生の大切さ
4 人生の準備段階
「問3」( ③ )の中に入る最も適当な言葉はどれか。
1 だからといって
2 それどころか
3 したがって
4 にもかかわらず
「問4」④「それはまちがいだと思う」とあるが、何がまちがいであると思うのか。
1 若いうちから遊びほうけること
2 若い時代にしっかりと学問や体験の蓄積をすること
3 若い時代を特別視しないこと
4 若者に自制と禁欲を呼びかけること
「問5」( ⑤ )に入る言い方はどれか。
1 体験しておけば
2 体験しておかないと
3 体験しておいても
4 体験しておかなくても
回答:(1)3 (2)2 (3)4 (4)4 (5)2 |