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发表于 2010-9-10 23:43:18
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第五课的下半段和单词
ところが、その年の夏は雨が多く肌寒く、めったに晴れる日はありませんでした。そのために秋になっても山の木の実は実らず、丹精した畑の作物も腐ってゆきました。
おそろしい飢饉がやって来たのです。
長いあいだアイの一家は、乏しい食べ物で食いつないできましたが、とうとう細い薩摩芋が一本しか残らなくなった時に、お姑さんは青い顔をしてアイに言いました。
「いつかの魚の料理を作ってもらえないかねえ。もう食べ物は何にもなくなってしまった」
その目は、あの鍋の秘密をちゃんと見抜いているように思われました。アイは頷きました。こんな時には海の神様も許してくれると思ったのです。アイは家の外へ出て行くと、木の葉を三枚とって来て鍋に並べました。それから蓋をしてちょっと揺すって、また蓋を開けると鍋の中には、すずきが三匹じゅうじゅうと焼けていました。それを三枚のお皿にとりわけながら、アイは真っ青な秋の海を思い浮かべました。アイは自分達のために命を捨ててくれた三匹の魚にそっと手を合わせました。
雑木林の向こうに住んでいる隣の家の人々がやって来たのは、それからしばらくあとのことでした。
今ごろ、魚の焼けるにおいがするので、ちょっと寄ってみました。この飢饉に一体どこで魚を手の入れたのか、それを聞こうと思って――
おどおどとへつらうように隣の人は言いました。これを聞いてお姑さんは、アイに魚を焼くように言いました。そこでアイは、又木の葉をお客の数だけ鍋に入れました。
「さあさあ、遠慮なく食べていってください」とお姑さんは言いました。お客は大喜びで魚を食べて帰ったのです。
ところが、困ったことになりました。
あの家に行けば、魚がただで食べられるという噂が、村から村へと広まり、遠い道を歩いて飢えた人達が、アイの家をたずねてくるようになったのです。アイは、朝から晩まで台所に閉じこもって、木の葉を鍋に入れては魚の料理を拵えました。ああ、これで何十匹、海の魚が死んだろうか……そんなふうに思いながら、それでもアイは手を休めることができませんでした。魚を食べたい人達は、それでもアイは手を休めることができませんでした。魚を食べたい人達は、あとからあとからやって来ましたから。
ある日、とうとうお姑さんが言いました。
「こんなときにただで魚を振舞うこともあるまい。うちも貧乏なんだから、魚一匹につき、米一合でも、大根一本でも、いくらかのお金でも、もらったらいいと思うが……」
これを聞いてアイはすぐこう答えました。
「あの鍋はやたらに使ってはいけないと、里の母さんに言われました。ただで魚を上げるのならまだしも、お金や物と交換するのでは、海の神様にすみません。鍋に入れた木の葉の数だけ海では魚が死ぬのだと聞いています」
すると、お姑さんは笑いました。
「山の木の葉と海の魚はおんなじことさ。山の木の葉が取っても取ってもなくならないように、海の魚だって、なくなりゃしない」
横からアイの夫も口を合わせました。
「そうとも。海の魚は山の木の葉とおんなじだ」
仕方なく、アイは又台所に入って行って、魚の料理を拵え続けたのです。ああ、せつないせつないと思いながら、何百枚何千枚の木の葉を鍋に入れ続けたのです。
林の中の小さな家は、やがて魚のにおいでいっぱいになりました。それにつれて、家の中は米や豆や野菜や果物でいっぱいになりました。魚を食べたいばかりに、人々はとっときの食べ物を持ってやってきたのでしたから。そのうちに、アイの夫は山番の仕事をやめました。お姑さんも畑仕事や縫い物をやめました。アイの夫は、時々もらいものの野菜や豆をかごに入れて麓の村に売りに行きました。そうして、いくらかのお金を作っては戻って来たのでしたが、ある日のこと、アイに一枚の美しい着物を買ってきたのです。
それは白地に、椿の花がほとほとと散っている着物でした。その花びらの、ぽってりとした赤がアイの心をくすぐりました。ま新しい着物を手にしたのは生まれてはじめてのことでしたから。アイは涙が出るほどうれしいと思いました。突き上げてくる喜びの渦の中で、アイは海の神様への後ろめたさも里の母親の注意もさらりと忘れました。新しい着物を抱き締めて、この鍋がお前を幸せにすると言った母の言葉はこういうことだったかと自分なりに解釈したのです。
それからというもの、アイは喜んで魚を焼くようになりました。
アイの家に魚を食べに来る人々の群れが細い山道にひしめきました。アイの家はどんどん豊かになり、アイは美しい着物を何枚も持ってるようになりました。
そうして、それから、どれほどの月日が過ぎたでしょうか。
激しい雨が丸々なのか降り続いたある明け方のこと――
三人はドドーッという不気味な音を聞きました。それから、家がぐらりと大きく揺れるのを感じました。
「山崩れだ!」
アイの夫が叫びました。
「後ろの崖が崩れてくる!」
とお姑さんも叫びました。たちまちのうちに、天井がメリメリと鳴り、柱が揺れました。ああ、家が潰れる……もう逃げることもできずにアイの夫が畳の上に蹲った時、いきなりアイが言ったのです。
「いいや、違う……」と。
それからアイは天井を見上げて、
「あれは海の波の音だ」とつぶやきました。
「波の音?波の音がどうしてこんなところまで聞こえるものか」
「そうとも。お前の空耳だ」
けれどもこの時、アイは懐かしさに躍り上がり、髪を振り乱して戸口に駆けていたのです。そうして、カタリと戸を開けると――
どうでしょう。
山の木もれ陽とそっくりの色をした海の水が、ゆらゆらと家の中にあふれこんで来るではありませんか。
「ほうら!」とアイは叫びました。それから、上を見上げて何もかもを知ったのです。
なんとアイの家は、海の底に沈んでいたのです。
一体、どういうわけでそんなことになったのか分かりません。大津波でも起きて、遠い海が山まで押し寄せてきたのか、それとも海の神様の大きな手が、この小さな家をつまみ上げて海の底に沈めてしまったのか……
それにしても、海の底に沈められても、三人は苦しくも寒くもなく、ただ、堅田がいつもより少し軽いだけでした。三人は戸口のところに集まって、呆気にとられて上を眺めました。
この家を覆っていた緑の木の葉はみんな生きた魚になり、群れをなして泳いでいくところです。しばらくその美しさに見とれたあと、お姑さんがため息をついて言いました。こんなところに沈められて、この先、どうやって生きていったらよかろうかと。
この時です。アイはずっとずっと上の方で、誰かが自分を呼ぶのを聞きました。
「アイ、アイ、こっちへおいで」
温かいやさしい声でした。
「アイ、アイ、こっちへおいで」
「ああ、母ちゃん!」
思わずアイは両手を上げました。それから、よくよく目を凝らすと、網が――そうです。まぎれもなく、アイの家の継ぎ接ぎだらけの借り物の網が頭の上いっぱいにひろがっているではありませんか。
「父ちゃんの舟がきてるんだ」
とアイは叫びました。
「父ちゃん母ちゃん、網で引き上げておくれ。私達を助けておくれ」
アイは駆け出しました。続いて、アイの夫お姑さんもアイの後を追いました。
ゆらゆら揺れる緑色の水の中を、三人は両手を広げて走り続けました。
こんぶの森を通りました。サンゴの林もわかめの野原も通りました。
網はどんどん大きく広がって行き、海全体をすっぽりと覆い尽くして行くようでした。
お昼を過ぎて夕暮れが近づいて、海の底に射し込む陽の光が緑から紫に変わる頃、三人の体はいきなりふうっと浮き上がりました。まるで三匹の魚のように。
三人は網を目掛けてのぼって行きます。両手を広げてゆらゆらとのぼって行きます。
アイの母親のやさしい声が、おいで、おいでと呼んでいます。もうすぐ、もうすぐなのです。
(『南の島の魔法の話』講談社文庫より。漢字表記の改正あり)
第五課 単語
漁師.猟師(りょうし)
娘(むすめ)
艘(そう)
おまけに
年頃(としごろ)
つくづく
願う(ねがう)
親心(おやごころ)
嫁入り(よめいり)
とっとき
山番(やまばん)
お互い様(おたがいさま)
働き者(はたらきもの)
なんにも(何にも)
行商(ぎょうじょう)
ぽかん(と)
見詰める(みつめる)
口を寄せる(くちをよせる)
揺する(ゆする)
焼き魚(やきざかな)
柚子(ゆず)
飛切り(とびきり)
抱き寄せる(だきよせる)
ささやく(囁く)
こもる(籠る)
やたら
風呂敷(ふろしき)
包む(つつむ)
手渡す(てわたす)
姑.舅(しゅうと)
道程(みちのり)
山道(やまみち)
石ころ(いしころ)
草履(ぞうり)
磨り減る(すりへる)
鼻緒(はなお)
崖(がけ)
木漏れ日
葱(ねぎ)
ぱちぱち
がらっと
トタン葺き(tutanagaぶき)
こしらえる(拵える)
鰈(かれい)
こんがり
振り掛ける(ふりかける)
はて
日々(ひび)
ふくろう(梟)
聞き分ける(ききわける)
汲む(くむ)
せっせと
肌寒い(はださむい)
丹精(たんせい)
飢饉(ききん)
乏しい(とぼしい)
食いつなぐ(食い繋ぐ)
見抜く(みぬく)
取り分ける(とりわける)
真っ青(まっさお)
思い浮かべる(おもいうかべる)
手を合わせる(てをあわせる)
じゅうじゅう
おどおど
へつらう(諂う)
飢える(うえる)
閉じこもる(閉じ篭る)
合(ごう)
里(さと)
口を合わせる(くちをあわせる)
せつない(切ない)
かご(籠)
麓(ふもと)
白地(しろじ)
椿(つばき)
ほとほと
ぽってり
くすぐる(擽る)
真新しい(まあたらしい)
突き上げる(つきあげる)
渦(うず)
後ろめたい(うしろめたい)
さらりと
抱き締める(だきしめる)
ひしめく(犇く)
月日(つきひ)
ぐらり
山崩れ(やまくずれ)
天井(てんじょう)
メリメリ
いきなり
空耳(そらみみ)
躍り上がる(おどりあがる)
戸口(とぐち)
カタリ
ゆらゆら
津波(つなみ)
押し寄せる(おしよせる)
見惚れる(みとれる.みほれる)
ため息をつく(溜め息をつく)
目を凝らす(めをこらす)
継ぎ接ぎ(つぎはぎ)
サンゴ(珊瑚)
わかめ(和布)
夕暮れ(ゆうぐれ)
目掛ける(めがける) |
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