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楼主 |
发表于 2008-5-8 15:03:45
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年はもう五十をこえているであろう、背は五尺そこそこと見えるほどひくいが、横はばは異常にひろく、まるで碁盤みたいに頑丈なからだである。くりくりと|剃《そ》ったというより、|禿《は》げた大きな頭に、眼がギョロリとひかっていた。澄み切って|精《せい》|悍《かん》きわまるその眼は、日にやけて黒びかりしている頭に似ず若々しい。とにかく、ただ者でない眼光である。
「……御坊、槍をお使いなさるのか」
「されば。――」
と、いったまま、雲水は思案している。如雲斎不在ときいて失望したらしい。
「……やむを得ぬ。またいずれかの日、参るとしよう」
と、うなずいて、雲水はうしろの女をかえりみた。
「佐奈、ゆこう」
「あいや、念のため承っておきたい。御姓名は?」
槍をあやつる雲水とは――と、好奇心にかられて侍はきいた。
「愚僧、宝蔵院|胤舜《いんしゅん》と申す」
みじかく答えて、その老いたる金剛力士のような雲水は、|網《あ》|代《じろ》|笠《がさ》をかぶりなおし、長大な槍をかついだまま、スタスタと門の方へ出ていった。女がそのあとを追う。
あっ――と口の中でさけんだきり、侍は眼をむいてそのうしろ姿を見送った。
取り次ぎの侍は、田宮坊太郎が訪れてきたときよりも驚いた。
それはそうだろう。宝蔵院という名は、兵法の道に入った者なら誰でも知らぬ者はない。
奈良の宝蔵院は、興福寺四十余坊の一つで、春日明神の社務を担当しているものだが、戦国時代、その院主に|胤《いん》|栄《えい》なる者あり、僧にして刀槍の術を好み、柳生石舟斎などとともに剣法を上泉伊勢守に学び、やがて槍術を独創して宝蔵院流の名を世にとどろかせるに至った。この胤栄を初代とする。
爾来、この宝蔵院では、ここに勤める僧のうち、仏道ならず槍術に長ずる者を住持とする不文律をたて、これによって二代目をついだのが――いま、名乗った|胤舜《いんしゅん》だ。
「その槍法神に入る」
という噂はきいたことがある。
が、その胤舜も、もう十数年まえに院主の地位から去り、すでに宝蔵院は三代目胤清にゆずられたときいている。が、この胤清は先代ほどの達人ではないということも耳にしたことがある。――その達人胤舜が、|飄然《ひょうぜん》としてこの尾張柳生の如雲斎を訪ねてこようとは。――
かんがえてみれば、いままで訪ねてこなかった方がおかしい。
たったこれだけの挨拶で帰ってもらっていい人物ではない、と取り次ぎの侍は狼狽したが、しかし、どうすることもできなかった。さっき胤舜にのべた口上は、まさにその通りだったのである。去年の夏、九州からいちど帰った柳生如雲斎は、かねてから親交のあった妙心寺の霊峰禅師のもとへ参禅にゆくと称して、また京へ旅立ったのである。 |
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