「でも、仏像を渡すまいとすれば、あの子が、どんな目に会うか分からないじゃございませんか。いくら大切な美術品でも、人間の命には代えられないと存じます。どうか警察などへおっしゃらないで、賊の申し出に応じてやってくださいませ。」
お母様の瞼の裏には、どことも知れぬ真っ暗な地下室に、一人ぼっちで泣きじゃくっている壮二君の姿が、まざまざと浮かんでいました。今晩の十時さえ待ち遠しいのです。たった今でも、仏像と引き換えに、早く壮二君を取り戻してほしいのです。
「ウン、壮二を取り戻すのは無論の事だが、しかし、ダイヤを取られた上に、あの掛替えのない美術品まで、おめおめ賊に渡すのかと思うと、残念でたまらないのだ。近藤君、何か方法はないものだろうか。」
「そうでございますね。警察に知らせたら、忽ち事が荒立ってしまいましょうから、賊の手紙の事は今晩十時までは、外へ漏れないようにして置かねばなりません。しかし、私立探偵ならば……。」
老人が、ふと一案を持ち出しました。
「うん、私立探偵というものがあるね。しかし、個人の探偵などにこの大事件がこなせるか知らん。」
「聞くところによりますと、何でも東京に一人、偉い探偵がいると申す事でございますが。」
老人が首を傾げているのを見て、早苗さんが、突然口を挟みました。
「お父様、それは明智小五郎探偵よ。あの人ならば、警察でさじを投げた事件を、いくつも解決したって言うほどの名探偵ですわ。」
「そうそう、その明智小五郎という人物でした。実に偉い男だそうで、二十面相とは格好の取り組みでございましょうて。」
「うん、その名はわしも聞いた事がある。では、その探偵をそっと呼んで、一つ相談してみることにしようか。専門家には、我々に想像の及ばない名案があるかもしれん。」
そして、結局、明智小五郎にこの事件を依頼する事に話が決まったのでした。
早速、近藤老人が、電話帳を調べて、明智探偵の宅に電話を掛けました。すると、電話口から、子供もらしい声で、こんな返事が聞こえてきました。
「先生は今、ある重大な事件のために、外国へ出張中ですから、何時お帰りとも分かりません。しかし、先生の代理を務めている小林という助手がおりますから、その人でよければ、すぐお伺いいたします。」
「ああ、そうですか。だが、非常な難事件ですからねえ。助手の方ではどうも……。」
[但如果不交出佛像的话,也不知道那孩子会遇到什么事情.我认为无论多么珍贵的美术品都不能换回人的性命.请不要向警察报案,按照贼所提出的要求去做.]
母亲的眼帘里清晰地浮现出,壮二身在不知何处的黑暗地下室里,一个人孤独地哭泣的身影.母亲急切地盼望着今晚十点钟的到来,恨不得立即拿佛像来做交换,想早点赎回壮二.
[嗯,当然要赎回壮二.但一想到钻石被偷,然后还要将无比珍贵的美术品乖乖地送给贼,我就懊悔不已.近藤,有没有什么解决方法吗?]
[是啊.如果通报警察的话,事态马上就会变得很严重.有关贼来信之事在今晚十点钟之前决不能向外透露.但是,如果是私家侦探的话......]
老人忽然提出了一个方案.
[嗯,有私家侦探啊.但是私人侦探能处理好这个大案子吗?]
[据我所打听到的消息来看,听说东京有一个非常了不起的侦探.]
早苗看着老人歪着头思考时,突然插话.
[父亲,这个人是明智小五郎侦探呀.据说这个人解决了许多连警察都感到束手无策的案件,是一个很有名的侦探啊.]
[对对,就是这个叫明智小五郎的人.听说他是一个实在是很了不起的男人,是与二是面相相合适的较量对手.]
[嗯,我也曾听说过这个名字.那么,我们要不悄悄地将这个侦探叫来,稍微向他请教一下.也许专家那里有一些我们所想象不到的妙招.]
于是最后决定委托明智小五郎办理此案件.
近藤老人立即查看电话簿,然后打电话到明智侦探家里.于是,电话那头传来了一个小孩子的声音,并听到了这样的答复.
[师傅现在到国外出差办理某件重大案件,不知道什么时候会回来.但有一个叫小林的助手担任师傅的代理职务,如果觉得这个人可以的话,马上拜访贵府.]
[啊,是吗?可是这个案件是一个非常棘手的案子啊,助手的话恐怕......]
[ 本帖最后由 uin61 于 2008-8-26 11:18 编辑 ] |