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楼主 |
发表于 2011-4-11 13:21:18
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七月十×日
髪の毛一本落ちていない、おそろしく片付いた部屋で、不潔の鎧をまとった直樹はぐっすりと眠っていました。よほどのことがない限り、夕方まで目を覚まさないはずです。
親が子供の昼食にこっそり睡眠薬を盛るなど、あってはならない行為ですが、直樹から不潔の鎧を取り除くためには、この方法しか思いつかなかったのです。直樹をかたくなに家の中に閉じ込めているのは、直樹の罪悪感が作り上げた不潔の鎧だと思うのです。
カーテンを閉め切った薄暗い部屋の中、異臭を放つ直樹にゆっくりと近づき、寝顔を見下ろしました。脂や垢で覆われた顔の表面には白く膿んだニキビがいくつも浮いていましたし、髪の毛にかさぶたのようなフケがびっしりとからまっていましたが、それでも私は直樹の頭をなでてやりたい気持ちを抑えることができず、片手で一度だけ、ゆっくりとなでてやりました。そして、もう片方の手で持っていた裁ちハサミを、ゆっくりと直樹の頭、もみあげのあるあたりに近付けていったのです。このハサミで、お道具袋を作ってやったことを、ふと思い出しました。長く伸びた脂だらけの髪の毛をザクリと切ると、大きな音が響き、途中で直樹が目を覚ましたしたらどうしよう、とあせりましたが、なんとか、耳が見える程度に切ることができました。
もともと、寝ているあいだに散髪をしてやろうとは思っていませんでした。中途半端に不恰好に切っておけば、散髪屋に行こうという気になってくれるのではないかと思ったのです。
不潔の鎧に、ひびを入れるだけでよかったのです。
枕元には髪の毛が飛び散ったままでしたが、それで首元がかゆくなれば、風呂にも入ってくれるかもしれないと思い、そのままハサミだけ持って部屋からそっと出て行きました。
獣の咆哮のような声が家中に響き渡ったのは、ちょうど夕食の準備を始めた頃でした。それが直樹の声だとはすぐにはわからないほど、獣じみた声でした。二階に駆け上がり、おそるおそる直樹の部屋のドアを開けた途端、ノートパソコンが飛んできました。数時間前まであんなに片付けていたことが信じられないくらい、部屋の中は荒らされていました。
ワーと言っているのか、オーと言っているのかわからない奇声を上げながら、部屋の中にあるものを手当たりしだい壁に投げつけている直樹の姿は、もはや人間とは言えませんでした。
「直樹!やめなさい!」
私自身も驚くほどの大きな声が出ました。直樹はピタリと動きを止め、私を振り返り、
「出て行け……」
その目に浮かんでいたのはまぎれもなく、狂気でした。それでも殺される覚悟で抱きしめてやればよかったのでしょうか。そのときの私は、我が子を初めて心の底から恐ろしいと感じ、逃げるように直樹の部屋から出て行くことしかできませんでした。
もはや、私一人の力ではどうすることもできないと思いました。
今日こそは、主人に相談しようと決意しました。しかし、そんなときに限って、残業のため会社に泊まる、というメールが使い慣れない携帯電話に届くのです。
私にはもう、日記を書くことしかできません。
直樹は再び眠ってしまったのか、真上にある直樹の部屋からは、今は物音一つ聞こえてきません。
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