【天声人語】2005年10月24日(月曜日)付
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, b2 q$ W6 S9 D6 K- ?9 z ヘビー級の世界王者に挑戦するジム・ブラドックは、戦う目的を記者団に問われ、「ミルク」と答えた。実在のボクサーを描いた米国映画「シンデレラマン」の印象的な場面である。
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7 \. k: k. @& ?4 I% S3 \7 Q1 k7 S) _ 彼には妻と3人の幼い子がいる。妻はミルクを水で薄めて増やした。ブラドックは「夢でステーキを食べた」と言って、自分の食べものを子どもに与えた。大恐慌とそれに続く長い不況の時代の物語である。
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ニューヨーク株式市場で株が大暴落したのは、1929年10月24日、76年前のきょうのことだ。それをきっかけに大恐慌が始まった。企業や銀行が倒産し、失業者が街にあふれた。多くの農民が土地を手放した。大恐慌は欧州や日本にも及んだ。
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ブラドックも、リングで稼いだ財産を失った。そのうえ、手を骨折し、試合に勝てない。港の荷役の仕事にもあぶれる。光熱費を払えなくなり、妻は3人の子を親類に預けた。子どもを手放すのは、人生をあきらめてしまうことだ。ブラドックはボクシング界の幹部らに頭を下げ、光熱費を恵んでもらう。
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1 ?( b N( z" v6 B, m9 X: ]6 S; w 「食べるのに必死の時代だったから、家族や地域で結束した面がある」と語るのは、アメリカ経済史専攻の秋元英一・千葉大教授だ。秋元教授は「1930年代の米国は意外に活気のある時代だった。どん底に追い込まれたので、社会主義を主張しようとも、実験的なことに挑もうとも許された」と言う。
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7 e7 \4 B5 \# m2 H8 r# m% j$ S- R ブラドックは勝ち目の乏しい試合に挑んだ。奇跡的に復活して勝ち進み、ついに頂点に迫る——。株の大暴落から6年、米国の苦闘はなおも続いていた。 |