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[好书连载] 哈利波特日文版 「ハリー・ポッターと賢者の石」(完结)

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 楼主| 发表于 2006-8-22 23:36:37 | 显示全部楼层
 次の日の昼過ぎ、ロンとハーマイオニーは更衣室の外で「幸運を祈る」とハリーを見送った。
 はたして再び生きて自分に会えるかどうかと二人が考えていることをハリーは知っていた。どうも意気が上がらない。ウッドの激励の言葉もほとんど耳に入らないまま、ハリーはクィディッチのユニフォームを着てニンバス2000を手に取った。
 ハリーと別れたあと、ロンとハーマイオニーはスタンドでネビルの隣に座った。ネビルはなぜ二人が深刻な顔をしているのか、クィディッチの試合観戦なのになぜ杖を持ってきているのか、さっぱりわからなかった。ハリーに黙って、ロンとハーマイオニーはひそかに「足縛りの呪文」を練習していた。マルフォイがネビルに術を使ったことからヒントを得て、もしスネイプがハリーを傷つけるような素振りをチラッとでも見せたらこの術をかけようと準備していた。
「いいこと、忘れちゃだめよ。ロコモーター モルティスよ」
 ハーマイオニーが杖を袖の中に隠そうとしているロンにささやいた。
「わかってるったら。ガミガミ言うなよ」
 ロンがピシャリと言った。
 更衣室ではウッドがハリーをそばに呼んで話をしていた。
「ポッター、プレッシャーをかけるつもりはないが、この試合こそ、とにかく早くスニッチを捕まえて欲しいんだ。スネイプにハッフルパフをひいきする余裕を与えずに試合を終わらせてくれ」
「学校中が観戦に出てきたぜ」
 フレッド・ウィーズリーがドアからのぞいて言った。
「こりゃ驚いた……ダンブルドアまで見に来てる」
 ハリーは心臓が宙返りした。
「ダンブルドア?」
 ハリーはドアにかけ寄って確かめた。フレッドの言うとおりだ。あの銀色のひげはまちがいようがない。
 ハリーはホッとして笑い出しそうになった。助かった。ダンブルドアが見ている前では、スネイプがハリーを傷つけるなんてできっこない。
 選手がグラウンドに入場してきた時、スネイプが腹を立てているように見えたのは、そのせいかもしれない。ロンもそれに気づいた。
「スネイプがあんなに意地悪な顔をしたの、見たことない」
 ロンがハーマイオニーに話しかけた。
「さあ、プレイ・ボールだ。アイタッ!」
 誰かがロンの頭の後ろをこづいた。マルフォイだった。
「ああ、ごめん。ウィーズリー、気がつかなかったよ」
 マルフォイはクラップとゴイルに向かってニヤッと笑った。
「この試合、ポッターはどのくらい箒に乗っていられるかな? 誰か、賭けるかい? ウィーズリー、どうだい?」
 ロンは答えなかった。ジョージ・ウィーズリーがブラッジャーをスネイプの方に打ったという理由で、スネイプがハッフルパフにべナルティー・シュートを与えたところだった。ハーマイオニーは膝の上で指を十字架の形に組んで祈りながら、目を凝らしてハリーを見つめ続けていた。ハリーはスニッチを探して鷹のようにグルグルと高いところを旋回していた。
「グリフィンドールの選手がどういう風に選ばれたか知ってるかい?」
 しばらくしてマルフォイが聞こえよがしに言った。ちょうどスネイプが何の理由もなくハッフルパフにペナルティー・シュートを与えたところだった。
「気の毒な人が選ばれてるんだよ。ポッターは両親がいないし、ウィーズリー一家はお金がないし……ネビル・ロングボトム、君もチームに入るべきだね。脳みそがないから」
 ネビルは顔を真っ赤にしたが、座ったまま後ろを振り返ってマルフォイの顔を見た。
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 楼主| 发表于 2006-8-22 23:36:58 | 显示全部楼层
「マルフォイ、ぼ、僕、君が十人束になってもかなわないぐらい価値があるんだ」
 ネビルがつっかえながら言った。
 マルフォイもクラップもゴイルも大笑いした。ロンは試合から目を離す余裕がなかったが、
「そうだ、ネビル、もっと言ってやれよ」と口を出した。
「ロングボトム、もし脳みそが金でできてるなら、君はウィーズリーより貧乏だよ。つまり生半可な貧乏じゃないってことだな」
 ロンはハリーのことが心配で、神経が張りつめて切れる寸前だった。
「マルフォイ、これ以上一言でも言ってみろ。ただでは……」
「ロン!」
 突然ハーマイオニーが叫んだ。
「ハリーが!」
「何? どこ?」
 ハリーが突然ものすごい急降下を始めた。そのすばらしさに観衆は息をのみ、大歓声を上げた。ハーマイオニーは立ち上がり、指を十字に組んだまま口に食わえていた。ハリーは弾丸のように一直線に地上に向かって突っ込んで行く。
「運がいいぞ。ウィーズリー、ポッターはきっと地面にお金が落ちているのを見つけたのに違いない!」とマルフォイが言った。
 ロンはついに切れた。マルフォイが気がついた時には、もうロンがマルフォイに馬乗りになり、地面に組み伏せていた。ネビルは一瞬ひるんだが、観客席の椅子の背をまたいで助勢に加わった。
「行けっ! ハリー」
 ハーマイオニーが椅子の上に跳び上がり、声を張り上げた。ハリーがスネイプの方に猛スピードで突進してゆく。ロンとマルフォイが椅子の下で転がり回っていることにも、ネビル、クラップ、ゴイルが取っ組み合って拳の嵐の中から悲鳴が聞こえてくるのにも、ハーマイオニーはまるで気がつかなかった。
 空中では、スネイプがふと箒の向きを変えたとたん、耳元を紅の閃光がかすめていった。ほんの数センチの間だった。次の瞬間、ハリーは急降下を止め、意気揚揚と手を挙げた。その手にはスニッチが握られていた。
 スタンドがドッと沸いた。新記録だ。こんなに早くスニッチを捕まえるなんて前代未聞だ。
「ロン! ロン! どこ行ったの? 試合終了よ! ハリーが勝った! 私たちの勝ちよ! グリフィンドールが首位に立ったわ!」
 ハーマイオニーは狂喜して椅子の上で跳びはね、踊り、前列にいたパーバティ・パチルに抱きついた。
 ハリーは地上から三十センチのところで静から飛び降りた。自分でも信じられなかった。やった! 試合終了だ。試合開始から五分も経っていなかった。グリフィンドールの選手が次々とグランドに降りてきた。スネイプもハリーの近くに着地した。青白い顔をして唇をギュッと結んでいた。誰かがハリーの肩に手を置いた。見上げるとダンブルドアがほほえんでいた。
「よくやった」
 ダンブルドアがハリーだけに聞こえるようにソッと言った。
「君があの鏡のことをクヨクヨ考えず、一生懸命やってきたのは偉い……すばらしい……」
 スネイプが苦々しげに地面につばを吐いた。
 しばらくして、ハリーはニンバス2000を箒置き場に戻すため、一人で更衣室を出た。こんなに幸せな気分になったことはなかった。ほんとうに誇りにできることをやり遂げた――名前だけが有名だなんてもう誰も言わないだろう。夕方の空気がこんなに甘く感じられたことはなかった。湿った芝生の上を歩いていると、この一時間の出来事がよみがえってきた。幸せでボーッとなった時間だった。グリフィンドールの寮生がかけ寄ってきてハリーを肩車し、ロンとハーマイオニーが遠くの方でピョンピョン跳びはねているのが見えた。ロンはひどい鼻血を流しながら歓声を上げていた。
 ハリーは箒置き場にやってきた。木の扉に寄りかかってホグワーツを見上げると、窓という窓が夕日に照らされて赤くキラキラ輝いている。グリフィンドールが首位に立った。僕、やったんだ。スネイプに目にもの見せてやった……。
 スネイプといえば……
 城の正面の階段をフードをかぶった人物が急ぎ足で降りてきた。あきらかに人目を避けている。禁じられた森に足早に歩いて行く。試合の勝利熱があっという間に吹っ飛んでしまった。
 あのヒョコヒョコ歩きが誰なのかハリーにはわかる。スネイプだ。ほかの人たちが夕食を食べている時にコッソリ森に行くとは――いったい何事だろう?
 ハリーはまたニンバス2000に跳び乗り、飛び上がった。城の上までソーッと滑走すると、スネイプが森の中にかけ込んで行くのが見えた。ハリーは跡をつけた。
 木が深々と繁り、ハリーはスネイプを見失った。円を描きながらだんだん高度を下げ、木の梢の枝に触るほどの高さになった時、誰かの話声が聞こえた。声のするほうにスィーッと移勤し、ひときわ高いぶなの木に音を立てずに降りた。
 欝をしっかり掘り締め、ソーツと枝を登り、ハリーは葉っぱの陰から下をのぞき込んだ。
 木の下の薄暗い平地にスネイプがいた。一人ではなかった。クィレルもいた。どんな顔をしているかハリーにはよく見えなかったが、クィレルはいつもよりひどくどもっていた。ハリーは耳をそばだてた。
「……な、なんで……よりによって、こ、こんな場所で……セブルス、君にあ、会わなくちゃいけないんだ」
「このことは二人だけの問題にしようと思いましてね」
 スネイプの声は氷のようだった。
「生徒諸君に『賢者の石』のことを知られてはまずいのでね」
 ハリーは身を乗り出した。クィレルが何かモゴモゴ言っている。スネイプがそれをさえぎった。
「あのハグリッドの野獣をどう出し抜くか、もうわかったのかね」
「で、でもセブルス……私は……」
「クィレル、私を敵に回したくなかったら」
 スネイプはグイと一歩前に出た。
「ど、どういうことなのか、私には……」
「私が何がいいたいか、よくわかってるはずだ」
 ふくろうが大きな声でホーッと鳴いたので、ハリーは木から落ちそうになった。やっとバランスを取り、スネイプの次の言葉を聞きとった。
「……あなたの怪しげなまやかしについて聞かせていただきましょうか」
「で、でも私は、な、何も……」
「いいでしょう」
 とスネイプがさえぎった。
「それでは、近々、またお話をすることになりますな。もう一度よく考えて、どちらに忠誠を尽くすのか決めておいていただきましょう」
 スネイプはマントを頭からスッポリかぶり、大股に立ち去った。もう暗くなりかかっていたが、ハリーにはその場に石のように立ち尽くすクィレルの姿が見えた。

「ハリーったら、いったいどこにいたのよ?」
 ハーマイオニーがかん高い声を出した。
「僕らが勝った! 君が勝った! 僕らの勝ちだ!」
 ロンがハリーの背をポーンポーンと叩きながら言った。
「それに、僕はマルフォイの目に青あざを作ってやったし、ネビルなんか、クラップとゴイルにたった一人で立ち向かったんだぜ。まだ気を失ってるけど、大丈夫だってマダム・ポンフリーが言ってた……スリザリンに目にもの見せてやったぜ。みんな談話室で君を待ってるんだ。パーティをやってるんだよ。フレッドとジョージがケーキやら何やら、キッチンから失敬してきたんだ」
「それどころじゃない」
 ハリーが息もつかずに言った。
「どこか誰もいない部屋を探そう。大変な話があるんだ……」
 ハリーはピーブズがいないことを確かめてから部屋のドアをピタリと閉めて、いま見てきたこと、聞いたことを二人に話した。
「僕らは正しかった。『賢者の石』だったんだ。それを手に入れるのを手伝えって、スネイプがクィレルを脅していたんだ。スネイプはフラッフィーを出し抜く方法を知ってるかって聞いていた……それと、クィレルの『怪しげなまやかし』のことも何か話してた……フラッフィー以外にも何か別なものが石を守っているんだと思う。きっと、人を惑わすような魔法がいっぱいかけてあるんだよ。クィレルが闇の魔術に対抗する呪文をかけて、スネイプがそれを破らなくちゃいけないのかもしれない……」
「それじゃ『賢者の石』が安全なのは、クィレルがスネイプに抵抗している間だけということになるわ」
 ハーマイオニーが警告した。
「それじゃ、三日ともたないな。石はすぐなくなっちまうよ」
とロンが言った。
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 楼主| 发表于 2006-8-22 23:37:29 | 显示全部楼层
第14章 ノルウェー・ドラゴンのノーバート
CHAPTER FOURTEEN Norbert the Norwegian Ridgeback

 クィレルはハリーたちが思っていた以上の粘りを見せた。それから何週間かが経ち、ますます青白く、ますますやつれて見えたが、口を割った気配はなかった。
 四階の廊下を通るたび、ハリー、ロン、ハーマイオニーの三人は扉にピッタリ耳をつけて、フラッフィーのうなり声が聞こえるかどうか確かめた。スネイプは相変わらず不機嫌にマントを翻して歩いていたが、それこそ石がまだ無事だという証拠でもあった。
 クィレルと出会うたびに、ハリーは励ますような笑顔を向けるようにしたし、ロンはクィレルのどもりをからかう連中をたしなめはじめた。
 しかし、ハーマイオニーは「賢者の石」だけに関心を持っていたわけではなかった。復習予定表を作り上げ、ノートにはマーカーで印をつけはじめた。彼女だけがやるなら、ハリーもロンも気にしないですんだのだが、ハーマイオニーは自分と同じことをするよう二人にもしつこく勧めていた。
「ハーマイオニー、試験はまだズーッと先だよ」
「十週間先でしょ。ズーッと先じゃないわ。ニコラス・フラメルの時間にしたらほんの一秒でしょう」
 ハーマイオニーは厳しい。
「僕たち、六百歳じゃないんだぜ」
 ロンは忘れちゃいませんか、と反論した。
「それに、何のために復習するんだよ。君はもう、全部知ってるじゃないか」
「何のためですって? 気は確か? 二年生に進級するには試験をパスしなけりゃいけないのよ。大切な試験なのに、私としたことが……もう一月前から勉強を始めるべきだったわ」
 ありがたくないことに先生たちもハーマイオニーと同意見のようだった。山のような宿題が出て、復活祭の休みは、クリスマス休暇ほど楽しくはなかった。ハーマイオニーがすぐそばで、ドラゴンの血の十二種類の利用法を暗唱したり、杖の振り方を練習したりするので、二人はのんびりするどころではなかった。うめいたりあくびをしたりしながらも、ハリーとロンは自由時間のほとんどをハーマイオニーと一緒に図書館で過ごし、復習に精を出した。
「こんなのとっても覚えきれないよ」
 とうとうロンは音を上げ、羽ペンを投げ出すと、図書館の窓から恨めしげに外を見た。ここ数ヶ月振りのすばらしいお天気だった。空は忘れな草色のブルーに澄みわたり、夏の近づく気配が感じられた。
 ハリーは「薬草ときのこ百種」で「ハナハッカ」を探していて、下を向いたままだったが、
「ハグリッド! 図書館で何してるんだい?」というロンの声に、思わず目を上げた。
 ハグリッドがバツが悪そうにモジモジしながら現れた。背中に何か隠している。モールスキンのオーバーを着たハグリッドは、いかにも場違いだった。
「いや、ちーっと見てるだけ」
 ごまかし声が上ずって、たちまちみんなの興味を引いた。
「おまえさんたちは何をしてるんだ?」
 ハグリッドが突然疑わしげに尋ねた。
「まさか、ニコラス・フラメルをまだ探しとるんじゃないだろうね」
「そんなのもうとっくの昔にわかったさ」
 ロンが意気揚々と言った。
「それだけじゃない。あの犬が何を守っているかも知ってるよ。『賢者のい――』」
「シーッ!」
 ハグリッドは急いで周りを見回した。
「そのことは大声で言い触らしちゃいかん。おまえさんたち、まったくどうかしちまったんじゃないか」
「ちょうどよかった。ハグリッドに聞きたいことがあるんだけど。フラッフィー以外にあの石を守っているのは何なの」ハリーが聞いた。
「シーッ! いいか――後で小屋に来てくれや。ただし、教えるなんて約束はできねぇぞ。ここでそんなことをしゃべりまくられちゃ困る。生徒が知ってるはずはねーんだから。俺がしゃべったと思われるだろうが……」
「じゃ、後で行くよ」とハリーが言った。
 ハグリッドはモゾモゾと出て行った。
「ハグリッドったら、背中に何を隠してたのかしら?」
 ハーマイオニーが考え込んだ。
「もしかしたら石と関係があると思わない?」
「僕、ハグリッドがどの書棚のところにいたか見てくる」
 勉強にうんざりしていたロンが言った。ほどなくロンが本をどっきり抱えて戻ってきて、テープルの上にドサッと置いた。
「ドラゴンだよ!」
 ロンが声を低めた。
「ハグリッドはドラゴンの本を探してたんだ。ほら、見てごらん。『イギリスとアイルランドドラゴンの竜の種類』『ドラゴンの飼い方――卵から焦熱地獄まで』だってさ」
「初めてハグリッドに会った時、ズーッと前からドラゴンを飼いたいと思ってたって、そう言ってたよ」ハリーが言った。
「でも、僕たちの世界じゃ法律違反だよ。一七〇九年のワ一口ック法で、ドラゴン飼育は遠法になったんだ。みんな知ってる。もし家の裏庭でドラゴンを飼ってたら、どうしたってマグルが僕らのことに気づくだろ――どっちみちドラゴンを手なずけるのは無理なんだ。狂暴だからね。チャーリーがルーマニアで野生のドラゴンにやられた火傷を見せてやりたいよ」
「だけどまさかイギリスに野生のドラゴンなんていないんだろう?」とハリーが聞いた。
「いるともさ」ロンが答えた。
「ウェールズ・グリーン普通種とか、ヘブリディーズ諸島ブラック種とか。そいつらの存在の噂をもみ消すのに魔法省が苦労してるんだ。もしマグルがそいつらを見つけてしまったら、こっちはそのたびにそれを忘れさせる魔法をかけなくちゃいけないんだ」
「じゃ、ハグリッドはいったい何を考えてるのかしら?」
 ハーマイオニーが言った。

 一時間後、ハグリッドの小屋を訪ねると、驚いたことにカーテンが全部閉まっていた。ハグリッドは「誰だ?」と確かめてからドアを開けて、三人を中に入れるとすぐまたドアを閉めた。
 中は窒息しそうなほど暑かった。こんなに暑い日だというのに、暖炉にはゴウゴウと炎が上がっている。ハグリッドはお茶を入れ、イタチの肉を挟んだサンドイッチをすすめたが、三人は遠慮した。
「それで、おまえさん、何か聞きたいんだったな?」
 ハリーは単刀直入に聞くことにした。
「ウン。フラソフィー以外に『賢者の石』を守っているのは何か、ハグリッドに教えてもらえたらなと思って」
 ハグリッドはしかめ面をした。
「もちろんそんなことはできん。まず第一、俺自身が知らん。第二に、お前さんたちはもう知り過ぎておる。だから俺が知ってたとしても言わん。石がここにあるのにはそれなりのわけがあるんだ。グリンゴッツから盗まれそうになってなあ――もうすでにそれも気づいておるだろうが。だいたいフラソフィーのことも、いったいどうしておまえさんたちに知られてしまったのかわからんなあ」
「ねえ、ハグリッド。私たちに言いたくないだけでしょう。でも、絶対知ってるのよね。だって、ここで起きてることであなたの知らないことなんかないんですもの」
 ハーマイオニーはやさしい声でおだてた。
 ハグリッドのヒゲがピクピク動き、ヒゲの中でニコリとしたのがわかった。ハーマイオニーは追い討ちをかけた。
「私たち、石が盗まれないように、誰が、どうやって守りを固めたのかなぁって考えてるだけなのよ。ダンブルドアが信頼して助けを借りるのは誰かしらね。ハグリッド以外に」
 最後の言葉を聞くとハグリッドは胸をそらした。ハリーとロンはよくやったとハーマイオニ一に目配せした。
「まあ、それくらいなら言ってもかまわんじゃろう……さてと……俺からフラッフィーを借りて……何人かの先生が魔法の罠をかけて……スプラウト先生……フリットウィック先生……マクゴナガル先生……」
 ハグリッドは指を祈って名前を挙げはじめた。
「それからクィレル先生、もちろんダンブルドア先生もちょっと細工したし、待てよ、誰か忘れておるな。そうそう、スネイプ先生」
「スネイプだって?」
「ああ、そうだ。まだあのことにこだわっておるのか? スネイプは石を守る方の手助けをしたんだ。盗もうとするはずがない」
 ハリーは、ロンもハーマイオニーも自分と同じことを考えているなと思った。もしスネイプが石を守る側にいたならば、他の先生がどんなやり方で守ろうとしたかも簡単にわかるはずだ。
 たぶん全部わかったんだ――クィレルの呪文とフラソフィーを出し抜く方法以外は。
「ハグリッドだけがフラッフィーをおとなしくさせられるんだよね? 誰にも教えたりはしないよね? たとえ先生にだって」
 ハリーは心配そうに開いた。
「俺とダンブルドア先生以外は誰一人として知らん」
 ハグリッドは得意げに言った。
「そう、それなら一安心だ」
 ハリーは他の二人に向かってそうつぶやいた。
「ハグリッド、窓を開けてもいい? ゆだっちゃうよ」
「悪いな。それはできん」
 ハリーはハグリッドがチラリと暖炉を見たのに気づいた。
「ハグリッド――あれは何?」
 聞くまでもなくハリーにはわかっていた。炎の真ん中、やかんの下に大きな黒い卵があった。
「えーと、あれは……その……」
 ハグリッドは落ち着かない様子でヒゲをいじっていた。
「ハグリッド、どこで手に入れたの? すごく高かったろう」
 ロンはそう言いながら、火のそばに屈み込んで卵をよく見ようとした。
「賭けに勝ったんだ。昨日の晩、村まで行って、ちょっと酒を飲んで、知らないやつとトランプをしてな。はっきりいえば、そいつは厄介払いして喜んでおったな」
「だけど、もし卵が孵ったらどうするつもりなの?」
 ハーマイオニーが尋ねた。
「それで、ちいと読んどるんだがな」
 ハグリッドは枕の下から大きな本を取り出した。
「図書館から借りたんだ――『趣味と実益を兼ねたドラゴンの育て方』――もちろん、ちいと古いが、何でも書いてある。母竜が息を吹きかけるように卵は火の中に置け。なあ? それからっと……孵った時にはブランデーと鶏の血を混ぜて三十分ごとにバケツ一杯飲ませろとか。それとここを見てみろや――卵の見分け方――俺のはノルウェー・リッジバックという種類らしい。こいつが珍しいやつでな」
 ハグリッドの方は大満足そうだったが、ハーマイオニーは違った。
「ハグリッド、この家は木の家なのよ」
 ハグリッドはどこ吹く風、ルンルン鼻歌まじりで火をくべていた。
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 楼主| 发表于 2006-8-22 23:37:53 | 显示全部楼层
 結局、もう一つ心配を抱えることになってしまった。ハグリッドが法を犯して小屋にドラゴンを隠しているのがバレたらどうなるんだろう。
「あーあ、平穏な生活って、どんなものかなあ」
 次々に出される宿題と来る日も来る日も格闘しながら、ロンがため息をついた。ハーマイオニーがハリーとロンの分も復習予定表を作りはじめたので、二人とも気が狂いそうだった。
 ある朝、ヘドウィグがハリーにハグリッドからの手紙を届けた。たった一行の手紙だ。
「いよいよ孵るぞ」
 ロンは薬草学の授業をサボって、すぐ小屋に向かおうとしたが、ハーマイオニーがガンとして受けつけない。
「だって、ハーマイオニー、ドラゴンの卵が孵るところなんて、一生に何度も見られると思うかい?」
「授業があるでしょ。さぼったらまた面倒なことになるわよ。でも、ハグリッドがしていることがバレたら、私たちの面倒とは比べものにならないぐらい、あの人ひどく困ることになるわ……」
「黙って!」ハリーが小声で言った。
 マルフォイがほんの数メートル先にいて、立ち止まってじっと聞き耳を立てていた。どこまで聞かれてしまったんだろう? ハリーはマルフォイの表情がとても気にかかった。
 ロンとハーマイオニーは薬草学の教室に行く間ずっと言い争っていた。とうとうハーマイオニーも折れて、午前中の休憩時間に三人で急いで小屋に行ってみようということになった。授業の終わりを告げるベルが、塔から聞こえてくるやいなや、三人は移植ごてを放り投げ、校庭を横切って森のはずれへと急いだ。
 ハグリッドは興奮で紅潮していた。
「もうすぐ出てくるぞ」と三人を招き入れた。
 卵はテーブルの上に置かれ、探い亀裂が入っていた。中で何かが動いている。コツン、コツンという音がする。
 椅子をテーブルのそばに引き寄せ、みんな息をひそめて見守った。
 突然キーッと引っ掻くような音がして卵がパックリ割れ、赤ちゃんドラゴンがテーブルにポイと出てきた。可愛いとはとても言えない。シワクチャの黒いこうもり傘のようだ、とハリーは思った。やせっぽちの真っ黒な胴体に不似合いな、巨大な骨っぽい翼、長い鼻に大きな鼻の穴、こぶのような角、オレンジ色の出目金だ。
 赤ちゃんがくしゃみをすると、鼻から火花が散った。
「すばらしく美しいだろう?」
 ハグリッドがそうつぶやきながら手を差し出してドラゴンの頭をなでようとした。するとドラゴンは、とがった牙を見せてハグリッドの指にかみついた。
「こりゃすごい、ちゃんとママちゃんがわかるんじゃ!」
「ハグリッド。ノルウェー・リッジバック種ってどれくらいの早さで大きくなるの?」
 ハーマイオニーが聞いた。
 答えようとしたとたん、ハグリッドの顔から血の気が引いた――はじかれたように立ち上がり、窓際にかけ寄った。
「どうしたの?」
「カーテンのすき間から誰かが見ておった……子供だ……学校の方へかけて行く」
 ハリーが急いでドアにかけ寄り外を見た。遠目にだってあの姿はまぎれもない。マルフォイにドラゴンを見られてしまった。
 次の週、マルフォイが薄笑いを浮かべているのが、三人は気になって仕方がなかった。暇さえあれば三人でハグリッドのところに行き、暗くした小屋の中でなんとかハグリッドを説得しようとした。
「外に放せば? 自由にしてあげれば?」
 とハリーが促した。
「そんなことはできん。こんなにちっちゃいんだ。死んじまう」
 ドラゴンはたった一週間で三倍に成長していた。鼻の穴からは煙がしょっちゅう噴出している。ハグリッドはドラゴンの面倒を見るのに忙しく、家畜の世話の仕事もろくにしていなかった。ブランディーの空瓶や鶏の羽がそこら中の床の上に散らかっていた。
「この子をノーバートと呼ぶことにしたんだ」
 ドラゴンを見るハグリッドの目は潤んでいる。
「もう俺がはっきりわかるらしいよ。見ててごらん。ノーバートや、ノーバート! ママちゃんはどこ?」
「狂ってるぜ」ロンがハリーにささやいた。
「ハグリッド、二週間もしたら、ノーバートはこの家ぐらいに大きくなるんだよ。マルフォイがいつダンブルドアに言いつけるかわからないよ」
 ハリーがハグリッドに聞こえるように大声で言った。
「そ、そりゃ……俺もずっと飼っておけんぐらいのことはわかっとる。だけんどほっぼり出すなんてことはできん。どうしてもできん」ハグリッドは唇をかんだ。
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 楼主| 发表于 2006-8-22 23:38:22 | 显示全部楼层
 ハリーが突然ロンに呼びかけた。
「チャーリー!」
「君も、狂っちゃったのかい。僕はロンだよ。わかるかい?」
「違うよ――チャーリーだ、君のお兄さんのチャーリー。ルーマニアでドラゴンの研究をしている――チャーリーにノーバートを預ければいい。面倒を見て、自然に帰してくれるよ」
「名案! ハグリッド、どうだい?」
 ロンも賛成だ。
 ハグリッドはとうとう、チャーリーに頼みたいというふくろう便を送ることに同意した。

 その次の週はノロノロと過ぎた。水曜日の夜、みんながとっくに寝静まり、ハリーとハーマイオニーの二人だけが談話室に残っていた。壁の掛時計が零時を告げた時、肖像画の扉が突然開き、ロンがどこからともなく現れた。ハリーの透明マントを脱いだのだ。ロンはハグリッドの小屋でノーバートに餌をやるのを手伝っていた。ノーバートは死んだねずみを木箱に何杯も食べるようになっていた。
「かまれちゃったよ」
 ロンは血だらけのハンカチにくるんだ手を差し出して見せた。
「一週間は羽ペンを持てないぜ。まったく、あんな恐ろしい生き物は今まで見たことないよ。なのにハグリッドの言うことを聞いていたら、フワフワしたちっちゃな子ウサギかと思っちゃうよ。やつが僕の手をかんだというのに、僕がやつを恐がらせたからだって叱るんだ。僕が帰る時、子守唄を歌ってやってたよ」
 暗闇の中で窓を叩く音がした。
「ヘドウィグだ!」ハリーは急いでふくろうを中に入れた。
「チャーリーの返事を持ってきたんだ!」
 三つの頭が手紙をのぞき込んだ。

ロン、元気かい?
 手紙をありがとう。喜んでノルウェー・リッジバックを引き受けるよ。だけどここに連れてくるのはそう簡単ではない。来週、僕の友達が訪ねてくることになっているから、彼らに頼んでこっちに連れてきてもらうのが一番いいと思う。問題は彼らが法律違反のドラゴンを選んでいる所を、見られてはいけないということだ。
 土曜日の真夜中、一番高い塔にリッジバックを連れてこれるかい? そしたら、彼らがそこで君たちと会って、暗いうちにドラゴンを選び出せる。
 できるだけ早く返事をくれ。
 がんばれよ……
     チャーリーより

 三人は互いに顔を見合わせた。
「透明マントがある」
 ハリーが言った。
「できなくはないよ……僕ともう一人とノーバートぐらいなら隠せるんじゃないかな?」
 ハリーの提案に他の二人もすぐに同意した。ノーバートを――それにマルフォイを――迫っ払うためならなんでもするという気持になるぐらい、ここ一週間は大変だったのだ。

 障害が起きてしまった。翌朝、ロンの手は二倍ぐらいの大きさに隠れ上がったのだ。ロンはドラゴンにかまれたことがバレるのを恐れて、マダム・ポンフリーの所へ行くのをためらっていた。だが、昼過ぎにはそんなことを言っていられなくなった――。傷口が気持の悪い緑色になったのだ。どうやらノーバートの牙には毒があったようだ。
 その日の授業が終わった後、ハリーとハーマイオニーは医務室に飛んで行った。ロンはひどい状態でベッドに横になっていた。
「手だけじゃないんだ」
 ロンが声をひそめた。
「もちろん手の方もちぎれるように痛いけど。マルフォイが来たんだ。あいつ、僕の本を借りたいってマダム・ポンフリーに言って入ってきやがった。僕のことを笑いに来たんだよ。なんにかまれたか本当のことをマダム・ポンフリーに言いつけるって僕を脅すんだ――僕は犬にかまれたって言ったんだけど、たぶんマダム・ポンフリーは信じてないと思う――クィディッチの試合の時、殴ったりしなけりゃよかった。だから仕返しに僕にこんな仕打ちをするんだ」
 ハリーとハーマイオニーはロンをなだめようとした。
「土曜日の真夜中ですべて終わるわよ」
 ハーマイオニーの慰めはロンを落ち着かせるどころか逆効果になった。ロンは突然ベッドに起き上がり、すごい汗をかきはじめた。
「土曜零時!」
 ロンの声はかすれていた。
「あぁ、どうしよう……大変だ……今、思い出した……チャーリーの手紙をあの本に挟んだままだ。僕たちがノーバートを処分しようとしてることがマルフォイに知れてしまう」
 ハリーとハーマイオニーが答える間はなかった。マダム・ポンフリーが入ってきて、「ロンは眠らないといけないから」と二人を病室から追い出してしまったのだ。

「いまさら計画は変えられないよ」
 ハリーはハーマイオニーにそう言った。
「チャーリーにまたふくろう便を送る暇はないし、ノーバートを何とかする最後のチャンスだし。危険でもやってみなくちゃ。それにこっちには透明マントがあるってこと、マルフォイはまだ知らないし」
 ハグリッドの所に行くと、大型ボアハウンド犬のファングがしっぽに包帯を巻かれて小屋の外に座り込んでいた。ハグリッドは窓を開けて中から二人に話しかけた。
「中には入れてやれない」
 ハグリッドはフウフウいっている。
「ノーバートは難しい時期でな……いや、決して俺の手に負えないほどではないぞ」
 チャーリーの手紙の内容を話すと、ハグリッドは目に涙をいっぱい溜めた――ノーバートがつい今しがたハグリッドの脚にかみついたせいかもしれないが。
「ウワーッ! いや、俺は大丈夫。ちょいとブーツをかんだだけだ……ジャレてるんだ……だって、まだ赤ん坊だからな」
 その「赤ん坊」がしっぽで壁をバーンと叩き、窓がガタガタ揺れた。ハリーとハーマイオニーは一刻も早く土曜日が来てほしいと思いながら城へ帰って行った。

 ハグリッドがノーバートに別れを告げる時がやってきた。ハリーたちは自分の心配で手いっぱいで、ハグリッドを気の毒に思う余裕はなかった。暗く曇った夜だった。ピーブズが入口のホールで壁にボールを打ちつけてテニスをしていたので、終わるまで出られず、二人がハグリッドの小屋に着いたのは予定より少し遅い時間だった。
 ハグリッドはノーバートを大きな木箱に入れて準備をすませていた。
「長旅だから、ねずみをたくさん入れといたし、ブランデーも入れといたよ」
 ハグリッドの声がくぐもっていた。
「淋しいといけないから、テディベアの縫いぐるみも入れてやった」
 箱の中からはなにかを引き裂くような物音がした。ハリーには縫いぐるみのテディベアの頭が引きちぎられる音に聞こえた。
「ノーバート、バイバイだよ」
 ハリーとハーマイオニーが透明マントを箱にかぶせ、自分たちもその下に隠れると、ハグリッドはしゃくり上げた。
「ママちゃんは決してお前を忘れないよ」
 どうやって箱を城に持ちかえったやら、二人は覚えていない。人口のホールから大理石の階段を上がり、暗い廊下をわたり、二人が息を切らしてノーバートを運ぶ間、刻一刻と零時が近づいていた。一つ階段を上がるとまた次の階段――ハリーの知っている近道を使っても、作業はあまり楽にはならなかった。
「もうすぐだ!」
 一番高い塔の下の階段にたどり着き、ハリーはハアハアしながら言った。
 その時、目の前で何かが突然動いた。二人はあやうく箱を落としそうになった。自分たちの姿が見えなくなっていることも忘れて、二人は物陰に小さくなって隠れた。数メートル先で二人の人間がもみ合っている姿がおぼろげに見える。ランプが一瞬燃え上がった。
 タータンチェックのガウンを着て頭にヘアネットをかぶったマクゴナガル先生が、マルフォイの耳をつかんでいた。
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 楼主| 发表于 2006-8-22 23:38:42 | 显示全部楼层
「罰則です!」
 先生が声を張り上げた。
「さらに、スリザリンから二十点減点! こんな真夜中にうろつくなんて、なんてことを……」
「先生、誤解です。ハリー・ポッターが来るんです……ドラゴンを連れてるんです!」
「なんというくだらないことを! どうしてそんな嘘をつくんですか! いらっしゃい……マルフォイ。あなたのことでスネイプ先生にお目にかからねば!」
 それから後は、塔のてっぺんにつながる急ならせん階投さえ世界一楽な道のりに思えた。夜の冷たい外気の中に一歩踏み出し、二人はやっと透明マントを脱いだ。普通に息ができるのがうれしかった。ハーマイオニーは小躍りしてはしゃいだ。
「マルフォイが罰則を受けた! 歌でも歌いたい気分よ!」
「歌わないでね」
 ハリーが忠告した。
 二人はマルフォイのことでクスクス笑いながらそこで待っていた。ノーバートは箱の中でドタバタ暴れていた。十分も経ったろうか、四本の箒が闇の中から舞い降りてきた。
 チャーリーの友人たちは陽気な仲間だった。四人でドラゴンを牽引できるよう工夫した道具を見せてくれた。六人がかりでノーバートをしっかりとつなぎ止め、ハリーとハーマイオニーは四人と握手し、礼を言った。
 ついにノーバートは出発した……だんだん遠くなる……遠くなる……遠くなる……見えなくなってしまった。ノーバートが手を離れ、荷も軽く、心も軽く、二人はらせん階投を滑り降りた。ドラゴンはもういない――マルフォイは罰則を受ける――こんな幸せに水を差すものがあるだろうか? その答えは階段の下で待っていた。廊下に足を階み入れたとたん、フィルチの顔が暗闇の中からヌッと現れた。
「さて、さて、さて」
 フィルチがささやくように言った。
「これは困ったことになりましたねぇ」
 二人は透明マントを塔のてっぺんに忘れてきてしまっていた。


第15章 禁じられた森
CHAPTER FIFTEEN Forbidden Forest

 最悪の事態になった。
 フィルチは二人を二階のマクゴナガル先生の研究室へ連れていった。二人とも一言も言わず、そこに座って先生を待った。ハーマイオニーは震えていた。ハリーの頭の中では、言い訳、アリバイ、とんでもないごまかしの作り話が、次から次へと浮かんでは消えた。考えれば考えるほど説得力がないように思えてくる。今度ばかりはどう切り抜けていいかまったくわからなかった。絶体絶命だ。透明マントを忘れるなんて、なんというドジなんだ。真夜中にべッドを抜け出してウロウロするなんて、ましてや授業以外では立ち入り禁止の一番高い天文台の塔に登るなんて、たとえどんな理由があってもマクゴナガル先生が許すわけがない。その上ノーバートと透明マントだ。もう荷物をまとめて帰る仕度をしたほうがよさそうだ。
 最悪の事態なら、これ以上悪くはならない? とんでもない。なんと、マクゴナガル先生はネビルを引き連れて現れたのだ。
「ハリー!」
 ネビルは二人を見たとたん、はじかれたようにしゃべった。
「探してたんだよ。注意しろって教えてあげようと思って。マルフォイが君を捕まえるって言ってたんだ。あいつ言ってたんだ、君がドラゴ……」
 ハリーは激しく頭を振ってネビルを黙らせたが、マクゴナガル先生に見られてしまった。三人を見下ろす先生の鼻から、ノーバートより激しく火が吹き出しそうだ。
「まさか、みなさんがこんなことをするとは、まったく信じられません。ミスター・フィルチは、あなたたちが天文台の塔にいたと言っています。明け方の一時にですよ。どういうことなんですか?」
 ハーマイオニーが先生から聞かれた質問に答えられなかったのは、これが初めてだった。まるで銅像のように身動きひとつせず、スリッパのつま先を見つめている。
「何があったか私にはよくわかっています」
 マクゴナガル先生が言った。
「べつに天才でなくとも察しはつきます。ドラゴンなんてウソッパチでマルフォイにいっぱい食わせてベッドから誘き出し、問題を起こさせようとしたんでしょう。マルフォイはもう捕まえました。たぶんあなた方は、ここにいるネビル・ロングボトムが、こんな作り話を本気にしたのが滑稽だと思ってるのでしょう?」
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 楼主| 发表于 2006-8-22 23:39:09 | 显示全部楼层
 ハリーはネビルの視線を捉え、先生の言ってることとは違うんだよと目で教えようとした。
 ネビルはショックを受けてしょげていた。かわいそうなネビル。ヘマばかりして……危険を知らせようと、この暗い中で二人を探したなんて、ネビルにしてみればどんなに大変なことだったか、ハリーにはわかっていた。
「あきれはてたことです」
 マクゴナガル先生が話し続けている。
「一晩に四人もベッドを抜け出すなんて! こんなことは前代未聞です! ミス・グレンジャー、あなたはもう少し賢いと思っていました。ミスター・ポッター、グリフィンドールはあなたにとって、もっと価値のあるものではないのですか。三人とも処罰です……えぇ、あなたもですよ、ミスター・ロングボトム。どんな事情があっても、夜に学校を歩き回る権利は一切ありません。特にこの頃、危険なのですから……五十点。グリフィンドールから減点です」
「五十?」
 ハリーは息をのんだ――寮対抗のリードを失ってしまう。せっかくこの前のクィディッチでハリーが獲得したリードを。
「一人五十点です」マクゴナガル先生はとがった高い鼻から荒々しく息を吐いた。
「先生……、お願いですから……」
「そんな、ひどい……」
「ポッター、ひどいかひどくないかは私が決めます。さあ、みんなベッドに戻りなさい。グリフィンドールの寮生をこんなに恥ずかしく思ったことはありません」
 一五〇点を失ってしまった。グリフィンドールは最下位に落ちた。たった一晩で、グリフィンドールが寮杯を取るチャンスをつぶしてしまった。鉛を飲み込んだような気分だった。いったいどうやったら挽回できるんだ?
 ハリーは一晩中眠れなかった。ネビルが枕に顔を埋めて、長い間泣いているのが聞こえた。慰めの言葉もなかった。自分と同じように、ネビルも夜が明けるのが恐ろしいに違いない。グリフィンドールのみんなが僕たちのしたことを知ったらどうなるだろう?
 翌日、寮の得点を記録している大きな砂時計のそばを通ったグリフィンドール寮生は、真っ先にこれは掲示の間違いだと思った。なんで急に昨日より一五〇点も減っているんだ? そして噂が広がりはじめた。
 ――ハリー・ポッターが、あの有名なハリー・ポッターが、クィディッチの試合で二回も続けてヒーローになったハリーが、寮の点をこんなに減らしてしまったらしい。何人かのバカな一年生と一緒に。
 学校で最も人気があり、賞賛の的だったハリーは、一夜にして突然、一番の嫌われ者になっていた。レイブンクローやハッフルパフでさえ敵に回った。みんなスリザリンから寮杯が奪われるのを楽しみにしていたからだ。どこへ行っても、みんながハリーを指さし、声を低めることもせず、おおっぴらに悪口を言った。一方スリザリン寮生は、ハリーが通るたびに拍手をし、口笛を吹き、「ポッター、ありがとうよ。借りができたぜ!」とはやしたてた。
 ロンだけが味方だった。
「数週間もすれば、みんな忘れるよ。フレッドやジョージなんか、ここに入寮してからズーッと点を引かれっぱなしさ。それでもみんなに好かれてるよ」
「だけど一回で一五〇点も引かれたりはしなかったろう?」ハリーは惨めだった。
「ウン……それはそうだけど」ロンも認めざるを得ない。
 ダメージを挽回するにはもう遅すぎたが、ハリーはもう二度と関係のないことに首を突っ込むのはやめようと心に誓った。コソコソ余計なことを嗅ぎ回るなんてもうたくさんだ。自分の今までの行動に責任を感じ、ウッドにクィディッチ・チームを辞めさせて欲しいと申し出た。
「辞める?」ウッドの雷が落ちた。
「それがなんになる? クィディッチで勝たなければ、どうやって寮の点を取り戻せるんだ?」
 しかし、もうクィディッチでさえ楽しくはなかった。練習中、他の選手はハリーに話しかけようともしなかったし、どうしてもハリーと話をしなければならない時でも「シーカー」としか呼ばなかった。
 ハーマイオニーとネビルも苦しんでいた。ただ、二人は有名ではなかったおかげで、ハリーほど辛い目には会わなかった。それでも誰も二人に話しかけようとはしなかった。ハーマイオニーは教室でみんなの注目を引くのをやめ、うつむいたまま黙々と勉強していた。
 ハリーには試験の日が近づいていることがかえって嬉しかった。試験勉強に没頭することで、少しは惨めさを忘れることができた。ハリー、ロン、ハーマイオニーは三人とも、他の寮生と離れて、夜遅くまで勉強した。複雑な薬の調合を覚えたり、妖精の魔法や呪いの魔法の呪文を暗記したり、魔法界の発見や小鬼の反乱の年号を覚えたり……。
 試験を一週間後に控えたある日、関係のないことにはもう絶対首を突っ込まない、というハリーの決心がためされる事件が突然持ち上がった。その日の午後、図書館から帰る途中、教室から誰かのメソメソ声が聞こえてきた。近寄ってみるとクィレルの声がした。
「ダメです……ダメ……もうどうぞお許しを……」
 誰かに脅されているようだった。ハリーはさらに近づいてみた。
「わかりました……わかりましたよ……」
 クィレルのすすり泣くような声が聞こえる。
 次の瞬間、クィレルが曲がったターバンを直しながら、教室から急ぎ足で出てきた。蒼白な顔をして、今にも泣き出しそうだ。足早に行ってしまったので、ハリーにはまるで気づかなかったようだ。クィレルの足音が聞こえなくなるのを待って、ハリーは教室をのぞいた。誰もいない。だが、反対側のドアが少し開いたままになっていた。関わり合いにならないという決心を思い出した時には、もうハリーはその開いてたドアに向かっていた。
 ――こうなったら乗りかかった船だ。たった今このドアから出ていったのはスネイプに違いない。「賢者の石」を一ダース賭けたっていい。今聞いたことを考えると、きっとスネイプはウキウキした足取りで歩いていることだろう……クィレルをとうとう降参させたのだから。
 ハリーは図書館に戻った。ハーマイオニーがロンに天文学のテストをしていた。ハリーは今見聞きした出来事をすべて二人に話した。
「それじゃ、スネイプはついにやったんだ! クィレルが『閻の魔術の防衛術』を破る方法を教えたとすれば……」
「でもまだフラッフィーがいるわ」
「もしかしたら、スネイプはハグリッドに聞かなくてもフラッフィーを突破する方法を見つけたかもしれないな」
 周りにある何千冊という本を見上げながら、ロンが言った。
「これだけの本がありや、どっかに三頭大を突破する方法だって書いてあるよ。どうする? ハリー」
 ロンの目には冒険心が再び燃え上がっていた。しかし、ハリーよりもすばやく、ハーマイオニーが答えた。
「ダンブルドアのところへ行くのよ。ズーッと前からそうしなくちゃいけなかったのよ。自分たちだけで何とかしようとしたら、今度こそ退学になるわよ」
「だけど、証拠はなんにもないんだ!」ハリーが言った。「クィレルは怖気づいて、僕たちを助けてはくれない。スネイプは、ハロウィーンの時トロールがどうやって入ってきたのか知らないって言い張るだろうし、あの時四階になんて行かなかったってスネイプが言えばそれでおしまいさ……みんなどっちの言うことを信じると思う? 僕たちがスネイプを嫌ってるってことは誰だって知っているし、ダンブルドアだって僕たちがスネイプをクビにするために作り話をしてると思うだろう。フィルチはどんなことがあっても、僕たちを助けたりしないよ。スネイプとベッタリの仲だし、生徒が追い出されて少なくなればなるほどいいって思うだろうよ。もう一つおまけに、僕たちは石のこともフラッフィーのことも知らないはずなんだ。これは説明しようがないだろう」
 ハーマイオニーは納得した様子だったが、ロンはねばった。
「ちょっとだけ探りを入れてみたらどうかな……」
「だめだ。僕たち、もう十分に探りを入れ過ぎてる」
 ハリーはきっぱりとそう言い切ると、木星の星図を引き寄せ、木星の月の名前を覚えはじめた。
 翌朝、朝食のテーブルに、ハリー、ハーマイオニー、ネビル宛の三通の手紙が届いた。全員同じことが書いてあった。

  処罰は今夜十一時に行います。
 玄関ホールでミスター・フィルチが待っています。
      マクゴナガル教授

 減点のことで大騒ぎだったので、その他にも処罰があることをハリーはすっかり忘れていた。
 ハーマイオニーが一晩分の勉強を損するとブツブツ言うのではないかと思ったが、彼女は文句一つ言わなかった。ハリーと同じように、ハーマイオニーも自分たちは処罰を受けても当然のことをしたと思っていた。
 夜十一時、二人は談話室でロンに別れを告げ、ネビルと一緒に玄関ホールへ向かった。フィルチはもう来ていた――そしてマルフォイも。マルフォイが処罰を受けることもハリーはすっかり忘れていた。
「ついて来い」
 フィルチはランプを灯し、先に外に出た。
「規則を破る前に、よーく考えるようになったろうねぇ。どうかね?」
 フィルチは意地の悪い目つきでみんなを見た。
「ああ、そうだとも……私に言わせりや、しごいて、痛い目を見せるのが一番の薬だよ――昔のような体罰がなくなって、まったく残念だ……手首をくくって天井から数日吊るしたもんだ。今でも私の事務所に鎖は取ってあるがね……万一必要になった時に備えてピカピカに磨いてあるよ――よし、出かけるとするか。逃げようなんて考えるんじゃないぞ。そんなことしたらもっとひどいことになるからねぇ」
 真っ暗な校庭を横切って一行は歩いた。ネビルはずっとメソメソしていた。罰っていったい何だろう、とハリーは思い巡らせた。きっと、ひどく恐ろしいものに違いない。でなけりゃフィルチがあんなに嬉しそうにしているはずがない。
 月は晃々と明るかったが、時折サッと雲がかかり、あたりを闇にした。行く手に、ハリーはハグリッドの小屋の窓の明かりを見た。遠くから大声が聞こえた。
「フィルチか? 急いでくれ。俺はもう出発したい」
 ハリーの心は踊った。ハグリッドと一緒なら、そんなに悪くはないだろう。ホッとした気持が顔に出たに違いない。フィルチがたちまちそれを読んだ。
「あの木偶の坊と一緒に楽しもうと思っているんだろうねぇ? 坊や、もう一度よく考えたほうがいいねぇ……君たちがこれから行くのは、森の中だ。もし全員無傷で戻ってきたら私の見込み違いだがね」
 とたんにネビルは低いうめき声を上げ、マルフォイもその場でピタツと動かなくなった。
「森だって? そんなところに夜行けないよ……それこそいろんなのがいるんだろう……狼男だとか、そう聞いてるけど」マルフォイの声はいつもの冷静さを失っていた。
 ネビルはハリーのローブの袖をしっかり握り、ヒィーッと息を詰まらせた。
「そんなことは今さら言っても仕方がないねぇ」
 フィルチの声がうれしさのあまり上ずっている。
「狼男のことは、問題を起こす前に考えとくべきだったねぇ?」
 ハグリッドがファングをすぐ後ろに従えて暗闇の中から大股で現れた。大きな石弓を持ち、肩に失筒を背負っている。
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 楼主| 发表于 2006-8-22 23:39:36 | 显示全部楼层
「もう時間だ。俺はもう三十分くらいも待ったぞ。ハリー、ハーマイオニー、大丈夫か?」
「こいつらは罰を受けに来たんだ。あんまり仲良くするわけにはいきませんよねえ、ハグリッド」フィルチが冷たく言った。
「それで遅くなったと、そう言うのか?」ハグリッドはフィルチをにらみつけた。「説教をたれてたんだろう。え? 説教するのはおまえの役目じゃなかろう。おまえの役目はもう終わりだ。ここからは俺が引き受ける」
「夜明けに戻ってくるよ。こいつらの体の残ってる部分だけ引き取りにくるさ」
 フィルチは嫌みたっぷりにそう言うと、城に帰っていった。ランプが暗闇にユラユラと消えていった。今度はマルフォイがハグリッドに向かって言った。
「僕は森には行かない」
 声が恐怖におののいているのがわかるのでハリーはいい気味だと思った。
「ホグワーツに残りたいなら行かねばならん」ハグリッドが厳しく言い返した。「悪いことをしたんじゃから、その償いをせにゃならん」
「でも、森に行くのは召使いがすることだよ。生徒にさせることじゃない。同じ文章を何百回も書き取りするとか、そういう罰だと思っていた。もし僕がこんなことをするってパパが知ったら、きっと……」
「きっと、これがホグワーツの流儀だってそう言いきかせるだろうよ」
 ハグリッドがうなるように言った。
「書き取りだって? へっ! それがなんの役に立つ? 役に立つことをしろ、さもなきゃ退学しろ。おまえの父さんが、おまえが追い出された方がましだって言うんなら、さっさと城に戻って荷物をまとめろ! さあ行け!」
 マルフォイは動かなかった。ハグリッドをにらみつけていたが、やがて視線を落とした。
「よーし、それじゃ、よーく開いてくれ。なんせ、俺たちが今夜やろうとしていることは危険なんだ。みんな軽はずみなことをしちゃいかん。しばらくはわしについて来てくれ」
 ハグリッドが先頭に立って、森のはずれまでやってきた。ランプを高く掲げ、ハグリッドは暗く生い茂った木々の奥へと消えていく細い曲がりくねった獣道を指さした。森の中をのぞき込むと一陣の風がみんなの髪を逆立てた。
「あそこを見ろ。地面に光った物が見えるか? 銀色の物が見えるか? 一角獣の血だ。何者かにひどく傷つけられたユニコーンがこの森の中にいる。今週になって二回目だ。水曜日に最初の死骸を見つけた。みんなでかわいそうなやつを見つけだすんだ。助からないなら、苦しまないようにしてやらねばならん」
「ユニコーンを襲ったやつが先に僕たちを見つけたらどうするんだい?」
 マルフォイは恐怖を隠しきれない声で開いた。
「俺やファングと一緒におれば、この森に住むものは誰もおまえたちを傷つけはせん。道を外れるなよ。よーし、では二組に分かれて別々の道を行こう。そこら中血だらけだ。ユニコーンは少なくとも昨日の夜からのたうち回ってるんじゃろう」
「僕はファングと一緒がいい」ファングの長い牙を見て、マルフォイが急いで言った。
「よかろう。断っとくが、そいつは臆病じゃよ。そんじゃ、ハリーとハーマイオニーは俺と一緒に行こう。ドラコとネビルはファングと一緒に別の道だ。もしユニコーンを見つけたら緑の光を打ち上げる、いいか? 杖を出して練習しよう――それでよし――もし困ったことが起きたら、赤い光を打ち上げろ。みんなで助けに行く――じゃ、気をつけろよ――出発だ」
 森は真っ暗でシーンとしていた。少し歩くと道が二手に分かれていた。ハグリッドたちは左の道を、ファングの組は右の道を取った。
 三人は無言で足元だけを見ながら歩いた。時々枝のすき間から漏れる月明かりが、落葉の上に点々と滴ったシルバーブルーの血痕を照らし出した。
 ハリーはハグリッドの深刻な顔に気づいた。
「狼男がユニコーンを殺すなんてことありうるの?」とハリーは聞いてみた。
「あいつらはそんなに速くない。ユニコーンを捕まえるのはたやすいことじゃない。強い魔力を持った生き物なんじゃよ。ユニコーンが怪我したなんてこたぁ、俺は今まで聞いたことがないな」
 苔むした切株を通り過ぎる時、ハリーは水の音を聞いた。どこか近くに川があるらしい。曲りくねった小道にはまだあちこちにユニコーンの血が落ちていた。
「そっちは大丈夫か? ハーマイオニー」ハグリッドがささやいた。
「心配するな。このひどい怪我じゃそんなに遠くまでは行けないはずだ。もうすぐ……その木の陰に隠れろ!」
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 楼主| 发表于 2006-8-22 23:40:08 | 显示全部楼层
 ハグリッドはハリーとハーマイオニーをひっつかみ、樫の巨木の裏に放り込んだ。矢を引き出して弓につがえ、持ち上げて構え、いつでも矢を放てるようにした。三人は耳を澄ました。
 何かが、すぐそばの枯葉の上をスルスル滑っていく。マントが地面を引きずるような音だった。
 ハグリッドが目を細めて暗い道をジッと見ていたが、数秒後に音は徐々に消えていった。
「思ったとおりだ」ハグリッドがつぶやいた。
「ここにいるべきでない何者かだ」
「狼男?」
「いーや、狼男じゃないしユニコーンでもない」ハグリッドは険しい顔をした。
「よーし、俺について来い。気をつけてな」
 三人は前よりもさらにゆっくりと、どんな小さな音も聞き逃すまいと聞き耳を立てて進んだ。
 突然、前方の開けた場所で確かに何かが動いた。
「そこにいるのは誰だ? 姿を現せ……こっちには武器があるぞ!」
 ハグリッドが声を掛り上げた。開けた空間に現れたのは……人間、いや、それとも馬? 腰から上は赤い髪に赤いヒゲの人の姿。そして腰から下はツヤツヤとした栗毛に赤味がかった長い尾をつけた馬。ハリーとハーマイオニーは口をポカンと開けたままだった。
「ああ、君か、ロナン」ハグリッドがホッとしたように言った。
「元気かね?」ハグリッドはケンタウルスに近づき握手した。
「こんばんは、ハグリッド」
 ロナンの声は深く、悲しげだった。
「私を撃とうとしたんですか?」
「ロナン、用心にこしたことはない」
 石弓を軽く叩きながらハグリッドが言った。
「なんか悪いもんがこの森をうろついているんでな。ところで、ここの二人はハリー・ポッターとハーマイオニー・グレンジャーだ。学校の生徒でな。お二人さん、こちらはロナンだよ。ケンタウルスだ」
「気がついていたわ」ハーマイオニーが消え入るような声で言った。
「こんばんは。生徒さんだね? 学校ではたくさん勉強してるかね?」
「えーと……」
「少しは」ハーマイオニーがオズオズと答えた。
「少し。そう。それはよかった」
 ロナンはフーッとため息をつき、首をブルルッと振って空を見上げた。
「今夜は火星がとても明るい」
「ああ」
 ハグリッドもチラリと空を見上げた。
「なあ、ロナンよ。君に会えてよかった。ユニコーンが、しかも怪我をしたヤツがおるんだ……なんか見かけんかったか?」
 ロナンはすぐには返事をしなかった。瞬きもせず空を見つめ、ロナンは再びため息をついた。
「いつでも罪もない者が真っ先に犠牲になる。大昔からずっとそうだった。そして今もなお……」
「あぁ。だがロナン、何か見なかったか? いつもと違う何かを?」ハグリッドがもう一度聞いた。
「今夜は火星が明るい」
 ハグリッドがイライラしているのに、ロナンは同じことを繰り返した。
「いつもと違う明るさだ」
「あぁ、だが俺が聞きたいのは火星より、もうちょいと自分に近い方のことだが。そうか、君は奇妙なものは何も気づかなかったんだな?」
 またしてもロナンはしばらく答えなかったが、ついにこう言った。
「森は多くの秘密を覆い隠す」
 ロナンの後ろの木立の中で何かが動いた。ハグリッドはまた弓を構えた。だがそれは別のケンタウルスだった。真っ黒な髪と胴体でロナンより荒々しい感じがした。
「やあ、ベイン。元気かね?」とハグリッドが声をかけた。
「こんばんは。ハグリッド、あなたも元気ですか?」
「ああ、元気だ。なあ、ロナンにも今聞いたんだが、最近この辺で何かおかしな物を見んかったか? 実はユニコーンが傷つけられてな……おまえさん何か知らんかい?」
 ベインはロナンのそばまで歩いていき、隣に立って空を見上げた。
「今夜は火星が明るい」ベインはそれだけ言った。
「もうそれは聞いた」ハグリッドは不機嫌だった。
「さーて、もしお二人さんのどっちかでも何か気がついたら俺に知らせてくれ、たのむ。さあ、俺たちは行こうか」
 ハリーとハーマイオニーはハグリッドの後についてそこから離れた。二人は肩越しに何度も振り返り、木立が邪魔して見えなくなるまで、ロナンとベインをしげしげと見つめていた。
「ただの一度も――」ハグリッドはイライラして言った。
「ケンタウルスからはっきりした答えをもらったためしがない。いまいましい夢想家よ。星ばかり眺めて、月より近くのものにはなんの興味も持っとらん」
「森にはケンタウルスがたくさんいるの?」とハーマイオニーが尋ねた。
「ああ、まあまあだな……たいていやっこさんたちはあんまり他のやつとは接することがない。だが俺が何か聞きたい時は、ちゃんと現れるという親切さはある。連中は深い、心がな。ケンタウルス……いろんなことを知っとるが……あまり教えちゃくれん」
「さっき聞いた音、ケンタウルスだったのかな?」ハリーが聞いた。
「あれが蹄の音に聞こえたかね? いーや、俺にはわかる。ユニコーンを殺したヤツの物音だ……あんな音は今まで聞いたことがない」
 三人は深く真っ暗な茂みの中を進んだ。ハリーは神経質に何度も後ろを振り返った。なんとなく見張られているような嫌な感じがするのだ。ハグリッドもいるし、おまけに石弓もあるから大丈夫、とハリーは思った。ちょうど角を曲がった時、ハーマイオニーがハグリッドの腕をつかんだ。
「ハグリッド! 見て、赤い火花よ。ネビルたちに何かあったんだわ!」
「二人ともここで待ってろ。この小道から外れるなよ。すぐ戻ってくるからな」
 ハグリッドが下草をバッサバッサとなぎ倒し、ガサゴソと遠のいていく音を聞きながら、二人は顔を見合わせていた。恐かった。とうとう二人の周りの木の葉がカサコソと擦れ合う音しか聞こえなくなった。
「あの人たち、怪我したりしてないわよね?」ハーマイオニーがささやく。
「マルフォイがどうなったってかまわないけど、ネビルに何かあったら……もともとネビルは僕たちのせいでここに来ることになってしまったんだから」
 何分経ったろう。時間が長く感じられる。聴覚がいつもより研ぎ澄まされているようだ。ハリーにはどんな風のそよぎも、どんな細い小枝の折れる青も聞こえるような気がした。何があったんだろう? 向こうの組はどこにいるんだろう? やっとバリバリというものすごい音が聞こえ、ハグリッドが戻ってきた。マルフォイ、ネビル、ファングを引き連れている。ハグリッドはカンカンに怒っている。どうやらマルフォイが、こっそりネビルの後ろに回ってつかみかかるという悪ふざけをしたらしい。ネビルがパニックに陥って火花を打ち上げたのだ。
「お前たち二人がバカ騒ぎしてくれたおかげで、もう捕まるものも捕まらんかもしれん。よ-し、組分けを変えよう……ネビル、俺と来るんだ。ハーマイオニーも。ハリーはファングとこの愚かもんと一緒だ」
 ハグリッドはハリーだけにこっそり耳打ちした。
「スマンな。おまえさんならこやつもそう簡単には脅せまい。とにかく仕事をやりおおせてしまわないとな」
 ハリーはマルフォイ、ファングと一緒にさらに森の奥へと向かった。だんだんと森の奥深くへ、三十分も歩いただろうか。木立がビッシリと生い茂り、もはや道をたどるのは無理になった。ハリーには血の滴りも濃くなっているように思えた。木の根元に大量の血が飛び散っている。傷ついた哀れな生き物がこの辺りで苦しみ、のた打ち回ったのだろう。樹齢何千年の樫の古木の枝がからみ合うそのむこうに、開けた平地が見えた。
「見て……」ハリーは腕を伸ばしてマルフォイを制止しながらつぶやいた。
 地面に純白に光り輝くものがあった。二人はさらに近づいた。
 まさにユニコーンだった。死んでいた。ハリーはこんなに美しく、こんなに悲しい物を見たことがなかった。
 その長くしなやかな脚は、倒れたその場でバラリと投げ出され、その真珠色に輝くたてがみは暗い落葉の上に広がっている。
 ハリーが一歩踏み出したその時、ズルズル滑るような音がした。ハリーの足はその場で凍りついた。平地の端が揺れた……そして、暗がりの中から、頭をフードにスッポリ包んだ何かが、まるで獲物をあさる獣のように地面をはってきた。ハリー、マルフォイ、ファングは金縛りにあったように立ちすくんだ。マントを着たその影はユニコーンに近づき、かたわらに身を屈め、傷口からその血を飲みはじめたのだ。
「ぎゃああああアアア!」
 マルフォイが絶叫して逃げ出した……ファングも……。フードに包まれた影が頭を上げ、ハリーを真正面から見た――一角獣の血がフードに隠れた顔から滴り落ちた。その影は立ち上がり、ハリーに向かってスルスルと近寄ってきた――ハリーは恐ろしさのあまり動けなかった。
 その時、今まで感じたことのないほどの激痛がハリーの頭を貫いた。額の傷跡が燃えているようだった――目がくらみ、ハリーはヨロヨロと倒れかかった。後ろの方から蹄の音が聞こえてきた。早足でかけてくる。ハリーの真上を何かがヒラリと飛び越え、影に向かって突進した。
 激痛のあまりハリーは膝をついた。一分、いや二分も経っただろうか。ハリーが顔を上げると、もう影は消えていた。ケンタウルスだけがハリーを覆うように立っていた。ロナンともべインとも違う。もっと若く、明るい金髪に胴はプラチナブロンド、淡い金茶色のパロミノのケンタウルスだった。
「ケガはないかい?」ハリーを引っ張り上げて立たせながらケンタウルスが声をかけた。
「ええ……、ありがとう……。あれは何だったの?」
 ケンタウルスは答えない。信じられないほど青い目、まるで淡いサファイアのようだ。その目がハリーを観察している。そして額の傷にじっと注がれた。傷跡は額にきわだって青く刻まれていた。
「ポッター家の子だね? 早くハグリッドのところに戻った方がいい。今、森は安全じゃない……特に君にはね。私に乗れるかな? その方が速いから」
「私の名はフィレンツェだ」
 前足を曲げ身体を低くしてハリーが乗りやすいようにしながらケンタウルスが言った。
 その時突然、平地の反対側から疾走する蹄の音が聞こえてきた。木の茂みを破るように、ロナンとベインが現れた。脇腹がフーフーと波打ち、汗で光っている。
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 楼主| 发表于 2006-8-22 23:40:24 | 显示全部楼层
「フィレンツェ!」ベインが怒鳴った。
「何ということを……人間を背中に乗せるなど、恥ずかしくないのですか? 君はただのロバなのか?」
「この子が誰だかわかってるのですか? ポッタ一家の子です。一刻も早くこの森を離れる方がいい」とフィレンツェが言った。
「君はこの子に何を話したんですか? フィレンツェ、忘れてはいけない。我々は天に逆らわないと誓った。惑星の動きから、何が起こるか読み取ったはずじゃないかね」ベインがうなるように言った。
「私はフィレンツェが最善と思うことをしているんだと信じている」
 ロナンは落ち着かない様子で、蹄で地面を掻き、くぐもった声で言った。
「最善! それが我々と何の関わりがあるんです? ケンタウルスは予言されたことにだけ関心を持てばそれでよい! 森の中でさ迷う人間を追いかけてロバのように走り回るのが我々のすることでしょうか!」
 ベインは怒って後足を蹴り上げた。
 フィレンツェも怒り、急に後足で立ちあがったので、ハリーは振り落とされないように必死に彼の肩につかまった。
「あのユニコーンを見なかったのですか?」フィレンツェはベインに向かって声を荒げた。
「なぜ殺されたのか君にはわからないのですか? それとも惑星がその秘密を君には教えていないのですか? ベイン、僕はこの森に忍び寄るものに立ち向かう。そう、必要とあらば人間とも手を組む」
 フィレンツェがさっと向きを変え、ハリーは必死でその背にしがみついた。二人はロナンとベインを後に残し、木立の中に飛び込んだ。
 何が起こっているのかハリーにはまったく見当がつかなかった。
「どうしてベインはあんなに怒っていたの? 君はいったい何から僕を救ってくれたの?」
 フィレンツェはスピードを落とし、並足になった。低い枝にぶつからないよう頭を低くしているように注意はしたが、ハリーの質問には答えなかった。二人は黙ったまま、木立の中を進んだ。長いこと沈黙が続いたので、フィレンツェはもう口をききたくないのだろうとハリーは考えた。ところが、ひときわ木の生い茂った場所を通る途中、フィレンツェが突然立ち止まった。
「ハリー・ポッター、ユニコーンの血が何に使われるか知っていますか?」
「ううん」ハリーは突然の質問に驚いた。「角とか尾の毛とかを魔法薬の時間に使ったきりだよ」
「それはね、ユニコーンを殺すなんて非情きわまりないことだからなんです。これ以上失う物は何もない、しかも殺すことで自分の命の利益になる者だけが、そのような罪を犯す。ユニコーンの血は、たとえ死の淵にいる時だって命を長らえさせてくれる。でも恐ろしい代償を私わなければならない。自らの命を救うために、純粋で無防備な生物を殺害するのだから、得られる命は完全な命ではない。その血が唇に触れた瞬間から、そのものは呪われた命を生きる、生きながらの死の命なのです」
 フィレンツェの髪は月明かりで銀色の濃淡をつくり出していた。ハリーはその髪を後ろから見つめた。
「いったい誰がそんなに必死に?」ハリーは考えながら話した。「永遠に呪われるんだったら、死んだ方がましだと思うけど。違う?」
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 楼主| 发表于 2006-8-22 23:40:54 | 显示全部楼层
「そのとおり。しかし、他の何かを飲むまでの間だけ生き長らえればよいとしたら――完全な力と強さを取り戻してくれる何か――決して死ぬことがなくなる何か。ポッター君、今この瞬間に、学校に何が隠されているか知っていますか?」
「『賢者の石』――そうか――命の水だ! だけどいったい誰が……」
「力を取り戻すために長い間待っていたのが誰か、思い浮かばないですか? 命にしがみついて、チャンスをうかがってきたのは誰か?」
 ハリーは鉄の手で突然心臓をわしづかみにされたような気がした。木々のざわめきの中から、ハグリッドに会ったあの夜、初めて開いた言葉がよみがえってきた。
 ――あやつが死んだという者もいる。おれに言わせりゃ、くそくらえだ。やつに人間らしさのかけらでも残っていれば死ぬこともあろうさ――
「それじゃ……」ハリーの声がしわがれた。「僕が、今見たのはヴォル……」
「ハリー、ハリー、あなた大丈夫?」
 ハーマイオニーが道のむこうからかけてきた。ハグリッドもハーハ一言いながらその後ろを走ってくる。
「僕は大丈夫だよ」
 ハリーは自分が何を言っているのかほとんどわからなかった。
「ハグリッド、ユニコーンが死んでる。森の奥の開けたところにいたよ」
「ここで別れましょう。君はもう安全だ」
 ハグリッドがユニコーンを確かめに急いで戻っていくのを見ながらフィレンツェがつぶやいた。
 ハリーはフィレンツェの背中から滑り降りた。
「幸運を祈りますよ、ハリー・ポッター。ケンタウルスでさえも惑星の読みを間違えたことがある。今回もそうなりますように」
 フィレンツェは森の奥探くへ緩やかに走り去った。ブルブル震えているハリーを残して……。
 皆の帰りを待っているうちに、ロンは真っ暗になった談話室で眠り込んでしまった。ハリーが乱暴に揺り動かして起こそうとした時、クィディッチだのファウルだのと寝言を叫んだ。しかし、ハリーがハーマイオニーと一緒に、森であったことを話すうちにロンはすっかり目を覚ますことになった。
 ハリーは座っていられなかった。まだ震えが止まらず、暖炉の前を行ったり来たりした。
「スネイプはヴォルデモートのためにあの石が欲しかったんだ……ヴォルデモートは森の中で待っているんだ……僕たち、今までずっと、スネイプはお金のためにあの石が欲しいんだと思っていた……」
「その名前を言うのはやめてくれ!」
 ロンはヴォルデモートに聞かれるのを恐れるかのように、こわごわささやいた。
 ハリーの耳には入らない。
「フィレンツェは僕を助けてくれた。だけどそれはいけないことだったんだ……ベインがものすごく怒っていた……惑星が起こるべきことを予言しているのに、それに干渉するなって言ってた……惑星はヴォルデモートが戻ってくると予言しているんだ……ヴォルデモートが僕を殺すなら、それをフィレンツェが止めるのはいけないって、ベインはそう思ったんだ……僕が殺されることも星が予言してたんだ」
「頼むからその名前を言わないで!」ロンがシーッという口調で頼んだ。
「それじゃ、僕はスネイプが石を盗むのをただ待ってればいいんだ」
 ハリーは熱に浮かされたように話し続けた。
「そしたらヴォルデモートがやってきて僕の息の根を止める……そう、それでベインは満足するだろう」
 ハーマイオニーも怖がっていたが、ハリーを慰める言葉をかけた。
「ハリー、ダンブルドアは『あの人』が唯一恐れている人だって、みんなが言ってるじゃない。ダンブルドアがそばにいるかぎり、『あの人』はあなたに指一本触れることはできないわ。それに、ケンタウルスが正しいなんて誰が言った? 私には占いみたいなものに思えるわ。マクゴナガル先生がおっしゃったでしょう。占いは魔法の中でも、とっても不正確な分野だって」
 話し込んでいるうちに、空が白みはじめていた。ベッドに入ったときには三人ともクタクタで、話しすぎて喉がヒリヒリした。だがその夜の驚きはまだ終わってはいなかった。
 ハリーがシーツをめくると、そこにはきちんと畳まれた透明マントが置いてあった。小さなメモがピンで止めてある。
「必要な時のために」


第16章 仕掛けられた罠
CHAPTER SIXTEEN Through the Trapdoor

 ヴォルデモートが今にもドアを破って襲ってくるかもしれない、そんな恐怖の中で、いったいどうやって試験を終えることができたのだろう。これから先何年かが過ぎてもハリーはこの時期のことを正確には思い出せないに違いない。いつのまにかじわじわと数日が過ぎていた。フラッフィーは間違いなくまだ生きていて、鍵のかかったドアのむこうで踏んばっていた。
 うだるような暑さの中、筆記試験の大教室はことさら暑かった。試験用に、カンニング防止の魔法がかけられた特別な羽ペンが配られた。
 実技試験もあった。フリットウィック先生は、生徒を一人ずつ教室に呼び入れ、パイナップルを机の端から端までタップダンスさせられるかどうかを試験した。マクゴナガル先生の試験は、ねずみを「嗅ぎたばこ入れ」に変えることだった。美しい箱は点数が高く、ひげのはえた箱は減点された。スネイプは、「忘れ薬」の作り方を思い出そうとみんな必死になっている時に、生徒のすぐ後ろに回ってマジマジと監視するので、みんなはドギマギした。
 森の事件以来、ハリーは額にズキズキと刺すような痛みを感じていたが、忘れようと努めた。ハリーが眠れないのを見て、ネビルはハリーが重症の試験恐怖症だろうと思ったようだが、本当は、例の悪夢のせいで何度も目を覚ましたのだった。しかも、これまでより怖い悪夢で、フードをかぶった影が血を滴らせて現れるのだ。
 ロンやハーマイオニーは、ハリーほど「石」を心配していないようだった。ハリーが森で見たあの光景を二人は見ていなかったし、額の傷が燃えるように痛むこともないためかもしれない。二人とも確かにヴォルデモートを恐れてはいたが、ハリーのように夢でうなされることはなかった。その上、復習で忙しくて、スネイプであれ誰であれ、何を企んでいようが、気にしている余裕がなかった。
 最後の試験は魔法史だった。一時間の試験で、「鍋が勝手に中身を掻き混ぜる大鍋」を発明した風変わりな老魔法使いたちについての答案を書き終えると、すべて終了だ。一週間後に試験の結果が発表されるまでは、すばらしい自由な時間が待っている。幽霊のビンス先生が、羽ペンを置いて答案羊皮紙を巻きなさい、と言った時には、ハリーも他の生徒たちと一緒に恩わず歓声を上げた。
「思ってたよりずーっとやさしかったわ。一六三七年の狼人間の行動綱領とか、熱血漢エルフリックの反乱なんか勉強する必要なかったんだわ」
 さんさんと陽の射す校庭に、ワッと繰り出した生徒の群れに加わって、ハーマイオニーが言った。
 ハーマイオニーはいつものように、試験の答合わせをしたがったが、ロンがそんなことをすると気分が悪くなると言ったので、三人は湖までブラブラ降りて行き、木陰に寝ころんだ。ウィーズリーの双子とリー・ジョーダンが、暖かな浅瀬で日向ぼっこをしている大イカの足をくすぐっていた。
「もう復習しなくてもいいんだ」
 ロンが草の上に大の字になりながらうれしそうにホーッと息をついた。
「ハリー、もっとうれしそうな顔をしろよ。試験でどんなにしくじったって、結果が出るまでまだ一週間もあるんだ。今からあれこれ考えたってしょうがないだろ」
「いったいこれほどういうことなのかわかればいいのに! ズーッと傷がうずくんだ……今までも時々こういうことはあったけど、こんなに続くのは初めてだ」
 ハリーは額をこすりながら、怒りを吐き出すように言った。
「マダム・ポンフリーのところに行ったほうがいいわ」
 ハーマイオニーが言った。
「僕は病気じゃない。きっと警告なんだ……何か危険が迫っている証拠なんだ」
 ロンはそれでも反応しない。何しろ暑すぎるのだ。
「ハリー、リラックスしろよ。ハーマイオニーの言うとおりだ。ダンブルドアがいるかぎり、『石』は無事だよ。スネイプがフラッフィーを突破する方法を見つけたっていう証拠はないし。いっぺん脚をかみ切られそうになったんだから、スネイプがすぐにまた同じことをやるわけないよ。それに、ハグリッドが口を割ってダンブルドアを裏切るなんてありえない。そんなことが起こるくらいなら、ネビルはとっくにクィディッチ世界選手権のイングランド代表選手になってるよ」
 ハリーはうなずいた。しかし、何か忘れているような感じがしてならない。何か大変なことを。ハリーがそれを説明すると、ハーマイオニーが言った。
「それって、試験のせいよ。私も昨日夜中に目を覚まして、変身術のノートのおさらいを始めたのよ。半分ぐらいやった時、この試験はもう終わってたってことを思い出したの」
 この落ち着かない気分は試験とはまったく関係ないと、ハリーには、はっきりわかっていた。まぶしいほどの青空に、ふくろうが手紙をくわえて学校の方に飛んでいくのが見えた。ハリーに手紙をくれたのはハグリッドだけだ。ハグリッドは決してダンブルドアを裏切ることはない。ハグリッドがどうやってフラッフィーを手なずけるかを、誰かに教えるはずがない……絶対に……しかし――
 ハリーは突然立ち上がった。
「どこに行くんだい?」ロンが眠たそうに聞いた。
「今、気づいたことがあるんだ」ハリーの顔は真っ青だった。
「すぐ、ハグリッドに会いに行かなくちゃ」
「どうして?」ハリーに追いつこうと、息を切らしながらハーマイオニーが聞いた。
「おかしいと思わないか?」
 草の茂った斜面をよじ登りながらハリーが言った。
「ハグリッドはドラゴンが欲しくてたまらなかった。でも、いきなり見ず知らずの人間が、たまたまドラゴンの卵をポケットに入れて現れるかい? 魔法界の法律で禁止されているのに、ドラゴンの卵を持ってうろついている人がザラにいるかい? ハグリッドにたまたま出会ったなんて、話がうますぎると思わないか? どうして今まで気づかなかったんだろう」
「何が言いたいんだい?」とロンが開いたが、ハリーは答えもせずに、校庭を横切って森へと全力疾走した。
 ハグリッドは家の外にいた。ひじかけ椅子に腰かけて、ズボンも袖もたくし上げて、大きなボウルを前において、豆のさやをむいていた。
「よう。試験は終わったかい。お茶でも飲むか?」
 ハグリッドはニッコリした。
「うん。ありがとう」
 とロンが言いかけるのをハリーがさえぎった。
「ううん。僕たち急いでるんだ。ハグリッド、聞きたいことがあるんだけど。ノーバートを賭けで手に入れた夜のことを覚えているかい。トランプをした相手って、どんな人だった?」
「わからんよ。マントを着たままだったしな」
 ハグリッドはこともなげに答えた。
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 楼主| 发表于 2006-8-22 23:41:29 | 显示全部楼层
 三人が絶句しているのを見て、ハグリッドは眉をちょっと動かしながら言った。
「そんなに珍しいこっちゃない。『ホッグズ・ヘッド』なんてとこにゃ……村のパブだがな、おかしなやつがウヨウヨしてる。もしかしたらドラゴン売人だったかもしれん。そうじゃろ? 顔も見んかったよ。フードをすっぽりかぶったままだったし」
 ハリーは豆のボウルのそばにへたりこんでしまった。
「ハグリッド。その人とどんな話をしたの? ホグワーツのこと、何か話した?」
「話したかもしれん」
 ハグリッドは思い出そうとして顔をしかめた。
「うん……わしが何をしているのかって聞いたんで、森番をしているって言ったな……そしたらどんな動物を飼ってるかって開いてきたんで……それに答えて……それで、ほんとはずーっとドラゴンが欲しかったって言ったな……それから……あんまり覚えとらん。なにせ次々酒をおごってくれるんで……そうさなあ……うん、それからドラゴンの卵を持ってるけどトランプで卵を賭けてもいいってな……でもちゃんと飼えなきやだめだって、どこにでもくれてやるわけにはいかないって……だから言ってやったよ。フラッフィ一に比べりや、ドラゴンなんか楽なもんだって……」
「それで、そ、その人はフラップィ一に興味あるみたいだった?」
 ハリーはなるべく落ち着いた声で聞いた。
「そりゃそうだ……三頭犬なんて、たとえホグワーツだって、そんなに何匹もいねえだろう? だから俺は言ってやったよ。フラッフィーなんか、なだめ方さえ知ってれば、お茶の子さいさいだって。ちょいと音楽を聞かせればすぐねんねしちまうって……」
 ハグリッドは突然、しまった大変だという顔をした。
「おまえたちに話しちゃいけなかったんだ!」ハグリッドはあわてて言った。
「忘れてくれ! おーい、みんなどこに行くんだ?」
 玄関ホールに着くまで、互いに一言も口をきかなかった。校庭の明るさに比べると、ホールは冷たく、陰気に感じられた。
「ダンブルドアのところに行かなくちゃ」とハリーが言った。
「ハグリッドが怪しいやつに、フラッフィーをどうやって手なずけるか教えてしまった。マントの人物はスネイプかヴォルデモートだったんだ……ハグリッドを酔っぱらわせてしまえば、あとは簡単だったに違いない。ダンブルドアが僕たちの言うことを信じてくれればいいけど。ベインさえ止めなければ、フィレンツェが証言してくれるかもしれない。校長室はどこだろう?」
 三人はあたりを見回した。どこかに矢印で校長室と書いてないだろうか。そういえば、ダンブルドアがどこに住んでいるのか聞いたことがないし、誰かが校長室に呼ばれたという詰も聞いたことがない。
「こうなったら僕たちとしては……」
 とハリーが言いかけた時、急にホールのむこうから声が響いてきた。
「そこの三人、こんなところで何をしているの?」
 山のように本を抱えたマクゴナガル先生だった。
「ダンブルドア先生にお目にかかりたいんです」
 ハーマイオニーが勇敢にも(とハリーとロンは思った)そう言った。
「ダンブルドア先生にお目にかかる?」
 マクゴナガル先生は、そんなことを望むのはどうも怪しいとでもいうように、おうむ返しに聞いた。
「理由は?」
 ハリーはグッとつばを飲みこんだ――さあどうしよう?
「ちょっと秘密なんです」
 ハリーはそう言うなり、言わなきゃよかったと思った。マクゴナガル先生の鼻の穴が膨らんだのを見たからだ。
「ダンブルドア先生は十分前にお出かけになりました」
 マクゴナガル先生が冷たく言った。
「魔法省から緊急のふくろう便が来て、すぐにロンドンに飛び発たれました」
「先生がいらっしゃらない? この肝心な時に?」ハリーはあわてた。
「ポッター。ダンブルドア先生は偉大な魔法使いですから、大変ご多忙でいらっしゃる……」
「でも、重大なことなんです」
「ポッター。魔法省の件よりあなたの用件の方が重要だというんですか?」
「実は……」ハリーは慎重さをかなぐり捨てて言った。「先生……『賢者の石』の件なのです……」
 この答えだけはさすがのマクゴナガル先生にも予想外だった。先生の手からバラバラと本が落ちたが、先生は拾おうともしない。
「どうしてそれを……?」
 先生はしどろもどろだ。
「先生、僕の考えでは、いいえ、僕は知ってるんです。スネー……いや、誰かが『石』を盗もうとしています。どうしてもダンブルドア先生にお話ししなくてはならないのです」
 マクゴナガル先生は驚きと疑いの入り混じった目をハリーにむけていたが、しばらくして、やっと口を開いた。
「ダンブルドア先生は、明日お帰りになります。あなたたちがどうしてあの『石』のことを知ったのかわかりませんが、安心なさい。磐石の守りですから、誰も盗むことはできません」
「でも先生……」
「ポッター。二度同じことは言いません」
 先生はきっぱりと言った。
「三人とも外に行きなさい。せっかくのよい天気ですよ」
 先生は屈んで本を拾いはじめた。
 三人とも外には出なかった。
「今夜だ」
 マクゴナガル先生が声の届かないところまで行ってしまうのを待って、ハリーが言った。
「スネイプが仕掛け扉を破るなら今夜だ。必要なことは全部わかったし、ダンブルドアも迫い払ったし。スネイプが手紙を送ったんだ。ダンブルドア先生が顔を出したら、きっと魔法省じゃキョトンとするに違いない」
「でも私たちに何ができるって‥‥」突然ハーマイオニーが息をのんだ。ハリーとロンが急いで振り返ると、そこにスネイプが立っていた。
「やあ、こんにちは」
 スネイプがいやに愛想よく挨拶をした。
 三人はスネイプをじっと見つめた。
「諸君、こんな日には室内にいるもんじゃない」
 スネイプはとってつけたようなゆがんだほほえみを浮かべた。
「僕たちは……」
 ハリーは、その後何を言ったらよいのか考えつかなかった。
「もっと慎重に願いたいものですな。こんなふうにウロウロしているところを人が見たら、何か企んでいるように見えますぞ。グリフィンドールとしては、これ以上減点される余裕はないはずだろう?」
 ハリーは顔を赤らめた。三人が外に出ようとすると、スネイプが呼び止めた。
「ポッター、警告しておく。これ以上夜中にうろついているのを見かけたら、我輩が自ら君を退校処分にするぞ。さあもう行きたまえ」
 スネイプは大股に職員室の方に歩いていった。
 人口の石段のところで、ハリーは二人に向かって緊迫した口調でささやいた。
「よし。こうしよう。誰か一人がスネイプを見張るんだ……職員室の外で待ち伏せして、スネイプが出てきたら跡をつける。ハーマイオニー、君がやってくれ」
「何で私なの?」
「あたりまえだろう」ロンが言った。
「フリットウィック先生を待ってるふりをすればいいじゃないか」
 ロンはハーマイオニーの声色を使った。
「ああ、フリットウィック先生。私、14bの答えを間違えてしまったみたいで、とっても心配なんですけど……」
「まあ失礼ね。黙んなさい!」
 それでも結局ハーマイオニーがスネイプを見張ることになった。
「僕たちは四階の例の廊下の外にいよう。さあ行こう」とハリーはロンを促した。
 だがこっちの計画は失敗だった。フラッフィーを隔離しているドアの前に着いたとたん、またマクゴナガル先生が現れたのだ。今度こそ堪忍袋の緒が切れたようだ。
「何度言ったらわかるんです! たとえ私でも破れないような魔法陣を組んでいるとお思いですかー」とすごい剣幕だ。
「こんな愚かしいことはもう許しません! もしあなたたちがまたこのあたりに近づいたと私の耳に入ったら、グリフィンドールは五十点減点です! ええ、そうですとも、ウィーズリー。私、自分の寮でも減点します!」
 ハリーとロンは寮の談話室に戻った。
「でも、まだハーマイオニーがスネイプを見張ってる」とハリーが言ったとたん、太った婦人の肖像画がバッと開いてハーマイオニーが入ってきた。
「ハリー、ごめんー」オロオロ声だ。
「スネイプが出てきて、何してるって開かれたの。フリットウィック先生を待ってるって言ったのよ。そしたらスネイプがフリットウィック先生を呼びに行ったの。だから私、ずっと捕まっちゃってて、今やっと戻ってこれたの。スネイプがどこに行ったかわからないわ」
「じゃあ、もう僕が行くしかない。そうだろう?」とハリーが言った。
 あとの二人はハリーを見つめた。蒼白な顔に緑の目が燃えていた。
「僕は今夜ここを抜け出す。『石』を何とか先に手に入れる」
「気は確かか!」とロンが言った。
「だめよ! マクゴナガル先生にもスネイプにも言われたでしょ。退校になっちゃうわー」
「だからなんだっていうんだ?」
 ハリーが叫んだ。
「わからないのかい? もしスネイプが『石』を手に入れたら、ヴォルデモートが戻ってくるんだ。あいつがすべてを征服しようとしていた時、どんなありさまだったか、聞いてるだろう? 退校にされようにも、ホグワーツそのものがなくなってしまうんだ。ペシャンコにされてしまう。でなければ闇の魔術の学校にされてしまうんだ! 減点なんてもう問題じゃない。それがわからないのかい? グリフィンドールが寮対抗杯を獲得しさえしたら、君たちや家族には手出しをしないとでも思ってるのかい? もし僕が『石』にたどり着く前に見つかってしまったら、そう、退校で僕はダーズリー家に戻り、そこでヴォルデモートがやってくるのをじっと待つしかない。死ぬのが少しだけ遅くなるだけだ。だって僕は絶対に闇の魔法に屈服しないから! 今晩、僕は仕掛け扉を開ける。君たちが何と言おうと僕は行く。いいかい、僕の両親はヴォルデモートに殺されたんだ」
 ハリーは二人をにらみつけた。
「そのとおりだわ、ハリー」
 ハーマイオニーが消え入るような声で言った。
「僕は透明マントを使うよ。マントが戻ってきたのはラッキーだった」
「でも三人全員入れるかな?」とロンが言った。
「全員って……君たちも行くつもりかい?」
「バカ言うなよ。君だけを行かせると思うのかい?」
「もちろん、そんなことできないわ」
 とハーマイオニーが威勢よく言った。
「私たちがいなけりゃ、どうやって『石』までたどりつくつもりなの。こうしちゃいられないわ。私、本を調べてくる。なにか役にたつことがあるかも……」
「でも、もしつかまったら、君たちも退校になるよ」
「それほどうかしら」ハーマイオニーが決然と言った。「フリットウィックがそっと教えてくれたんだけど、彼の試験で私は百点満点中百十二点だったんですって。これじゃ私を退校にはしないわ」
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 楼主| 发表于 2006-8-22 23:42:15 | 显示全部楼层
 夕食の後、談話室で三人は落ち着かない様子でみんなから離れて座った。誰ももう三人のことを気にとめる様子もなかった。グリフィンドール寮生はもうハリーに口をきかなくなっていた。今夜ばかりは、三人は無視されても気にならなかった。ハーマイオニーはこれから突破しなければならない呪いを一つでも見つけようとノートをめくっていた。ハリーとロンは黙りがちだった。二人ともこれから自分たちがやろうとしていることに考えを巡らせていた。
 寮生が少しずつ寝室に行き、談話室は人気がなくなってきた。貴後にリー・ジョーダンが伸びをしてあくびをしながら出ていった。
「マントを取ってきたら」とロンがささやいた。ハリーは階段をかけ上がり暗い寝室に向かった。透明マントを引っ張り出すと、ハグリッドがクリスマス――プレゼントにくれた横笛がふと目にとまった。フラッフィーの前で吹こうと、笛をポケットに入れた――とても歌う気持にはなれそうにもなかったからだ。
 ハリーは談話室にかけ戻った。
「ここでマントを着てみた方がいいな。三人全員隠れるかどうか確かめよう……もしも足が一本だけはみ出して歩き回っているのをフィルチにでも見つかったら……」
「君たち、何してるの?」
 部屋の隅から声が聞こえた。
 ネビルがひじかけ椅子の陰から現れた。自由を求めてまた逃亡したような顔のヒキガエルのトレバーをしっかりとつかんでいる。
「なんでもないよ、ネビル。なんでもない」
 ハリーは急いでマントを後ろに隠した。
「また外に出るんだろ」
 ネビルは三人の後ろめたそうな顔を見つめた。
「ううん。違う。違うわよ。出てなんかいかないわ。ネビル、もう寝たら?」
 とハーマイオニーが言った。
 ハリーは扉の脇の大きな柱時計を見た。もう時間がない。スネイプが今にもフラッフィーに音楽を聞かせて眠らせているかもしれない。
「外に出てはいけないよ。また見つかったら、グリフィンドールはもっと大変なことになる」
 とネビルが言った。
「君にはわからないことだけど、これは、とっても重要なことなんだ」
 とハリーが言ったが、ネビルは必死に頑張り、譲ろうとしなかった。
「行かせるもんか」
 ネビルは出口の肖像画の前に急いで立ちはだかった。
「僕、僕、君たちと戦う!」
「ネビル」
 ロンのかんしゃく玉が破裂した。
「そこをどけよ。バカはよせ……」
「バカ呼ばわりするな! もうこれ以上規則を破ってはいけない! 恐れずに立ち向かえと言ったのは君じゃないか」
「ああ、そうだ。でも立ち向かう相手は僕たちじゃない」
 ロンがいきりたった。
「ネビル、君は自分が何をしようとしてるのかわかってないんだ」
 口ンが一歩前に出ると、ネビルがヒキガエルのトレバーをポロリと落とした。トレバーはピョンと飛んで、行方をくらました。
「やるならやってみろ。殴れよ! いつでもかかってこい!」
 ネビルが拳を振り上げて言った。
 ハリーはハーマイオニーを振り返り、弱り果てて頼んだ。
「なんとかしてくれ」
 ハーマイオニーが一歩進み出た。
「ネビル、ほんとに、ほんとにごめんなさい」
 ハーマイオニーは杖を振り上げ、ネビルに杖の先を向けた。
「ベトりフィカス トタルス、石になれ!」
 ネビルの両腕が体の脇にピチッと賂りつき、両足がバチッと閉じた。体が固くなり、その場でユラユラと揺れ、まるで一枚板のようにうつ伏せにバッタリ倒れた。
 ハーマイオニーがかけ寄り、ネビルをひっくり返した。ネビルのあごはグッと結ばれ、話すこともできなかった。目だけが動いて、恐怖の色を浮かべ三人を見ていた。
「ネビルに何をしたんだい?」とハリーが小声でたずねた。
「『全身金縛り』をかけたの。ネビル、ごめんなさい」ハーマイオニーは辛そうだ。
「ネビル、こうしなくちゃならなかったんだ。訳を話してる暇がないんだ」とハリーが言った。
「あとできっとわかるよ。ネビル」とロンが言った。
 三人はネビルをまたぎ、透明マントをかぶった。
 動けなくなったネビルを床に転がしたまま出ていくのは、幸先がよいとは思えなかった。三人とも神経がピリピリしていたので、銅像の影を見るたびに、フィルチかと思ったり、遠くの風の音までが、ピーブズの襲いかかってくる音に聞こえたりした。
 最初の階段の下まで来ると、ミセス・ノリスが階段の上を忍び歩きしているのが見えた。
「ねえ、蹴っ飛ばしてやろうよ。一回だけ」とロンがハリーの耳元でささやいたが、ハリーは首を横に振った。気づかれないように慎重に彼女を避けて上がっていくと、ミセス・ノリスはランプのような目で三人の方を見たが、何もしなかった。
 四階に続く階段の下にたどり着くまで、あとは誰にも出会わなかった。ピーブズが四階への階段の途中でヒョコヒョコ上下に掛れながら、誰かをつまずかせようと絨毯をたるませていた。
「そこにいるのはだーれだ?」
 三人が階段を登っていくと、突然ピーブズが意地悪そうな黒い目を細めた。
「見えなくたって、そこにいるのはわかってるんだ。だーれだ。幽霊っ子、亡霊っ子、それとも生徒のいたずらっ子か?」
 ピーブズは空中に飛び上がり、プカプカしながら目を細めて三人の方を見た。
「見えないものが忍び歩きしてる。フィルチを呼ーぼう。呼ばなくちゃ」
 突然ハリーはひらめいた。
「ピーブズ」ハリーは低いしわがれ声を出した。
「血みどろ男爵様が、わけあって身を隠しているのがわからんか」
 ピーブズは肝をつぶして空中から転落しそうになったが、あわや階段にぶつかる寸前に、やっとのことで空中に跨みとどまった。
「も、申し訳ありません。血みどろ閣下、男爵様。」
 ピーブズはとたんにへりくだった。
「手前の失態でございます。問違えました……お姿が見えなかったものですから……そうですとも、透明で見えなかったのでございます。老いぼれピーブズめの茶番劇を、どうかお許しください」
「わしはここに用がある。ピーブズ、今夜はここに近寄るでない」
 ハリーがしわがれ声で言った。
「はい、閣下。仰せのとおりにいたします」
 ピーブズは再び空中に舞い上がった。
「首尾よくお仕事が進みますように。男爵様。お邪魔はいたしません」
 ピーブズはサッと消えた。
「すごいぞ、ハリー!」ロンが小声で言った。
 まもなく三人は四階の廊下にたどり着いた。扉はすでに少し開いていた。
「ほら、やっぱりだ」ハリーは声を殺した。
「スネイプはもうフラッフィーを突破したんだ」
 開いたままの扉を見ると、三人は改めて自分たちのしようとしていることが何なのかを思い知らされた。マントの中でハリーは二人を振り返った。
「君たち、戻りたかったら、恨んだりしないから戻ってくれ。マントも持っていっていい。僕にはもう必要がないから」
「バカ言うな」
「一緒に行くわ」ロンとハーマイオニーが言った。
 ハリーは扉を押し開けた。
 扉はきしみながら開き、低い、グルグルといううなり声が聞こえた。三つの鼻が、姿の見えない三人のいる方向を狂ったようにかぎ回った。
「犬の足元にあるのは何かしら」とハーマイオニーがささやいた。
「ハープみたいだ。スネイプが置いていったに違いない」とロンが言った。
「きっと音楽が止んだとたん起きてしまうんだ」とハリーが言った。
「さあ、はじめよう……」
 ハリーはハグリッドにもらった横笛を唇にあてて吹きはじめた。メロディーともいえないものだったが、最初の音を聞いた瞬間から、三頭犬はトロンとしはじめた。ハリーは息も継がずに吹いた。だんだんと犬のうなり声が消え、ヨロヨロッとしたかと思うと、膝をついて座り込み、ゴロンと床に横たわった。グッスリと眠りこんでいる。
「吹き続けてくれ」
 三人がマントを抜け出す時、ロンが念を押した。三人はソーッと仕掛け扉の方に移動し、犬の巨大な頭に近づいた。熱くてくさい鼻息がかかった。
 犬の背中越しにむこう側をのぞきこんで、ロンが言った。
「扉は引っ掛れば開くと思うよ。ハーマイオニー、先に行くかい?」
「いやよ!」
「ようし!」
 ロンがギュッと歯を食いしばって、慎重に犬の足をまたいだ。屈んで仕掛け扉の引き手を引っ張ると、扉が跳ね上がった。
「何が見える?」ハーマイオニーがこわごわ尋ねた。
「何にも……真っ暗だ……降りていく階段もない。落ちていくしかない」
 ハリーはまだ横笛を吹いていたが、ロンに手で合図をし、自分自身を指さした。
「君が先に行きたいのかい? 本当に?」とロンが言った。
「どのくらい深いかわからないよ。ハーマイオニーに笛を渡して、犬を眠らせておいてもらおう」
 ハリーは横笛をハーマイオニーに渡した。ほんのわずか音が途絶えただけで、犬はグルルとうなり、ぴくぴく動いた。ハーマイオニーが吹き始めると、またすぐ深い眠りに落ちていった。
 ハリーは犬を乗り越え、仕掛け扉から下を見た。底が見えない。
 ハリーは穴に入り、最後に指先だけで扉にしがみつき、ロンの方を見上げて言った。
「もし僕の身に何か起きたら、ついてくるなよ。まっすぐふくろう小屋に行って、ダンブルドア宛にヘドウィグを送ってくれ。いいかい?」
「了解」
「じゃ、後で会おう。できればね……」
 ハリーは指を離した。冷たい湿った空気を切って、ハリーは落ちて行った。下へ……下へ……下へ……そして――
 ドシン。奇妙な鈍い音をたてて、ハリーは何やら柔らかい物の上に着地した。ハリーは座り直し、まだ目が暗闇に慣れていなかったので、あたりを手探りで触った。何か植物のようなものの上に座っている感じだった。
「オーケーだよ!」
 人口の穴は切手ぐらいの小ささに見えた。その明かりに向かってハリーが叫んだ。
「軟着陸だ。飛び降りても大丈夫だよ!」
 ロンがすぐ飛び降りてきた。ハリーのすぐ隣に大の字になって着地した。
「これ、なんだい?」ロンの第一声だった。
「わかんない。何か植物らしい。落ちるショックを和らげるためにあるみたいだ。さあ、ハーマイオニー、おいでよ!」
 遠くの方で聞こえていた笛の音がやんだ。犬が大きな声で吠えている。でもハーマイオニーはもうジャンプしていた。ハリーの脇に、ロンとは反対側に着地した。
「ここって、学校の何キロも下に違いないわ」とハーマイオニーが言った。
「この植物のおかげで、ほんとにラッキーだった」ロンが言った。
「ラッキーですって!」
 ハーマイオニーが悲鳴を上げた。
「二人とも自分を見てごらんなさいよ!」
 ハーマイオニーははじけるように立ち上がり、ジトッと湿った壁の方に行こうともがいた。ハーマイオニーが着地したとたん、植物のツルがヘビのように足首にからみついてきたのだ。知らないうちにハリーとロンの脚は長いツルで固く締めつけられていた。
 ハーマイオニーは植物が固く巻きつく前だったのでなんとか振りほどき、ハリーとロンがツルと奮闘するのを、引きつった顔で見ていた。振りほどこうとすればするほど、ツルはますますきつく、すばやく二人に巻きついた。
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 楼主| 发表于 2006-8-22 23:43:08 | 显示全部楼层
「動かないで!」ハーマイオニーが叫んだ。
「私、知ってる……これ、『悪魔の罠』だわ!」
「あぁ。何て名前か知ってるなんて、大いに助かるよ」
 ロンが首に巻きつこうとするツルから逃れようと、のけぞりながらうなった。
「黙ってて! どうやってやっつけるか思い出そうとしてるんだから!」とハーマイオニーが言った。
「早くして! もう息ができないよ」
 ハリーは胸に巻きついたツルと格閲しながらあえいだ。
「『悪魔の罠』、『悪魔の罠』っと……スプラウト先生は何て言ったっけ? 暗闇と湿気を好み……」
「だったら火をつけて!」
 ハリーは息絶え絶えだ。
「そうだわ……それよ……でも薪がないわ!」ハーマイオニーがイライラと両手をよじりながら叫んだ。
「気が変になったのか! 君はそれでも魔女か!」ロンが大声を出した。
「あっ、そうだった!」
 ハーマイオニーはサッと杖を取り出し、何かつぶやきながら振った。すると、スネイプにしかけたのと同じリンドウ色の炎が植物めがけて噴射した。草が光と温もりですくみ上がり、二人の体を締めつけていたツルが、見る見るほどけていった。草は身をよじり、へなへなとほぐれ、二人はツルを振り払って自由になった。
「ハーマイオニー、君が薬草学をちゃんと勉強してくれていてよかったよ」
 額の汗を拭いながら、ハリーもハーマイオニーのいる壁のところに行った。
「ほんとだ。それにこんな危険な状態で、ハリーが冷静でよかったよ――それにしても、『薪がないわ』なんて、まったく……」とロンが言った。
「こっちだ」
 ハリーは奥へ続く石の一本道を指さした。
 足音以外に聞こえるのは、壁を伝い落ちる水滴のかすかな音だけだった。通路は下り坂で、ハリーはグリンゴッツを思い出していた。そういえば、あの魔法銀行ではドラゴンが金庫を守っているとか……ハリーの心臓にいやな震えが走った。もしここでドラゴンに出くわしたら、それも大人のドラゴンだったら。赤ん坊のノーバートだって手に負えなかったのに……。
「何か聞こえないか?」とロンが小声で言った。
 ハリーも耳をすました。前のほうから、柔らかく擦れ合う音やチリンチリンという音が聞こえてきた。
「ゴーストかな?」
「わからない……羽の音みたいに聞こえるけど」
「前のほうに光が見える……何か動いている」
 三人は通路の出口に出た。目の前にまばゆく輝く部屋が広がった。天井は高くアーチ形をしている。宝石のようにキラキラとした無数の小鳥が、部屋いっぱいに飛び回っていた。部屋の向こう側には分厚い木の扉があった。
「僕たちが部屋を横切ったら鳥が襲ってくるんだろうか?」とロンが聞いた。
「たぶんね。そんなに獰猛には見えないけど、もし全部いっぺんに飛びかかってきたら……でも、ほかに手段はない……僕は走るよ」とハリーが言った。
 大きく息を吸い込み、腕で顔をおおい、ハリーは部屋をかけ抜けた。いまにも鋭い嘴や爪が襲ってくるかもしれない、と思ったが何事も起こらなかった。ハリーは無傷で扉にたどり着いた。取っ手を引いてみたが、鍵がかかっていた。
 ロンとハーマイオニーが続いてやってきた。三人で押せども引けども扉はビクともしない。ハーマイオニーがアロホモラ呪文を試してみたがだめだった。
「どうする?」ロンが言った。
「鳥よ……鳥はただ飾りでここにいるんじゃないはずだわ」とハーマイオニーが言った。
 三人は頭上高く舞っている鳥を眺めた。輝いている――輝いている?
「鳥じゃないんだ!」
 ハリーが突然言った。
「鍵なんだよ! 羽のついた鍵だ。よく見てごらん。ということは……」
 ハリーは部屋を見渡した。他の二人は目を細めて鍵の群れを見つめていた。
「……よし。ほら! 箒だ! ドアを開ける鍵を捕まえなくちゃいけないんだ!」
「でも、何百羽もいるよー」ロンは扉の錠を調べた。
「大きくて昔風の鍵を探すんだ……たぶん取っ手と同じ銀製だ」
 三人はそれぞれ箒を取り、地面を蹴り、空中へと鍵の雲のまっただ中へと舞い上がった。三人とも捕もうとしたり、引っかけようとしたりしたが、魔法がかけられた鍵たちはスイスイとすばやく飛び去り、急降下し、とても捕まえることができなかった。
 しかし、ハリーはだてに今世紀最年少のシーカーをやっているわけではない。他の人には見えないものを見つける能力がある。一分ほど虹色の羽の渦の中を飛び回っているうちに、大きな銀色の鍵を見つけた。一度捕まって無理やり鍵穴に押し込まれたかのように、片方の羽が折れている。
「あれだ!」ハリーは二人に向かって叫んだ。
「あの大きいやつだ……そこ、違うよ、そこだよ……明るいブルーの羽だ……羽が片方、ひん曲がっている」
 口ンはハリーの指さす方向に猛スピードで向かい、天井にぶつかってあやうく箒から落ちそうになった。
「三人で追いこまなくちゃ!」
 曲がった羽の鍵から目を離さずに、ハリーが呼びかけた。
「ロン、君は上の方から来て……ハーマイオニー、君は下にいて降下できないようにしておいてくれ。僕が捕まえてみる。それ、今だ!」
 ロンが急降下し、ハーマイオニーが急上昇した。鍵は二人をかわしたが、ハリーが一直線に鍵を追った。鍵は壁に向かってスピードを上げた。ハリーは前屈みになった。バリバリッといういやな音がしたかと思うと、ハリーは片手で鍵を石壁に押さえつけていた。ロンとハーマイオニーの歓声が部屋中に響きわたった。
 三人は大急ぎで着地し、ハリーは手の中でバタバタもがいている鍵をしっかりつかんで扉に向かって走った。鍵穴に突っ込んで回す――うまくいった。扉がカチャリと開いた。その瞬間、鍵はまた飛び去った。二度も捕まったので、鍵はひどく痛めつけられた飛び方をした。
「いいかい?」ハリーが取っ手に手をかけながら二人に声をかけた。二人がうなずいた。ハリーが引っ張ると扉が開いた。
 次の部屋は真っ暗で何も見えなかった。が、一歩中に入ると、突然光が部屋中にあふれ、驚くべき光景が目の前に広がった。
 大きなチェス盤がある。三人は黒い駒の側に立っていた。チェスの駒は三人よりも背が高く、黒い石のようなものでできていた。部屋のずっとむこう側に、こちらを向いて白い駒が立っていた。三人は少し身震いした――見上げるような白い駒はみんなのっぺらぼうだった。
「さあ、どうしたらいいんだろう?」ハリーがささやいた。
「見ればわかるよ。だろう? むこうに行くにはチェスをしなくちゃ」とロンが言った。
 白い駒の後ろに、もう一つの扉が見えた。
「どうやるの?」ハーマイオニーは不安そうだった。
「たぶん、僕たちがチェスの駒にならなくちゃいけないんだ」とロン。
 ロンは黒のナイトに近づき、手を伸ばして馬に触れた。すると石に命が吹き込まれた。馬は蹄で地面を掻き、兜をかぶったナイトがロンを見下ろした。
「僕たち……あの……むこうに行くにはチェスに参加しなくちゃいけませんか?」
 黒のナイトがうなずいた。ロンは二人を振り返った。
「ちょっと考えさせて……」とロンが言った。
「僕たち三人がひとつずつ黒い駒の役目をしなくちゃいけないんだ……」
 ハリーとハーマイオニーはロンが考えを巡らせているのをおとなしく見ていた。しばらくしてロンが言った。
「気を悪くしないでくれよ。でも二人ともチェスはあまり上手じゃないから……」
「気を悪くなんかするもんか。何をしたらいいのか言ってくれ」ハリーが即座に答えた。
「じゃ、ハリー。君はビショップとかわって。ハーマイオニーはその隣でルークのかわりをするんだ」
「ロンは?」
「僕はナイトになるよ」
 チェスの駒はロンの言葉を聞いていたようだ。黒のナイトとビショップとルークがクルリと白に背を向け、チェス盤を降りて、ハリーとロンとハーマイオニーに持ち場を譲った。
「自駒が先手なんだ」とロンがチェス盤のむこう側をのぞきながら言った。「ほら…見て…」
 白のポーンが二つ前に進んだ。
 ロンが黒駒に動きを指示しはじめた。駒はロンの言うとおり黙々と動いた。ハリーは膝が震えた。負けたらどうなるんだろう?
「ハリー、斜め右に四つ進んで」
 ロンと対になっている黒のナイトが取られてしまった時が最初のショックだった。白のクイーンが黒のナイトを床に叩きつけ、チェス盤の外に引きずり出したのだ。ナイトは身動きもせず盤外にうつ伏せに横たわった。
「こうしなくちゃならなかったんだ」
 ロンが震えながら言った。
「君があのビショップを取るために、道を空けとかなきゃならなかったんだ。ハーマイオニー、さあ、進んで」
 白は、黒駒を取った時に何の情けもかけなかった。しばらくすると負傷した黒駒が壁際に累々と積み上がった。ハリーとハーマイオニーが取られそうになっているのに、ロンが危機一髪のところで気づいたことも二回あった。ロンもチェス盤上を走り回って、取られたと同じくらいの自駒を取った。
「詰めが近い」ロンが急につぶやいた。
「ちょっと待てよ――うーん……」
 白のクイーンがのっぺらぼうの顔をロンに向けた。
「やっぱり……」ロンが静かに言った。
「これしか手はない……僕が取られるしか」
「だめ!」
 ハリーとハーマイオニーが同時に叫んだ。
「これがチェスなんだ!」ロンはきっぱりと言った。
「犠牲を払わなくちゃ! 僕が一駒前進する。そうするとクイーンが僕を取る。ハリー、それで君が動けるようになるから、キングにチェックメイトをかけるんだ!」
「でも……」
「スネイプを食い止めたいんだろう。違うのかい?」
「ロン……」
「急がないと、スネイプがもう『石』を手に入れてしまったかもしれないぞ!」
 そうするしかない。
「いいかい?」
 ロンが青ざめた顔で、しかしきっぱりと言った。
「じゃあ、僕は行くよ……いいかい、勝ったらここでグズグズしてたらダメだぞ」
 ロンが前に出た。白のクイーンが飛びかかった。ロンの頭を右の腕で殴りつけ、ロンは床に倒れた――ハーマイオニーが悲鳴を上げたが、自分の持ち場に踏み留まった――白のクイーンがロンを片隅に引きずって行った。ロンは気絶しているようだった。
 震えながら、ハリーは三つ左に進んだ。
 そして、白のキングは王冠を脱ぎ、ハリーの足元に投げ出した――勝った。チェスの駒は左右に分かれ、前方の扉への道を空けてお辞儀をした。もう一度だけロンを振り返り、ハリーとハーマイオニーは扉に突進し、次の通路を進んだ。
「もしロンが……?」
「大丈夫だよ」
 ハリーが自分に言い聞かせるように言った。
「次は何だと思う?」
「スプラウトはすんだわ。悪魔の罠だった……鍵に魔法をかけたのはフリットウィックに違いない……チェスの駒を変身させて命を吹き込んだのはマクゴナガルだし……とすると、残るはクィレルの呪文とスネイプの……」
 二人は次の扉にたどり着いた。
「いいかい?」
 とハリーがささやいた。
「開けて」
 ハリーが扉を押し開けた。
 むかつくような匂いが鼻をつき、二人はローブを引っばり上げて鼻をおおった。目をしょぼつかせながら見ると、前にやっつけたのよりもさらに大きなトロールだった。頭のこぶは血だらけで、気絶して横たわっていた。
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 楼主| 发表于 2006-8-22 23:43:31 | 显示全部楼层
「今こんなトロールと戦わなくてよかった」
 小山のような足をソーッとまたぎながら、ハリーがつぶやいた。
「さあ行こう、息が詰まりそうだ」
 ハリーは次の扉を開けた。何が出てくるか、二人ともまともに見られないような気持だった。
 が、何も恐ろしいものはなかった。ただテーブルがあって、その上に形の違う七つの瓶が一列に並んでいた。
「スネイプだ」
 ハリーが言った。
「何をすればいいんだろう」
 扉の敷居をまたぐと、二人が今通ってきたばかりの入口でたちまち火が燃え上がった。ただの火ではない。紫の炎だ。同時に前方のドアの入り口にも黒い炎が上がった。閉じ込められた。
「見て!」
 ハーマイオニーが瓶の横に置かれていた巻紙を取り上げた。ハリーはハーマイオニーの肩越しにその紙を読んだ。

 前には危険 後ろは安全
 君が見つけさえすれば 二つが君を救うだろう
 七つのうちの一つだけ 君を前進させるだろう
 別の一つで退却の 道が開ける その人に
 二つの瓶は イラクサ酒
 残る三つは殺人者 列にまぎれて隠れてる
 長々居たくないならば どれかを選んでみるがいい
 君が選ぶのに役に立つ 四つのヒントを差し上げよう
 まず第一のヒントだが どんなにずるく隠れても
 毒入り瓶のある場所は いつもイラクサ酒の左
 第二のヒントは両端の 二つの瓶は種類が違う
 君が前進したいなら 二つのどららも友ではない
 第三のヒントは見たとおり 七つの瓶は大きさが違う
 小人も巨人もどららにも 死の毒薬は入ってない
 第四のヒントは双子の薬 ちょつと見た目は違っても
 左端から二番目と 右の端から二番目の 瓶の中身は同じ味

 ハーマイオニーはホーッと大きなため息をついた。なんと、ほほえんでいる。こんな時に笑えるなんて、とハリーは驚いた。
「すごいわ!」
 とハーマイオニーが言った。
「これは魔法じゃなくて論理よ。パズルだわ。大魔法使いといわれるような人って、論理のかけらもない人がたくさんいるの。そういう人はここで永久に行き止まりだわ」
「でも僕たちもそうなってしまうんだろう? 違う?」
「もちろん、そうはならないわ」とハーマイオニーが言った。
「必要なことは全部この紙に書いてある。七つの瓶があって、三つは毒薬、二つはお酒、一つは私たちを安全に黒い炎の中を通してくれ、一つは紫の炎を通り抜けて戻れるようにしてくれる」
「でも、どれを飲んだらいいか、どうやったらわかるの?」
「ちょっとだけ待って」
 ハーマイオニーは紙を何回か読み直した。それから、ブツブツ独り言をつぶやいたり、瓶を指さしたりしながら、瓶の列に沿って行ったり来たりした。そしてついにパチンと手を打った。
「わかったわ。一番小さな瓶が、黒い火を通り抜けて『石』の方へ行かせてくれる」
 ハリーはその小さな瓶を見つめた。
「一人分しかないね。ほんの一口しかないよ」
とハリーが言った。二人は顔を見合わせた。
「紫の炎をくぐって戻れるようにする薬はどれ?」
 ハーマイオニーが一番右端にある丸い瓶を指さした。
「君がそれを飲んでくれ」とハリーが言った。
「いいから黙って聞いてほしい。戻ってロンと合流してくれ。それから鍵が飛び回っている部屋に行って箒に乗る。そうすれば仕掛け扉もフラッフィーも飛び越えられる。まっすぐふくろう小屋に行って、ヘドウィグをダンブルドアに送ってくれ。彼が必要なんだ。しばらくならスネイプを食い止められるかもしれないけど、やっぱり僕じゃかなわないはずだ」
「でもハリー、もし『例のあの人』がスネイプと一緒にいたらどうするの?」
「そうだな。僕、一度は幸運だった。そうだろう?」
 ハリーは額の傷を指さした。
「だから二度目も幸運かもしれない」
 ハーマイオニーは唇を震わせ、突然ハリーにかけより、両手で抱きついた。
「ハーマイオニー!」
「ハリー、あなたって、偉大な魔法使いよ」
「僕、君にかなわないよ」
 ハーマイオニーが手を離すと、ハリーはドギマギしながら言った。
「私なんて! 本が何よ! 頭がいいなんて何よ! もっと大切なものがあるのよ……友情とか勇気とか……ああ、ハリー、お願い、気をつけてね!」
「まず君から飲んで。どの瓶が何の薬か、自信があるんだね?」
「絶対よ」
 ハーマイオニーは列の端にある大きな丸い瓶を飲み手し、身震いした。
「毒じゃないんだろうね?」
 ハリーが心配そうに開いた。
「大丈夫……でも氷みたいなの」
「さあ、急いで。効き目が切れないうちに」
「幸運を祈ってるわ。気をつけてね」
「はやく!」
 ハーマイオニーはきびすを返して、紫の炎の中をまっすぐに進んでいった。
 ハリーは深呼吸し、小さな瓶を取り上げ、黒い炎の方に顔を向けた。
「行くぞ」そう言うと、ハリーは小さな瓶を一気に飲み干した。
 まさに冷たい氷が体中を流れていくようだった。ハリーは瓶を置き、歩きはじめた。気を引き締め、黒い炎の中を進んだ。炎がメラメラとハリーの体をなめたが、熱くはなかった。しぼらくの間、黒い炎しか見えなかった……が、とうとう炎のむこう側に出た。そこは最後の部屋だった。
 すでに誰かがそこにいた。しかし――それはスネイプではなかった。ヴォルデモートでさえもなかった。
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