|

楼主 |
发表于 2008-5-8 15:12:01
|
显示全部楼层
「おいやなら、よします。世にこの魔界転生をなし得る人物はめったにござらぬ。またあったとしても、こちらが望まぬ。御坊は、われらが見込んだその貴重なるおひとりでござるが、そちらでいやと申されるならいたしかたがない。拙者ども、このままお別れいたす」
「…………」
「なお、欲せられるなら、われらのこと、公儀へなりと誰なりと、訴えられても結構。ただし、誰も信じはいたすまいが。は、は、は」
又右衛門は六部笠をゆすって、ゆきかけた。
「ま、待て」
胤舜はヨロヨロと歩み出て、
「ま、又右衛門、やってくれ!」
と、肩で息をしながらさけんだ。
「ほ、では御承知か」
又右衛門はふりかえって、ニヤリとした。
「案の定――いや、手数をかけた甲斐があったというものでござる。……宝蔵院どの、ではしばし――まず四半刻ばかり、ここで待っていて下され。うごかれてはなりませぬぞ」
「おぬしら、ど、どこへゆく」
「されば――あそこの枯れ芦のひとむらのところまで」
と又右衛門は、そこから三十間ばかり離れた水ぎわちかい、ひときわ高い黄色い枯れ芦のあたりを指さした。
「四半刻ほどたったら、おいでを願う。……おつれのお方は、ぶじにお返し申す」
そういわれても、胤舜はさすがに不安を禁じ得ず、またいまさらその不安を表明できないので、
「もういちどきく、又右衛門」
と、ほかのことをいった。
「わしは、いつ死ぬか?」
「御坊が死なれるときは、われら必ず参上いたし、宝蔵院新生の産婆となってさしあげる。たとえ御坊がどこにおわそうと」
若い男女の六部をうながし、あともふりかえらずお佐奈の方へ遠ざかる荒木又右衛門の笠の中から、声だけ返って来た。
彼らはお佐奈のそばに寄って、何やら話しかけている。お佐奈がびっくりしたようにこちらを見た。胤舜は何ともいえないむずかしい|皺《しわ》を口辺にきざんで、「ゆけ」というようにあごをしゃくった。
いままでも肉の人形のように、ほとんど胤舜の命令にさからったことのない――そのようにしつけられたお佐奈である。けげんな表情ながら、彼女は三人の六部とともに枯れ芦の方へ歩き出した。
日はすでに地平から高くあがっている。明るい朝のひかりのみなぎった反対側の渡し場のあたりには、すでに旅人が雲集し、もう肩車や|輦《れん》|台《だい》にのせられて河を渡ってゆく風景も見られる。
冷たい早春の風がサワサワと草を鳴らした。宝蔵院胤舜は、歯をくいしばり、こぶしをにぎりしめて、そこに待っていた。のびあがって見ても、背のひくい彼には、遠い枯れ芦の中で何が行なわれているかまったく見えなかった。
四半刻たった。いや、四半刻も待ちかねて、胤舜はそこへ走った。
お佐奈は一糸まとわぬ裸体とされて、大の字になってそこに横たわっていた。乳房が大きく息づいているところを見ると、生きているにちがいない。……それどころか、何をされたのか、全身の肌は汗ばんで、ぬめのようにぬれひかっている。
又右衛門と若い六部の姿は、忽然と消えていた。ただ、若い女の六部だけが、|叢《くさむら》の上にきちんと座って、けぶっているような表情で、お佐奈をじっと見まもっているだけであった。――胤舜はさけんだ。
「仲間はどうした?」
娘六部はだまって河の方を指さし、笠を二三度横に、ユラユラと振っただけであった。
「――|唖《おし》か?」 |
|