|

楼主 |
发表于 2008-5-8 15:16:23
|
显示全部楼层
このひとらしくもなく、|諧謔《かいぎゃく》のまなざしで、
「それとも、荒木め、もはやわしに交合する力はないと見くびりおったか? は、は、は」
と、笑った。
「そうか。但馬どのはとうてい信じまい、とは思うたが、いや、わしの申すことを但馬どのならば信じてくれるかもしれぬ、とかんがえて、但馬どのだけに打ち明けたが。……」
胤舜はさびしげに笑い、しばらく黙りこんだ。
ふたりのあいだに、どことなく所在なげな、ぎごちないものがながれた。――胤舜はふと顔をあげ、
「御子息は? 御|挨《あい》|拶《さつ》したいが」
「|主《しゅ》|膳《ぜん》か。あれは折り悪しく、所用あってこのごろ他出しておる」
但馬守はくびをふった。
「あれは、どうやらこうやら上様御指南を相つとめはおるが、とうてい御坊の御相手にはならぬよ」
「いや、試合のことではない。ほう、主膳宗冬どのは、たしか御三男であったな。将軍家御指南となられた、ときいて、もうそうなられたか、とおどろき、且よろこんでおった。――御長子は?」
「十兵衛か」
但馬守はにがい顔をした。
「あれは、柳生谷にかえしておる。いや、放逐といってよい。三年前、ばかげた所業をいたしてな」
「何、柳生へ」
「御坊、御存じなかったのか」
「いや、わしはここのところ四五年、奈良へ帰ったこともないで。……そうとは知らなんだ」
胤舜はふいに張りをとりもどして、
「柳生十兵衛。……このまえわしがここに来たときも、どこへいったか行方不明ということで、ふしぎにまだかけちがって逢うたこともないが……剣名はきいておる。ひょっとしたら、おやじどのたる但馬どのより腕は上かもしれぬ、という噂をきいたことがあるぞ」
「ばかな」
「わしはな、但馬どの、こんど江戸にくるとき――いま話した大井川の一件ある前は――但馬どのとともに、その十兵衛どのがおわしたら、これとも是非試合をしてみたい――と、こう思っておったくらいじゃ。なに、ばかげた所業をやって放逐したと? いったい、十兵衛どのが何をしたのじゃ?」
「上様に御指南申しあげて、上様が御気絶なさるほど打ちすえた」
「ほ、ほう」
胤舜はぽかんと口をあけ、まじまじと但馬守を見ていたが、いきなりピシャリとひざをたたいた。
「噂にたがわぬ痛快な息子どのではないか。兵法の修行はさもあるべきもの。――」
「そうはゆかぬ。相手が上様じゃ」
「しかし、但馬どのは――十兵衛どのがまだ二十前後のころ――息子どのを教えていて、その片眼をつぶしてしまったというではないか」
但馬守は沈黙した。
その通りだ。しかしそれは、兵法修行のきびしさを教えるというよりも、その試合のとき、但馬守自身が危険をおぼえて、思わず本気の剣をふるった結果でもあった。わが息子ながら、恐るべき奴と思う。……が、その危険な嫡男が、このごろこの上もなく頼もしく思い出されるのは、どうしたことであろう?
「息子どのの所業の悪口はいえぬ。……たとえ相手が何者であれ、剣法は踊りの修行ではないはず。それで将軍家から、おとがめがあったのか」
「ない。ないが、わしが放逐した」
胤舜はじっと但馬守を見つめて、その眼にやや軽蔑のひかりを浮かべた。
「……ははあ、一万二千五百石に縛られておると、人間、つらいものよのう」
「そうではない」
と、但馬守はくびをふった。
「十兵衛がそれを望んだからじゃ。……あるいは、それを望まなかったからじゃ」
「――と、いうと?」
「わしも、七十をこえた。で、もはや将軍家御指南の役を、しかとだれかにゆずっておきたいと、たまたま十兵衛が旅から帰っておったのを機会に、きゃつをつれて御前に出た。すると、いま申した通りの始末となった。兵法修行のきびしさを上様にお教え申しあげる……それほど殊勝な、まともな考えをもつ男ではない。きゃつは、将軍家御指南という役がいやでいやで、それをわしに思い知らせるために、左様なまねをしてただ一撃でわしの意志をぶちこわしてしまったのだ」
「ふうむ。……いや、わかるぞ」
「きゃつは、とうてい左様な役、一万二千五百石で安閑としている奴ではない。いや、もっと大それたことを望んでおるというより、無頼奔放、常人の行儀作法にたえられぬ奴じゃ。それを当人が承知しておる。それどころか、きゃつの剣は、いわば殺人剣、柳生家をつげば、かならず柳生家をつぶしてしまうであろう。……」
「――すると、但馬どの、柳生家のあとは? あの主膳どのになさるおつもりか」
「まだ、よくきめてはおらぬ」
但馬守は重い声でいった。 |
|