【天声人語】2006年08月09日(水曜日)付 / X; `* I# q( _% J$ M$ B
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「1945年8月8日 長崎」。今年の春に急逝した黒木和雄監督の「TOMORROW 明日」(88年)の冒頭近くに、この字幕が現れる。9日という「明日」に起きることを知るべくもない市井の人たちの営みが描かれてゆく。$ p/ P6 r( s7 B" a( D
8 B1 \% ^8 `- R1 I: z 夜が明けて、新しい命が生まれる。朝顔が開き、鳥がさえずる。出かける夫があり、笑顔で見送る妻がある。運転手は電車を動かし、主婦は洗濯物を青空に架ける。坂道で遊ぶお下げ髪の子たちの影が、くっきりと黒い。
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そして、午前11時2分、原爆が炸裂(さくれつ)する。残酷きわまりない「明日」までの時を、切々と描いた秀作だ。" h, W- v! |& A9 } J2 D
1 G, {4 P# Q$ d この映画の狙いは、長崎の惨禍を伝えるだけではないだろう。原爆に限らず、戦争に絡んだ世界のさまざまな場所に、予想もしない残酷な「明日」はあったし、これからもないとは限らない。だからこそ、それを繰り返してはならないという強い思いが伝わってくる。
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「明日」が、人々の営みと命を絶つということでは、激しい地上戦があった沖縄や、米軍の空襲を受けた街や人、さらには、日本に侵略された国の人々の「明日」をも連想させる。ヒロシマとナガサキは、どちらも、人類が人類に与えた惨禍を長く記憶するために欠かせない存在だ。
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今日、長崎は61回目の原爆の日を迎える。爆心地に、浦上天主堂に、あの日のような「明日」が二度と来ないようにと祈る多くの人々の姿があるだろう。その祈りが、広島の祈りと大きく一つに結ばれ、日本の各地へ、世界へと広がってゆく。そう念じながら、手を合わせたい。 |