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楼主: youdariyu

皆さん日本語の小説とか読んでますか(1)

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 楼主| 发表于 2006-5-19 14:55:46 | 显示全部楼层
琼瑶の小説「心有千千結」日本語拙訳です。

「心有千千結」

第8章

一週間はあっというまに過ぎた。さしたる容態の変化もなく老人は今や杖さえあれば階段の上り下りや、庭園の散歩も出来るようになった。黄医師は一度訪れ、老人のその様子に感心したが心臓と肝臓の疾患にはやはり顔を曇らせ、診断は依然余命一年のまま変わらなかった。\
それでも耿克毅は自分の生死にさして関心をよせる様子もなく毎日を唐部長と仕事の話に費やし、朱弁護士も隔日で来ては密談を交わしていくのだった。
この週の中で唯一通り過ぎた風雨(あらし)と言えば土曜日に家族総出でやって来た培中と培華兄弟だった。それはなんと”いらつく”一日だったろう。培中の妻の思紋は一歩入ったとたん、窓の掃除ができてないと翠蓮を叱りとばし、培華は老李に小言を始めた。培華は自分が子供の頃に植えた夾竹桃を老李が勝手にひっこ抜いたのが至極お気に召さないらしい。口論のあげく寡黙な老李もとうとう堪忍袋を切らして怒鳴った。

「この風雨園はあなたの持ち物じゃありませんぜ!」

培華は怒髪天を衝かんばかりに老李をけしからんと罵倒したが老李はかかわるだけ無駄とさっさと姿をくらました。培華の妻の美珂が仲裁しようと言った事がまたピント外れで思紋を怒らせた。普段からこの思紋と美珂はあまり仲がよくなかったのだ。培中の子の凱凱と培華の子の斌斌がしょっちゅう喧嘩ばかりしてたのが原因だが、実際は子供をダシにして自分達もおおいにやり合った。ということで大きいのも小さいのも巻き込んでしばらくは秩序もへったくれもない。

耿克毅は彼らが乗り込んで来た途端に部屋に閉じこもり睡眠を理由に出てこようとしなかったが、階下のあまりの騒ぎを聞くにつれようよう杖を頼りに姿を現した。老人が階段を降りて来ると今まで好き放題喋っていた全員が一斉に黙った。子供でさえ威厳にうたれたのか一言も発しない。老人は彼らの前に立つと全員を見回した後、冷ややかにこう言い渡した。

「お前達の見舞いごっこはもう終わりだ」

「父さん!」

培中はすぐに叫んだ。

「もういい!」

老人はなにか言いたそうなのを手で遮った。

「なにも言うな。お前達の”孝心”とやらは聞くまでもない。ここにいる看護婦の江さんによればわしに今必要なのは安息ということだ、そうだな?」

江雨薇はうなづいた。

「わかったら、子供を連れてとっとと帰れ」

「お父さん」

培華はタイミングを見計らって言った。

「お身体は如何ですか?あまり無理なさらずに。僕達が会社を手伝いましょうか?」

「要らん」

老人の声は冷たさを増した。

「わしはまだ仕事が出来る。早く帰れ」

「父さん!」

培中は懲りずにまた言った。

「僕は思うんだけど、あの唐部長はちょっと信用できないんじゃ・・」

老人の怒りが爆発した。

「まだわからんか!耳の穴をかっぽじって欲しいか!お前らがわしのために出来ることはわしに近づかんことだ、わかったら出てうせろ!今すぐだ!」

真っ先に逆ギレしたのは思紋だった。

「わかったわよ!行きましょう!凱凱、中中、雲雲!帰るから早く服を着な!こんなとこに居ることないよ!あの爺ちゃんはあんた達孫よりも素性のわからない息子が大切らしいからね!」

老人は頭に血をのぼらすと杖を振り上げて培中に怒鳴った。

「早くこのクソ女を放り出せ!二度と顔を見せるな!出て行け!」

培中は思紋の腕をひっつかむと無理な作り笑いをして言った。

「父さん怒らないでよ、嫁ふぜいに腹を立ててどうするんです」

数分の内に培中と培華の家族は風雨園から去っていった。彼らの車が門を出ていくと老人はようやく力尽きたようにソファーに倒れ込んだ。江雨薇は駆け寄って脈を取るとすぐさま注射をし、脱脂綿で揉みながらやさしく問いかけた。

「耿さん、どうしてそんなに怒らなければいけませんの?」

李媽も水を汲んで来ておろおろしながら言った。

「そうですよ旦那様、あんなに腹を立てちゃ身体を壊すに決まってるじゃありませんか」

老人はソファーに横たわり瞼を閉じていた。それは見る者に気力果てた抜け殻のような印象さえ抱かせた。

「息子、わしの息子・・」

老人はうわごとを呟いた。

「あいつはわしの息子だ、間違いなくわしの・」

江雨薇は老人の痩せた背中にそっと手をおくとそのままなにも言わずにじっと考え事をしていたがやがて立ち上がった。彼女は李媽と視線を交わし暗黙の了解を交わした。そうだ、もうぼやぼやしてられない、自分はあの困難きわまりない使命を全うしなければならないのだ。

日曜日が来た、江雨薇の始めての休日だ。朝早く彼女は老人への注射を済ませると李媽に服薬の時間を細かく指示した。黒に赤の枠どりをした服と、同じデザインのコートを着て外出の準備をした彼女を見て老人は言った。

「どこへ出かけるんだ」

「弟達の大学です」

彼女は笑ってごまかそうとしたが老人は見透かす様に尋ねた。

「あの”X線”医師のところじゃないのか」

「かもしれません」

江雨薇は微笑んだ。

「気をつけなさい」

老人は注意した。

「男というのは危険な動物だからな」

「有り難うございます。気をつけますわ」

「趙に送ってもらえばいい。帰りはどこからでも電話すれば迎えに行かせよう、山道は女には険しすぎるし夜道を歩くのは危ないしな。それになるだけ早く帰って貰いたい」

「承知しました」

江雨薇はにこりと笑って応じ、老人はそれだけ言うと黙って彼女が出て行くのを見送った。彼女は趙の車に乗ると老李に貰った紙片を取り出し少しの躊躇もなく言った。

「和平東通りね、趙さん。知ってるでしょうけど」

「まず弟さんに会いには行かれないんですか?江お嬢さん」

「弟達とはまたいつでも会えます」

江雨薇は言った。

「来週でも遅くありません。でもこっちは早くしないと!」

趙は無言でうなづくと、アクセルを踏み飛ぶように車を走らせた。江雨薇は車の中で窓の外の光景を眺めながらああでもないこうでもないと思案をめぐらせていた。実際のところどうすればいいか見当もつかなかった。若塵に会ってからなんて言えばいいかもわからないのにこんな役を引き受けるなんて。本当にあたしったら。

車は台北市街に入り新生北通りを過ぎ新生南通り、左に曲がって和平東通り。広かった道はしだいに細くなり両側の建物は高層建築から低い木造のアパートに変わっていった。小さく重なるようにひしめきあった家屋の前の道路は舗装が剥がれ子供がどろんこで遊び人々が玄関先で洗濯し米を研ぎ、さながら泥溜まりと化していた。その中の一筋の路地の前で車は停まり趙は振り向いて言った。

「この路地ですよ、江お嬢さん。車はこれ以上入っていけません。ここを進むともっと小さな路地があります。そこを左に曲がって4番目。小さな木造の家がそうです」

江雨薇は車を下りると路地を見て一瞬ためらった。

「前も来られたんですね、趙さん?」

「はい、老李と一緒に一度。確かに」

「結構です。じゃあもうお帰りになって。耿さんには師範大学まで行ったことにしてください」

「ここで10分だけお待ちしましょう。もしそこに居なければ他の場所へ江お嬢さんをお送りしますよ」

趙は手筈を心得ていた。

「わかりました。じゃあ10分たっても私が戻ってこなければお帰りください」

彼女はその小さな路地へ足を踏み入れた。両側には小さな雑貨店や露天食堂が並び魚肉と黴臭さが入り交じった一種異様な匂いを漂わせていた。江雨薇にはちょっと苦手な匂いである。彼女の住んでいたところはまだしもここよりはきれいだった。それにしてもあの花咲き乱れる風雨園の御曹司がこんな場所に住んでいるなんて。

彼女はやがて目的の場所に辿り着いた、ちゃんと表札もある。けれど彼女はその前に立ち思った。ここは人間の住む部屋じゃない。これは勝手口のゴミ箱のちょっとマシなものだ。物置、いや鶏小屋かも知れない。濃厚なゴミの臭気があたりにたちこめてもいた。江雨薇は玄関の前で2秒ばかりためらってから息を吸い込んでこれから言うべきことを用意した。そして勇気をふるって扉を叩いた。

返事は返ってこなかった。どうやら不在らしい。彼女はがっかりする以上にほっとした。だが念のためもう一度ノックすると。

「どいつか知らんが入ってこい!」

彼女は一瞬、中にいるのは耿老人じゃないかと錯覚した。ここまでそっくりな親子もこの世にはいるのだ。ドアを押し中に入った彼女は強烈な油絵の具とテレピン油の臭いに思わずくしゃみをした。目をこらしてよく見ると部屋は大小様々なキャンバスで埋まっている。そしてその中に長身の青年、彼女の知ってる耿若塵その人がいた。彼はTシャツにあの洗い晒して白くなったGパン姿で絵筆をふるっているところだった。彼はドアが開く音に振り返ると眉をしかめて尋ねた。

「誰だ?」

「私をお忘れですか」

彼女はそう言うと室内を見渡した。床には掛け布団、衣服やキャンバス、原稿用紙、絵の具が散乱して、机の上も寸分の隙なく文学書や原稿で埋まっている。足の踏み場もない中に更に大小の画板とイーゼルが置かれ想像を絶した有様だ。彼女は風雨園の広々とした書庫に秩序良く並べられた書籍の様子と思わず比べずにいられなかった。

「ああ」

若塵は筆を卓上に放り投げるとゾンビのような目で彼女をにらんだ。

「思い出したぞ。あんたはあの時の看護婦だったな」

そう言った彼の顔色は蒼白になった。

「待てよ、あんたが来たってことは・・」

「違います!そうじゃありません」

彼女はあわてて言った。

「あの方はお元気です。歩けるようになりましたし今は順調です」

彼は江雨薇を見つめた。

「聞けばあんたは風雨園で爺さんの面倒みてるそうだな」

彼の声はぶっきらぼうで低く、それはまさにもう一人の若い耿克毅がそこにいるようだった。

「そうです」

「そのあんたが俺になんの用だ」

彼は獲って喰わんばかりに尋ねた。

「あのー、あたし」

江雨薇は突然舌がもつれだした。

「あなたとちょっとお話しがしたくて・・」

「じゃあ話しな!」

彼はそう言うと藤椅子を彼女の前に放り出した。

「座れよ。あいにく茶の一杯も出せないぜ。ここにはそんなもん無いからな。それで?なにを話そうってんだ」

江雨薇は渇いた唇を嘗めて潤し窮屈そうに椅子に腰かけた。手は知らずバッグを握りしめ身体はこちこちになっている。もごもごと言いかけた。

「あの、耿さん」

「うざったい言い方やめろ」

彼はいきなり遮った。

「若塵でいい」

「わかったわ、じゃあ若塵・・」

彼女は続けようとした。

「あのー、そのー、私は」

「いったいなにが言いたいんだ!」

彼は吼えた。

「もっとはっきりさっさと言えないのか」

「なによ」

今度は江雨薇の番だ。

「なんでそう聞かん坊なの、お父さん以上じゃないの。どうしてあなたみたいな人をお屋敷のみんなが宝物みたいに扱うのかしら、わけがわかんない。それを連れ戻せだなんて」

「どういう意味だ?!」

彼は形相ものすごく目をぎょろりと光らせて尋ねた。

「あなたに帰って欲しい、そういうことよ!」

若塵の居丈高さに誘発され彼女も負けずに怒鳴った。おまけに彼の挑むようなぎらぎらする目に晒されていると、用意してた穏当な説得の文句も遙か数万光年の彼方である。もう単刀直入言うしかない。

「帰れだと?」

彼の目は更に大きく、声は鋭くなった。

「誰の差し金だ」

すごい剣幕である。

「誰がお前をよこした。親爺か」

「親爺ですって?」

彼女は本格的に切れた。さながら耿老人が乗り移ったかのように。まったくあの下世話で卑劣な二人の息子に加えてこっちは強情で独善的ときてる。\

「そんなわけないでしょ、あの人がそんな事すると思ってるの。そんなのあなたのほうがよく知ってる筈よ、絶対するもんですか」

「それなら」

彼は咆哮した。

「誰だ、そんな寝ぼけた事言う奴は」

「あたしよ!」

彼女は大声で叫んだ。だがそう口にしたとたん一瞬彼女はぽかんとしてしまった。どうしてこんなこと言ってしまったのかしら。どうしてこんなにむきになってわざわざ火の粉をかぶってしまうの?でも一旦言ってしまった言葉は飲み込めない。

「お前が??」

耿若塵はたしかめるように言った。意外さに声がひっくりかえっている。

「お前が俺に帰ってくれだと?」

彼は事態が理解できなかった。

「俺の聞き間違いか?」

「聞き間違いじゃないわ、耿若塵」

彼女は度胸を決めた。満身の血液が沸き立っている。彼女はまっすぐ彼を見据えた。

「あなたに帰って欲しいんです。あなたのお父さんのいる風雨園へ」

「どうしてだ」

「それはあなたが息子だから」

彼女は諭すように言った。

「あの人はあなたを愛し、あなたはあの人を愛してます。そして今のあの人にはあなたが必要なのよ」

「お前になんでわかる」

彼の声はざらついていた。

「あいつが言ったのか」

「あの人はそんな事言いません。絶対に言わないわ。もうとにかく強情なんだから。強情なあまり我が子に対してさえ心をうちあけようとしないんだわ。残り少ない命なのに」

彼はぴくりと震えた。

「もうマジでヤバいのか」

「今はいつその時が来てもおかしくないんです。あの人にもう来年の秋はありません」

江雨薇はじっと若塵を見つめた。

「でも今だからあなたに帰って欲しいと言うんじゃありません。あの人はずっと孤独だったんです。あなたが必要なんです。あの人が唯一息子と認めたあなたを」

彼はもう一度身震いした。

「どういう意味だ」

彼の声はかすれていた。

「あなたもわかってる筈よ、耿若塵」

彼女は率直に包み隠さず話し始めた。

「あの人は培中と培華を嫌ってる。あの人が唯一愛したのはあなただけ。それなのにあなたはあの人に背き仇敵のような目を向けわざとあの人を苦しめている。耿若塵、そんなあなたに本当は愛される資格なんてない筈よ」

彼は背筋をぴんと伸ばし焼くような瞳で彼女をにらんだ。

「お前は何様のつもりだ」

彼は吼えた。

「お前になにがわかる、知ったかぶりするんじゃないぞ。あいつは俺を憎んでいる。ずっとそうだった。わかるか?俺達が一緒に生活してた時は毎日が喧嘩だった。お互い軍鶏のように噛みつき血を流しあったんだ。俺は絶対に帰るもんか。死んだってな。憎いのは俺だって同じだ」

「憎いですって?」

江雨薇の声もしだいに乱暴に甲高くなっていった。

「あなたこそ分からず屋のお馬鹿さんよ。あなたは何にも自分でわかっちゃいない。本当は父親を愛してるのよ、あの人があなたを愛してるように」

「はっ!」

彼は咆哮した。

「俺がわからんことがお前にわかるのか」

「ええ、わかるわ!」

江雨薇はぐっと下顎を突き出した。

「あなた達はお互いいがみ合い、争い、文句ばかり言い合ってる。それはあなた達があまりにそっくり過ぎるから。どっちも強情で負けず嫌いでお互いが歩み寄ろうとしないからよ。でも一番大切なのはお互いが相手を必要としている事実。なのにどちらもあまりに心の触覚が鋭敏過ぎて相手を傷つけることを恐れている」

耿若塵はしっかりと彼女をにらみ続けて呑みこまんばかりだ。

「はっ!」

彼は再び咆哮した。

「言うことえらく筋が通ってるじゃないか、お前はまさか自分が仲裁の神様だと思ってるんじゃないか。だがお前はやっぱり何にもわかっちゃいない、忠告するぞ、他人のことに口出しするな!」

「もう遅いわ、今更見過ごせるもんですか!」

もはや彼女も意地である。

「あなたの気持ちが私にわからないって言うの?あなたは卑屈なだけよ。それはあなたが私生児であり、その責任をお父さんになすりつけてるからだわ。それはあなた自身もわかってる筈。心のつながりに法律なんて関係ない!なのにあなたはわざわざお父さんを責める理由を探してあなたの口実にしている」

若塵はのしかかるように彼女に近づいた。彼の眼はらんらんと燃え顔色は蒼白になり声は威圧めいている。

「なるほど」

彼は小さく息を吸った。

「俺が私生児だってことも知ってるんだな。他になにを知ってる?」

「あなたがある女性に騙されてお父さんに会わせる顔をなくしてそれで肝っ玉がひしゃげてしまったこと。お父さんはなんでもお見通しなのをあなたが怖がってること。あなたに意気地がないから現実を直視できないってこと。あなたが・・」

「もういい、やめろ!」

彼はひときわ大きく声を張り上げ江雨薇は鼓膜が破れるかと思った。

「俺に叩き出される前にとっとと消え失せるのが身のためだぞ!」

「上等よ!」

彼女はすっくと立ち上がった。

「言われなくたって出て行くわ!あなたみたいな人に道理を説くのが無理だったみたい。だってあなたは真実を受け入れようとしないんだから。もしも最初からわかってればこんなとこには来なかったわ!」

彼女は彼を見た。

「さっぱりわからない、あなたの父親が夜も眠れずに譫言のように名前を呼ぶその人がこんな思慮分別のない、とんまなまぬけだなんて!」

彼女は知らないうちに耿克毅の口癖を真似ていた。

「じゃあ帰るわ、これっきりよ」

彼女が出て行こうとすると彼が前に立ちふさがった。

「出てけって言ったんじゃないの」

彼女は眉尻を上げた。

「とにかく私はあなたに話すべきことは話したわ。あなたが帰る気になろうがなるまいが後はあなたの勝手よ。でも他の兄弟がお父さんを両方から二つに引き裂こうという時にあなたはここで抽象画を描いてるのかしら、哀れな老人を黄泉に送っても平気なわけね。ええ、どっちみちあの人は長くはないわ。それに今帰ったらおそらく人は噂するでしょ、あなたは遺産目当てに帰ったんだって」

彼女は描きかけの絵に眼をやった。

「ついでにあなたのこの絵、最低!どうせ中山北路の三流画廊で外国人相手に売りつけるんでしょう、ほんとちゃんちゃらおかしい、希代の天才もここまで落ちぶれるのね」

彼女が彼のそばをすり抜け扉を開けようとすると彼の手がそれを遮った。

「ちょっと待て!」

彼は怒鳴った。彼女は顔を上げるときりっとした眼差しで彼をにらんだ。

「まだなにか用なの」

「なんでお前はそんなに怖いもの知らずなんだ」

彼は厳しい眼で彼女を見た。

「どんな権利があってそこまで言う」

「私は自分がいいと思うことをするだけだわ」

彼女は彼を見つめた。

「自尊心とコンプレックスで自分の本心を隠すべきじゃないし、あなたのお父さんは守銭奴なんかじゃない、ただの孤独の老人に過ぎないわ。あなたが頭を下げる相手はお父さんじゃない、自分自身よ!自分の誤解に謙虚になりなさい!」

彼女は雑然とした惨状の部屋を飛び出すと路地を駆け抜けた。そして路地の出口でふりかえった彼女はまだすぐ側に若塵の熱い視線を感じるような気がした。

第8章終わり
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发表于 2006-5-20 12:00:18 | 显示全部楼层
youdariyuさん、こんにちは。

早速のご返事ありがとうございます。
ほとんどすっきりしました。

>>5.そこにはトーストにバター、スクランブルエッグ、それに熱いミルクが載っている。

>>「スクランブルエッグ」は「目だめ焼き」のことですか。「目だめ焼き」という言い方より、日常会話でよく「スクランブルエッグ」を使うのでしょうか。

>手元に原本がないので実際の料理名が今わかりません。「炒蛋」でしょうか。

原文は「煎蛋」とありました。「煎蛋」は「荷包蛋」ともよく言います。「目玉焼き」のことですね。

>「スクランブルエッグ」は日本語だと「炒り卵」。卵を炒りながらかきまぜて「そぼろ(魚肉松)」みたいにする料理です。

これは「炒蛋」か「炒鸡蛋」のことだと思います。「炒り卵」というものはあったのですね。ずっと「卵いため」だと思っていました。

>>6.「旦那様からですよ。江お嬢さん」李媽は笑いながら言った。眼差しに。
>>「眼差しに」の「に」はどういう意味でしょうか。「眼差しに」は文中でどんな役割なのでしょうか。

>ごめんなさい。この部分は間違いです。「眼差しに」の後に何か書くつもりだったのに忘れたみたいです(汗)。

原文は以下のようになります。もう一度「眼差しに」のご説明をお願いいたします♪

“是谁?进来!”进来的是李妈,堆着满脸的笑,她捧进来一个托盘,里面放着两片烤好的面包,一块奶油,两个煎蛋,和一杯热气腾腾的牛奶。“老爷要我送这个给你,江小姐。”李妈笑吟吟的说,她的眼光那样温和,而又那样诚挚的望着她。“他说你晚饭什么都没吃。”“哦!”江雨薇意外的看着面前的食物,不知该说些什么好。那烤面包和煎蛋的香味绕鼻而来,使她馋涎欲滴。她这才发现自己已经饥肠辘辘。

>「放ったらかし」は「放置不管」です。
「放ったらかし」の読み方を教えてください。意味は理解できますが、この単語自体は辞書で見つかりませんでした。

>「吉田のアホな行為に全員怒り狂った」は「大家都発怒吉田的愚行」となるでしょうか。

微力ながらお力添えしたいと思いますので、中国語の添削一箇所させて頂きます^^
「大家都発怒吉田的愚行」ー>「大家都对吉田干的傻事感到怒不可遏。」
「発怒愚行」は文法の間違いです。
「人発怒」(人は怒る)あるいは「对(人)発怒」(人に怒る)は一般的です。
怒不可遏=「怒りをおさえることができない。業を煮やす」

私の一番好きな琼瑶の作品は全部ドラマ化されたことがあります。しかも、悲劇です~
お時間がある時、もう一度ご指導くださるようにお願いいたします
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发表于 2006-5-20 13:18:35 | 显示全部楼层
こんにちは

皆、流暢な日本語で書いていて、
時間がある時、ぜひ最初から読ませていただきます

日本語の小説を読むのはランゲージアップに役立ちますね
読んでいるうちに、生単語はたくさん出てきます
一つ一つ辞書で調べるのは大変そうです^^
でも、単語量を多くするために、そうするしかないみたいですね
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 楼主| 发表于 2006-5-20 14:36:31 | 显示全部楼层
mizuiroさんこんにちは。
早速解説しますね。

>李妈笑吟吟的说,她的眼光那样温和,而又那样诚挚的望着她

普通に直訳すれば「李媽は笑いながら言った。彼女の眼差しは暖かく、誠実そうに彼女を見ている」
となるのでしょうけれど、読者はすでに李媽のキャラクター(性格)を分かっている筈なので、このまま
書くと少し「当たり前」過ぎて「くどい」ような気がします。ですから、他の面白い表現を探したのです
が見つけられなかったんです(苦笑)。

「放ったらかし」は「ほうったらかし」或いは「ほったらかし」です。

中国語の添削有り難うございます。とても助かります。中国語で会話をしている時「あっ?自分が話した
この中国語、どこか不自然な筈?」と思う事が多いんです。
でも、ほとんどの人は「意思明白,没有问题(^^)」と言うだけで訂正してくれないので、結局私の中国語
は「日本人的中国語」のまま、いつまでも向上しないのです(言い訳)。これからもご指摘ください。

そう言えば「ほどほどにしてください」と言いたい時「请你不要过分」と言って、周囲から大笑いされた
事があります。「过分」はこういう時使わないんですか。

琼瑶先生の小説は悲劇も多いんですね。私はハッピーエンドの作品が好きです。中国人の女の子に
「どの作品が好き?」と尋ねると、「窗外」という答が多いんですが、これは悲劇だと聞いていま
すので、いまいち手が伸びません(^^;
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 楼主| 发表于 2006-5-20 14:42:47 | 显示全部楼层
ayuki さんはじめまして。

分からない単語が有ればまず一度辞書で調べてください。それでも分からない時は、気楽に質問してください。
長期間それを続けていれば、膨大な数の単語を覚える事ができると思いますよ(^^)
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 楼主| 发表于 2006-5-20 15:07:39 | 显示全部楼层
ショートSF「来信」

この手紙はいったい誰からなのかしら。

美華は配達ロボットワイルドグース1号が届けてきた一通の手紙を不思議な気持ちで眺めた。

合成墨と合成紙しかしらない美華にもちょっと懐かしい匂いのするその便箋。封筒には送り主の
名前どころか宛先さえも記されていない。

なんであたしのところに届いたんだろう。

そこには幼い女の子が書いたかのような、けなげで、はかなげで、それでも、ひたむきな文字でこう一言。

「がんばって」

言葉自体は古めかしい中世漢語であったが世界標準語エイジアンズで教育を受けている美華にとってもその
程度は理解できた。

誰かを勇気づけようとしているのだろうか。

じっと見つめているうちなぜか美華はそれが自分に宛てられたものであるかどうかにかかわらず胸が暖かくな
ってゆくのを感じた。

この子はもしかすると・・。

美華はいつのまにか見知らぬ差し出し人に親しみを覚え始めていた。

手紙を出したこの子は未来を見ることが出来るのかもしれない。幼いながらも人が生きてゆくことの
いろいろを知ってしまった為に、誰かに何かを伝え励まさずにはいられなかったのではないだろうか。

たった一通の手紙、たった一つの言葉が美華にさまざまな思いと想像をいだかせた。

そして手紙はその後も続いてやってきた。

同じように差し出し人も宛先も記されていない封筒と便箋にやはりたった一言。

「まけないで」

美華がなにか困難に出くわしたり落ち込んだりすると決ってその手紙は届けられたのだ。

「あきらめないで」 「しんじつづけて」

そのたびに美華は元気づけられとてもやさしい気分になれた。

どこの誰が送ってくれるのか知らないけれどほんとうにありがとうね。美華は名前も知らない
その幼い少女..(彼女はすでに想像を確信していた)、に心の中で感謝したのだった。

そんなある日、美華の家を貧しい旅の道士が訪れた。

やさしい美華が心のこもったお布施を用意すると道士は大層喜び、彼女にこんな事を教えてくれた。

「気だてのよいお嬢さん。未来は自分でつくりだしてゆくもの。誰にも占うことなど 出来ない。けれど、
 お礼にあなたの前世の様子を教えてあげよう。

 あなたは100年ほど前の前世でも人助けがお好きだったようです。

 そう、子供の頃から手紙を書くのが好きだったようですね、それも少しかわっていて、例えば宛先も書
 かずに誰かを励ます手紙を書き、どこかの誰かのところへそ れが辿り着いてその人が少しでも元気づ
 けばいいと思うような。

 昔昔あなたが出した手紙。今ころどこの誰のもとについてるのでしょう・・。」

 ================
語句説明
  「ワイルドグース1号」という、ロボット(機器人)の名前は中国の「雁書」を、もじっています。
  「雁」は英語で「Wild goose」

  「世界標準語エイジアンズ」は近未来の架空の言語です。

  
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发表于 2006-5-20 17:34:20 | 显示全部楼层
youdariyuさん、こんにちは。
早速のご回答ありがとうございます。

「放ったらかし」は「ほうったらかし」或いは「ほったらかし」にするべきだったんですね。
とても恥ずかしいことに、「はなったらかし」だと思いました。

>そう言えば「ほどほどにしてください」と言いたい時「请你不要过分」と言って、周囲から大笑いされた事があります。「过分」はこういう時使わないんですか。

あはは♪
「过分」は「ひどい!!」という感じなので、よく「你太过分了!!」、「怎么那么过分!!」のように使います。
youdariyuさんはたぶん「过度」と「过分」の使い分けはまだはっきりしていないでしょう。
「请你不要过分」は「いい加減にしなさい!」のようなイメージを受けています。

「ほどほどにしてください」は「要适度。」、「要适可而止。」のことかと思います。
「适可而止」=「ころあいを見てやめる。然るべき程度でやめる。」
口語で、「ほどほどにしてください」のようなニュアンスを表すときに、よく次のような文を言います。
機会があれば使ってみてください。

「但是,大家请注意,凡事都有一个度。过了这个度就不好了。」
(しかし、皆さん、注意してくださいね。何事にも「度」というものがあります。この「度」を過ぎるとよくない」)

『窓外』は私もけっこう好きな一作品です。
これは琼瑶自身の経験にもとづいて書かれた彼女の初めての作品です。
『窓外』は教師と生徒の愛を描く小説です。
教師(男性)と生徒(女の子)のようなパターンは現実でもあんまりにも多いので、
特に女の子の共鳴を引き起こしやすいと思います♪
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发表于 2006-5-20 17:57:14 | 显示全部楼层
それでは、第七章についてまた爆弾を投下させていただきます♪

1.彼女の眼が点になった。

これは驚く時の表情なのでしょうか。
眠い時の表情のような気がします。

2.あんたは旦那様を手なづけたじゃありませんか

「手なづけた」のもとの動詞を教えてください。

3.無数の絵画本や詩本の中で彼女はあれこれを手にとったが多くの本には短いメモが添えられていた。

「絵画本」と「詩本」の読み方を教えてください。

4.どれもみな真っ新でセーターからロング、ショートのスカート、スーツ一揃え、それにコートにドレス、およそありとあらゆるものが並んでいる。

「真っ新」の読み方を教えてください。

5.あれはわしからのプレゼントじゃから給料とは別だ

ここの「じゃから」は「ではから」でしょうか。
どういう役割でしょうか。

よろしくお願いします。
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 楼主| 发表于 2006-5-20 19:05:13 | 显示全部楼层
mizuiroさんへ。我が軍の対空防御体制は万全です。

>1.彼女の眼が点になった。
数年前から普通に使われるようなった表現で、「驚く、呆気にとられる」という意味です。元々は漫画
から来ています。日本の漫画本を見てもらえればわかりますが、「驚き、呆気にとられた」登場人
物の目は極端に小さく点のように描かれます。
同じように漫画から来た表現に「顔にすだれがかかる」があります。「すだれ」は「帘子」。
「青ざめる。蒼白になる」の意味です。


>2.あんたは旦那様を手なづけたじゃありませんか

「手なづける」は「手懐ける」とも書きます。中国語は「驯服」でしょうか。例えば「犬に毎日餌を与えて手なづける」。

>3.無数の絵画本や詩本の中で彼女はあれこれを手にとったが多くの本には短いメモが添えられていた。

>「絵画本」と「詩本」の読み方を教えてください。

「絵画本」は「かいがぼん」、「詩本」は「しほん」ですが、これはほとんど使わない言葉です(^^:
「挿絵のたくさんある本」を「絵本(えほん)」と訳すと、幼い子供だけが見る本というイメージになるので
こう訳しました。
「詩本(しほん)」は「詩集(ししゅう)」と素直に訳したほうが良かったかもしれません。

>4.どれもみな真っ新でセーターからロング、ショートのスカート、スーツ一揃え、それにコートにドレス
>、およそありとあらゆるものが並んでいる。

「真っ新」は「まっさら」です。「新しくてまだ一度も使ってない」という意味ですが、中文XPのIMEでは変換
されないみたいですね。

>5.あれはわしからのプレゼントじゃから給料とは別だ

「じゃから」は「だから」或いは「なので」です。老人の「老人らしさ」を表現したい時に、ドラマや小説で、よく
使われる表現です。文法規則としては「だ」が「じゃ」に変わります。
例えば「私は年寄りだが元気なのだ」は「わしは年寄りじゃが元気なのじゃ」。「わし」は老人の一人称単数形。

ちなみに大阪では男や老人だけでなく若い女の子も時々自分の事を「わし」と呼びます。

「千軍万馬」を率いて「雨あられ」と爆弾を投下してください(^^)
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发表于 2006-5-21 21:19:11 | 显示全部楼层
youdariyuさん、こんばんは。

ご回答ありがとうございます。
第七章の質問は全部解決できました。
さすが対空防御体制は万全ですね。

第八章についての質問です。
最後のチャンスかもしれませんね♪

1.お前達の”孝心”とやらは聞くまでもない。

「やら」は何でしょうか。

2.耳の穴をかっぽじって欲しいか!

「かっぽじる」の意味は何でしょうか。

3.真っ先に逆ギレしたのは思紋だった。

「逆ギレする」の意味は何でしょうか。

4.若塵は筆を卓上に放り投げるとゾンビのような目で彼女をにらんだ。

「ゾンビ」は何でしょうか。

5。彼女は本格的に切れた。さながら耿老人が乗り移ったかのように。まったくあの下世話で卑劣な二人の息子に加えてこっちは強情で独善的ときてる。\

ここの「切れる」の意味を教えてください。
「ときてる」は何でしょうか。

6.お前になにがわかる、知ったかぶりするんじゃないぞ。

「知ったかぶり」はどのように区切るでしょうか。
「知った かぶり」ですか。
「知ったか ぶり」でしょうか。

7。自分の誤解に謙虚になりなさい!

この文はどのように理解するでしょうか。
意味がよく分かりません。

どうぞよろしくお願いします。
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发表于 2006-5-22 00:25:56 | 显示全部楼层
小説読んでないですけど、自己開発のをよく見てますよ。読みすぎでね、だんだん世間知らなくなってきたんですよ。やっぱり経済情報誌も読まないとね。けど、最近仕事を忙しすぎで、毎日帰宅は11時なんで、何にもできないですね。
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 楼主| 发表于 2006-5-22 11:40:50 | 显示全部楼层
西山老妖さんこんにちは。

毎晩11時に帰宅とは。大変ですね。私も日本でのサラリーマン時代は、それに近かったかな。
夜の8,9時から会議なんて普通の事、それから全員で酒を飲みに行って結局帰るのは終電車
ぎりぎり。

若い時は無理もできますが、お身体大切に(^^)
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 楼主| 发表于 2006-5-22 12:38:18 | 显示全部楼层
mizuiroさんこんにちは。

> 1.お前達の”孝心”とやらは聞くまでもない。

「とやら」は「叫什么」です。是",....とかいう"之意.接在没有记住的名称之后.
中国語の辞書だとこう説明していますが、もう少し詳しく説明します。この場合、アホな息子達が考える
「親孝行」が、老人の望まないものなので、老人はこんな言い方をしたのでしょう。
お前達は本当の「孝心」など分かっていない、と老人は皮肉を込めているわけです。

>2.耳の穴をかっぽじって欲しいか!

「かっぽじる」は「ほじくる」の俗語です。教師や上司が怒鳴る時「耳の穴をよくかっぽじって聞け!」と
言いますが、これは。「よく聞こえるように耳を掃除しろ!」みたいな感じ。

>3.真っ先に逆ギレしたのは思紋だった。

「逆ギレする」は是非覚えておいて欲しい現代語です。最近は頻繁に使われます。
「キレる」は「我慢していたけれど、とうとう耐えられなくて激怒する」表現です。「逆ギレ」というのは
「本来自分が悪いのはわかっているけれど、相手の叱責や罵りが限度を超えて激しいので、耐え切れず
 に逆に自分も怒り出す」という意味です。

 例えば、「5分遅刻しただけなのに、上司に何時間も説教された吉田はとうとう逆ギレして上司を蹴った」


「とやら」の説明が難しいですね(汗)

しばらく爆撃後の後片付けをしますので、続きはまた後で。
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 楼主| 发表于 2006-5-22 13:24:30 | 显示全部楼层
琼瑶の小説「心有千千結」日本語拙訳です。

「心有千千結」第9章

月曜日が過ぎた。

火曜日が過ぎた。

水曜日もまた過ぎた。

江雨薇は今までこれほどじれったく何かを待ったことはなかった。自分なりに、あれでもせいいっぱい考えて口にした言葉でどら息子が考えなおさないかと期待はしてみるのだが日は無情に過ぎ彼女は自分が失敗したことを認めないわけにはいかなかった。
夜中でもつい後悔の念に苛まれる、なんであの時あんなに暴言してしまったのか、なんでもっと言い分を聞いてやらなかったのか。もしもう少し彼女が穏やかに遠回しにやってればあるいは彼は耳を傾けてくれたかも知れない、気持ちも通じて風雨園に帰る気にもなってくれたかも。あの手の人種には強行手段じゃなく懐柔策でいどむべきだったのだ。
それなのにあたしは全部台無しにしてしまった!

彼女は全く意気消沈してしまったがそれが耿克毅の目に留まらないわけはない。老人は注意深く彼女を観察すると尋ねた。

「どうした。あの”X線”と喧嘩でもしたか」

彼女は力なく微笑み返した。

「お願いですからその”X線”はやめてくださいません?人には誰でもちゃんとした名前がありますわ。あの人は呉家駿です」

「”X線”のほうが呼びやすいがな」

老人は言った。

「よし、じゃあ呉医師ってことにしとこう。それであいつがお前を泣かすようなことをしたか」

「あの人とは関係ありません」

江雨薇ははっきり答えた。

「それにあの人とはそんな関係でもありません」

「ほう、そうか」

老人は仔細ありげに彼女を眺めた。

「それならいったいなにを悩んでおる」

「どうして私が悩んでるってわかります?」

「年期を積んでおるからな。わしに隠し事は無駄だぞ、お前は日曜日に帰って以来元気のゲの字もないわ。どうした?弟の学校のことか、金が要るのか?」

「いいえ、そんなことじゃありません」

彼女はあわてて打ち消した。

「弟達はよくやってます。上の弟は奨学金を貰いましたし下のほうはもうすぐ入学ですけどこっちも心配ありません」

彼女は微笑んだ。

「ですから、耿さんおかまいなく。私にはなんの問題もありません」

「なにかあれば言うんだぞ」

老人は意味ありげに彼女を見た。

「もしも困ったことがあるならわしも手助けになろう」

「はい、きっと!」

そう言うと彼女は背を向けた。でもどうすればいいの、悩みの原因がそもそもそっちに有るのに!彼女は知らず知らず大きなため息をついた。

「うん?」

老人は素早く反応した。

「どうかしたのか」

「・・」

彼女はとっさに繕った。

「昨晩、”百家詞”を読んでたんですけど、今その中の二つの句を思い出したんです」

「どの句だ」

「 心似双絲網 終有千千結
  心は一対のあざなえる網  やがては千千(ちぢ)にからまれり」

老人は少し考えて言った。

「思い出したぞ、欧陽修の詩だな。たしかその前はこうだった。

 天不老 情不絶
 天は老いず 情けは絶えず」

「その通りです」

老人はもう一度考えこんだ。

「で、それがお前の嘆息とどういう関係だ」

「ふと思ったんです。誰の心も網のように無数の結び目を持っていてそれをほどくことさえできれば煩悩もなくなる。でもそれを出来る人いるのかなって」

老人は彼女を見た。

「お前の心にもそんな結び目があるのか」

老人は尋ねた

「耿さんは?」

彼女は問い返した。

「ああ、あるな」

老人は認めた。

「ない人なんていません」

彼女は小さくため息をついた。

「人の気持ち、愛や恨み、それに憎しみも欲もみんなお互いからまりあってできていますもの」

老人は眉をひそめてそれ以上なにも言わなかった。そうして一日ずっとなにかを考えているようだった。木曜日がこうして過ぎた。

金曜日の朝早く李媽はまた新鮮な木犀を江雨薇の部屋に運んで来た。江雨薇は花を活けながらしょんぼりと言った。\

「李媽、あたしどうやらしくじっちゃったみたい!みんなの期待裏切って全部台無しだわ」

李媽は穏やかな笑みを彼女に向けた。

「そんなにすぐ物事は運びませんよ、江お嬢さん」\

彼女は慰めるように言った。

「”ぼっちゃん”の強情さは旦那様譲りですからね。小さい頃から決して引き下がろうとはしませんでしたよ」

「それなのになんでみんなあの人が気に入ってるんです?」

「そんな事以上に”ぼっちゃん”はやさしくて思いやりがあるからですよ!”ぼっちゃん”があたし達を慕ってくれるようにあたし達は”ぼっちゃん”を慕うんです。
旦那様もそうです、おおっぴらには気持ちを表さないけどあたし達は知ってます。あれは20年前です、あたしの夫は旦那様の工場で運送係をしてましたが、ある日仕事中、車にひかれてしまいました。もう誰も助からないだろうと言ってたのに旦那様は莫大なお金を使って治そうとしてくださいました。それでとうとう助かったんですけど顔には大きな傷跡が残って脚はびっこになりもうちゃんとした仕事はできなくなったんです。けど旦那様はそんなあたし達夫婦を自分のお屋敷に呼んでくれて今に至ってるってわけですよ、旦那様は公言こそしないけど、どれだけいっぱい人助けをしたことか!なのに自分自身といえば・・」

彼女は吐息をついた。

「あの歳になって側にいてくれる子供もいないなんてね」

李媽は部屋から出て行きかけながら振り向いて言った。

「でも江お嬢さん、あたしは諦めちゃいませんよ。”ぼっちゃん”は父親と同じで深い気持ちを持った子です。いつか絶対帰ってきますとも」

江雨薇はどうして老李がこの家に来たかを始めて知った。そして李媽と老李夫婦の耿老人に対する忠誠の理由も。おそらく趙運転手にも同じような経緯があるのだろう。けどそれでもわからない、一見薄情で粗暴きわまりない老人のどこにそんな優しさがあるのだろう。いや、これまで過ごした日々の中でそれは彼女自身がよくわかった事ではあるけれど。それにしても”ぼっちゃん”は本当に帰るの?

その日も夕餉の時間となった。李媽のつくる紅焼牛肉(牛肉の醤油煮)の食欲をそそる香りが風雨園に満ちた。老人の脚はかなり回復していたので今は食事をもう階下でとる事にしていた。腰をおろしたところで玄関の呼び鈴が鳴り老人は盛大に顔をしかめた。

「培華と培中でなければいいがな」

老人は憂鬱げに江雨薇に尋ねた。

「今日は金曜日か」

「いいえ木曜日です」

「弁護士の朱さんかも知れませんよ」

李媽が口をはさんだ。遠くで鉄の扉を開ける音に続いてバイクが屋敷の前に停まる音がした。彼ら全員の知る中でバイクに乗る人物はたった一人しかいない。老人は持った箸を落とし、眼を見開いた。江雨薇も背筋をすっくと伸ばし耳をそばだてた。李媽もポットの湯を注ごうとしたままの格好でぴくりとも動かない、さながら立ったまま座禅である。やがて玄関の扉が開き細身で長身の若い男が入って来た。ジーパンにジャケット、くしゃくしゃの髪に燃えるような瞳。相変わらずぶっきらぼうで強情さを全身から漂わせていた。

「よっ」

彼は食卓の前に来た。

「李媽、箸と茶碗をくれよ。李媽の紅焼牛肉はやっぱり最高だな。俺腹ぺこで今なら牛一頭でも喰っちまいそうだ」

李媽は数秒あっけにとられていたが突然夢から醒めたようにポットを置くとあわてて箸と椀を取りに走った。慌てすぎてただやみくもに口ばしってる。

「そうね箸とお椀、箸とお椀、それからお酒一本、それからええっと肴ももっといるし、そうだ肉ダンゴ、昔から肉ダンゴ好きだったものね・・」

李媽は両目にいっぱい涙を溜めたまま右往左往した。若塵はやがて彼の父親を見つめた。親子二人の視線は空中でぶつかりあい室内は静まりかえった。ひたすら静かで物音ひとつしない。江雨薇は自分の胸の鼓動を聞いた。

そしてついに老人が口を開いた。冷ややかに。

「お前はどこから来た」

「天国でもなきゃ地獄でもないさ」

その若者は落ち着きはらって答えた。

「しばらくあっちこっちぶらついてた、そして今帰って来た」

「どうしてだ」

老人は犯人を尋問するように尋ねた。

「疲れたからさ」

彼は平然と答えた。

「土産に何を持って帰ってきた」

老人は再度尋ねた。

「辛酸、埃、疲労、それに・・」

彼は老人をにらんだ。

「まだもっと喋らなきゃいけないか?俺の持ち物なんて知れてるぜ」

老人は近くにあった椅子を彼の方に推しやった。その手が震えている。

「座れ!」

老人は言った。

「どうやらまず腹をふくらますのが先だな」

若塵はどっかと椅子に腰かけた。江雨薇を正面にして彼の眼は彼女をじっと見据えている。

「お前達は顔見知りのようだな」

「ああ」

若塵の眼は江雨薇を離さなかった。

「とっくにね。一体全体どこでこのへんてこな看護婦を見つけ出してきたんだい、この子は自分が天から遣わされた人間界の執行官だと思ってるらしい」

老人はちらりと江雨薇を見ると若塵に言った。

「お前のとこで彼女がなにか面白い出し物でもしたかな?」

江雨薇はすばやく咳を一つすると立ち上がった。自分の行為を老人に知られたくなかった彼女は急に思いついたように言った。

「ちょっとお酒をお持ちしますわ、皆さんなにがお好みかしら?紅酒でいい?今夜はおつきあいします!」

彼女は酒棚のところへ行くとグラスと瓶をそそくさと用意した。二人の親子の視線が自分に向けられているのに彼女は肩をすくめて応え老人と若塵のグラスを満たした。若塵の視線は彼女から父親へ移った。

「どんな出し物をしたかって?」

若塵ははっきりと答えた。

「要するに俺に”たいまつ”を貸してくれたのさ」

「うん?」

老人は眉をひそめた。

「どういうことだ」

「古いおとぎ話さ」

若塵は酒を一口啜った。

「ある男が長くてつらい旅をしていた。男は深く暗い森の中に迷いこんで右も左もわからなくなってしまった。出口は見つからない。イバラの棘が刺さりツタが脚にからまる。その時一人のたいまつを持った女性が現れて男を密林の外へ連れ出してくれた」

「ふむ」

老人は江雨薇を見た。

「だが話はこれで終わりじゃない」

若塵は続けた。

「その女性が果たして天使なのかあるいは魔女なのか、それに密林の外が天国なのか地獄なのか結末はわからないんだ」

江雨薇はそこで思わず顔を上げ長い髪をかき上げた。

「はいお話はそこまで!」

ふくれっ面で彼女は言った。

「天国でも地獄でもかまわないじゃないの、どっちみちもう来ちゃったんだしね!それに私もお腹ぺこぺこです!」

「ちょっと待ってくれ」

グラスをかかげた老人のその声はすでに温かさにあふれていた。

「雨薇、みんなの為に乾杯しようじゃないか」

老人は彼女を見つめた。

「一緒に杯をあけてくれないか」

そして老人は自分の息子の方を向いた。

「お前はいつも飲んべえだったな、若塵!」

老人はそう言うと自らの杯を飲み干した。江雨薇も迷わず一気にグラスを干した。若塵を見ると彼もとっくに空っぽだ。酒は見る間に三人の顔を赤く染め若塵は次の酒を三つのグラスに注いだ。彼は突然グラスを高くかかげると叫んだ。

「息子の帰還は金じゃ買えないぜ、親爺。あんたの放蕩息子の為にもう一度乾杯してくれ。それからあんたも」

若塵は江雨薇に言った。

「なんて呼べばいいのかな。天使?それとも魔女か?」

「女帝がよかろう」

父親の意見である。

「え?女帝だって?」

若塵は江雨薇を横目で見ると爆発したように笑った。笑いながら老人の肩を叩きいかにも楽しそうに言った。

「最高だな、女帝か。実にぴったりだ。この子は誰も口にできなかったような文句で俺に説教したんだ。女帝以外に思いつかないや。親爺の頭もまだ耄碌しちゃいないな」

「このどら息子」

老人も笑い出した。一旦笑い出すと親子はまるでそっくり同じように見えた。

「お前のあけっぴろげなとこも変わっとらんな」

二人は共に笑いお互いの肩を叩きあい酒を酌み交わした。江雨薇は一幕の出来過ぎた父子再会のドラマを見ている思いがした。二人はどちらも努めて自分が道化になろうとしてふるまっているのだ。彼女は自分の目頭が熱くなっていくのを感じた。そして涙があふれるのを抑えることはできなかった。彼女は視界がぼやけだしたのでひそかに席をはずそうと椅子を引いた。
けれどめざとくそれを見つけた若塵が素早く近づくと彼女の腕をとりそして耿老人に言った。

「この子はこっそり抜け出そうとしてるよ、親爺行かせちゃっていいのかい?」

「いいや」

老人は首を振った。

「まだ早い。飲んでもらわんとな」

「聞こえたかい?」

だが若塵はそこで彼女の眼に光る涙に気づいた。彼はなにか熱いものに触れたように手を離した。

「おいおいおい」

彼はびっくりした。

「泣かないでくれよ。からかおうと思ったんじゃないんだ。ね?」

彼は助けを求めるように父親を見た。

「親爺、俺達なにかへんな事言ったかな?」

江雨薇は顔を数回振った。

「誰も泣いたりしてないわよ」

彼女が手で眼をこすると涙の粒がいくつかこぼれ落ち、そのままの涙目で彼女はにっこり微笑んだ。

「あたし笑ってるじゃない」

そして彼女は叱るように言った。

「もっとちゃんと見てよ!」

「息子よ」

老人が言った。

「彼女は笑ってるぞ。お前の見間違いだ」

「そうかい?」

若塵は杯を上げた。

「じゃあ、もう一度乾杯だ!」

三人は再び杯を干しそしてまた満たした。出来上がった肉ダンゴを持ってやって来た李媽はそれぞれが笑いあいうちとけあう様子にうっとりして盆を置くと
忙しそうに言った。

「”ぼっちゃん”、あたしはお部屋を片づけときますよ」

「ああわかった」

若塵は手を振った。

「それから忘れないでね、俺に・・」

「とびっきり濃いお茶でしょ!」

李媽は言葉を継いだ。

「わあ!」

若塵は大声で笑いながら言った。

「李媽、抱きついたってかまわない?」

「なに言ってんですか!」

李媽は階段を上りながら笑って答えた。

「もう子供じゃないんですからね!」

李媽が階上へ消えるのを眼で追った若塵はもう一度耿老人と視線を交わした。今度は彼の口元から笑みはなくなりゆっくりと真摯な眼差しへ変わっていった。ゆっくりと表情がこわばりゆっくりと彼は手を父親のほうへ伸ばした。

「父さん」

彼はもはや道化を演じていなかった。低い声で彼は言った。

「父さんはこの迷い子を受け入れてくれるの?」

耿克毅も笑わなかった。そのかわりやはり真摯な眼差しで息子を見つめ優しく語りかけた。

「若塵、わしはお前を4年待ってたんだ」

親子は手を握りあった。耿克毅はようやくこう言った。

「よく帰ってきてくれた、我が子よ」

「もう放浪はしないよ」

若塵は答えた。江雨薇は再びそっと立ち上がった。今度は若塵も引き留めなかった。彼の心は全て父親の元にあるのだ。江雨薇もわかっていた。彼ら親子には今長い彼らだけの理解の時間が必要なのだ。過去のさまざまから誰も予測し得ない未来にいたるまでの多くの事柄についての。
彼女はそっと席を去り静かに二階へ上がり音もたてずにドアを閉めた。彼女はベッドに仰向けになりぼんやりと今日老人が口にした詩を思い出した。

「天不老 情難絶

 心似双絲網 

 終有千千結  」

一つの「心の結び目」はほどかれた。彼女は微笑むと窓の外の星空を眺めた。この世にはいったいいくつの「結び目」があるのだろう。あの星達と同じくらい限りなくだろうか。そして「天は老いず 情けも絶えず」それもまた人生なのか?

【第9章】終わり
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 楼主| 发表于 2006-5-22 15:57:15 | 显示全部楼层
小ネタをひとつ。笑い話です。

  ==================

もうすぐクリスマス。小学生の由美ちゃんはサンタクロースのおじさんが何をくれるか、とても楽しみです。

由美ちゃんは毎日、寝る前に神様にお祈りをしました。

「神様、サンタクロースのおじさんが、可愛いドレスをくれますように。」

それを見ていたお母さんは、クリスマスの夜、由美ちゃんが眠ってから、枕もとに、ドレスの入った箱を置きました。

翌朝、目が醒めた由美ちゃんはドレスの箱を見て喜びましたが、箱を開けると、お母さんに聞こえるように、こう言いました。

「神様、ドレスを有り難うございます。でも来年は絶対、お母さんに買わせないでください。だってお母さんは服のセンスが全然無いんだもの!」

  ===========

中国の子供達もサンタクロースを信じているんでしょうか(^^)
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