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楼主: uin61

[其他翻译] 日本語小説「怪人二十面相」

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 楼主| 发表于 2009-2-20 10:19:12 | 显示全部楼层

回复 89# uin61 的帖子

「そ、それじゃ、き、貴様は・・・・・・。」
老人はやっと、事のしだいが呑み込めてきました。そして愕然として色を失ったのでした。
「ハハハ・・・・・・、お分かりになりましたかね。」
「いや、いや、そんな馬鹿な事があるはずはない。わしは新聞を見たのじゃ。『伊豆日報』にちゃんと『明智探偵来修』と書いてあった。それから、富士屋の女中がこの人だと教えてくれた。どこにも間違いはないはずじゃ。」
「ところが大間違いがあったのですよ。なぜって、明智小五郎は、まだ、外国から帰りやしないのですからね。」
「新聞がうそを書くはずはない。」
「ところが、うそを書いたのですよ。社会部の一人の記者が、こちらの計略にかかってね、編集長に、うその原稿を渡したってわけですよ。」
「フン、それじゃ刑事はどうしたんじゃ。まさか警察が偽の明智探偵にごまかされるはずはあるまい。」
老人は、目の前に立ちはだかっている男を、あの恐ろしい二十面相だとは、信じたくなかったのです。無理にも明智小五郎にしておきたかったのです。
「ハハハ・・・・・・、ご老人、まだそんなことを考えているのですか。血の巡りが悪いじゃありませんか。刑事ですって?あ、この男ですか、それから表門裏門の番をした二人ですか、ハハハ・・・・・・、何ね、僕の子分がちょいと刑事の真似をしただけですよ。」
老人は、もう信じまいとしても信じないわけにはいきませんでした。明智小五郎とばかり思い込んでいた男が、名探偵どころか、大盗賊だったのです。恐れに恐れていた怪盗二十面相。その人だったのです。
ああ、なんと言う飛び切りの思い付きでしょう、探偵が、すなわち、盗賊だったなんて。日下部老人は、人もあろうに二十面相に宝物の番人を頼んだわけでした。
「ご老人、昨夜のエジプトたばこの味はいかがでした。ハハハ・・・・・・、思い出しましたか。あの中にちょっとした薬が仕掛けてあったのですよ。二人の刑事が部屋へ入って、荷物を運び出し、自動車へ積み込む間、ご老人に一眠りしてほしかったものですからね。あの部屋へどうして入ったかとおっしゃるのですか。ハハハ・・・・・・、わけはありませんよ。貴方の懐から、ちょっと鍵を拝借すればよかったのですからね。」
二十面相は、まるで世間話でもしているように、穏やかな言葉を使いました。しかし、老人にしてみれば、嫌に丁寧すぎるその言葉遣いが、いっそう腹立たしかったに違いありません。
「では、僕たちは急ぎますから、これで失礼します。美術品は十分注意して、大切に保管するつもりですから、どうかご安心ください。では、さようなら。」
二十面相は、丁寧に一礼して、刑事に化けた部下を従え、悠然と、その場を立ち去りました。
かわいそうな老人は、何か分けの分からぬことを喚きながら、賊の後を追おうとしましたが、体十分をぐるぐる巻きにした縄の端が、そこの柱に縛り付けてあるので、ヨロヨロと立ち上がっては見たものの、すぐバッタリと倒れてしまいました。そして、倒れたまま、悔しさと悲しさに、歯軋りを噛み、涙さえ流して、身もだえするのでありました。

                 巨人と怪人
美術城の事件があってから半月ほどたった、ある日の午後、東京駅のプラットホームの人混みの中に、一人の可愛らしい少年の姿が見えました。ほかならぬ小林芳雄君です。読者諸君には御馴染みの明智探偵の少年助手です。
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发表于 2009-2-23 13:42:23 | 显示全部楼层
早く更新してほしい!本当に面白いと思いますわ!
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 楼主| 发表于 2009-2-24 16:12:33 | 显示全部楼层

回复 91# uin61 的帖子

小林君は、ジャンパー姿で、よく似合う鳥打帽をかぶって、ピカピカ光る靴をコツコツ言わせながら、プラットホームをいったり来たりしています。手には、一枚の新聞紙を棒のように丸めて握っています。読者諸君、実はこの新聞には二十面壮に関する、ある驚くべきの記事が載っているのですが、しかし、それについては、もう少し後でお話しましょう。
小林少年が東京駅へやってきたのは、先生の明智小五郎を出迎えるためでした。名探偵は、今度こそ、本当に外国から帰ってくるのです。
明智は某国からの招きに応じ、ある重大な事件に関係し、見事に成功を収めて帰ってくるのですから、いわば凱旋将軍です。本来ならば、外務省とか民間団体から、大勢の出迎えがあるはずですが、明智はそういう仰々しい事が大嫌いでしたし、探偵と言う職業上、出来るだけ人目につかぬ心がけをしなければなりませんので、公の方面にはわざと通知をしないで、ただ自宅だけに東京駅着の時間を知らせておいたのでした。それも、いつも明智夫人は出迎えを遠慮して、小林少年が出かける慣わしになっていました。
小林君は、しきりと腕時計を眺めています。もう五分経つと、待ちかねた明智先生の汽車が到着するのです。ほとんど、三月ぶりでお会いするのです。懐かしさに、なんだか胸がわくわくするようでした。
ふと気が付くと、一人の立派な紳士が、ニコニコ笑顔を作りながら、小林少年に、近づいてきました。
ねずみ色の暖かそうなオーバー・コート、籐のステック、半白の頭髪、半白の口ひげ、でっぷり太った顔に、鼈甲縁のめがねが光っています。先方では、ニコニコ笑いかけていますけれど、小林君はまったく見知らぬ人でした。
「もしや君は、明智さんのところの方じゃありませんか。」
紳士は、太い優しい声で訪ねました。
「ええ、そうですが・・・・・・。」
怪訝顔の少年の顔を見て、紳士は頷きながら、
「私は、外務省の辻野と言う者だが、この列車で明智さんが帰られる事が分かったものだから、非公式にお出迎えに来たのですよ。少し内密の用件もあるのでね。」と説明しました。
「ああ、そうですか。僕、先生の助手の小林っていうんです。」
帽子を取って、お辞儀をしますと、辻野氏はいっそうにこやかな顔になって、
「ああ、君の名は聞いていますよ。実は、いつか新聞に出た写真で、君の顔を見覚えていたものだから、こうして声を掛けたのですよ。二十面相の一騎打ちは見事でしたねえ。君の人気はたいしたものですよ。私のうちの子供たちも大の小林ファンです。ハハハ・・・・・・。」
と、しきりに褒めたてるのです。
小林君は少し恥ずかしくなって、パッと顔を赤くしないではいられませんでした。
「二十面相といえば、修善寺では明智さんの名目を語ったりして、随分思い切ったまねをするね。それに、今朝の新聞では、いよいよ国立博物館を襲うのだって言うじゃないか。実に警察を馬鹿に仕切った、呆れた態度だ。決してうっちゃってはおけませんよ。あいつを叩き潰すためだけでも、明智さんが帰ってこられるのを、僕は待ちかねていたんだ。」
「ええ、僕もそうなんです。僕、一生懸命やってみましたけれど、とても、僕の力には及ばないのです。先生に敵討ちをしてほしいと思って、待ちかねていたんです。」
「君が持っている新聞は、今朝の?」
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 楼主| 发表于 2009-2-26 10:41:22 | 显示全部楼层

回复 93# uin61 的帖子

「ええ、そうです。博物館を襲うって言う予告状の載っている新聞です。」
小林君はそう言いながら、その記事の載っている個所を広げて見せました。社会面の半分ほどが二十面相の記事で埋まっているのです。その意味を掻い摘んで記しますと、昨日二十面相から国立博物館長に当てて速達便が届いたのですが、それには、博物館所蔵の美術品を一点も残らず、ちょうだいするという、実に驚くべき宣告文が認めてあったのです。例によって十二月十日という盗み出しの日付まで、ちゃんと明記してあるではありませんか。十二月十日と言えば、余すところ、もう九日間しかないのです。
怪人二十面相の恐るべき野心は、頂上に達したように思われます。あろう事か、あるましことか、国家を相手にして戦おうと言うのです。今まで襲ったのはみな個人の財宝で、憎むべき仕業には違いありませんが、世に例のないことではありません。しかし、博物館を襲うというのは、国家の所有物を盗むことになるのです。昔から、こんな大それた泥棒を、目論んだものが、一人だってあったでしょうか。大胆とも無謀とも言い様のない恐ろしい盗賊です。
しかし考えて見ますと、そんなむちゃな事が、いったい出来る事でしょうか。博物館と言えば、何十人と言うお役人がつめているのです。守衛もいます。お巡りさんもいます。その上、こんな予告をしたんでは、どれだけ警戒が厳重になるかもしれません。博物館全体をお巡りさんの人が気で取り囲んでしまうようなことも、起こらないとはいえません。
ああ、二十面相は気でも狂ったのではありますまいか。それとも、あいつには、このまるで不可能としか考えられない事をやって退ける自身があるのでしょうか。人間の知恵では想像もできないような、悪魔の謀があるとでも言うのでしょうか。
さて、二十面相のことはこのくらいに止め、私たちは明智名探偵を迎えなければなりません。
「ああ、列車が来たようだ。」
辻野氏が注意するまでもなく、小林少年はプラットホームの端へ飛んでいきました。
出迎えの人がきの前列に立って左の方を眺めますと、明智探偵を乗せた急行列車は、刻一刻、その形を大きくしながら、近づいてきます。
サーッと空気が震動して、黒い鋼鉄の箱が目の前を掠めました。チロチロと過ぎていく客車の窓の顔、ブレーキの軋りとともに、やがて列車が停止しますと、一等車の昇降口に、懐かしい懐かしい明智先生の姿が見えました。黒い背広に、黒い外套、黒いソフト帽という、黒ずくめのいでたちで、早くも小林少年に気づいて、ニコニコしながら手招きをしているのです。
「先生、お帰りなさい。」
小林君は嬉しさに、もう無我夢中になって、先生の側へ駆け寄りました。
明智探偵は赤帽にいくつかのトランクを渡すと、プラットホームへ降り立ち、小林君のほうへ寄ってきました。
「小林君、いろいろ苦労をしたそうだね。新聞ですっかり知っているよ。でも、無事でよかった。」
ああ、三月ぶりで聞く先生の声です。小林君は上気した顔で名探偵をじっと見ながら、いっそう、その側へ寄り添いました。そして、どちらからともなく手が伸びて、師弟の硬い握手が交わされたのでした。
その時、外務省の辻野氏が、明智のほうへ歩み寄って、肩書きつきの名刺を差し出しながら、声をかけました。
「明智さんですか、掛け違ってお目にかかっていませんが、私はこういうものです。実は、この列車でお帰りの事を、ある筋から耳にしたものですから、急に内密でお話したい事があって、出向いてきたのです。」
明智は名刺を受け取ると、なぜか考え事でもするように、しばらくそれを眺めていましたが、やがて、ふと気を変えたように、快活に答えました。
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发表于 2009-2-27 13:33:38 | 显示全部楼层
頑張ってね!私が何も手伝う事が出来ないけど、応援するからよ!今後、いっぱいの面白い小説を読めれば、どのぐらいの幸せだなと思ってきた!本当に小説が大好きだよね!私
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发表于 2009-2-27 15:02:38 | 显示全部楼层
楼主的翻译真的非常厉害,佩服佩服!以下是我的翻译,跟楼主相差甚远!
1.前言
那时候,在东京街道,家中.只要2人以上的人见了面,宛如见到面打招呼一样地谈论怪人[二十容貌]的谣言。
[二十容貌]就是这不可思议盗贼的绰号,每天每天都在报纸上闹得沸沸扬扬。据说那个贼拥有二十个人不同的容貌。是乔装的高手。
即使在如何光亮的比方、如何靠近观看、完全看不出有点一点乔装成分。看上去简直是不同的一个人。据说那个贼可以乔装成任何人;例如:老人、年轻人、富豪、乞丐、学者、无赖汉、甚至女性都可以。
那么,那个贼真实年龄有多大了呢?是怎么的面貌呢?从来没有人见过。拥有二十种的面貌,在那当中,那个是他真正的面貌呢?谁也不知道。搞不好,那贼自己也忘了自己本来的面貌。总是以不同的面貌和样子出现在别人的面前。
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 楼主| 发表于 2009-3-3 10:02:08 | 显示全部楼层

回复 94# uin61 的帖子

「ああ、辻野さん、そうですか。お名前はよく存じています。実は、僕も一度帰宅して、着替えをしてから、すぐに、外務省の方へ参るつもりだったのですが、わざわざ、お出迎えを受けて恐縮でした。」
「お疲れのところを何ですが、もしお差し支えなければ、ここの鉄道ホテルで、お茶を飲みながらお話したいのですが、決してお手間は取らせません。」
「鉄道ホテルですか。ホウ、鉄道ホテルでね。」
明智は辻野氏の顔をじっと見つめながら、何か感心したように呟きましたが、
「ええ、僕はちっとも差し支えありません。では、お供しましょう。」
それから、少しはなれたところに待っていた小林少年に近づいて、何か小声に囁いてから、
「小林君、ちょっとこの方とホテルへよる事にしたからね、君は荷物をタクシーに載せて、一足先に帰ってくれたまえ。」
と命じるのでした。
「ええ、では、僕、先へ参ります。」
小林君は赤帽の後を追って、駆け出していくのを見送りますと、名探偵と辻野氏とは、肩を並べ、さも親しげに話し合いながら、地下道を抜けて、東京駅の二階にある鉄道ホテルへ上っていきました。
あらかじめ命じてあったものと見え、ホテルの最上等の一室に、客を迎える用意が出来ていて、恰幅の良いボーイ長が、恭しく控えています。
二人が立派な織物で覆われた丸テーブルを挟んで、安楽いすに腰を下ろしますと、待ち構えていたように、別のボーイが茶菓を運んできました。
「君、少し密談があるから、席を外してくれたまえ。ベルを押すまで、誰も入ってこないように。」
辻野氏が命じますと、ボーイ長は一礼して立ち去りました。締め切った部屋の中に、二人きりの差し向かいです。
「明智さん、僕は、どんなにか君に会いたかったでしょう。一日千秋の思いで待ちかねていたのですよ。」
辻野氏は、いかにも懐かしげに、微笑みながら、しかし目だけは鋭く相手を見つめて、こんなふうに話し始めました。
明智は、安楽いすのクッションにふかぶかと身を静め、辻野氏に劣らぬ、にこやかな顔で答えました。
「僕こそ、君に会いたくて仕方がなかったのです。汽車の中で、ちょうどこんな事を考えていたところでしたよ。ひょっとしたら、君が駅へ迎えに来ていてくれんじゃないかとね。」
「さすがですねえ。すると、君は、僕の本当の名前もご存知でしょうねえ。」
辻野氏の何気ない言葉には、恐ろしい力がこもっていました。興奮のために、いすの肘掛けに乗せた左手の先が、かすかに震えていました。
「少なくとも、外務省の辻野氏でないことは、あの、実しやかな名刺を見た時から、分かっていましたよ。本名と言われると、僕も少し困るのですが、新聞なんかでは、君の事を怪人二十面相と呼んでいるようですね。」
明智は平然として、この驚くべき言葉を語りました。ああ、読者諸君、これがいったい、本当の事でしょうか。盗賊が探偵を出迎えるなんて。探偵のほうでも、とっくに、それと知りながら、賊の誘いに乗り、賊のお茶を呼ばれるなんて、そんなばかばかしいことが起こり得るものでしょうか。
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 楼主| 发表于 2009-3-3 10:13:44 | 显示全部楼层

回复 96# kouunfuu 的帖子

褒めていただいて、ありがとうございます。
翻訳した文章は、そんなにすごい良いとは思っていません、けれども、翻訳する時に何回も修正してから、今の文章にしました。

実は、私の中国語あまり上手ではなくて、間違えたところがあれば、皆さんに指摘してもらいたいと思います。

そして、上の方、自分の日本語能力はだめと思い込まないでください。誰でも下手の時もあるから、そのうちきっと上手になれますよ。
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 楼主| 发表于 2009-3-5 10:03:12 | 显示全部楼层

回复 97# uin61 的帖子

「明智君、君は、僕が想像していたとおりの方でしたよ。最初僕を見た時から気づいていて、気づいていながら僕の招待に応じるなんて、シャーロック = ホームズにだってできない芸当です。僕は実に愉快ですよ。なんて生きがいのある人生でしょう。ああ、この興奮の一時のために、僕は生きていてよかったとおもうくらいですよ。」
辻野氏に化けた二十面相は、まるで明智探偵を崇拝しているかのように言うのでした。しかし、油断は出来ません。彼は国中を敵に回している大盗賊です。ほとんど死に物狂いの冒険を企てているのです。そこには、それだけの用意がなくてはなりません。御覧なさい。辻野氏の右手は、洋服のポケットに入れられたまま、一度もそこから出ないではありませんか。いったいポケットの中で何を握っているのでしょう。
「ハハハ・・・・・・、君は少し興奮しすぎているようですね。僕には、こんな事は、いっこうに珍しくもありませんよ。だが、二十面相君、君には少しお気の毒ですね。僕が帰ってきたので、せっかくの君の大計画も無駄になってしまったのだから。僕が帰ってきたからには、博物館の美術品には一指も染めさせませんよ。また、伊豆の日下部家の宝物も、君の所有品にはしておきませんよ。いいですか、これだけははっきり約束しておきます。」
そんなふうに言うものの、明智もなかなか楽しそうでした。深く吸い込んだ、タバコの煙を、フーッと相手の面前に吹き付けて、ニコニコ笑っています。
「それじゃ、僕も約束しましょう。」
二十面相も負けていませんでした。
「博物館の所蔵品は、予告の日には、必ず奪い取ってお目にかけます。それから、日下部家の宝物・・・・・・、ハハハ・・・・・・、あれが返せるものですか。なぜって、明智君、あの事件では、君も共犯者だったじゃありませんか。」
「共犯者?ああ、なるほどねえ。君はなかなか洒落がうまいねえ。ハハハ・・・・・・。」
互いに、相手を滅ぼさないではやまぬ、激しい敵意に燃えた二人、大盗賊と名探偵は、まるで、親しい友達のように談笑しております。しかし、二人とも、心の中は、寸分の油断もなく張り切っているのです。
これほどの大胆の仕業をする賊のことですから、その裏面には、どんな用意が出来ているか分かりません。恐ろしいのは賊のポケットのピストルだけではないのです。
最前の一癖有り気なボーイ長も、賊の手下でないとは限りません。そのほかにも、このホテルの中には、どれほど賊の手下が紛れ込んでいるか、知れたものではないのです。
今の二人の立場は剣道の達人と達人とが、白刃を構えて睨み合っているのと、少しも変わりはありません。気力と気力の戦いです。うの毛ほどの油断が、たちどころに勝負を決してしまうのです。
二人は、ますます愛敬よく話し続けています。顔はにこやかに笑み崩れています。しかし、二十面相の額には、この寒いのに、汗の玉が浮いていました。二人とも、その目だけは、まるで火のように、らんらんと萌え輝いていました。
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 楼主| 发表于 2009-3-6 10:41:30 | 显示全部楼层

回复 99# uin61 的帖子

              トランクとエレベーター
名探偵は、プラットホームで賊を捕らえようと思えば、何のわけもなかったのです。どうして、この好機会を見逃してしまったのでしょう。読者諸君は、悔しく思っているかもしれませんね。
しかし、これは名探偵の自信がどれほど強いかを語るものです。賊を見くびっていればこそ、こういう放れわざができるのです。探偵は博物館の宝物には、賊の一指をも染めさせない自信がありました。例の美術城の宝物も、その他の数え切れぬ盗難品も、すっかり取り返す信念がありました。
それには、今、賊を捕らえてしまっては、かえって不利なのです。二十面相には、多くの手下があります。もし首領が取られたならば、その部下のものが、盗みためた宝物を、どんなふうに処分してしまうか、知れたものではないからです。逮捕は、その大切な宝物の隠し場所を確かめてからでも遅くはありません。
そこで、せっかくで迎えてくれた賊を、失望させるよりは、いっそ、その誘いに乗ったと見せかけ、二十面相の知恵の程度を試してみるのも、一興であろうと考えたのでした。
「明智君、今の僕の立場というものを、一つ想像してみたまえ。君は、僕を捕らえようと思えば、何時だって出来るのですぜ。ほら、そこのベルを押せばいいのだ。そしてボーイにお巡りさんを呼んで来いと命じさえすればいいのだ。ハハハ・・・・・・、なんて素晴らしい冒険だ。この気持ち、君に分かりますか。命がけですよ。僕は今、何十メートルとも知れぬ絶壁の、突端に立っているのですよ。」
二十面相はあくまで不敵です。そういいながら、目を細くして探偵の顔を見つめ、さも可笑しそうに大声に笑い出すのでした。
「ハハハ・・・・・・。」
明智小五郎も、負けない大笑いをしました。
「君、何もそうビクビクすることはありゃしない。君の正体を知りながら、ノコノコここまでやってきた僕だもの、今、君を捕らえる気なんか少しもないのだよ。僕はただ、有名な二十面相君と、ちょっと話してみたかっただけさ。なあに、君を捕らえる事なんか、急ぐ事はありゃしない。博物館の襲撃まで、まだ九日間もあるじゃないか。まあ、ゆっくり、君の無駄骨折りを拝見するつもりだよ。」
「ああ、さすがは名探偵だねえ。太っ腹だねえ。僕は、君に惚れ込んでしまったよ・・・・・・。ところでと、君の方で僕を捕らえないとすれば、どうやら、僕の方で、君を虜にすることになりそうだねえ。」
二十面相は段々、声の調子をすごくしながら、ニヤニヤと薄気味悪く笑うのでした。
「明智君、怖くはないかね。それとも君は、僕が無意味に君をここへ連れ込んだとでも思っているのかい。僕の方に、何の用意もないと思っているのかね。僕が黙って、君をこの部屋から外へ出すとでも、勘違いしているのじゃないのかね。」
「さあ、どうだかねえ。君がいくら出さないといっても、僕は無論ここを出て行くよ。これから外務省へ行かなければならない。忙しい体だからね。」
明智は言いながら、ゆっくり立ち上がって、ドアとは反対の方へ歩いていきました。そして、何か景色でも眺めるように、のんきらしく、ガラス越しに窓の外を見やって、軽くあくびをしながら、ハンカチを取り出して、顔をぬぐっております。
その時、何時の間にベルを押したのか、最前の頑丈なボーイ長と、同じく屈強なもう一人のボーイとが、ドアを開けてツカツカと入ってきました。そして、テーブルの前で、直立不動の姿勢をとりました。
「おい、おい、明智君、君は、僕の力をまだ知らないようだね。ここは鉄道ホテルだからと思って安心しているのじゃないかね。ところがね、君、たとえばこのとおりだ。」
二十面相はそう言っておいて、二人の大男のボーイのほうを振り向きました。
「君たち、明智先生にご挨拶申し上げるんだ。」
すると、二人の男は、忽ち二匹の野獣のような物凄い相好になって、いきなり明智を目がけて突き進んできます。
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 楼主| 发表于 2009-3-10 10:11:32 | 显示全部楼层

回复 100# uin61 的帖子

「待ちたまえ、僕をどうしようと言うのだ。」
明智は窓を背にして、キッと身構えました。
「分からないかね。ほら、君の足元をごらん。僕の荷物にしては少し大きすぎるトランクが置いてあるじゃないか。中は空っぽだぜ。つまり君の棺おけなのさ。この二人のボーイ君が、君をいま、そのトランクの中へ埋葬しようってわけさ。ハハハ・・・・・・。
さすがの名探偵も、ちっとは驚いたかね。僕の部下のものが、ホテルのボーイに入り込んでいようとは少し意外だったねえ。
いや、君、声を立てたって無駄だよ。両隣とも、僕の借りきりの部屋なんだ。それから念のために言っておくがね、ここにいる僕の部下は二人きりじゃない。邪魔の入らないように、廊下にもちゃんと見張り番がついているんだぜ。」
ああ、なんという不覚でしょう。名探偵は、まんまと敵のわなに陥ったのです。それと知りながら、このんで火の中へ飛び込んだようなものです。これほど用意が整っていては、もう逃れるすべはありません。
血の嫌いな二十面相のことですから、まさか命を奪うような事はしないでしょうけれど、なんといっても、賊にとっては警察よりも邪魔になる明智小五郎です。トランクの中へ閉じ込めて、どこか人知れぬ場所へ運び去り、博物館の襲撃を終わるまで、虜にしておこうと言う考えに違いありません。
二人の大男は問答無益とばかり、明智の身辺に迫ってきましたが、今にも飛び掛ろうとして、ちょっと躊躇っております。名探偵の身に備わる威力に打たれたのです。
でも、力では二人に一人、いや、三人に一人なのですから、明智小五郎が如何に強くても、かないっこはありません。ああ、彼は帰朝そうそう、早くもこの大盗賊の虜となり、探偵にとって最大の恥辱を受けなければならない運命なのでしょうか。ああ、ほんとうにそうなのでしょうか。
しかし、御覧なさい。われらの名探偵は、この危急に際しても、やっぱりあの朗らかな笑顔を続けているではありませんか。そして、その笑顔が、可笑しくてたまらないというように、だんだん崩れてくるではありませんか。
「ハハハ・・・・・・。」
笑い飛ばされて、二人のボーイは、狐にでも摘まれたように口をポカンとあいて、立ち竦んでしまいました。
「明智君、空威張りはよしたまえ。何が可笑しいんだ。それとも君は、恐ろしさに気でも違ったのか。」
二十面相は相手の真意を測りかねて、ただ毒口を叩くほかはありませんでした。
「いや、失敬、失敬、つい、君たちの大真面目なお芝居が面白かったものだからね。だが、ちょっと君、ここへ来てごらん。そして、窓の外を覗いてごらん。妙なものが見えるんだから。」
「何が見えるもんか。そちらはプラットホームの屋根ばかりじゃないか。変なことを言って一寸逃れをしようなんて、明智小五郎も、もうろくしたもんだねえ。」
でも、賊は、なんとなく気がかりで、窓の方へ近寄らないではいられませんでした。
「ハハハ・・・・・・、もちろん屋根ばかりさ。だが、その屋根の向こうに妙なものがいるんだ。ほらね、こちらの方だよ。」
明智は指差しながら、
「屋根と屋根との間から、ちょっと見えているプラットホームに、黒いものが蹲っているだろう。子供のようだね。小さな望遠鏡で、しきりと、この窓を眺めているじゃないか。あの子供、なんだか見たような顔だねえ。」
読者諸君は、それが誰だか、もうとっくにお察しの事と思います。そうです。お察しのとおり明智探偵の名助手小林少年です。小林君は例の七つ道具の一つ、万年筆型の望遠鏡で、ホテルの窓を覗きながら、何かの合図を待ち構えている様子です。
「あ、小林の小僧だな。じゃ、あいつは家へ帰らなかったのか。」
「そうだよ。僕がどの部屋へ入るか、ホテルの玄関で問い合わせて、その部屋の窓を、注意して見張っているように言いつけているのだよ。」
しかし、それが何を意味するのか、賊にはまだ呑み込めませんでした。
「それで、どうしようっていうんだ。」
二十面相は、段々不安になりながら、恐ろしい剣幕で、明智に詰め寄りました。
「これをごらん。僕の手をごらん。君たちが僕をどうかすれば、このハンカチが、ヒラヒラと窓の外へ落ちていくのだよ。」
見ると、明智の右の手首が、少し開かれた窓の下部から、外へ出ていて、その指先に真っ白なハンカチが抓まれています。
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 楼主| 发表于 2009-3-12 09:58:55 | 显示全部楼层

回复 101# uin61 的帖子

「これが、合図なのさ。すると、あの子供は駅の事務室に、駆け込むんだ。それから電話のベルが鳴る。そして警官隊が駆けつけて、ホテルの出入り口を固めるまで、そうだね、五分もあれば十分だとは思わないかね。僕は五分や十分、君たち三人を相手に抵抗する力はあるつもりだよ。ハハハ・・・・・・、どうだい、この指をパッと開こうかね、そうすれば、二十面相逮捕の素晴らしい大場面が、見物できようというものだが。」
賊は、窓の外に突き出された明智のハンカチと、プラットホームの小林少年の姿とを、見比べながら、悔しそうにしばらく考えていましたが、結局、不利と悟ったのか、やや顔色を和らげていうのでした。
「で、もし僕の方で手を引いて、君を無事に帰す場合には、そのハンカチは落とさないで済ますつもりだろうね。つまり、君の自由と僕の自由との、交換と言うわけだからね。」
「無論だよ。さっきから言うとおり、僕の方には今君を捕らえる考えは少しもないのだ。もし捕らえるつもりなら、何もこんな回りくどいハンカチの合図なんかいりゃしない。小林君に、すぐ警察へ訴えさせるよ。そうすれば、今頃は君は警察の檻の中にいたはずだぜ。ハハハ・・・・・・。」
「だが、君も不思議な男じゃないか。そうまでして、この俺を逃がしたいのか。」
「うん、今やすやすと捕らえるのは、少し惜しいような気がするのさ。いずれ、君を捕らえるときには、大勢の部下も、盗みためた美術品の数々も、すっかり一網に手に入れてしまうつもりだよ。少し欲張りすぎているだろうかねえ。ハハハ・・・・・・。」
二十面相は長い間、さも悔しそうに、唇を噛んで黙り込んでいましたが、やがて、ふと気を変えたように、俄かに笑い出しました。
「さすがは明智小五郎だ。そうなくてはならないよ・・・・・・。マア気を悪くしないでくれたまえ。今のは、ちょっと君の気を引いてみたまでさ。決して本気じゃないよ。では、今日は、これでお別れとして、君を玄関までお送りしよう。」
でも、探偵は、そんな甘い口に乗って、すぐ、油断としてしまうほど、お人よしではありませんでした。
「お別れするのはいいがね。このボーイ諸君が少々目障りだねえ。まず、この二人と、それから廊下にいるお仲間を、台所の方へ追いやってもらいたいものだねえ。」
賊は、別に逆らいもせず、すぐボーイたちに、立ち去るように命じ、入り口のドアを大きく開いて、廊下が見通せるようにしました。
「これでいいかね。ほら、あいつらが階段を降りていく足音が聞こえるだろう。」
明智はやっと窓際を離れ、ハンカチをポケットに収めました。まさか鉄道ホテル全体が賊のために占領されているはずはありませんから、廊下へ出てしまえば、もう大丈夫です。少し離れた部屋には、客もいる様子ですし、その辺の廊下には、賊の部下でない、本当のボーイも歩いているのですから。
二人は、まるで、親しい友達のように、肩を並べて、エレベーターの前まで歩いていきました。エレベーターの入り口は開いたままで、二十歳ぐらいの制服のエレベーター・ボーイが、人待ち顔にたたずんでいます。
明智は何気なく、一足先にその中へ入りましたが、
「あ、僕はステッキ忘れた。君は先へ降りてください。」
二十面相のそういう声がしたかと思うと、いきなり鉄の扉がガラガラと閉まって、エレベーターは下降し始めました。
明智は早くもそれと悟りました。しかし、別に慌てる様子もなく、じっとエレベーター・ボーイの手元を見つめています。
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 楼主| 发表于 2009-3-13 10:42:03 | 显示全部楼层

回复 102# uin61 的帖子

すると案の定、エレベーターが二階と一階との中間の、四ほうを壁で取り囲まれた個所まで下ると、突然ぱったり運転が止まってしまいました。
「どうしたんだ。」
「すみません。機械に故障ができたようです。少しお待ちください。じき直りましょうから。」
ボーイは、申し訳なさそうに言いながら、しきりに、運転のハンドルのへんを弄くり回しています。
「何をしているんだ。退きたまえ。」
明智は鋭く言うと、ボーイの首筋を掴んで、グーッと後ろに引きました。それがあまりひどい力だったものですから、ボーイは思わずエレベーターの隅にしりもちをついてしまいました。
「ごまかしたってだめだよ。僕がエレベーターの運転ぐらい知らないと思っているのか。」
叱り付けておいて、ハンドルをカチッと回しますと、なんということでしょう。エレベーターは苦もなく下降を始めたではありませんか。
階下につくと、明智はやはりハンドルを握ったまま、まだしりもちをついているボーイの顔を、ぐっと鋭く睨みつけました。その眼光の恐ろしさ。年若いボーイは震え上がって、思わず右のポケットの上を、何か大切なものでも入っているように抑えるのでした。
機敏な探偵は、その表情と手の動きを見逃しませんでした。いきなり飛びついていって、抑えているポケットに手を入れ、一枚の紙幣を取り出してしまいました。千円札です。エレベーター・ボーイは、二十面相の部下のために、千円札で買収されていたのでした。
賊はそうして、五分か十分の間、探偵をエレベーターの中に閉じ込めておいて、その暇に階段の方からこっそり逃げ去ろうとしたのです。いくら大胆不敵の二十面相でも、もう正体が分かってしまった今、探偵と肩を並べて、ホテルの人たちや泊り客の群がっている玄関を、通り抜ける勇気はなかったのです。明智は決して捕らえないと言っていますけれど、賊の身にしては、それを言葉通り信用するわけにはいきませんからね。
名探偵はエレベーターを飛び出すと、廊下を一とびに、玄関へ駆け出しました。すると、ちょうど間に合って、二十面相の辻野氏が表の石段を、悠然と降りていくところでした。
「や、失敬、失敬、ちょっとエレベーターに故障があったものですからね、つい遅れてしまいましたよ。」
明智は、やっぱりニコニコ笑いながら、後ろから辻野氏の肩をポンと叩きました。
ハッと振り向いて、明智の姿をみとめた、辻野氏の顔といったらありませんでした。賊はエレベーターの計略が、てっきり成功するものと信じきっていたのですから。顔色を変えるほど驚いたのも、決して無理ではありません。
「ハハハ・・・・・・、どうかなすったのですか、辻野さん、少し顔色が良くないようですね。ああ、それから、これをね、あのエレベーター・ボーイから、貴方に渡してくれって頼まれてきました。ボーイが言ってましたよ、相手が悪くてエレベーターの動かし方を知っていたので、どうもご命令どおりに長く止めておくわけにはいきませんでした。悪しからずってね。ハハハ・・・・・・。」
明智はさも愉快そうに、大笑いをしながら、例の千円札を、二十面相の面前で二-三度ヒラヒラさせてから、それを相手の手に握らせますと、
「ではさようなら。いずれ近いうちに。」
といったかと思う、クルッと向きを変えて、何の未練もなく、後をも見ずに立ち去ってしまいました。
辻野氏は千円札を握ったまま、あっけに取られて、名探偵の後姿を見送っていましたが、
「チェッ。」
と、忌々しそうに舌打ちすると、そこに待たせてあった自動車を呼ぶのでした。
このようにして名探偵と大盗賊の初対面の小手調べは、見事に探偵の勝利に帰しました。賊にしてみれば、いつでも捕らえようと思えば捕らえられるのを、そのまま見逃してもらったわけですから、二十面相の名にかけて、これほどの恥辱はないわけです。
「この仕返しは、きっとしてやるぞ。」
彼は明智の後姿に、握りこぶしを振るって、思わず呪いの言葉を呟かないではいられませんでした。
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 楼主| 发表于 2009-3-17 10:28:19 | 显示全部楼层

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            二十面相の逮捕
「あ、明智さん、今、貴方をお尋ねするところでした。あいつは、どこにいますか。」
明智探偵は、鉄道ホテルから五十メートルも歩いたか歩かぬかに、突然呼び止められて、立ち止まらなければなりませんでした。
「ああ、今西君。」
それは警視庁捜査課勤務の今西刑事でした。
「ご挨拶はあとにして、辻野と自称する男はどうしました。まさか逃がしておしまいになったのじゃありますまいね。」
「君は、どうしてそれを知っているんです。」
「小林君がプラットホームでへんな事をしているのを見つけたのです。あの子供は、実に強情ですねえ。いくら訪ねてもなかなか言わないのです。しかし、手を変え品をかえて、とうとう白状させてしまいましたよ。あなたが外務省の辻野と言う男と一緒に、鉄道ホテルへ入られたこと、その辻野がどうやら二十面相の変装らしいことなどをね。早速外務省へ電話を掛けてみましたが、辻野さんはちゃんと省にいるんです。そいつは偽者に違いありません。そこで、貴方に応援するために、駆けつけてきたというわけですよ。」
「それはご苦労様、だが、あの男はもう帰ってしまいましたよ。」
「エッ、帰ってしまった?それじゃ、そいつは二十面相ではなかったのですか?」
「二十面相でした。なかなか面白い男ですねえ。」
「明智さん、明智さん、貴方何を冗談言っているんです。二十面相と分かっていながら、警察へ知らせもしないで、逃がしてやったとおっしゃるのですか。」
今西刑事は、あまりのことに、明智探偵の正気を疑いたくなるほどでした。
「僕に少し考えがあるのです。」
明智は、澄まして答えます。
「考えがあるといって、そういうことを、一個人の貴方が、勝手に決めてくださっては困りますね。いずれにしても賊と分かっていながら、逃がすと言う手はありません。僕は職務としてやつを追跡しないわけにはいきません。やつはどちらへ行きました。自動車でしょうね。」
刑事は、民間探偵の独り決めの処置を、しきりと憤慨しています。
「君が追跡すると言うなら、それはご自由ですが、恐らく無駄でしょうよ。」
「貴方のお指図は受けません。ホテルへ行って自動車番号を調べて、手配をします。」
「ああ、車の番号なら、ホテルへ行かなくても、僕が知ってますよ。一三八八七番です。」
「え、あなたは車の番号まで知っているんですか。そして、後を追おうともなさらないのですか。」
刑事は再び呆気に取られてしまいましたが、一刻を争うこの際、無駄な問答を続けているわけにはいきません。番号を手帳に書きとめると、すぐ前にある交番へ、跳ぶように走っていきました。
警察電話によって、この事が都内の各警察署へ、交番へと、瞬く間に伝えられました。
「一三八八七番を捕らえよ。その車に二十面相が外務省の辻野氏に化けて乗っているのだ。」
この命令が、東京全都のお巡りさんの心を、どれほど躍らせたことでしょう。われこそはその自動車を捕まえて、凶賊逮捕の名誉を担わんものと、交番という交番の警官が、目をさらのようにし、手ぐすね引いて待ち構えた事は申すまでもありません。
怪盗がホテルを出発してから、二十分もしたころ、幸運にも一三八八七番の自動車を発見したのは、新宿区戸塚町の交番に勤務している一警官でありました。
それはまだ若くて、勇気に富んだお巡りさんでしたが、交番の前を、規定以上の速力で、矢のように走り抜けた一台の自動車を、ヒョイと見ると、その番号が一三八八七番だったのです。
若いお巡りさんは、ハッとして、思わず武者震いをしました。そして、その後から走ってくる空車を、呼び止めるなり、飛び乗って、
「あの車だッ、あの車に有名な二十面相が乗っているんだ。走ってくれ。スピードはいくら出してもかまわん、エンジンが破裂するまで走ってくれッ。」と叫ぶのでした。

[ 本帖最后由 uin61 于 2009-3-17 10:29 编辑 ]
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发表于 2009-3-17 20:39:01 | 显示全部楼层

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