【天声人語】2006年09月16日(土曜日)付 # \4 e, n" f6 s1 |6 n& u5 W
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中世のドイツの町に不思議な男が現れる。男は、報酬をもらえるなら、人々を悩ませているネズミを全部退治してやると約束する。グリム兄弟の「ハーメルンの笛吹き男」の物語だ。9 _5 ~( M: z, j; A# M
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男が笛を吹くと、家々からネズミが現れ、男の後をついて川に入り、おぼれた。しかし、金が惜しくなった町の人たちは支払いを拒絶する。男が再び笛を吹くと、今度は子どもたちが集まってきて、男について町から消えてしまった。6 o* X8 [7 ^9 }/ i
$ b8 ?6 ~( c9 r- ^ 先週亡くなった歴史学者の阿部謹也さんは、この伝説を手がかりに、中世ヨーロッパの庶民の生活を浮き彫りにした「ハーメルンの笛吹き男」を著した。西洋史学でほとんどとりあげられなかった民俗学の分野や民間伝承、さらに都市下層民の生活に目を向けようとした、という(『阿部謹也著作集』筑摩書房)。
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$ `) u2 E n+ Y' V- [5 C 阿部さんは以前、「一言政治」で注目された小泉首相を「ハーメルンの笛吹き男」にたとえることについて、「自然なこと」と述べた。「小泉さんの言葉が空虚なのは、理念や理想が欠如したまま語られるから」(アエラ)。
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& Y1 z& t4 n, o& s, f そしてそれがまかり通るのは「私たち日本人全体が理念や理想を必要と思わず、今もって“社会”ではなく“世間”の中で生きているから、にほかならない」。“世間”とは「金や名誉、義理」などへの関心でできた世界のことだ。: }8 U" e# @7 a6 D( h6 _; d, ^
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小泉内閣で「構造改革」の旗振り役だった竹中総務相が、参院議員を辞任したいと述べた。任期は4年近く残っているが、「笛吹き男」と共に旗も去ってゆくのか。改革はまだこれからのはずなのに。 |