【天声人語】2006年09月23日(土曜日)付
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マイルス・デイビスとジョン・コルトレーンは、いずれも20世紀のジャズを代表する巨人だ。ふたりは26年の生まれで、マイルスは5月、コルトレーンは今日が誕生の日にあたる。存命ならそろって80歳だ。' k% \; \: A& c$ O9 w# z
* A0 {& Z. g& I% B! @" d マイルスはトランペット、コルトレーンはサックスで前人未到の地に立ったが、両人とも一時は麻薬中毒だった。「ヤクでやつれて、大酒を飲んでいるトレーンのひどい有り様を見るのは本当に嫌だった」と、先に抜け出したマイルスが述べている(『マイルス・デイビス自叙伝』宝島社文庫)。' o; h) @: i5 \7 G& I
+ t/ v& @! s" a 自叙伝によれば、コルトレーンがマイルスのバンドに居た頃、怒ったマイルスが楽屋でコルトレーンを殴りクビにした。『コルトレーンの生涯』(学研M文庫)に似た場面がある。「コルトレーンはまったく無抵抗のまま、マイルスのなすがままになっていた」
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. C b! D" W, k0 o6 U やがて麻薬と手を切ってマイルスのバンドに復帰し、更には独立してバンドを持った。そして64年、伝説のアルバム「至上の愛」を録音する。# R" S- A* `7 N& X3 y5 ~
# {* a+ K. A0 C+ H$ h 彼が「神へのささやかな贈り物」と記したこのレコードを初めて聴いた時、ジャズにはあまりなじみのない身にも、強く迫るものがあった。絞り出し、身をよじるような音の流れに、切なさを覚えた。' n+ ?7 l9 X$ z. P, n
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寺山修司が述べている。「ぼくらにとっても、白人にとっても黒人にとっても、結局全部だれにとっても、ジャズは外国人の音楽——故郷喪失の音楽だって気がした」(「ユリイカ」)。黒人にとって「異国」で生まれたジャズの核心には、そんな深い喪失感があるのかも知れない。 |