【天声人語】2006年10月12日(木曜日)付
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+ p' X& C9 M0 C! s x そろって小さな手をあげて、園児が道を渡ってゆく。そばを犬を連れた人が通る。色づいた木々の葉が散りかかる。こんな情景が身にしみるのは、深まる秋のせいだけではない。北朝鮮が核兵器を手にしたとすれば、今ここにある当たり前の平和が、いつか揺らぎかねないからだ。; E, t2 ~, J. N* q8 [# O( |4 `
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1914年に第一次世界大戦が始まったころ、ドイツの作家ヘルマン・ヘッセは「平和」という詩を書いた。「みんなそれを持っていた。/だれもそれを大切にしなかった……おお、平和という名は今なんという響きを持つことか!」(高橋健二訳)。3 o. G8 m5 X4 M- `
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開戦で、学者や作家は感激的な調子で愛国心をあおった。世界市民的な思いが強かったヘッセは、住んでいたスイスの新聞に書いた。「愛は憎しみより美しく、理解は怒りより高く、平和は戦争より高貴だ」
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彼は裏切り者、売国奴とののしられ脅迫を受けたという。それでも二つの大戦に反対し続け、終結した45年に「平和に向って」を書く。
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, n* S6 j, E9 l4 h: f 「『平和!』だが、心は敢(あ)えて喜ぼうとしない。/心には涙のほうがずっと近いのだ。/私たち哀れな人間は/善いことも悪いこともできる。/動物であると同時に神々なのだ!」。度重なる戦禍の果てにようやくたどりついた平和の重みとかけがえのなさが感じられる。
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暴走する北朝鮮の「核」を、どうしたら不発のまま終わらせられるのか。この難問については、「国益」を超えた「人類益」の立場で、ことにあたってほしい。各国は今の世界にだけではなく、未来に対しても大きな責任を負っている。 |