【天声人語】2006年10月21日(土曜日)付
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( x% u( L) L# b" x8 _- f. z$ w& i 「パリ……凱旋門賞だというのに、寝坊しちまった」。競馬評論家としても知られた寺山修司が、日本からメジロムサシが出走した1972年の凱旋門賞のことを、「ヨーロッパ競馬日記」に書いている。「メジロムサシは人気もなかったが気合もなかった」(『競馬無宿』新書館)。この日、メジロムサシは18着だった。
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" k+ Y8 F/ _3 N8 p 先日の凱旋門賞で3着となったディープインパクトから、欧州で禁止されている薬物が検出されたという。イプラトロピウムという気管支拡張剤で、日本では禁止薬物に指定されていない。" L5 u2 m, e2 n0 ~6 ^! E
, y" n3 j1 `3 y# s, T どうして、こんなことになったのだろう。故意なのか、あるいは不注意だったのか。思いがけない衝撃が駆け回ってしまったが、経緯をしっかりと解明し、十分に説明してもらいたい。
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3 a. i! p% Z; \9 \7 z 故意に薬物を使うドーピングの歴史は古いという。ドーピングという言葉は、南アフリカの先住民カフィール族が景気づけに飲んでいたお祭り用の酒「ドップ」に由来しているといわれている(『くすり』東京大学出版会)。
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/ ~& ]$ ~* O( `, I' S- f. k 古代ローマの時代には、二輪馬車競技の競走馬に、発酵してアルコールができる蜂蜜液を飲ませていた。これが「スポーツ」でのドーピングの始まりで、19世紀に入ってから、自転車やサッカー競技に広まったという。
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人間のドーピングと違って、少なくとも馬自身には責任がない。そのことが救いだが、哀れさも感じる。もう少し、人間たちが気をつけてやれなかったものか。国境をはるかに超えてパリの地に立ち、強敵と頂点を競ったひきしまった姿がよみがえる。 |