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楼主 |
发表于 2008-5-8 15:27:57
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【七】
紀伊頼宣と正雪と、そして五人の男が去ったあと――地底には森宗意軒と三人の女だけが残った。
女の一人がいった。
「宗意軒さま」
「うむ。……」
「このたびのお企て、成るか成らぬか、星占いにははっきりと出ぬのでござりまするか」
「八卦見の八卦知らず」
と、宗意軒は苦笑した。
「あるいは医者が、おのれの病のみたてはしかとつかぬと同様であろうか。わしのいのちにかかわることゆえ、それが|分明《ぶんみょう》せぬ。……しかし、星占いとはべつに、おそらく事は破れような」
「それは」
「正雪はそれを知らぬ。きゃつは、大納言さえひきずりこめば事は成ると思いこんでおる。……ふ、ふ、ふ。が、わしにとっては、事が成ろうが成るまいが、いずれでもよいことなのじゃ」
彼はおちくぼんだ|眼《がん》|窩《か》のおくから、陰鬱な眼で三人の女を見やった。
「家光も死ね。頼宣も死ね。家康の血をうけた奴ら、骨肉|相《あい》|食《は》め。ただ徳川家にたたれば……われら小西の亡臣どもは、それを以て満足せねばならぬ。いや、それを無上のよろこびとし、そのためにこそわしは生き、そなたらも生きておるのではないか」
「はい!」
と、三人の女たちは、うたうように答えた。
――してみると、この三人の女は、柳生但馬守を|転生《てんしょう》させた|唖《おし》娘と同様、亡家――もとよりその年齢から判断して、彼女たちが生まれるはるか以前に滅んだ小西家の――|呪《じゅ》|詛《そ》のみに生きている。そのように飼育された女たちであろうか。
「やがて、四郎から、如雲斎転生の報告がくるであろう。それをきいたら、そなたらのうち、ひとり、かねて申しつけてあるところへゆけ」
「はい!」
「その男を誘い、|堕《おと》すのだ」
「はい!」
「それが、この宗意軒にも実にえたいのしれぬ奴、|放《ほう》|蕩《とう》無頼、女が好きかと思えば、三十なかばになってまだいちども心そこ惚れた女を持ったことのないような男、一万二千五百石をみずから棒にふって、何か世を白眼視しておるかと思えば、のほほんとして、うれしげに空の雲ばかり見ているような男。……」
「ただし、きゃつの|定命《じょうみょう》も遠からず尽きんとしておる。星占いには、そう出ておる。もとよりきゃつは、それを知らぬ」
「…………」
「いずれにせよ、きゃつを魔界に転生させようとすれば、こちらもいそぐのじゃ。……きゃつの剣、きゃつの気性、魔人と変ずれば充分世を悩ますに足る資格充分じゃ。是非、きゃつを他の七人の仲間に加えたい。――」
「|天帝《ゼウス》に誓って!」
と、三人の女はいった。
「その男を魔界に堕します。いいえ、魔界に転生いたさせまする」
天帝がきいたら、おどろくであろう。しかし、三人の女の美しい瞳には、むしろ厳粛といっていい炎が燃えていた。あるいは彼女たちの教えられた天帝は、もとのかたちからはるかに変質した奇怪な神であったのかもしれぬ。
「クララ」
「わたしが参りまする」
「ベアトリス」
「わたしが参りまする」
「フランチェスカ」
「わたしが参りまする」
もとより、いずれも洗礼名であろう。――眼を燃やしている三人の女を見わたして、宗意軒は苦笑した。
「みなゆく必要はない。わしのために、一人は残ってもらわねばならぬ。ゆくは、一人でよかろう。では、|籤《くじ》をひいてもらおうか」
「籤とは?」
「わしがいま、ここに残った三本の指のうち、一つの指をきめた。……それはどの指か、信じる指を、一人ずつ吸え」
枯れ木のようにつき出された老人の指を、三人の女はじっと見つめ、やがて一人ずつ、それぞれ肉感的な口をちかづけていった。……
「人さし指じゃ」
と、宗意軒はぬれた指を一本だけ立てていった。
「フランチェスカゆけ」
「はい!」
「ゆくときに、中指を切ってわたす。きゃつを堕したら……その指を四郎にわたせ。おまえが魔界転生の忍体に変わるのじゃ」
「はい!」
――フランチェスカなる女は、どこへいって、だれを魔界転生させようとするのか。
よし、それがだれであろうと、すでに魔界転生した七人の大剣士にこれ以上何者を加える必要があろうか。
思え。――
荒木又右衛門。
天草四郎。
田宮坊太郎。
宮本武蔵。
宝蔵院胤舜。
柳生但馬守。
柳生如雲斎。
加うるに、もし紀伊大納言頼宣が、好むと好まざるとに関せず、この陰謀に身を投ずるならば、もとより紀州五十五万石はその背景となる。
しかも、そのうしろには妖人森宗意軒がいる。その参謀ともいうべき|才《さい》|物《ぶつ》由比正雪がいる。さらに修羅に生きる三人のなまめかしい「忍体」がひかえている。
さて、作者がいままで|縷《る》|々《る》[#電子文庫化時コメント 底本ルビ「るゝ」]として叙しきたったのは、「敵」の顔ぶれなのである。――いまやこの敵は編制を整え終わった。彼らを「敵」とするものに|呪《のろ》いあれ。この恐るべき超絶の集団を敵として、万に一つもいのちある者が、この世にあろうとは思えない。――
[ 本帖最后由 demiyuan 于 2008-5-8 15:29 编辑 ] |
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