【天声人語】2007年02月04日(日曜日)付; Y$ `; _& A+ |+ g) D6 B
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飼っていた猫が死んだとき、物理学者の寺田寅彦は詞を書き、曲も付けて童謡をつくった。「三毛のお墓に雪がふる/こんこん小窓に雪がふる/炬燵布団(こたつぶとん)の紅も/三毛がいないでさびしいな」9 @5 ]2 b7 P% d0 n& R+ c9 O T
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甘い感傷を享楽できるのはなぜだろう、と寅彦は考えた。人間と違って、猫との思い出には「いささかも苦々しさのあと味がない」からだと思う。それは「彼らが生きている間に物を言わなかったためであろう」と随筆につづっている。
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2 x9 c. [+ d4 t% a2 x/ H 寅彦に愛された猫は幸せだったろう。だが物言わぬままガス室に送られる多くの犬や猫を思うと、苦い後味ばかり残る。救出劇で有名になった徳島市の「崖(がけ)っぷち犬」は引き取り手も決まり、まずは一件落着となった。しかし一つの美談に隠れるように、全国で犬9万匹、猫24万匹(04年度)が命を絶たれている。2 v" b- K, S' Q1 R, _& Z( q$ o
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米のセントルイスで4年前、奇跡的な出来事があった。動物管理センターのガス室に入れられた犬が、処置後に扉を開けると、なぜか元気に生きていたのだ。他の7匹は死んでいた。その犬だけが立ってしっぽを振っていた。
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* Y- b9 m+ O6 K( L1 F6 o3 c, ? 「再び扉を閉めて殺す気にはとてもなれなかった」と、取材した電話に担当者は言った。同じ町で、捨てられた動物の保護施設を運営する男性は「身勝手な人間への動物からのメッセージとしか思えない」と涙ぐんでいた。1 K, L6 n! j* b. \& t4 T& K, a
o% s( F0 g8 p" u/ K 寅彦の猫は、あるとき4匹の子を産んだ。手を尽くして、それぞれがもらわれていったあと、寅彦は「娘を嫁がせた父」のような感慨にふける。良き思い出を残すには、責任も欠かせないのである。 |