【天声人語】2007年02月16日(金曜日)付 3 I6 r# ^. K0 l2 d W- R, U
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激しい地吹雪のため、雪原は雪煙で覆われていたという。しかし、雪煙は地面から吹き上げられたものだったので、風がやむとびっくりするほど遠くが見えることがあった。突然現れた山容を認め、神田大尉が言った。「見ろ、あれは八甲田山の前岳だ」(新田次郎『八甲田山死の彷徨』新潮社)。
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青森市の八甲田山系の前岳で、山スキーツアーの一行が雪崩に遭い、死傷者がでた。小説が扱った雪中行軍の時ほどの悪天候ではなかったようだが、冬山が牙をむいた時の怖さを見せつけた。% e; v( S% H% q9 d. o: ]7 m# C F- X
- j, r' A0 n+ Q- a8 ~* C* j1 ` ツアーのガイドのリーダーは、今年の冬は暖かいので雪崩の危険はあると思い、普段通るルートを変更していたという。樹林帯を通れば大丈夫だと思っていたが、「結果的に起きてしまった」と記者会見で言って絶句し、机に突っ伏したという。山のベテランにも計り知れない「白魔」の振る舞いだったのか。
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今回の雪崩は、青森地方気象台が全県に雪崩注意報を出してから10分後ぐらいに起きたのではないかという。気象情報にも、可能な限り、注意が必要だ。
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3 w8 `( I+ W9 L9 D, q6 C, o 小説の題材となった青森歩兵第五連隊の行軍は明治35年、1902年の1月下旬に行われ、210人のうち199人が死亡した。時期は今とあまり違わない。ツアー客が滑り降りていたコースの先には、連隊遭難の記念像が立つという。
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* L d, e9 O& B3 S 雪の行軍がスキーツアーに変わるまでの約100年は、人間にとっては長い年月だった。しかし、自然にとっては、いわば一瞬のことなのだろう。変わらない悠久の営みへの畏(おそ)れを、忘れないようにしたい。 |