天声人語" H, T# f8 y8 B/ ` P
2007年07月15日(日曜日)付
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* W% ]' l; ?" E& M2 c; V 書店にもいろいろあるが、作家の丸谷才一さんは二つに分けている。岩波文庫を置いている店と、置いていない店と。「そして前者が上だと思っている」と、本紙掲載のコラムで述べている。
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その岩波文庫が、昭和2年の創刊から今月で満80年を迎えた。古今東西の名著を5433点、総数は3億5000万冊を超すというから、日本の「教養」を連綿と耕してきたと言える。9 K: z8 K4 Q3 z. A* Q9 z
_3 Z" R& W, Z9 i. l" T/ t 年配の読書家には、書目分類の「五色の帯」が懐かしいだろう。緑の帯は日本文学、赤は外国文学、社会科学が白で、青は哲学や歴史、黄色は日本の古典である。五色を取り込んだ「読書人の一生」という戯れ歌を、文芸評論家の向井敏さんの随筆で知った。$ l3 Y2 f. M2 _" ^3 R# z! w
) Z9 R( v6 g2 I0 G 〈ゆめ見るひとみで緑帯/むすめざかりは赤い帯/朱にまじわって白い帯……行き着く先は黄色帯〉。つまり、多感なころは漱石や藤村、大人びてくれば翻訳小説、青年期にはマルクスにかぶれ……老境に入って「もののあはれ」に行き着く。来し方を重ね合わせて微苦笑の人もいることだろう。8 \3 W4 G2 Q7 V3 R( H
. Z6 N4 ^' J# o/ o, |4 ?) { 近ごろは、緑帯と赤帯の世代にケータイ小説の愛読者が急増中らしい。電話で配信される小説だ。素人ぽいのだが、人気作が本になるや次々と数十万部を売り、不況の出版業界を驚かせている。0 W7 o U! [% v( _# i u/ i3 W
3 I! |) n* |, F& h, U 名作を読まないと嘆く声も聞こえるが、活字離れの一番深刻な「緑と赤」の世代である。まずは書物の世界を覗(のぞ)いてみることが大事だろう。若き日の丸谷さんも「片っ端から歩き回った」という名著の森への道が、ぽっかり口を開けているかもしれない |