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[好书连载] 哈利波特日文版 「ハリー・ポッターと賢者の石」(完结)

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发表于 2006-8-4 23:46:30 | 显示全部楼层 |阅读模式
哈利波特日文版 「ハリー・ポッターと賢者の石」(上)
第1章 生き残った男の子
CHAPTER ONE The Boy Who Lived


 プリベット通り四番地の住人ダーズリー夫妻は、「おかげさまで、私どもはどこからみてもまともな人間です」と言うのが自慢だった。不思議とか神秘とかそんな非常識はまるっきり認めない人種で、まか不思議な出来事が彼らの周辺で起こるなんて、とうてい考えられなかった。

 ダーズリー氏は、穴あけドリルを製造しているグラニングズ社の社長だ。ずんぐりと肉づきがよい体型のせいで、首がほとんどない。そのかわり巨大な口ひげが目立っていた。奥さんの方はやせて、金髪で、なんと首の長さが普通の人の二倍はある。垣根越しにご近所の様子を詮索するのが趣味だったので、鶴のような首は実に便利だった。ダーズリー夫妻にはダドリーという男の子がいた。どこを探したってこんなにできのいい子はいやしない、というのが二人の親バカの意見だった。
 そんな絵に描措いたように満ち足りたダーズリー家にも、たった一つ秘密があった。なにより怖いのは、誰かにその秘密を嗅ぎつけられることだった。
 ―――あのポッター一家のことが誰かに知られてしまったら一巻の終わりだ。
 ポッタ一夫人はダーズリー夫人の実の妹だが、二人はここ数年一度も会ってはいなかった。
 それどころか、ダーズリー夫人は妹などいないというふりをしていた。なにしろ、妹もそのろくでなしの夫も、ダーズリー家の家風とはまるっきり正反対だったからだ。
 ―――ポッター一家が不意にこのあたりに現れたら、ご近所の人たちがなんと言うか、考えただけでも身の毛がよだつ。
 ポッター家にも小さな男の子がいることを、ダーズリー夫妻は知ってはいたが、ただの一度も会ったことがない。
 ―――そんな子と、うちのダドリーが関わり合いになるなんて……
 それもポッター一家を遠ざけている理由の一つだった。

 さて、ある火曜日の朝のことだ。ダーズリー一家が目を覚ますと、外はどんよりとした灰色の空だった。物語はここから始まる。まか不思議なことがまもなくイギリス中で起ころうとしているなんて、そんな気配は曇り空のどこにもなかった。ダーズリー氏は鼻歌まじりで、仕事用の思いっきりありふれた柄のネクタイを選んだ。奥さんの方は大声で泣きわめいているダドリー坊やをやっとこさベビーチェアに座らせ、嬉々としてご近所の噂話を始めた。
 窓の外を、大きなふくろうがバタバタと飛び去っていったが、二人とも気がつかなかった。
 八時半、ダーズリー氏は鞄を持ち、奥さんの頬にちょこっとキスして、それからダドリー坊やにもバイバイのキスをしようとしたが、しそこなった。坊やがかんしゃくを起こして、コーンフレークを皿ごと壁に投げつけている最中だったからだ。「わんぱく坊主め」ダーズリー氏は満足げに笑いながら家を出て、自家用車に乗りこみ、四番地の路地をバックで出て行った。広い通りに出る前の角のところで、ダーズリー氏は、初めて何かおかしいぞと思った。
 ――なんと猫が地図を見ている――ダーズリー氏は一瞬、目を疑った。もう一度よく見ようと急いで振り返ると、たしかにプリベット通りの角にトラ猫が一匹立ちどまっていた。しかし、地図のほうは見えなかった。ばかな、いったい何を考えているんだ。きっと光のいたずらだったにちがいない。ダーズリー氏は瞬きをして、もう一度猫をよく見なおした。猫は見つめ返した。角を曲がり、広い通りに出たとき、バックミラーに映っている猫が見えた。なんと、今度は「プリベット通り」と書かれた標識を読んでいる。――いや、「見て」いるだけだ。猫が地図やら標識やらを読めるはずがない。ダーズリー氏は体をブルッと振って気をとりなおし、猫のことを頭の中から振り払った。街に向かって車を走らせているうちに、彼の頭は、その日に取りたいと思っている穴あけドリルの大口注文のことでいっぱいになった。
 ところが、街はずれまで来た時、穴あけドリルなど頭から吹っ飛ぶようなことが起こったのだ。いつもの朝の渋滞にまきこまれ、車の中でじっとしていると、奇妙な服を着た人たちがうろうろしているのが、いやでも目についた。マントを着ている。
 ――おかしな服を着た連中には我慢がならん――近頃の若いやつらの格好ときたら! マントも最近のバカげた流行なんだろう。
 ハンドルを指でイライラと叩いていると、ふと、すぐそばに立っているおかしな連中が目に止まった。何やら興奮してささやき合っている。けしからんことに、とうてい若いとはいえないやつが数人混じっている。
 ――あいつなんか自分より年をとっているのに、エメラルド色のマントを着ている。どういう神経だ! まてよ。ダーズリー氏は、はたと思いついた。
 ――くだらん芝居をしているに違いない――当然、連中は寄付集めをしているんだ……そうだ、それだ! やっと車が流れはじめた。数分後、車はグラニングズ社の駐車場に着き、ダーズリー氏の頭は穴あけドリルに戻っていた。
 ダーズリー氏のオフィスは九階で、いつも窓に背を向けて座っていた。そうでなかったら、今朝は穴あけドリルに集中できなかったかもしれない。真っ昼間からふくろうが空を飛び交うのを、ダーズリー氏は見ないですんだが、道行く多くの人はそれを目撃した。ふくろうが次から次へと飛んで行くのを指さしては、いったいあれは何だと口をあんぐりあけて見つめていたのだ。ふくろうなんて、たいがいの人は夜にだって見たことがない。ダーズリー氏は昼まで、しごくまともに、ふくろうとは無縁で過ごした。五人の社員を怒鳴りつけ、何本か重要な電話をかけ、また少しガミガミ怒鳴った。おかげでお昼までは上機嫌だった。それから、少し手足を伸ばそうかと、道路のむかい側にあるパン屋まで歩いて買い物に行くことにした。
 マントを着た連中のことはすっかり忘れていたのに、パン屋の手前でまたマント集団に出会ってしまった。そばを通り過ぎる時、ダーズリー氏は、けしからんとばかりににらみつけた。
 なぜかこの連中は、ダーズリー氏を不安な気持にさせた。このマント集団も、何やら興奮してささやき合っていた。しかも寄付集めの空缶が一つも見当たらない。パン屋からの帰り道、大きなドーナツを入れた紙袋を握り、また連中のそばを通り過ぎようとしたその時、こんな言葉が耳に飛び込んできた。
「ポッターさんたちが、そう、わたしゃそう聞きました……」
「……そうそう、息子のハリーがね……」
 ダーズリー氏はハッと立ち止まった。恐怖が湧きあがってきた。いったんはヒソヒソ声のするほうを振り返って、何か言おうかと思ったが、まてよ、と考えなおした。
 ダーズリー氏は猛スピードで道を横切り、オフィスにかけ戻るや否や、秘書に「誰も取り継ぐな」と命令し、ドアをピシャッと閉めて電話をひっつかみ、家の番号を回しはじめた。しかし、ダイヤルし終わらないうちに気が変わった。受話器を置き、口ひげをなでながら、ダーズリー氏は考えた
 ――まさか、自分はなんて愚かなんだ。ポッターなんて珍しい名前じゃない。ハリーという名の男の子がいるポッタ一家なんて、山ほどあるに違いない。考えてみりゃ、甥の名前がハリ-だったかどうかさえ確かじゃない。一度も会ったこともないし、ハービーという名だったかもしれない。いやハロルドかも。こんなことで妻に心配をかけてもしょうがない。妹の話がチラッとでも出ると、あれはいつも取り乱す。無理もない。もし自分の妹があんなふうだったら……それにしても、いったいあのマントを着た連中は……
 昼からは、どうも穴あけドリルに集中できなかった。五時に会社を出た時も、何かが気になり、外に出たとたん誰かと正面衝突してしまった。
「すみません」
 ダーズリー氏はうめき声を出した。相手は小さな老人で、よろけて転びそうになった。数秒後、ダーズリー氏は老人がスミレ色のマントを着ているのに気づいた。地面にバッタリはいつくばりそうになったのに、まったく気にしていない様子だ。それどころか、顔が上下に割れるかと思ったほど大きくにっこりして、道行く人が振り返るほどのキーキー声でこう言った。
「旦那、すみませんなんてとんでもない。今日は何があったって気にしませんよ。万歳! 『例のあの人』がとうとういなくなったんですよ! あなたのようなマグルも、こんな幸せなめでたい日はお祝いすべきです」
 小さな老人はダーズリー氏のおへそのあたりをやおらギュッと抱きしめると、立ち去って行った。ダーズリー氏はその場に根が生えたように突っ立っていた。まったく見ず知らずの人に抱きつかれた。マグルとかなんとか呼ばれたような気もする。クラクラしてきた。急いで車に乗り込むと、ダーズリー氏は家に向かって走り出した。どうか自分の幻想でありますように…
…幻想など決して認めないダーズリー氏にしてみれば、こんな願いを持つのは生まれて初めてだった。
 やっとの思いで四番地に戻ると、真っ先に目に入ったのは――ああ、なんたることだ――今朝見かけた、あの、トラ猫だった。今度は庭の石垣の上に座り込んでいる。間違いなくあの猫だ。目のまわりの模様がおんなじだ。
「シッシッ!」
 ダーズリー氏は大声を出した。
 猫は動かない。じろりとダーズリー氏を見ただけだ。まともな猫がこんな態度をとるのだろうか、と彼は首をかしげた。それから気をシャンと取りなおし、家に入っていった。妻には何も言うまいという決心は変わっていなかった。奥さんは、すばらしくまともな一日を過ごしていた。夕食を食べながら、隣のミセス何とかが娘のことでさんざん困っているとか、ダドリー坊やが「イヤッ!」という新しい言葉を覚えたとかをおっとに話して聞かせた。ダーズリー氏はなるべくふだんどおりに振る舞おうとした。ダドリー坊やが寝た後、居間に移ったが、ちょうどテレビの最後のニュースが始まったところだった。
「さて最後のニュースです。全国のバードウォッチャーによれば、今日はイギリス中のふくろうがおかしな行動を見せたとのことです。通常、ふくろうは夜に狩をするので、昼間に姿を見かけることはめったにありませんが、今日は夜明けとともに、何百というふくろうが四方八方方に飛び交う光景が見られました。なぜふくろうの行動が急に夜昼逆になったのか、専門家たちは首をかしげています」
 そこでアナウンサーはニヤリと苦笑いした。
「ミステリーですね。ではお天気です。ジム・マックガフィンさんどうぞ。ジム、今夜もふくろうが降ってきますか?」
「テッド、そのあたりはわかりませんが、今日おかしな行動をとったのはふくろうばかりではありませんよ。視聴者の皆さんが、遠くはケント、ヨークシャー、ダンディー州からおでんわをくださいました。昨日私は雨の予報を出したのに、かわりに流れ星がどしゃ降りだったそうです。たぶん早々と『ガイ・フォークスの焚き火祭り』でもやったんじゃないでしょうか。皆さん、祭りの花火は来週ですよ! いずれにせよ、今夜は間違いなく雨でしょう」
 安楽椅子の中でダーズリー氏は体が凍りついたような気がした。イギリス中で流れ星だって? 真っ昼間からふくろうが飛んだ? マントを着た奇妙な連中がそこいらじゅうにいた? それに、あのヒソヒソ話。ポッター一家がどうしたとか……
 奥さんが紅茶を二つ持って居間に入ってきた。まずい。妻に何か言わなければなるまい。ダーズリー氏は落着かない咳払いをした。

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 楼主| 发表于 2006-8-4 23:47:46 | 显示全部楼层
「あー、ペチュニアや。ところで最近おまえの妹から便りはなかったろうね」
 案の定、奥さんはビクッとして怒った顔をした。二人ともふだん、奥さんに妹はいないということにしているのだから当然だ。
「ありませんよ。どうして?」
 とげとげしい返事だ。
「おかしなニュースを見たんでね」
 ダーズリー氏はモゴモゴ言った。
「ふくろうとか……流れ星だとか……それに、今日街に変な格好をした連中がたくさんいたんでな」
「それで?」
「いや、ちょっと思っただけだがね……もしかしたら……何か関わりがあるかと……その、なんだ……あれの仲間と」
 奥さんは口をすぼめて紅茶をすすった。ダーズリー氏は「ポッター」という名前を耳にしたと思いきって打ち明けるべきかどうか迷ったが、やはりやめることにした。そのかわり、できるだけさりげなく聞いた。
「あそこの息子だが……たしかうちのダドリーと同じくらいの年じゃなかったかね?」
「そうかも」
「何という名前だったか……。たしかハワードだったね」
「ハリーよ。私に言わせりや、下品でありふれた名前ですよ」
「ああ、そうだった。おまえの言うとおりだよ」
 ダーズリー氏はすっかり落ち込んでしまった。二人で二階の寝室に上がっていく時も、彼はまったくこの話題には触れなかった。
 奥さんが洗面所に行ったすきに、こっそり寝室の窓に近寄り、家の前をのぞいてみた。あの猫はまだそこにいた。何かを待っているように、プリベット通りの奥の方をじっと見つめている。
 ――これも自分の幻想なのか? これまでのことは何もかもポッター一家と関わりがあるのだろうか? もしそうなら……もし自分たちがあんな夫婦と関係があるなんてことが明るみに出たら……ああ、そんなことには耐えられない。
 ベッドに入ると、奥さんはすぐに寝入ってしまったが、ダーズリー氏はあれこれ考えて寝つけなかった。
 ――しかし、万々が一ポッターたちが関わっていたにせよ、あの連中が自分たちの近くにやってくるはずがない。あの二人やあの連中のことをわしらがどう思っているかポッタ一夫妻は知っているはずだ……何が起こっているかは知らんが、わしやペチュニアが関わり合いになることなどありえない――そう思うと少しホッとして、ダーズリー氏はあくびをして寝返りを打った。
 ――わしらにかぎって、絶対に関わりあうことはない……。
 ――何という見当ちがい――
 ダーズリー氏がトロトロと浅い眠りに落ちたころ、塀の上の猫は眠る気配さえ見せていなかった。銅像のようにじっと座ったまま、瞬きもせずプリベット通りの奥の曲り角を見つめていた。隣の道路で車のドアをバタンと閉める音がしても、二羽のふくろうが頭上を飛び交っても、毛一本動かさない。真夜中近くになって、初めて猫は動いた。
 猫が見つめていたあたりの曲り角に、一人の男が現れた。あんまり突然、あんまりスーッと現れたので、地面から湧いて出たかと思えるぐらいだった。猫はしっぽをピクッとさせて、目を細めた。
 プリベット通りでこんな人は絶対見かけるはずがない。ヒョロリと背が高く、髪やひげの白さからみて相当の年寄りだ。髪もひげもあまりに長いので、ベルトに挟み込んでいる。ゆったりと長いローブの上に、地面を引きずるほどの長い紫のマントをはおり、かかとの高い、留め金飾りのついたブーツをはいている。淡いブルーの眠が、半月形のメガネの奥でキラキラ輝き、高い鼻が途中で少なくとも二回は折れたように曲っている。この人の名はアルバス・ダンブルドア。
 名前も、ブーツも、何から何までプリベット通りらしくない。しかし、ダンブルドアはまったく気にしていないようだった。マントの中をせわしげに何かをガサゴソ探していたが、誰かの視線に気づいたらしく、ふっと顔を上げ、通りのむこうからこちらの様子をじっとうかがっている猫を見つけた。そこに猫がいるのが、なぜかおもしろいらしく、クスクスと笑うと、
「やっぱりそうか」とつぶやいた。
 探していたものが内ポケットから出てきた。銀のライターのようだ。ふたをパチンと開け、高くかざして、カチッと鳴らした。
 一番近くの街灯が、ポッと小さな音を立てて消えた。
 もう一度カチッといわせた。
 次の街灯がゆらめいて闇の中に消えていった。「灯消しライター」を十二回カチカチ鳴らすと、十二個の街灯は次々と消え、残る灯りは、遠くの、針の先でつついたような二つの点だけになった。猫の目だ。まだこっちを見つめている。いま誰かが窓の外をのぞいても、ビーズのように光る目のダーズリー夫人でさえ、何が起こっているのか、この暗闇ではまったく見えなかっただろう。ダンブルドアは「灯消しライター」をマントの中にスルリとしまい、四番地の方へと歩いた。そして塀の上の猫の隣に腰かけた。一息おくと、顔は向けずに、猫に向かって話しかけた。
「マクゴナガル先生、こんなところで奇遇じゃのう」
 トラ猫の方に顔を向け、ほほえみかけると、猫はすでに消えていた。かわりに、厳格そうな女の人が、あの猫の目の周りにあった縞模様とそっくりの四角いメガネをかけて座っていた。
 やはりマントを、しかもエメラルド色のを着ている。黒い髪をひっつめて、小さな髷にしている。
「どうして私だとおわかりになりましたの?」
 女の人は見破られて動揺していた。
「まあまあ、先生。あんなにコチコチな座り方をする猫なんていやしませんぞ」
「一日中レンガ塀の上に座っていればコチコチにもなります」
「一日中? お祝いしていればよかったのに。ここに来る途中、お祭りやらパーティやら、ずいぶんたくさん見ましたよ」
 マクゴナガル先生は怒ったようにフンと鼻を鳴らした。
「ええ、確かにみんな浮かれていますね」
 マクゴナガル先生はいらいらした口調だ。
「みんなもう少し慎重にすべきだとお思いになりませんか? まったく……マグルたちでさえ、何かあったと感づきましたよ。何しろニュースになりましたから」
 マクゴナガル先生は明かりの消えたダーズリー家の窓をあごでしゃくった。
「この耳で聞きましたよ。ふくろうの大群……流星群……そうなると、マグルの連中もまったくのおバカさんじゃありませんからね。何か感づかないはずはありません。ケント州の流星群だなんて――ディーダラス・ディグルのしわざだわ。あの人はいつだって軽はずみなんだから」
「みんなを責めるわけにはいかんでしょう」
 ダンブルドアはやさしく言った。
「この十一年間、お祝いごとなぞほとんどなかったのじゃから」
「それはわかっています」
 マクゴナガル先生は腹立たしげに言った。
「だからといって、分別を失ってよいわけはありません。みんな、なんて不注意なんでしょう。真っ昼間から街に出るなんて。しかもマグルの服に着替えもせずに、あんな格好のままで噂話をし合うなんて」
 ダンブルドアが何か言ってくれるのを期待しているかのように、マクゴナガル先生はチラリと横目でダンブルドアを見たが、何も反応がないので、話を続けた。
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 楼主| 发表于 2006-8-4 23:49:36 | 显示全部楼层
「よりによって、『例のあの人』がついに消え失せたちょうどその日に、今度はマグルが私たちに気づいてしまったらとんでもないことですわ。ダンブルドア先生、『あの人』は本当に消えてしまったのでしょうね?」
「確かにそうらしいのう。我々は大いに感謝しなければ。レモン・キャンディーはいかがかな?」
「何ですって?」
「レモン・キャンディーじやよ。マグルの食べる甘いものじゃが、わしゃ、これが好きでな」
「結構です」
 レモン・キャンディーなど食べている場合ではないとばかりに、マクゴナガル先生は冷ややかに答えた。
「今申し上げましたように、たとえ『例のあの人』が消えたにせよ……」
「まあまあ、先生、あなたのように見識のおありになる方が、彼を名指しで呼べないわけはないでしょう? 『例のあの人』なんてまったくもってナンセンス。この十一年間、ちゃんと名前で呼ぶようみんなを説得し続けてきたのじゃが。『ヴォルデモート』とね」
 マクゴナガル先生はギクリとしたが、ダンブルドアはくっついたレモン・キャンディーをはがすのに夢中で気づかないようだった。
「『例のあの人』なんて呼び続けたら、混乱するばかりじやよ。ヴォルデモートの名前を言うのが恐ろしいなんて、理由がないじゃろうが」
「そりゃ、先生にとってはないかもしれませんが」
 マクゴナガル先生は驚きと尊敬の入りまじった言い方をした。
「だって、先生はみんなとは違います。『例のあ』……いいでしょう、ヴォルデモートが恐れていたのはあなた一人だけだったということは、みんな知ってますよ」
「おだてないでおくれ」
 ダンブルドアは静かに言った。
「ヴォルデモートには、私には決して持つことができない力があったよ」
「それは、あなたがあまりに――そう……気高くて、そういう力を使おうとなさらなかったからですわ」
「あたりが暗くて幸いじゃよ。こんなに赤くなったのはマダム・ポンフリーがわしの新しい耳あてを誉めてくれた時以来じゃ」
 マクゴナガル先生は鋭いまなざしでダンブルドアを見た。
「ふくろうが飛ぶのは、噂が飛ぶのに比べたらなんでもありませんよ。みんながどんな噂をしているか、ご存知ですか? なぜ彼が消えたのだろうとか、何が彼にとどめを刺したのだろうかとか」
 マクゴナガル先生はいよいよ核心に触れたようだ。一日中冷たい、固い塀の上で待っていた本当のわけはこれだ。猫に変身していた時にも、自分の姿に戻った時にも見せたことがない、射すようなまなざしで、ダンブルドアを見すえている。他の人がなんと言おうが、ダンブルドアの口から聞かないかぎり、敵対信じないという目つきだ。ダンブルドアは何も答えず、レモン・キャンディーをもう一個取り出そうとしていた。
「みんなが何と噂しているかですが……」
 マクゴナガル先生はもう一押ししてきた。
「昨夜、ヴォルデモートがゴドリックの谷に現れた。ポッター一家がねらいだった。噂ではリリーとジェームズが……ポッター夫妻が……あの二人が……死んだ……とか」
 ダンブルドアはうなだれた。マクゴナガル先生は息をのんだ。
「リリーとジェームズが……信じられない……信じたくなかった……ああ、アルバス……」
 ダンブルドアは手を伸ばしてマクゴナガル先生の肩をそっと叩いた。
「わかる……よーくわかるよ……」
 沈痛な声だった。
 マクゴナガル先生は声を震わせながら話し続けた。
「それだけじゃありませんわ。噂では、一人息子のハリーを殺そうとしたとか。でも――失敗した。その小さな男の子を殺すことはできなかった。なぜなのか、どうなったのかはわからないが、ハリー・ポッターを殺しそこねた時、ヴォルデモートの力が打ち砕かれた――だから彼は消えたのだと、そういう噂です」
 ダンブルドアはむっつりとうなずいた。
「それじゃ……やはり本当なんですか?」
 マクゴナガル先生は口ごもった。
「あれほどのことをやっておきながら……あんなにたくさん人を殺したのに……小さな子供を殺しそこねたっていうんですか? 驚異ですわ……よりによって、彼にとどめを刺したのは子供……それにしても、一体全体ハリーはどうやって生き延びたんでしょう?」
「想像するしかないじゃろう。本当のことはわからずじまいかもしれん」
 マクゴナガル先生はレースのハンカチを取り出し、メガネの下から眼に押し当てた。ダンブルドアは大きく鼻をすすると、ポケットから金時計を取り出して時間を見た。とてもおかしな時計だ。針は十二本もあるのに、数字が書いていない。そのかわり、小さな惑星がいくつも時計の緑を回っていた。ダンブルドアにはこれでわかるらしい。時計をポケットにしまうと、こう言った。
「ハグリッドは遅いのう。ところで、あの男じゃろう? わしがここに来ると教えたのは」
「そうです。一体全体なぜこんなところにおいでになったのか、たぶん話してはくださらないのでしょうね?」
「ハリー・ポッターを、伯母さん夫婦のところへ連れてくるためじゃよ。親戚はそれしかいないのでな」
「まさか――間違っても、ここに住んでいる連中のことじゃないでしょうね」
 マクゴナガル先生ははじかれたように立ちあがり、四番地を指さしながら叫んだ。
「ダンブルドア、だめですよ。今日一日ここの住人を見ていましたが、ここの夫婦ほど私たちとかけ離れた連中はまたといませんよ。それにここの息子ときたら――母親がこの通りを歩いている時、お菓子が欲しいと泣きわめきながら母親を蹴り続けていましたよ。ハリー・ポッターがここに住むなんて!」
「ここがあの子にとって一番いいのじゃ」
 ダンブルドアはきっぱりと言った。
「伯父さんと伯母さんが、あの子が大きくなったらすべてを話してくれるじゃろう。わしが手紙を書いておいたから」
「手紙ですって?」
 マクゴナガル先生は力なくそう繰り返すと、また塀に座りなおした。
「ねえ、ダンブルドア。手紙で一切を説明できるとお考えですか? 連中は絶対あの子のことを理解しやしません! あの子は有名人です――伝説の人です――今日のこの日が、いつかハリー・ポッター記念日になるかもしれない――ハリーに関する本が書かれるでしょう――私たちの世界でハリーの名を知らない子供は一人もいなくなるでしょう!」
「そのとおり」
 ダンブルドアは半月メガネの上から真面目な目つきをのぞかせた。
「そうなればどんな少年でも舞い上がってしまうじゃろう。歩いたりしゃべったりする前から有名だなんて! 自分が覚えてもいないことのために有名だなんて! あの子に受け入れる準備ができるまで、そうしたことから一切離れて育つ方がずっといいということがわからんかね?」
 マクゴナガル先生は口を開きかけたが、思いなおして、喉まで出かかった言葉をのみ込んだ。
「そう、そうですね。おっしゃるとおりですわ。でもダンブルドア、どうやってあの子をここに連れてくるんですか?」
 ダンブルドアがハリーをマントの下に隠しているとでも思ったのか、マクゴナガル先生はチラリとマントに目をやった。
「ハグリッドが連れてくるよ」
「こんな大事なことをハグリッドに任せて――あの……賢明なことでしょうか?」
「わしは自分の命でさえハグリッドに任せられるよ」
「何もあれの心根がまっすぐじゃないなんて申しませんが」
 マクゴナガル先生はしぶしぶ認めた。
「でもご存知のように、うっかりしているでしょう。どうもあれときたら――おや、何かしら?」
 低いゴロゴロという音があたりの静けさを破った。二人が通りの端から端まで、車のヘッドライトが見えはしないかと探している間に、音は確実に大きくなってきた。二人が同時に空を見上げた時には、音は爆音になっていた。――大きなオートバイが空からドーンと降ってきて、二人の目の前に着陸した。
 巨大なオートバイだったが、それにまたがっている男に比べればちっぽけなものだ。男の背丈は普通の二倍、横幅は五倍はある。許しがたいほど大きすぎて、それになんて荒々しい――ボウボウとした黒い髪とひげが、長くモジャモジャと絡まり、ほとんど顔中を覆っている。手はゴミバケツのふたほど大きく、革ブーツをはいた足は赤ちゃんイルカぐらいある。筋肉隆々の巨大な腕に、何か毛布にくるまったものを抱えていた。
「ハグリッドや」
 ダンブルドアはほっとしたような声で呼びかけた。
「やっと釆たね。いったいどこからオートバイを手に入れたね?」
「借りたんでさ。ダンブルドア先生様」
 大男はソーツと注意探く車から降りた。
「ブラック家のシリウスっちゅう若者に借りたんで。先生、この子を連れてきました」
「問題はなかったろうね?」
「はい、先生。家はあらかた壊されっちまってたですが、マグルたちが群れ寄ってくる前に、無事に連れ出しました。ブリストルの上空を飛んどった時に、この子は眠っちまいました」
 ダンブルドアとマクゴナガル先生は毛布の包みの中をのぞき込んだ。かすかに、男の赤ん坊が見えた。ぐっすり眠っている。漆黒のふさふさした前髪、そして額には不思議な形の傷が見えた。稲妻のような形だ。
「この傷があの……」マクゴナガル先生がささやいた。
「そうじゃ。一生残るじゃろう」
「ダンブルドア、なんとかしてやれないんですか?」
「たとえできたとしても、わしは何もせんよ。傷は結構役に立つもんじゃ。わしにも一つ左膝の上にあるがね、完全なロンドンの地下鉄地図になっておる……さてと、ハグリッドや、その子をこっちへ――早くすませたほうがよかろう」
 ダンブルドアはハリーを腕に抱き、ダーズリー家の方に行こうとした。
「あの……先生、お別れのキスをさせてもらえねえでしょうか?」
 ハグリッドが頼んだ。
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 楼主| 发表于 2006-8-4 23:50:35 | 显示全部楼层
 大きな毛むくじゃらの顔をハリーに近づけ、ハグリッドはチクチク痛そうなキスをした。そして突然、傷ついた犬のような声でワオーンと泣き出した。
「シーッ! マグルたちが目を覚ましてしまいますよ」
 マクゴナガル先生が注意した。
「す、す、すまねえ」
 しゃくりあげながらハグリッドは大きな水玉模様のハンカチを取り出し、その中に顔を埋めた。
「と、とってもがまんできねえ……リリーとジェームズは死んじまうし、かわいそうなちっちゃなハリーはマグルたちと暮さなきゃなんねえ……」
「そうよ、ほんとに悲しいことよ。でもハグリッド、自分を抑えなさい。さもないとみんなに見つかってしまいますよ」
 マクゴナガル先生は小声でそういいながら、ハグリッドの腕を優しくポンポンと叩いた。
 ダンブルドアは庭の低い生垣をまたいで、玄関へと歩いていった。そっとハリーを戸口に置くと、マントから手紙を取り出し、ハリーをくるんだ毛布にはさみこみ、二人のところに戻ってきた。三人は、まるまる一分間そこにたたずんで、小さな毛布の包みを見つめていた。ハグリッドは肩を震わせ、マクゴナガル先生は目をしばたかせ、ダンブルドアの目からはいつものキラキラした輝きが消えていた。
「さてと……」
 ダンブルドアがやっと口を開いた。
「これですんだ。もうここにいる必要はない。帰ってお祝いに参加しようかの」
「へい」
 ハグリッドの声はくぐもっている。
「シリウスにバイクを返してきますだ。マクゴナガル先生、ダンブルドア先生様、おやすみなせえ」
 ハグリッドは流れ落ちる涙を上着の袖でぬぐい、オートバイにさっとまたがり、エンジンをかけた。バイクはうなりを上げて空に舞い上がり、夜の闇へと消えていった。
「後ほどお会いしましょうぞ。マクゴナガル先生」
 ダンブルドアはマクゴナガル先生の方に向かってうなずいた。マクゴナガル先生は答のかわりに鼻をかんだ。
 ダンブルドアはクルリと背を向け、通りのむこうに向かって歩き出した。曲り角で立ち止まり、また銀の「灯消しライター」を取り出し、一回だけカチッといわせた。十二個の街灯がいっせいにともり、プリベット通りは急にオレンジ色に照らし出された。トラ猫が道のむこう側の角をしなやかに曲がっていくのが見えた。そして四番地の戸口のところには毛布の包みだけがポツンと見えた。
「幸運を祈るよ、ハリー」
 ダンブルドアはそうつぶやくと、靴のかかとでクルクルッと回転し、ヒュッというマントの音とともに消えた。


 こぎれいに刈り込まれたプリベット通りの生垣を、静かな風が波立たせた。墨を流したような夜空の下で、通りはどこまでも静かで整然としていた。まか不思議な出来事が、ここで起こるとは誰も思ってもみなかったことだろう。赤ん坊は眠ったまま、毛布の中で寝返りを打った。
 片方の小さな手が、わきに置かれた手紙を握った。自分が特別だなんて知らずに、有名だなんて知らずに、ハリー・ポッターは眠り続けている。数時間もすれば、ダーズリー夫人が戸を開け、ミルクの空き瓶を外に出そうとしたとたん、悲鳴を上げるだろう。その声でハリーは目が覚めるだろう。それから数週間は、いとこのダドリーに小突かれ、つねられることになるだろうに……そんなことは何も知らずに、赤ん坊は眠り続けている……ハリーにはわかるはずもないが、こうして眠っているこの瞬間に、国中の人が、あちこちでこっそりと集まり、杯を挙げ、ヒソヒソ声で、こう言っているのだ。
「生き残った男の子、ハリー・ポッターに乾杯!」
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 楼主| 发表于 2006-8-4 23:57:49 | 显示全部楼层
第二章 消えたガラス
CHAPTER TWO The Vanishing Glass

 ダーズリー夫妻が目を覚まし、戸口の石段に赤ん坊がいるのを見つけてから、十年近くがたった。プリベット通りは少しも変わっていない。太陽は、昔と同じこぎれいな庭のむこうから昇り、ダーズリー家の玄関の真鍮の「4」の数字を照らした。その光が、はうように居間に射し込んでゆく。ダーズリー氏があの運命的なふくろうのニュースを聞いた夜から、居間はまったく変わっていなかった。ただ暖炉の上の写真だけが、長い時間の経ったことを知らせている。
 十年前は、ぽんぽん飾りのついた色とりどりの帽子をかぶり、ピンクのビーチボールのような顔をした赤ん坊の写真がたくさんあった……ダドリー・ダーズリーはもう赤ん坊ではない。写真には金髪の大きな男の子が写っている。初めて自転車に乗った姿、お祭りの回転木馬の上、パパとコンピュータ・ゲーム、ママに抱きしめられてキスされる姿。この部屋のどこにも、少年がもう一人この家に住んでいる気配はない。
 しかし、ハリー・ポッターはそこにいた。今はまだ眠っているが、もう、そう長くは寝ていられないだろう。ペチュニアおばさんが目を覚ました。おばさんのかん高い声で、一日の騒音が始まるのだ。
「さあ、起きて! 早く!」
 ハリーは驚いて目を覚ました。おばさんが部屋の戸をドンドン叩いている。
「起きるんだよ!」と金切り声がした。
 おばさんがキッチンの方に歩いていく音、それからフライパンをコンロにかける音がした。
 仰向けになったままで、ハリーは今まで見ていた夢を思い出そうとしていた。いい夢だったのに……。空飛ぶオートバイが出てきたっけ。ハリーは前にも同じ夢を見たような不思議な心地がした。
「まだ起きないのかい?」おばさんが戸のむこうに戻ってきて、きつい声を出した。
「もうすぐだよ」
「さあ、支度をおし。ベーコンの具合を見ておくれ。焦がしたら承知しないよ。今日はダドリーちゃんのお誕生日なんだから、間違いのないようにしなくちゃ」
 ハリーはうめいた。
「何か言った?」
 おばさんが戸の外からかみつくように言った。
「なんにも言わないよ。なんにも……」
 グドリーの誕生日――なんで忘れられようか。ハリーはのろのろと起き上がり、靴下を探した。ベッドの下で見つけた靴下の片方にはりついていたクモを引きはがしてから、ハリーは靴下をはいた。クモにはもう慣れっこだ。なにしろ階段下の物置はクモだらけだったし、そこがハリーの部屋だったのだから。
 服を着ると、ハリーは廊下に出てキッチンに向かった。食卓はダドリーの誕生日のプレゼントの山に埋もれてほとんど見えなかった。欲しがっていた新しいコンピュータもあるようだし、二台目のテレビやレース用自転車ももちろんあった。ダドリーがなぜレース用自転車を欲しがるのか、ハリーにとってはまったくの謎だった。太って運動嫌いなのに――誰かにパンチを食らわせる運動だけは別だが……。ダドリーはハリーをお気に入りのサンドバッグにしていたが、よく空振りした。一見そうは見えなくても、ハリーはとてもすばしっこかったのだ。
 暗い物置に住んでいるせいか、ハリーは年の割には小柄でやせていた。その上、着るものはハリーの四倍も大きいダドリーのお古ばかりだったので、ますますやせて小さく見えた。
 ハリーは、膝小僧が目立つような細い脚で、細面の顔に真っ黒な髪、明るい緑色の目をしていた。丸いメガネをかけていたが、ダドリーの顔面パンチがしょっちゅう飛んでくるので、セロテープであちこち貼りつけてあった。自分の顔でたった一つ気に入っていたのは、額にうっすらと見える稲妻形の傷だ。物心ついた時から傷があった。ハリーの記憶では、ペチュニアおばさんにまっさきに聞いた質問は「どうして傷があるの」だった。
「おまえの両親が自動車事故で死んだ時の傷だよ。質問は許さないよ」
 これがおばさんの答えだった。質問は許さない――ダーズリー家で平穏無事に暮らすための第一の規則だった。
 ハリーがベーコンを裏返していると、バーノンおじさんがキッチンに入ってきた。
「髪をとかせ!」
 朝の挨拶がわりにおじさんは一喝した。
 だいたい週に一度、おじさんは新聞越しにハリーを上目づかいに見ながら、髪を短く切れと大声を出すのだった。同級生の男の子を全部束にしてもかなわないほど頻繁にハリーは散髪させられたが、まったくムダだった。切っても切ってもすぐ元どおりに伸びるのだ。しかもありとあらゆる方向に。
 ハリーが卵を焼いていると、ダドリーが母親に連れられてキッチンに入ってきた。父親そっくりだ。大きなピンクの顔で、首はほとんどなく、薄い水色の小さな目をして、たっぷりとしたブロンドの髪が、たてにも横にも大きい顔の上に載っかっている。おばさんはダドリーのことをよく、天使のようだわ、と言ったが、ハリーは豚がかつらをつけたみたいだ、といつも思っていた。
 ハリーは食卓の上にべーコンと卵の皿を並べた。プレゼントのせいでほとんどすき間がないので、そう簡単には置けない。ダドリーの方は、プレゼントの数を敢えていたが、突然顔色を変えてパパとママを見上げた。
「三十六だ。去年より二つ少ないや」
「坊や、マージおばさんの分を数えなかったでしょう。パパとママからの大きな包みの下にありますよ」
「わかったよ。でも三十七だ」
 ダドリーの顔に血がのぼってきた。ハリーはダドリーのかんしゃく玉が大爆発寸前なのを感じて、いつテーブルがひっくり返されてもいいように大急ぎでベーコンに食らいついた。
 おばさんもあきらかに危険に気づいたらしく、あわてて言った。
「今日お出かけした時、あと二つ買ってあげましょう。どう? かわいこちゃん。あと二個もよ。それでいい?」
 ダドリーはちょっと考え込んだ。かなり難しい計算らしかったが、やがて、のろのろと言った。
「そうすると、ほく、三十……三十……」
「三十九よ、かわいい坊や」
「そうか、そんならいいや」
 ダドリーはドッカと座り込み、一番手近にあった包みを鷲づかみにした。
 バーノンおじさんはクスクス笑った。
「やんちゃ君はパパと同じで、絶対損したくないってわけだ。なんてすごい子だ! ダドリーや」
 パパはダドリーの髪をクシャクシャッとなでた。
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 楼主| 发表于 2006-8-4 23:58:12 | 显示全部楼层
電話が鳴り、おばさんがキッチンを出ていった。おじさんもハリーも、ダドリーが包みを解くのを眺めていた。レース用自転車、8ミリカメラ、ラジコン飛行機、新しいコンピューターゲーム十六本、ビデオ・レコーダー……おばさんが戻ってきた時は、金の腕時計の包みをビリビリ破っているところだった。おばさんは怒ったような困ったような顔で現れた。
「バーノン、大変だわ。フィッグさんが脚を祈っちゃって、この子を預かれないって」
 おばさんはハリーの方をあごでしゃくつた。
 ダドリーはショックで口をあんぐり開けたが、ハリーの心は踊った。毎年誕生日になると、ダドリーは友達と二人で、おじさんとおばさんに連れられ、アドベンチャー・パークやハンバーガー屋、映画などに出かけることになっていた。ハリーはいつも置いてけぼりで、ふた筋むこうに住んでいる変わりもののフィッグばあさんに預けられていた。ハリーはそこが大嫌いだった。家中キャベツの匂いがするし、おまけにばあさんが今まで飼った猫の写真を全部、無理やり見せるからだ。
「どうします?」
 ペチュニアおばさんは、ハリーが仕組んだと言わんばかりに恐ろしい顔でハリーをにらんだ。
 ハリーは骨折したばあさんに同情すべきだと思ったが、あと一年間はティブルスやらスノーイー、ミスター・ポーズ、タフティーなどの猫の写真を見ないですむと思うと、同情しろという方が無理だった。
「マージに電話したらどうかね」とおじさんが提案した。
「バカなこと言わないで。マージはこの子を嫌ってるのよ」
 ダーズリー夫妻はよくこんな風に、ハリーの目の前で、本人をまるで無視して話をした。むしろ、ハリーは言葉の通じないけがらわしいナメタジのように無視された。
「それなら、ほれ、なんていう名前だったか、おまえの友達の――イボンヌ、どうかね」
「バケーションでマジョルカ島よ」
「僕をここに置いていったら」
 そうなることを期待しながらハリーが口をはさんだ。(いつもとちがうテレビ番組を自分で選んで見ることができるかもしれないし、ひょっとするとダドリーのコンピュータをいじったりできるかもしれない)
 おばさんはレモンを丸ごと飲み込んだような顔をした。
「それで、帰ってきたら家がバラバラになってるってわけ?」
「僕、家を爆破したりしないよ」
 誰もハリーの言うことを聞いていなかった。
「動物園まで連れて行ったらどうかしら……それで、車の中に残しておいたら……」
 おばさんが気のりのしない様子で言った。
「しかし新車だ。ハリーを一人で中に残しておくわけにはいかん……」
 ダドリーはワンワン泣き出した。ウソ泣きだ。ここ何年も本当に泣いたことなんてないが、顔をゆがめてメソメソすれば、母親がほしいものは何でもくれることを知っているのだ。
「ダッドちゃん、ダドリーちゃん、泣かないで。ママがついているわ。おまえの特別な日を、あいつなんかにだいなしにさせたりしやしないから!」
 おばさんはダドリーを抱きしめた。
「ぼく……いやだ……あいつが……く、く、くるなんて!」
 しゃくりあげるふりをしながらダドリーがわめいた。
「いつだって、あいつが、めちゃめちゃにするんだ!」
 抱きしめている母親の腕のすき閏から、ダドリーはハリーに向かって意地悪くニヤリと笑った。ちょうどその時玄関のベルが鳴った。
「ああ、なんてことでしょう。みんなが来てしまったわ!」
 おばさんは大あわてだった。――やがてダドリーの一の子分、ピアーズ・ポルキスが母親に連れられて部屋に入ってきた。ねずみ顔のガリガリにやせた子だ。ダドリーが誰かを殴る時に、腕を後ろにねじ上げる役をするのはたいていこの子だ。ダドリーはたちまちウソ泣きをやめた。
 三十分後、ハリーはダーズリー一家の車の後部座席にピアーズ、ダドリーと一緒に座り、生まれて初めて動物園に向かっていた。信じられないような幸運だった。おじさんもおばさんも、結局ハリーをどうしていいかほかに思いつかなかった。ただし、出発前にバーノンおじさんはハリーをそばに呼んだ。
「言っておくがな……」
 おじさんは大きな赤ら顔をハリーの目の前につきつけた。
「小僧、変なことをしてみろ。ちょっとでもだ、そしたらクリスマスまでずっと物置に閉じ込めてやる」
「僕、何もしないよ。ほんとだよ……」
 しかし、おじさんは信じていなかった。ハリーの言うことを今まで誰も信じてくれなかった。
 困ったことに、ハリーのまわりでよく不思議なことが起きたし、自分がやったんじゃないとダーズリー夫妻にいくら話してもムダだった。
 ある時、床屋から帰ってきたハリーが、散髪する前と同じように髪が伸びているのを見て業をにやしたペチュニアおばさんが、キッチンバサミでクリクリに刈り上げたことがあった。
「醜い傷を隠すため」と前髪だけは残してくれたが、あとはほとんど丸坊主になった。ダドリーはハリーを見てバカ笑いしたし、ハリーは翌日の学校のことを思うと眠れなかった。ただでさえ、ダブダブの服を着てセロテープだらけのメガネをかけたハリーは物笑いの種だった。しかし、翌朝起きてみると、髪は刈り上げる前とまったく変わらなかった。おかげでハリーは一週間物置に閉じ込められた。どうしてこんなに早く髪が伸びたのかわからないと、ハリーがいくら言ってもだめだった。
 またある時は、おばさんがダドリーのお古の吐き気がするようなセーター(茶色でオレンジ色の毛玉が浮き上がっていた)を無理にハリーに着せようとしたが、ハリーの頭からかぶせようと、おばさんがやっきになればなるほど服はどんどん小さくなった。とうとう、指人形ならいざ知らず、ハリーにはとうてい着られないほどに縮んでしまった。おばさんはきっと洗濯で縮んだのだときめつけ、この時はハリーはおしおきを受けずにすんでほっとした。
 反対にひどい目にあったのが、学校の屋根事件だった。いつものようにダドリー軍団に追いかけられ、気がついたらハリーは食堂の屋根の煙突の上に腰かけていた。これには誰よりもハリー自身が驚いた。ダーズリー家には女校長先生から、ハリーが学枚の建物によじ登った、とたいそうご立腹の手紙がきた。しかし、ハリーがやったことといえば(物置に閉じ込められた時、外にいるバーノンおじさんにも大声でそう言ったのだが)食堂の外にあった大きな容器の陰に飛び込もうとしただけだったのだ。ハリーはジャンプした拍子に風にさらわれたにちがいないと思った。
 しかし、今日は絶対おかしなことがあってはならない。学校でも、物置でも、キャベツ臭いフィッグばあさんの居間でもないところで一日を過ごせるのだから、ダドリーやピアーズと一緒だって文句は言えない。
 運転をしながら、おじさんはおばさんを相手にブツブツ不平を言った。何しろ不平を言うのが好きなのだ。会社の人間のこと、ハリーのこと、市議会のこと、ハリーのこと、銀行のこと、ハリーのこと、ざっとこんなところがお気に入りのネタだった。今朝はオートバイがやり玉に上がった。
「……ムチャクチャな音を出して走りおって。チンピラどもが」
 オートバイに追い抜かれた時におじさんが言った。
「僕、オートバイの夢を見た」ハリーは急に思い出した。「空を飛んでたよ」
 バーノンおじさんはとたんに前の車にぶつかりそうになった。運転席からグルッと振り向きざま、彼は口ひげをはやした巨大な赤かぶのような顔でハリーを怒鳴りつけた。
「オートバイは空を飛ばん!」
 ダドリーとピアーズがクスクス笑った。
「飛ばないことはわかってる。ただの夢だよ」
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 楼主| 发表于 2006-8-4 23:58:31 | 显示全部楼层
 ハリーは何にも言わなきゃよかったと思った。ダーズリー夫妻はハリーが質問するのも嫌ったが、もっと嫌ったのは、夢だろうが漫画だろうが、何かがまともではない行動をする話だった。ハリーがそんな話をすると、まるで危険なことを考えているとでも思っているようだった。
 その日はお天気もよく、土曜日で、動物園は家族連れで混み合っていた。ダーズリー夫妻は人口でダドリーとピアーズに大きなチョコレート・アイスクリームを買い与えた。ハリーを急いでアイス・スタンドから遠ざけようとしたが、間に合わず、愛想のよい売り子のおばさんが、坊やは何がいいのと聞いたので、しかたなしにハリーにも安いレモン・アイスを買い与えた。

 これだってけっこういける、とアイスをなめながら、ハリーはみんなと一緒にゴリラのおりを眺めた。――ゴリラが頭を掻いている姿がダドリーそっくりだ。あれで金髪だったらな……。
 こんなにすばらしい朝を過ごしたのは、ハリーにとって久しぶりだった。昼近くになると、ダドリーもピアーズも動物に飽きてきたので、かわりにお気に入りのハリー殴りを始めるかもしれないと思い、ハリーは慎重に二人から少し離れて歩くようにした。園内のレストランでお昼を食べたが、ダドリーはチョコレート・パフェが小さいとかんしゃくを起こし、おじさんがもう一つ買ってやるはめになり、ハリーはパフェのお下がりを食べることを許された。
 後になって思えば、こんないいことばかりが続くはずがなかった。
 昼食の後で、爬虫類館を見た。館内はヒヤッとして暗く、壁に沿ってガラスケースが並び、中には照明がついていた。ガラスのむこうにはいろいろなトカゲやへどがいて、材木や石の上をスルスルと這い回っていた。ダドリーとピアーズは巨大な毒ヘビコブラと、人間でも絞め殺しそうな太いニシキヘビを見たがった。ダドリーはすぐに館内で一番大きなヘビを見つけた。バーノンおじさんの車を二巻きにして砕いてくずかごに放り込みそうな大蛇だ――ただし、今はそういうムードではないらしい。それどころかぐっすり眠っている。
 ダドリーは、ガラスに鼻を押しつけて、ツヤツヤと光る茶色のとぐろを見つめていた。
「動かしてよ」
 ダドリーは父親にせがんだ。おじさんはガラスをトントンと叩いたが、ヘビは身じろぎもしない。
「もう一回やって」
 ダドリーが命令した。おじさんは拳でドンドンとガラスを叩いたが、ヘビは眠り続けている。
「つまんないや」
 ダドリーはブーブー言いながら行ってしまった。
 ハリーはガラスの前に来て、じっとヘビを見つめた。ヘビの方こそ退屈のあまり死んでしまっても不思議はない。一日中、ガラスを叩いてチョッカイを出すバカな人間ども以外に友達もいない……物置で寝起きする方がまだましだ。ドアをドンドンやられるのはペチュニアおばさんが朝起こしに来る時だけだし、少なくともハリーは家の中を歩き回れる。
 突然、ヘビはビーズのような目を開け、ゆっくり、とてもゆっくりとかま首をもたげ、ハリーの目線と同じ高さまで持ち上げた。
 ヘビがウィンクした。
 ハリーは目を見張った。あわてて誰か見ていないかと、周りを見まわした。
 大丈夫だ。ハリーはヘビに視線を戻し、ウィンクを返した。
 へどはかま首をバーノンおじさんとダドリーの方に伸ばし、目を天井に向けた。その様子は、明らかにハリーにこう言っていた。
「いつもこうさ」
「わかるよ」
 へどに聞こえるかどうかわからなかったが、ガラス越しにハリーはそうつぶやいた。
「ほんとにイライラするだろうね」
 ヘビは激しくうなずいた。
「ところで、どこから来たの?」
 ヘビはガラスケースの横にある掲示板を尾でツンツンとつついた。ハリーがのぞいてみると、
 ブラジル産ボア・コンストリクター 大ニシキヘビ
と書いてある。
「いいところなの?」
 ニシキヘビはもう一度尾で掲示板をつついた。
 このヘビは動物園で生まれました
「そうなの……じや、ブラジルに行ったことがないんだね?」
 へどがうなずいたとたん、ハリーの後ろで耳をつんざくような大声がして、ハリーもヘビも飛び上がりそうになった。
「ダドリー! ダーズリーおじさん! 早く来てヘビを見て。信じられないようなことやってるよ」
 ダドリーがドタドタと、それなりに全速力でやってきた。
「どけよ、オイ」
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 楼主| 发表于 2006-8-4 23:58:51 | 显示全部楼层
 ダドリーがハリーの肋骨にパンチを食らわせた。不意を食らってハリーはコンクリートの床にひっくり返った。次の瞬間の出来事は、あっという間だったので、どんなふうに起こったのか誰にもわからなかった。最初、ダドリーとピアーズがガラスに寄りかかった。次の瞬間、二人は恐怖の叫びを上げて飛びのいた。
 ハリーは起き上がり、息をのんだ。ニシキヘビのケースのガラスが消えていた。大ヘビはすばやくとぐろをほどき、ズルズルと外にはい出した。館内にいた客たちは叫び声を上げ、出口に向かってかけ出した。
 ヘビがスルスルとハリーのそばを通り過ぎた時、誓ってもいい、ハリーは確かに、低い、シューシューという声を開いたのだ。
「プラジルへ、俺は行く――シュシュシュ、ありがとよ。アミーゴ」
 爬虫類館の飼育係はショック状態だった。
「でも、ガラスは、ガラスはいったいどこに?」と言い続けていた。
 園長は自らペチュニアおばさんに濃い甘い紅茶を入れ、ペコペコと謝った。ピアーズとダドリーはわけのわからないことを口走るばかりだった。ハリーが見ていたかぎりでは、ヘビは通りがかりざまに二人のかかとにかみつくふりをしただけなのに、バーノンおじさんの車に全員が戻った時には、ダドリーは「ヘビに脚を食いちぎられそうになった」と言い、ピアーズは「うそじゃない、ヘビが絞め殺そうとした」と言った。しかしハリーにとって最悪だったのはだんだん落ち着いてきたピアーズが言った言葉だった。
「ハリーはヘビと話してた。ハリー、そうだろ?」
 バーノンおじさんはまずピアーズを無事家から送り出すまで怒鳴るのを我慢し、それからハリーの処分に取りかかった。怒りのあまり、おじさんは声も出なかった。やっとのことで
「行け――物置――出るな――食事抜き」
 と言うと、椅子に倒れこんでしまった。おばさんは急いでおじさんに飲ませるブランデーの大瓶を取りに行った。

 ハリーが暗い物置に入ってからだいぶ時間がたった。時計が欲しいと思った。どのぐらい時間がたったのかわからないし、ダーズリー一家が眠ってしまったかどうかもわからない。みんなが寝静まるまではキッチンでこっそり盗み食いをすることもできない。
 ダーズリー一家と暮らしてほぼ十年が……思い出すかぎり惨めな十年が過ぎた。赤ん坊の時から、両親が自動車事故で死んでからずっとだ。両親が死んだ時、自分が車の中にいたかどうかさえ思い出せない。時々、物置の中で長い時間を過ごしながら、一生懸命思い出をたぐっていると、不思議な光景が見えてくることがあった。目の眩むような緑の閃光と焼けつくような額の痛みだ。緑の光がどこから出ているのかは想像がつかなかったが、ハリーはきっと、これが自動車事故なんだ、と思った。両親のことはまったく思い出せなかった。おじさんもおばさんも一度も話してくれないし、もちろん質問は禁じられていた。この家のどこにも両親の写真はなかった。
 小さかった頃、ハリーは誰か見知らぬ親戚が自分を迎えにやってくることを何度も何度も夢見た。しかし、そんなことは一度も起こらなかった。ダーズリー一家しか家族はなかった。それなのに、時々街で見知らぬ人がハリーのことを知っているのではないかと思うことがあった(そう思いたかったのかもしれない)。見知らぬばかりか、実に奇妙な人たちだった。一度は、おばさんやダドリーと一緒に買い物に出た時、店の中でスミレ色の三角帽子をかぶった小さな男の人がハリーにお辞儀をした。おばさんは、知っている人なのかと激しくハリーを問いつめ、何も買わずに二人を連れて店を飛び出した。一度はバスの中で、緑ずくめのとっぴな格好をしたおばあさんがハリーに向かってうれしそうに手を振った。つい先日も、ひどく長い紫のマントを着たハゲ頭の男が、街中でハリーとしっかり握手までしてそのまま一言も言わずに立ち去った。一番奇妙なのは、ハリーがもう一度よく見ようとしたとたん、こうした人たちが消えてしまうことだった。
 学校でもハリーは一人ぼっちだった。ダブダブの服に壊れたメガネをかけたおかしなハリー・ポッターが、ダドリー軍団に憎まれていることをみんな知っていたし、誰一人ダドリー軍団に逆らおうとはしなかったのだ。

[ 本帖最后由 @@小宝工坊@@ 于 2006-8-4 16:00 编辑 ]
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 楼主| 发表于 2006-8-5 00:01:02 | 显示全部楼层
第三章 知らない人からの手紙
CHAPTER THREE The Letters from No One

ブラジル産大ヘビの逃亡事件のおかげで、ハリーはいままでで一番長いお仕置きを受けた。
 やっとお許しが出て、物置から出してもらった時には、もう夏休みが始まっていた。ダドリーは、買ってもらったばかりの8ミリカメラをとっくに壊し、ラジコン飛行機も墜落させ、おまけに、レース用自転車に初めて乗ったその日に、プリベット通りを松葉杖で横切っていたフィッグばあさんにぶつかって、転倒させてしまうという事件も終わっていた。
 休みが始まっていたのはうれしかったが、ハリーは毎日のように遊びにやってくるダドリーの悪友から逃れることはできなかった。ピアーズ、デニス、マルコム、ゴードン、みんな揃いもそろってデカくてウスノロばかりだったが、なかでもとびきりデカで、ウスノロなのがダドリーだったので、軍団のリーダーはダドリーだった。あとの四人はダドリーのお気に入りのスボーツ「ハリー狩り」に参加できるだけで大満足だった。
 そういうわけで、ハリーは、なるべく家の外でぶらぶらして過ごすことにした。夏休みさえ終われば、とハリーは思った。それだけがわずかな希望の光だった。九月になれば七年制の中等学校に入る。そうすれば生まれて初めてダドリーから離れられる。ダドリーはバーノンおじさんの母校、「名門」私立スメルティングズ男子校に行くことになっていた。ピアーズ・ポルキスもそこに入学する。ハリーは地元の普通の公立ストーンウォール校へ行くことになっていた。ダドリーにはこれが愉快でたまらない。
「ストーンウォールじゃ、最初の登校日に新入生の頭をトイレに突っ込むらしいぜ。二階に行って練習しようか?」
「遠慮しとくよ。トイレだって君の頭みたいに気味の悪いものを流したことはないよ。突っ込まれた方こそいい迷惑だ……トイレの方が吐き気がするだろうさ」
 そう言うが早いか、ハリーはすばやくかけ出した。ダドリーはハリーの言ったことの意味をまだ考えていた。
 七月に入り、ペチュニアおばさんはダドリーを連れてロンドンまでスメルティングズ校の制服を買いに出かけた。ハリーはフィッグばあさんに預けられはしたが、いつもよりましだった。
 飼い猫の一匹につまずいて脚を骨折してからというもの、フィッグばあさんは前ほど猫好きではなくなったらしい。ハリーはテレビを見ることを許されたばかりか、チョコレート・ケーキを一切れもらった。何年もしまいこんであったような味がした。
 その夜、ダドリーはピカピカの制服を着て居間を行進してみせた。スメルティングズ男子校では、みんな茶色のモーニングにオレンジ色のニッカーボッカーをはき、平ったい麦わらのカンカン帽をかぶる。てっぺんにこぶ状の握りのある杖を持つことになっていて、これはもっぱら先生が見ていないすきをねらって、生徒が互いに殴りあうために使われる。卒業後の人生に役立つ訓練らしい。
 真新しいニッカーボッカー姿のダドリーを見て、バーノンおじさんは、人生で最も誇らしい瞬間だと声をつまらせた。ペチュニアおばさんは、こんなに大きくなって、こんなにハンサムな子が、私のちっちゃなダドリー坊やだなんて、信じられないとうれし泣きした。ハリーはとても何か言うどころではなく、笑いをこらえるのに必死で、あばら骨が二本折れたかと思うほど苦しかった。
 翌朝、朝食を食べにハリーがキッチンに入ると、ひどい悪臭が漂っていた。洗い場に置かれた大きなたらいから匂ってくる。近づいてのぞくと、灰色の液体に汚らしいボロ布がプカブカ浮いていた。
「これ、なに?」
 してはいけないのにハリーは質問した。そういう時、ペチュニアおばさんは必ず唇をギュッと結ぶ。
「おまえの新しい制服だよ」
「そう。こんなにビショビショじゃないといけないなんて知らなかったな」
 ハリーはあらためてたらいに目をやりながら言った。
「お黙り! ダドリーのお古をわざわざおまえのために灰色に染めてあげてるんだ。仕上がればちゃーんとした制服になるよ」
 とうていそうは思えなかった。でもハリーは何も言わない方がいいと思った。食卓について、ストーンウォール入学の第一日目の自分の姿を想像した……たぶん年とった象の皮を着たみたいに見えるだろうな……でもそれは考えないことにした。
 ダドリーとバーノンおじさんが入ってきて、匂いに顔をしかめた。バーノンおじさんはいつものように朝刊を広げ、ダドリーは、片時も手放さないスメルティングズ校の杖で食卓をバンと叩いた。
 その時、郵便受けが開き、郵便が玄関マットの上に落ちる音がした。
「ダドリーや。郵便を取っておいで」と新聞の陰からバーノンおじさんの声。
「ハリーに取らせろよ」
「ハリー、取ってこい」
「ダドリーに取らせてよ」
「ダドリー、スメルティングズの杖でつついてやれ」
 ハリーはスメルティングズ杖をかわし、郵便を取りに行った。マットの上に三通落ちている。ワイト島でバケーションを過ごしているバーノンおじさんの姉、マージからの絵葉書。請求書らしい茶封筒。それに……ハリー宛の手紙。
 ハリーは手紙を拾い上げてまじまじと見つめた。心臓は巨大なゴムひものようにビュンビュンと高鳴った。これまでの人生で、ただの一度もハリーに手紙をくれた人はいない。くれるはずの人もいない。友達も親戚もいない……図書館に登録もしていないので、「すぐ返本せよ」などという無礼な手紙でさえもらったことはない。それなのに手紙が来た。正真正銘ハリー宛だ。

  サレー州リトル・ウインジング
 プリベット通り4番地 階段下の物置内
  ハリー・ポッタ-様
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 楼主| 发表于 2006-8-5 00:02:09 | 显示全部楼层
 何やら分厚い、重い、黄色みがかった羊皮紙の封筒に入っている。宛名はエメラルド色のインクで書かれている。切手は貼ってない。
 震える手で封筒を裏返してみると、紋章入りの紫色の蝋で封印がしてあった。真ん中に大きく〝H〟と書かれ、その周りをライオン、鷲、穴熊、ヘビが取り囲んでいる。
「小僧、早くせんか!」
 キッチンからバーノンおじさんの怒鳴り声がする。
「何をやっとるんだ。手紙爆弾の検査でもしとるのか?」
 自分のジョークでおじさんはケラケラ笑った。
 ハリーは手紙を見つめたままでキッチンに戻った。バーノンおじさんに請求書と絵葉書を渡し、椅子に座ってゆっくりと黄色の封筒を開きはじめた。
 バーノンおじさんは請求書の封筒をビリビリと開け、不機嫌にフンと鼻を鳴らし、次に絵葉書の裏を返して読んだ。
「マージが病気だよ。腐りかけた貝を食ったらしい……」
 とペチュニアおばさんに伝えたその時、ダドリーが突然叫んだ。
「パパ! ねえ! ハリーが何か持ってるよ」
 ハリーは、封筒と同じ厚手の羊皮紙に書かれた手紙をまさに広げようとしていた。が、バーノンおじさんがそれをひったくつた。
「それ、僕のだよ!」

 ハリーは奪い返そうとした。
「おまえに手紙なんぞ書くやつがいるか?」
 とバーノンおじさんはせせら笑い、片手でパラっと手紙を開いてチラリと目をやった。とたんに、おじさんの顔が交差点の信号よりすばやく赤から青に変わった。それだけではない。数秒後には、腐りかけたお粥のような白っぽい灰色になった。
「ぺ、ペ、ペチュニア!」
 おじさんほあえぎながら言った。
 ダドリーが手紙を奪って読もうとしたが、おじさんは手が届かないように高々と掲げていた。
 ペチュニアおばさんはいぶかしげに手紙を取り、最初の一行を読んだ。とたんに、喉に手をやり、窒息しそうな声をあげた。一瞬、気を失うかのように見えた。
「バーノン、どうしましょう……あなた!」
 二人は顔を見合わせ、ハリーやダドリーがそこにいることなど忘れたかのようだった。ダドリーは無視されることに慣れていない。スメルティングズ杖で、父親の頭をコツンと叩いた。
「ぼく、読みたいよ」
 ダドリーが喚いた。
「僕に読ませて。それ、僕のだよ」
 ハリーは怒った。
「あっちへ行け! 二人ともだ」
 バーノンおじさんは、手紙を封筒に押し込みながら、かすれた声でそう言った。
「僕の手紙を返して!」
 ハリーはその場を動かなかった。
「ぼくが見るんだ!」
 ダドリーも迫った。
「行けといったら行け!」
 そう怒鳴るやいなや、バーノンおじさんは、二人の襟首をつかんで部屋の外に放り出し、ピシャリとキッチンのドアを閉めてしまった。どちらが鍵穴に耳をつけられるか、ハリーとダドリーの無言の激しい争奪戦はダドリーの勝ちに終わった。ハリーは争いでずり落ちたメガネを片耳からぶら下げたまま床にはいつくばり、ドアと床の間のすき間から漏れてくる声を聞こうとした。
「バーノン。住所をごらんなさい……どうしてあの子の寝ている場所がわかったのかしら。まさかこの家を見張っているんじゃないでしょうね?」
「見張っている……スパイだ……あとをつけられているのかもしれん」
 バーノンおじさんの興奮した呟き声が聞こえた。
「あなた、どうしましょう。返事を書く? お断りです……そう書いてよ」
 ハリーの目に、キッチンを行ったり来たりするおじさんのピカピカに磨いた黒い靴が見えた。
「いや」
 しばらくしておじさんはやっと口を開いた。
「いいや、ほっておこう。返事がなけりゃ……そうだ、それが一番だ……何もせん……」
「でも……」
「ペチュニア! 我が家にはああいう連中はお断りだ。ハリーを拾ってやった時誓ったろう? ああいう危険なナンセンスは絶対たたき出してやるって」
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 楼主| 发表于 2006-8-5 00:02:42 | 显示全部楼层
 その夜、仕事から帰ったおじさんは、今までただの一度もしなかったことをした。ハリーの物置にやってきたのだ。
「僕の手紙はどこ?」
 バーノンおじさんの大きな図体が狭いドアから入ってきた時、ハリーはまっ先に聞いた。
「誰からの手紙なの?」
「知らない人からだ。間違えておまえに宛てたんだ。焼いてしまったよ」
 おじさんはぶっきらぼうに答えた。
「絶対に間違いなんかじゃない。封筒に物置って書いてあったよ」
 ハリーは怒った。
「だまらっしゃい!」
 おじさんの大声で、天井からクモが数匹落ちてきた。おじさんは二、三回深呼吸して、無理に笑顔を取りつくろったが、相当苦しい笑顔だった。
「エー、ところで、ハリーや……この物置だがね。おばさんとも話したんだが……おまえもここに住むにはちょいと大きくなりすぎたことだし……ダドリーの二つ目の部屋に移ったらいいと思うんだがね」
「どうして?」
「質問しちゃいかん! さっさと荷物をまとめて、すぐ二階へ行くんだ」
 おじさんはまた怒鳴った。
 ダーズリー家には寝室が四部屋ある。バーノンおじさんとペチュニアおばさんの部屋、来客用(おじさんの姉のマージが泊ることが多い)、ダドリーの寝る部屋、そこに入りきらないおもちゃやその他いろいろな物が、ダドリーの二つ目の部屋に置かれている。物置から全財産を二階の寝室に移すのに、ハリーはたった一回階段を上がればよかった。ベッドに腰かけて周りを見回すと、ガラクタばかりが置いてあった。買ってからまだ一カ月しかたっていないのに8ミリカメラは小型戦車の上に転がされていた。ダドリーがその戦車に乗って隣の犬を轢いてしまったことがある。隅に置かれたダドリーの一台目のテレビは、お気に入りの番組が中止になったと言って蹴りつけて大穴をあけてしまった。大きな鳥籠にはオウムが入っていたこともあったが、ダドリーが学校で本物の空気銃と交換した。その銃は、ダドリーが尻に敷いて銃身をひどく曲げてしまい、今は棚の上にほったらかしになっている。他の棚は本でいっぱいだが、これだけは手を触れた様子がない。
 下からダドリーが母親に向かって喚いているのが聞こえた。
「あいつをあの部屋に入れるのはいやだ……あの部屋はぼくが使うんだ……あいつを追い出してよ……」
 ハリーはフッとため息をつき、ベッドに体を横たえた。昨日までだったら、二階に住めるなら他には何もいらないと思っていた。今日のハリーは、手紙なしでこの部屋にいるより、手紙さえあれば物置にいてもいいと思った。
 次の朝、みんな黙って朝食を食べた。ダドリーはショック状態だった。喚いたり、父親をスメルティングズ杖で叩いたり、わざと気分が悪くなってみせたり、母親を蹴飛ばしたり、温室の屋根をぶち破って亀を放り投げたり、それでも部屋は取り戻せなかったからだ。ハリーは昨日の今頃のことを考え、玄関で手紙を開けてしまえばよかったと後悔していた。おじさんとおばさんは、暗い表情で始終顔を見合わせていた。
 朝の郵便が届いた。バーノンおじさんは、努めてハリーに優しくしようとしているらしく、ダドリーに郵便を取りに行かせた。スメルティングズ杖でそこらじゅうを叩きまくりながら、ダドリーは玄関に行った。やがて、ダドリーの大声がした。
「また来たよ! プリベット通り4番地 一番小さい寝室 ハリー・ポッター様――」
 バーノンおじさんは首を締められたような叫び声を上げて椅子から跳び上がり、廊下をかけ出した。続いてハリー――バーノンおじさんはダドリーを組せて手紙を奪い取ったが、ハリーが後ろからおじさんの首をつかんだので、三つ巴となった。取っ組み合いの大混戦がしぼらく続き、みんないやというほどスメルティングズ杖を食らって、やがて息も絶えだえに立ち上がったのはバーノンおじさんだった。ハリーへの手紙を鷲づかみにしている。
「物置に……じゃない、自分の部屋に行け」
 おじさんはゼイゼイしながら命令した。
「ダドリー、おまえも行け……とにかく行け」
 ハリーは移ってきたばかりの自分の部屋の中をグルグル歩き回った。物置から引っ越したことを誰かが知っている。最初の手紙を受け取らなかったことを知っている。だったら差出人は必ずもう一度出すのでは? 今度こそ失敗しないようにするぞ。ハリーには名案があった。
 壊れた時計を直しておいたので、目覚しは翌朝六時に鳴った。ハリーは目覚しを急いで止め、こっそり服を着た。ダーズリー一家を起こさないように、電気もつけず、ひっそりと階段を降りた。
 プリベット通りの角のところで郵便配達を待てばよい。四番地宛の手紙を受け取るんだ。忍び足で暗い廊下を渡り、玄関へと向かうハリーの心臓は早鐘のように鳴った……。
「ウワーヮヮヮァァァァァ!」
 ハリーは空中に跳び上がった――玄関マットの上で、何か大きくてグニャッとしたものを踏んだ……何だ? 生き物だ!
 二階の電気がついた。ハリーは度肝を抜かれた。大きくてダニャッとしたものは、なんと、バーノンおじさんの顔だった。おじさんは、まさにハリーのやろうとしたことを阻止するために、寝袋にくるまって玄関のドアの前で横になっていたのだ。それから三十分、おじさんはエンエンとハリーを怒鳴りつけ、最後に紅茶を入れてこいと命令した。ハリーはスゴスゴとキッチンに向かい、そこから玄関に戻ってきたちょうどその時、バーノンおじさんの膝の上に郵便が投げ込まれた。緑色で宛名が書かれた手紙が三通見えた。
「僕の…」
 と言い終わらないうちに、おじさんはハリーの目の前でてがみをビリビリと破り捨てた。
 バーノンおじさんは、その日会社を休み、家の郵便受けを釘づけにした。口一杯釘を食わえたまま、おじさんはペチュニアおばさんに理由を説明した。
「いいか、配達さえさせなけりゃ連中もあきらめるさ」
「でもあなた、そんなことでうまくいくかしら」
「ああ、連中の考えることときたらおまえ、まともじやない。わしらとは人種が違う」
 バーノンおじさんは、今しがたおばさんが持ってきたフルーツケーキで釘を打とうとしていた。
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 楼主| 发表于 2006-8-5 00:03:01 | 显示全部楼层
 金曜には、十二通もの手紙が届いた。郵便受けに人らないので、ドアの下から押し込まれたり、横のすき間に差し込まれたり、一階のトイレの小窓からねじ込まれたものも数通あった。
 バーノンおじさんはまた会社を休んだ。手紙を全部焼き捨て、釘と金槌を取り出すと、玄関と裏口のドアのすき間というすき間に板を打ちつけ、誰一人外に出られないようにした。釘を打ちながら、「チューリップ畑を忍び足」のせかせかした曲を鼻歌で歌い、ちょっとした物音にも跳び上がった。

 土曜日。もう手がつけられなくなった。二十四通のハリー宛の手紙が家の中に忍びこんできた。牛乳配達が、一体何事だろうという顔つきで、卵を二ダース、居間のまどからペチュニアおばさんに手渡したが、その卵の一個一個に丸めた手紙が隠してあったのだ。バーノンおじさんは、誰かに文句を言わなければ気がすまず、郵便局と牛乳店に怒りの電話をかけた。ペチュニアおばさんはミキサーで手紙を粉々にした。
「おまえなんかにこんなにメチャメチャに話したがっているのはいったい誰なんだ?」
 ダドリーも驚いてハリーに聞いた。

 日曜の朝、バーノンおじさんは、疲れたやや青い顔で、しかし嬉しそうに朝食の席に着いた。
「日曜は郵便は休みだ」
 新聞にママレードを塗りたくりながら、おじさんは嬉々としてみんなに言った。
「今日はいまいましい手紙なんぞ――」
 そう言い終わらないうちに、何かがキッチンの煙突を伝ってヒューッと落ちてきて、おじさんの後頭部にこつんとぶつかった。次の瞬間、三十枚も四十枚もの手紙が、暖炉から雨あられと降ってきた。ダーズリーたちはみんな身をかわしたが、ハリーは飛びついて手紙を捕まえようとした。
「出て行け。出ていくんだ!」
 バーノンおじさんはハリーの腰のあたりを捕まえて、廊下に放り出した。ペチュニアおばさんとダドリーは顔を腕でかばいながら部屋から逃げ出した。バーノンおじさんがドアをピシャリと閉めた後も、手紙が部屋の中に洪水のようにあふれ出て壁やら床やらではね返る音が聞こえてきた。
「これできまりだ」
 バーノンおじさんは平静に話そうとしてはいたが、同時に口ひげをしこたま引き抜いていた。
「みんな、出発の準備をして五分後にここに集合だ。家を離れることにする。着替えだけ持ってきなさい。問答無用だ!」
 口ひげを半分も引き抜いてしまったおじさんの形相はすさまじく、誰も問答する気になれなかった。十分後、板をガンガンに打ちつけたドアをこじ開け、一行は車に乗り込み、高速道路を目指して突っ走っていた。ダドリーは後ろの席でグスグス泣いていた。テレビやビデオやコンピュータをスポーツバッグに詰め込もうとしてみんなを待たせたので、父親からガツンと頭に一発食らったのだ。
 一行を乗せて車は走った。どこまでも走った――ペチュニアおばさんさえ、どこに行くのかと質問もできない。バーノンおじさんは時々急カーブを切り、進行方向と反対の方向に車を走らせたりした。
「振り払うんだ……振り切るんだ」
 そのたびにおじさんはぶつぶつ言った。
 一行は一日中飲まず食わずで走りに走った。暗くなる頃にはダドリーが泣き喚いていた。腹ペコで、お気に入りのテレビ番組は五本も見逃したし、こんなに長時間、コンピュータ・ゲームでエイリアンを一人もやっつけなかったなんて、ダドリーの人生最悪の一日だった。
 バーノンおじさんは、どこか大きな町はずれの、陰気臭いホテルの前でやっと車を止めた。
 ダドリーとハリーはツイン・ベッドの部屋に泊った。湿っぽい、かび臭いシーツだった。ダドリーは高いびきだったが、ハリーは眠れないままに、窓辺に腰かけ、下を通り過ぎる車のライトを眺めながら物思いに沈んでいた……。

 翌朝、かび臭いコーンフレークと、缶詰の冷たいトマトをのせたトーストの朝食をとった。
 ちょうど食べ終わった時、ホテルの女主人がやってきた。
「ごめんなさいまっし。ハリー・ポッターという人はいなさるかね? 今しがた、フロントにこれとおんなじもんがざっと百ほど届いたがね」
 女主人は、みんなが宛名を読めるように手紙をかざして見せた。緑のインクだ。


  コークワース州
 レールヴューホテル
  17号室
 ハリー・ポッター様
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 楼主| 发表于 2006-8-5 00:04:20 | 显示全部楼层
 ハリーは手紙をつかもうとしたが、バーノンおじさんがその手を払いのけた。女主人は目を丸くした。
「わしが引き取る」
 バーノンおじさんはすばやく立ちあがり、女主人について食堂を出ていった。

「ねえ、家に帰った方がいいんじゃないかしら?」
 ペチュニアおばさんが恐る恐るそう言ったのはそれから数時間後だったが、車を走らせるバーノンおじさんにはまるで聞こえていない。いったいおじさんが何を探そうとしているのか、誰にも皆目わからなかった。ある時は森の奥深くまで入り、おじさんは降りてあたりを見回し、頭を振り、また申に戻り、また走り――ある時は耕された畑のど真ん中で、またある時は吊り橋の真ん中で、そしてまたある時は立体駐車場の屋上で、おじさんは同じことを繰り返した。
「パパ、気が変になったんじゃない?」
 夕方近くになって、ダドリーがぐったりして母親に問いかけた。バーノンおじさんは海岸近くで車を止め、みんなを車に閉じ込めて鍵をかけ、姿を消した。
 雨が降ってきた。大粒の雨が車のルーフを打った。
「今日は月曜だ」
 ダドリーは母親に向かって哀れっぽい声を出した。
「今夜は『グレート・ハンベルト』があるんだ。テレビのある所に泊りたいよう」
 月曜だ。ハリーは何か思い出しかけていた。もし月曜なら(曜日に関してはダドリーの言うことは信用できる……テレビのおかげで)もし本当にそうなら、明日は火曜日、そしてハリーの十一歳の誕生日だ。誕生日が楽しかったことは一度もない……去年のダーズリー一家からのプレゼントは、コートを掛けるハンガーとおじさんのお古の靴下だった。それでも、十一歳の誕生日は一生に一度しか来ない。
 バーノンおじさんはにんまりしながら戻ってきた。長い、細い包みを抱えている。何を買ったのかとおばさんが聞いても、答えなかった。
「申し分のない場所を見つけたぞ。来るんだ。みんな降りろ!」
 外はとても寒かった。バーノンおじさんは海のかなたに見える何やら大きな岩を指さしている。その岩のてっぺんに、途方もなくみすぼらしい小屋がちょこんと乗っている…テレビがないことだけは保証できる。
「今夜は嵐が来るぞ!」
 バーノンおじさんは上機嫌で手を叩きながら言った。
「このご親切な方が、船を貸してくださることになった」
 歯のすっかり抜けた老人がヨボヨボと近づいてきて、なにやら気味の悪い笑みを浮かべながら、鉛色の波打ち際に木の葉のように浮かぶボロ船を指さした。
「食料は手に入れた。一同、乗船!」
 バーノンおじさんが号令をかけた。
 船の中は凍えそうな寒さだった。氷のような波しぶきと雨が首筋を伝わり、刺すような風が顔を打った。何時間も経ったかと思われる頃、船は岩にたどり計き、バーノンおじさんは先頭を切って滑ったり転んだりしながらオンボロ小屋へと向かった。
 小屋の中はひどかった。海草の匂いがツンと鼻を刺し、板壁のすき閏からヒューヒューと風が吹き込んでいた。おまけに火の気のない暖炉は湿っていた。部屋は二つしかなかった。
 バーノンおじさんの用意した食料は、ポテトチップ一人一袋、バナナ四本しかなかった。
 暖炉に火を入れようと、おじさんはポテトチップの空き袋に火をつけたが、くすぶってチリチりと縮んだだけだった。
「今ならあの手紙が役立つかもしれんな。え?」
 おじさんは楽しそうに言った。
 おじさんは上機嫌だった。こんな嵐の中、まさかここまで郵便を届けにくるやつはいまい、と思っているにちがいない。ハリーもおじさんと同意見だったが、上機嫌にはなれなかった。
 夜になると、予報どおり嵐が吹き荒れた。波は高く、しぶきがビシャビシャと小屋の壁を打った。風ほ猛り、汚れた窓をガタガタ言わせた。ペチュニアおばさんは奥の部屋からかび臭い毛布を二、三枚見つけてきて、ダドリーのために虫食いだらけのソファの上にべッドをこしらえた。おじさんとおばさんは、奥の部屋のデコボコしたベッドにおさまった。ハリーは床の柔らかそうな所を探して、一番薄い、一番ボロの毛布にくるまって体を丸くした。
 夜がふけるにつれて、嵐はますます激しさを増した。ハリーは眠れなかった。ガタガタ震えながら、何とか楽な姿勢になろうとなんども寝返りを打った。空腹でお腹が鳴った。ダドリーの大いびきも、真夜中近くに始まった雷のゴロゴロという低い音にかき消されていった。ソファからはみ出してブラブラしているダドリーの太った手首に、蛍光文字盤つきの腕時計があった。あと十分でハリーは十一歳になる。横になったまま、ハリーは自分の誕生日が刻一刻と近づくのを見ていた。おじさんやおばさんたちは覚えているのだろうか。手紙をくれた人は今どこにいるのだろう。
 ――あと五分。ハリーは外で何かが軋むのを聞いた。屋根が落ちてきませんように。いや、落ちた方が暖かいかもしれない。あと四分。プリベット通りの家は手紙であふれているかもしれない。帰ったら一つぐらいはなんとか抜き取ることができるかもしれない。
 ――あと三分。あんなに強く岩を打つのは荒海なのか? それに――あと二分――あの奇妙なガリガリという音は何なのだろう? 岩が崩れて海に落ちる音か?
 ――十一歳まで、あと一分。三十秒……二十……十……九……嫌がらせにダドリーを起こしてやろうか。……三……二……一……
 ドーン
 小屋中が震えた。ハリーはビクッと跳び起きてドアを見つめた。誰か外にいる。ドアをノックしている。
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发表于 2006-8-5 23:55:42 | 显示全部楼层
请尽快贴出下部分,谢谢!
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 楼主| 发表于 2006-8-9 21:21:10 | 显示全部楼层
第四章 鍵の番人
CHAPTER FOUR The Keeper of the Keys

 ドーン。もう一度、誰かがノックしている。ダドリーが跳び起きて、寝ぼけた声を上げた。
「何? 大砲? どこ?」
 むこうの部屋でガラガラガッシャンと音がしたかと思うと、バーノンおじさんがライフル銃を手に、すっとんできた――あの細長い包みが何だったのか、今わかった。
「誰だ。そこにいるのは。言っとくが、こっちには銃があるぞ!」
 おじさんは叫んだ。
 一瞬の空白があった。そして……
 バターン!
 蝶番も吹っ飛ぶほどの力でドアが開けられ、扉が轟音を上げて床に落ちた。
 戸口には大男が突っ立っていた。ボウボウと長い髪、モジャモジャの荒々しいひげに隠れて、顔はほとんど見えない。でも、毛むくじゃらの中から、まっ異な黄金虫のような目がキラキラ輝いているのが見える。
 大男は窮屈そうに部屋に入ってきた。身を屈めても、髪が天井をこすった。男は腰を折ってドアを拾い上げると、いとも簡単に元の枠にバチンと戻した。外の嵐の音がやや薄らいで聞こえた。大男は振り返ってグルリとみんなを見渡した。
「お茶でも入れてくれんかね? いやはや、ここまで来るのは骨だったぞ……」
 男は大股でソファに近づき、恐怖で凍りついているダドリーに言った。
「少し空けてくれや、太っちょ」
 ダドリーは金切り声を上げて迫げ出し、母親の陰に隠れた。おばさんは震えながらおじさんの陰にうずくまっていた。
「オーッ、ハリーだ!」と大男が言った。
 ハリーは恐ろしげな、荒々しい黒い影のような男の顔を見上げ、黄金虫のような目がクシャクシャになって笑いかけているのを見つけた。
「最後におまえさんを見た時にゃ、まだほんの赤ん坊だったなあ。あんた父さんそっくりだ。
 でも目は母さんの目だなあ」と大男は言った。
 バーノンおじさんは奇妙なかすれ声を出した。
「今すぐお引き取りを願いたい。家宅侵入罪ですぞ!」
「黙れ、ダーズリー。腐った大すももめ」
と言うやいなや、大男はソファの背ごしに手を伸ばして、おじさんの手から銃をひったくりまるでゴム細工の銃をひねるかのようにやすやすと丸めて一結びにし、部屋の隅に放り投げてしまった。
 バーノンおじさんはまたまた奇妙な声を上げた。今度は踏みつけられたねずみのような声だった。
「なにはともあれ……ハリーや」
 大男はダーズリーに背を向けてハリーに話しかけた。
「お誕生日おめでとう。おまえさんにちょいとあげたいモンがある……どっかで俺が尻に敷いちまったかもしれんが、まあ味は変わらんだろ」
 黒いコートの内ポケットから、ややひしゃげた箱が出てきた。ハリーは震える指で箱を開けた。中は大きなとろりとしたチョコレート・ケーキで、上には緑色の砂糖で、ハリー お誕生日おめでとう と書いてあった。
 ハリーは大男を見上げた。ありがとうと言うつもりだったのに、言葉が途中で迷子になって、かわりに「あなたは誰?」と言ってしまった。
 大男はクスクス笑いながら答えた。
「さよう、まだ自己紹介をしとらんかった。俺はルビウス・ハグリッド。ホグワーツの鍵と領地を守る番人だ」
 男は巨大な手を差し出し、ハリーの腕をブンブン振って提手した。
「さあて、お茶にしようじゃないか。え?」
 男はもみ手しながら言った。
「紅茶よりちょいと強い液体だってかまわんぞ。まあ、あればの話だがな」
 大男は、チリチリに縮んだポテトチップの空き袋が転がっているだけの、火の気のない暖炉に目をやると、フンと鼻を鳴らしながら、暖炉に覆いかぶさるようにして何やら始めた。次の瞬間、大男が身を引くと、暖炉にはゴウゴウと火が起こっていた。
 火は湿った小屋をチラチラ揺らめく明りで満たし、ハリーは暖かい湯にトップリとつかったような温もりが体中を包むのを感じた。
 大男はソファにドッカと座った。ソファが重みで沈み込んだ。男はコートのポケットから次々にいろいろなものを取り出しはじめた。銅のヤカン、ひしゃげたソーセージ一袋、火掻き棒、ティーポット、口の欠けたマグカップ数個、琥珀色の液体が入った瓶。その液体を一杯ひっかけてから、大男はお茶の準備を始めた。やがて、ソーセージがジュージュー焼ける音と匂いで小屋中がいっぱいになった。誰も声を出すものはいなかった。太くて軟らかそうな、少し焦げめのついたソーセージが六本、焼串からはずされた時、ダドリーがそわそわしはじめたので、おじさんは一喝した。
「ダドリー、この男のくれるものに、一切触ってはいかん」
 大男はクックッと低く笑いながら言った。
「おまえのデブチン息子はこれ以上太らんでいい。ダーズリーとっつあん、余計な心配じゃ」
 男はソーセージをハリーに渡した。お腹が空いていたので、ハリーはこんなにおいしいものは食べたことがないと思った。それでも、目だけは大男に釘づけになっていた。誰も説明してくれないので、とうとうハリーは口を開いた。
「あの、僕、まだあなたが誰だかわからないんですけど」
 大男はお茶をガブリと飲んで、手の甲で口をぬぐつた。
「ハグリッドって呼んでおくれ。みんなそう呼ぶんだ。さっき言ったように、ホグワーツの番人だ――ホグワーツのことはもちろん知っとろうな?」
「あの……、いいえ」
 ハグリッドはショックを受けたような顔をした。
「ごめんなさい」ハリーはあわてて言った。
「ごめんなさいだと?」
 ハグリッドは吠えるような大声を出すと、ダーズリーたちをにらみつけた。ダーズリー親子は薄暗いところで、小さくなっていた。
「ごめんなさいはこいつらのセリフだ。おまえさんが手紙を受け取ってないのは知っとったが、まさかホグワーツのことも知らんとは、思ってもみなかったぞ。なんてこった! おまえの両親がいったいどこであんなにいろんなことを学んだのか、不思議に思わなんだのか?」
「いろんなことって?」ハリーが尋ねた。
「いろんなことって、だと?」
 ハグリッドの雷のような声が響く。
「ちょっとまった!」
 ハグリッドは仁王立ちになった。怒りでハグリッドの体が小屋いっぱいに膨れ上がったかのようだった。ダーズリー親子はすくみあがって壁に張りついていた。
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