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发表于 2006-8-4 23:49:36
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「よりによって、『例のあの人』がついに消え失せたちょうどその日に、今度はマグルが私たちに気づいてしまったらとんでもないことですわ。ダンブルドア先生、『あの人』は本当に消えてしまったのでしょうね?」
「確かにそうらしいのう。我々は大いに感謝しなければ。レモン・キャンディーはいかがかな?」
「何ですって?」
「レモン・キャンディーじやよ。マグルの食べる甘いものじゃが、わしゃ、これが好きでな」
「結構です」
レモン・キャンディーなど食べている場合ではないとばかりに、マクゴナガル先生は冷ややかに答えた。
「今申し上げましたように、たとえ『例のあの人』が消えたにせよ……」
「まあまあ、先生、あなたのように見識のおありになる方が、彼を名指しで呼べないわけはないでしょう? 『例のあの人』なんてまったくもってナンセンス。この十一年間、ちゃんと名前で呼ぶようみんなを説得し続けてきたのじゃが。『ヴォルデモート』とね」
マクゴナガル先生はギクリとしたが、ダンブルドアはくっついたレモン・キャンディーをはがすのに夢中で気づかないようだった。
「『例のあの人』なんて呼び続けたら、混乱するばかりじやよ。ヴォルデモートの名前を言うのが恐ろしいなんて、理由がないじゃろうが」
「そりゃ、先生にとってはないかもしれませんが」
マクゴナガル先生は驚きと尊敬の入りまじった言い方をした。
「だって、先生はみんなとは違います。『例のあ』……いいでしょう、ヴォルデモートが恐れていたのはあなた一人だけだったということは、みんな知ってますよ」
「おだてないでおくれ」
ダンブルドアは静かに言った。
「ヴォルデモートには、私には決して持つことができない力があったよ」
「それは、あなたがあまりに――そう……気高くて、そういう力を使おうとなさらなかったからですわ」
「あたりが暗くて幸いじゃよ。こんなに赤くなったのはマダム・ポンフリーがわしの新しい耳あてを誉めてくれた時以来じゃ」
マクゴナガル先生は鋭いまなざしでダンブルドアを見た。
「ふくろうが飛ぶのは、噂が飛ぶのに比べたらなんでもありませんよ。みんながどんな噂をしているか、ご存知ですか? なぜ彼が消えたのだろうとか、何が彼にとどめを刺したのだろうかとか」
マクゴナガル先生はいよいよ核心に触れたようだ。一日中冷たい、固い塀の上で待っていた本当のわけはこれだ。猫に変身していた時にも、自分の姿に戻った時にも見せたことがない、射すようなまなざしで、ダンブルドアを見すえている。他の人がなんと言おうが、ダンブルドアの口から聞かないかぎり、敵対信じないという目つきだ。ダンブルドアは何も答えず、レモン・キャンディーをもう一個取り出そうとしていた。
「みんなが何と噂しているかですが……」
マクゴナガル先生はもう一押ししてきた。
「昨夜、ヴォルデモートがゴドリックの谷に現れた。ポッター一家がねらいだった。噂ではリリーとジェームズが……ポッター夫妻が……あの二人が……死んだ……とか」
ダンブルドアはうなだれた。マクゴナガル先生は息をのんだ。
「リリーとジェームズが……信じられない……信じたくなかった……ああ、アルバス……」
ダンブルドアは手を伸ばしてマクゴナガル先生の肩をそっと叩いた。
「わかる……よーくわかるよ……」
沈痛な声だった。
マクゴナガル先生は声を震わせながら話し続けた。
「それだけじゃありませんわ。噂では、一人息子のハリーを殺そうとしたとか。でも――失敗した。その小さな男の子を殺すことはできなかった。なぜなのか、どうなったのかはわからないが、ハリー・ポッターを殺しそこねた時、ヴォルデモートの力が打ち砕かれた――だから彼は消えたのだと、そういう噂です」
ダンブルドアはむっつりとうなずいた。
「それじゃ……やはり本当なんですか?」
マクゴナガル先生は口ごもった。
「あれほどのことをやっておきながら……あんなにたくさん人を殺したのに……小さな子供を殺しそこねたっていうんですか? 驚異ですわ……よりによって、彼にとどめを刺したのは子供……それにしても、一体全体ハリーはどうやって生き延びたんでしょう?」
「想像するしかないじゃろう。本当のことはわからずじまいかもしれん」
マクゴナガル先生はレースのハンカチを取り出し、メガネの下から眼に押し当てた。ダンブルドアは大きく鼻をすすると、ポケットから金時計を取り出して時間を見た。とてもおかしな時計だ。針は十二本もあるのに、数字が書いていない。そのかわり、小さな惑星がいくつも時計の緑を回っていた。ダンブルドアにはこれでわかるらしい。時計をポケットにしまうと、こう言った。
「ハグリッドは遅いのう。ところで、あの男じゃろう? わしがここに来ると教えたのは」
「そうです。一体全体なぜこんなところにおいでになったのか、たぶん話してはくださらないのでしょうね?」
「ハリー・ポッターを、伯母さん夫婦のところへ連れてくるためじゃよ。親戚はそれしかいないのでな」
「まさか――間違っても、ここに住んでいる連中のことじゃないでしょうね」
マクゴナガル先生ははじかれたように立ちあがり、四番地を指さしながら叫んだ。
「ダンブルドア、だめですよ。今日一日ここの住人を見ていましたが、ここの夫婦ほど私たちとかけ離れた連中はまたといませんよ。それにここの息子ときたら――母親がこの通りを歩いている時、お菓子が欲しいと泣きわめきながら母親を蹴り続けていましたよ。ハリー・ポッターがここに住むなんて!」
「ここがあの子にとって一番いいのじゃ」
ダンブルドアはきっぱりと言った。
「伯父さんと伯母さんが、あの子が大きくなったらすべてを話してくれるじゃろう。わしが手紙を書いておいたから」
「手紙ですって?」
マクゴナガル先生は力なくそう繰り返すと、また塀に座りなおした。
「ねえ、ダンブルドア。手紙で一切を説明できるとお考えですか? 連中は絶対あの子のことを理解しやしません! あの子は有名人です――伝説の人です――今日のこの日が、いつかハリー・ポッター記念日になるかもしれない――ハリーに関する本が書かれるでしょう――私たちの世界でハリーの名を知らない子供は一人もいなくなるでしょう!」
「そのとおり」
ダンブルドアは半月メガネの上から真面目な目つきをのぞかせた。
「そうなればどんな少年でも舞い上がってしまうじゃろう。歩いたりしゃべったりする前から有名だなんて! 自分が覚えてもいないことのために有名だなんて! あの子に受け入れる準備ができるまで、そうしたことから一切離れて育つ方がずっといいということがわからんかね?」
マクゴナガル先生は口を開きかけたが、思いなおして、喉まで出かかった言葉をのみ込んだ。
「そう、そうですね。おっしゃるとおりですわ。でもダンブルドア、どうやってあの子をここに連れてくるんですか?」
ダンブルドアがハリーをマントの下に隠しているとでも思ったのか、マクゴナガル先生はチラリとマントに目をやった。
「ハグリッドが連れてくるよ」
「こんな大事なことをハグリッドに任せて――あの……賢明なことでしょうか?」
「わしは自分の命でさえハグリッドに任せられるよ」
「何もあれの心根がまっすぐじゃないなんて申しませんが」
マクゴナガル先生はしぶしぶ認めた。
「でもご存知のように、うっかりしているでしょう。どうもあれときたら――おや、何かしら?」
低いゴロゴロという音があたりの静けさを破った。二人が通りの端から端まで、車のヘッドライトが見えはしないかと探している間に、音は確実に大きくなってきた。二人が同時に空を見上げた時には、音は爆音になっていた。――大きなオートバイが空からドーンと降ってきて、二人の目の前に着陸した。
巨大なオートバイだったが、それにまたがっている男に比べればちっぽけなものだ。男の背丈は普通の二倍、横幅は五倍はある。許しがたいほど大きすぎて、それになんて荒々しい――ボウボウとした黒い髪とひげが、長くモジャモジャと絡まり、ほとんど顔中を覆っている。手はゴミバケツのふたほど大きく、革ブーツをはいた足は赤ちゃんイルカぐらいある。筋肉隆々の巨大な腕に、何か毛布にくるまったものを抱えていた。
「ハグリッドや」
ダンブルドアはほっとしたような声で呼びかけた。
「やっと釆たね。いったいどこからオートバイを手に入れたね?」
「借りたんでさ。ダンブルドア先生様」
大男はソーツと注意探く車から降りた。
「ブラック家のシリウスっちゅう若者に借りたんで。先生、この子を連れてきました」
「問題はなかったろうね?」
「はい、先生。家はあらかた壊されっちまってたですが、マグルたちが群れ寄ってくる前に、無事に連れ出しました。ブリストルの上空を飛んどった時に、この子は眠っちまいました」
ダンブルドアとマクゴナガル先生は毛布の包みの中をのぞき込んだ。かすかに、男の赤ん坊が見えた。ぐっすり眠っている。漆黒のふさふさした前髪、そして額には不思議な形の傷が見えた。稲妻のような形だ。
「この傷があの……」マクゴナガル先生がささやいた。
「そうじゃ。一生残るじゃろう」
「ダンブルドア、なんとかしてやれないんですか?」
「たとえできたとしても、わしは何もせんよ。傷は結構役に立つもんじゃ。わしにも一つ左膝の上にあるがね、完全なロンドンの地下鉄地図になっておる……さてと、ハグリッドや、その子をこっちへ――早くすませたほうがよかろう」
ダンブルドアはハリーを腕に抱き、ダーズリー家の方に行こうとした。
「あの……先生、お別れのキスをさせてもらえねえでしょうか?」
ハグリッドが頼んだ。 |
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