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下記の文章は朝日のコラムーー天声人語です。
皆さんと一緒に吟味したいです。
天声人語
2007年08月27日(月曜日)付
斜陽をあびてバラが咲き誇っている。中の一輪にハサミを入れ、加藤楸邨(しゅうそん)は詠んだ。〈薔薇剪(き)れば夕日と花と別れけり〉。鮮烈な喪失感が漂う、不思議な句だ。英王室の大輪のバラが、異境の庭で散ってはや10年になる。
かの国が香港を手放した夏の終わりに、ダイアナ元皇太子妃は交通事故で逝った。36歳だった。謀殺説を封じて、運転手の飲酒とスピード超過が原因とされている。
パリにいた頃、毎週末の買い出しの帰りに、その短いトンネルを通った。ほぼ直線で幅もある。通るたび、ここをどう走れば大型車で死亡事故が起きるのかと、いぶかったものだ。故人の後半生とは対照的に、セーヌ河岸の現場はありふれた道だった。
別居と離婚、新しい恋人。地位がなければ、これまた平凡な愛憎劇だろう。エリザベス女王は「民間人」の死に沈黙を通し、国民の批判を招いた。当時の内幕を描いた英映画「クィーン」には、世論に折れた女王が「大げさな涙とパフォーマンスの時代ね」と嘆く場面がある。
今年のアカデミー主演女優賞に輝いた女王役のヘレン・ミレンは王室の昼食に誘われた。脚本はだから、絵空事ではなかったようだ。ミレンは「こうした映画を作れる国に生きるのはすてきです」と語っている。
女王が願う「模範の家庭」からは遠いが、英王室の懐は深い。元妃も時にメディアを手玉に取り、薄幸ぶりをさらしたという。その人間味は王室の命脈に寄与したのか、逆か。希代の一輪。ひと昔にしてなお強烈な残り香に、花と棘(とげ)の大きさを思う。 |
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