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(1) 文化と文明6 |; O' k1 {4 S) |
① 文明という語は文化と同義に用いられることも多いが、西洋では人間の精神的生活に関わるものを文化と呼び、生産様式のような、主として物質的・技術的なシステムを指して文明と呼んでいる。
# o+ W0 U4 V4 i7 G② 文化というのは、人間が自然に手を加えて形成してきた物心両面の成果で、衣食住をはじめ技術・学問・芸術・道徳・宗教・政治などを含む。なお、文化の構成要素を以下のように四大項目に分類することがあるが、この中で、言語はその民族の自然との根元的な関わり方を表しており、各民族の基層文化の根底にあるので原文化と呼ぶことがある。# v$ n4 s1 [( H6 P' d. s; H
③ 文化の普遍性と個別性という対照的な概念は、車の両輪のような関係にある。個別文化、或いは固有の文化と呼ばれるものも、多くの外来の異文化と接触し、交流しながら育ってきた。例えば、古代の交易路であるシルク・ロード(「絹の道」)は、古代オリエントの地を中心に、西はヨーロッパ、東はインド・中国に至るものであり、東西文化の伝達路としても大きな役割をもっていた。日本はその東端に位置し、稲作・漢字・仏教などが朝鮮半島を経由してもたらされることを通して、はじめて自国の文化を形成することができたのである。なお、異文化を受け入れることを「文化の受容」、異文化と接触したとき、それまでの文化に変化が起こる現象を「文化の変容」と言う。
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(2) 異文化交流とアイデンティティー8 \/ @6 j$ V' T$ U( b% _8 o8 P, j, ^
① 「異文化交流」「異文化理解」というテーマが本格的に研究され始めたのは、冷戦が終結した90年代以降のことである。90年代を通して、急速に市場経済のグローバル化が進んだが、その一方では世界各地で分離独立運動や少数民族問題などの民族紛争が頻発するようになった。大都市では各国の人々の往来が頻繁になり、国際結婚や外国人居住者も増え、社会の国際化も急速に進んだ。このように異文化との接触機会が増えるにつれて、異文化理解の重要性も認識され始めたのである。
0 D9 `7 r0 p3 e$ F% ^2 W② 一つの国・社会に複数の民族・人種などが存在するとき、それらの異なった文化を持つ人々の共存を積極的に認めようとする考え方を多文化主義と言う。政策的には、公営多言語放送、多文化教育、国内少数民族系住民の公務員への積極的登用・昇進政策などが代表的なものであるが、それは社会の中の少数派である異文化を持つ諸民族(居住者)に、自らの言語や文化を保持する権利を保障することである。. k9 ]) Q1 _! o6 p: }% M2 H
③ 多文化共存の「開かれた社会」を目指す動きやの対極には、ナショナリズムからの反発や民族排外主義の動きが存在する。例えば、ヨーロッパはEUへの統合が進む一方で、外国人労働者排斥などを主張するネオ・ナチズムが台頭し、フランスでは、大統領選を争うまでになっている。
0 T c4 h6 o4 M3 |8 K④ アイデンティティーという語は、1950年代にアメリカの精神分析学者E・Hエリクソンが心理学上の用語として用いた語で、本来、「自分とは何者か」「どのように生きることが、一番自分らしいか」と言う答を見いだそうとする心の動きを表していた。しかし、最近では「企業のアイデンティティー」とか、「日本人のアイデンティティー」とかさまざまに使われ始めている。
0 O" l8 c8 |- n2 V: G3 N. [$ Y⑤ 異文化間のコミュニケーションでは、お互いの文化や習慣、価値観が異なるため、誤解や食い違いなど、コミュニケーション・ギャップが生じやすい。コミュニケーションの障害となる要因として、次のようなことが考えられる。
; x7 J! z/ g# F2 J- ~# g4 q: jA. 外国語能力:相手の母語や共通語(≒英語)の使用能力が不十分なこと。' o+ J6 J' e' W
B. 「見えない」文化の違い:例えば、日本語では「あなた」や「~してください」などは目上に使うと失礼になる。自己主張が強いと敬遠される……など、欧米の人に理解しにくい「見えない文化」の違いがある。それを無視すると、人間関係がスムーズに行かない。# `, t3 W8 l& Q4 J) m/ G
C. タブーの問題:タプー(禁忌)というのは、ある特定のものを神聖なもの、汚れたものとして、これに接近し接触することを禁止する習慣のことで、諸文化はさまざまなタブーを持っている。例えば、ヒンドゥー(ヒンズー)教では牛は古くから神聖視され、食べることが禁止されている。
5 g- K) e% z( c3 @/ c, m/ kD. 人種差別、民族差別の存在:主なものは白人の有色人種差別や、自国内の少数民族への差別であるが、日本社会にもアイヌ民族や在日朝鮮人に対する差別が根強く残っている。
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(3) グローバリゼーションと「文明の衝突」% o; m9 H* d: q, C# L, t
① グローバリゼーションとは、冷戦終結後、市場経済が世界的に拡大し、生産の国際化が進み、資金や人や資源や技術などの生産要素が国境を越えて移動し、世界経済の統合化が進む現象を言う。それは同時に、先進資本主義国の基準、とりわけアメリカ社会の競争原理や価値観、国内基準をグローバル・スタンダード「世界標準」として国際社会に強制し、一元化しようとする傾向を持つ。4 T7 j1 {2 n1 T$ t
② 現在進行しているグローバリゼーションは、競争力のない発展途上国の経済に打撃を与え、伝統産業や生活様式、相互扶助によって支えられた共同体社会を解体しつつある。そのため、南の国々は2000年4月、経済グローバル化のなかでの南北経済格差の拡大や生態系破壊を討議するために、初の途上国サミットをキューバのハバナで開催した。先進国内でも反グローバリズム運動が沸き上がっているが、それは反資本主義とエコロジー[環境保護]を柱とし、途上国と連帯する運動となっている。# ?- V' \+ m" {3 K; V
③ 開発ブーム文化の画一化の波が、先住民族の居住地帯に押し寄せ、土地や権利、固有の言語や文化を奪われる先住民族の事例も増えている。そこで国連は、1993年を「世界先住民族国際年」として、先住民族の自決権、資源主権、環境権、文化や伝統を守る権利を確保する運動を呼びかけた。日本もそれに応えて、1997年、明治以来の[旧土人保護法]を廃止し、「アイヌ文化振興法」を制定した。
7 D9 u+ l& \ w2 N2 s0 a1 g, ?④ [文明の衝突]はアメリカの政治学者S・ハンチントンが書いた著作の名前であるが、彼は主要文明を西洋(欧米)、中華(儒教)、日本、イスラムなど八つに分類し、文明同士がぶつかる断層線上で多くの民族紛争が起きる、とりわけ西洋文明に対するイスラムと中華文明の挑戦が冷戦後の世界政治の基本的な対立軸であるとした。その背景には、アメリカ社会文明の多文化主義を否定する白人中心の人種主義の考えがあるが、これに対して、1998年9月の国連総会は、イランのハタミ大統領の提案で、「対話」を呼びかけた。
! b0 H1 `: V1 `⑤ [テロリズム]の背景にはグローバル化に伴う南北格差の拡大と深刻化があり、途上国の民衆の抜け出せない貧困と絶望からくる怒りがある。それが欧米に対抗するために自らの宗教的結束によって自己の文化的なアイデンティティーを確立する動きとなり、その一部を絶望的蜂起である[テロリズム]に走らせている。ここにあるのは「貧者と富者の対立」の構図であり、南北問題の解決抜きにテロリズムの根本的解決はない。また、アメリカが信奉する「自由主義」「個人主義」が相互扶助を基調とするイスラムの教えから見れば野蛮な「弱肉強食」論であり、欧米から見た「自爆テロ」がイスラム世界から見れば「聖戦」であるように、両者の価値観は真正面から対立するため、アメリカのアフガン戦争、イラク戦争などの「テロ国家」攻撃は、イスラム世界の貧困層の憎悪を拡大、「文明の衝突」に発展する危険を孕んでいる。
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(4) 日本の文化と国民性' r6 V: N4 V; g: V. q# \
① 日本の基層文化が形成されたのは弥生時代と言われるが、朝鮮からの渡来人を通して水稲耕作や進んだ文化が伝えられ、古代統一国家[ヤマト]へと向かう過程を通して形成された。やがて仏教や漢字が伝来し、国際色豊かな飛鳥文化が花開くが、日本の古代文化とは東アジア文化そのものであった。しかし、島国である日本は入口があるが出口がない[島封型]の宿命を持っていた。
+ S p, q9 ]5 G, ]" d( [$ g& W4 O$ h+ X② 明治維新から敗戦までの天皇制絶対国家時代の一時期を除けば、総じて日本社会は「分権・連合型」の国家で、「和[調和]」が第一に重視される社会であった。このコンセンサス[合意]社会は、一方では「タテ社会」「出る杭は打たれる」「本音と建前」「以心伝心」「察しの文化」などの言葉に代表されるような所属集団への帰属意識の強い国民性を生むことになる。例えば、「日本型経営」と言われる終身雇用制・年功序列型に代表される企業経営は、「和」文化と「家」の価値観を融合させた疑似家族集団そのものとも言える。
: y' A+ `) `3 u- _# X9 P③ 敗戦後は、欧米の個人主義、自由と民主主義などの価値観や大量消費文化が浸透し、今日の日本文化に至るが、天皇家が国造りの祖と崇められ、2000年にわたって存続していることや、さまざまな祭りや神社参拝の風俗、「畳と味噌汁」の生活が変わることがないように、日本社会はかなり強い保守性を持っていることがわかる。また、日本人は中国や欧米からの外来文化をそのまま取り入れるのでなく、必ず日本の風土や文化に合わせて加工して吸収している。例えば、日本人が使う箸は中国の箸よりも先が細く改良されているし、漢字から「ひらがな」や「カタカナ」を作り指している。( I4 E8 C. k3 U( `0 [; Y: c
④ 言語には本人が自覚しているかどうかにかかわらず、その民族の自然観・人生観が刻まれており、国民性を作り出している。例えば、中国人は「魚を釣った」と他動詞を使うが、日本人は「魚が釣れた」と自動詞を使う。希望を表すとき、英語や中国語では動詞を使うが、日本語では「~たい」と形容詞を使う。ここに「対自然の文化」と「即自然の文化」の違いがあると指摘する学者もいる。 |
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