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楼主: koume88

日文小説『神様がくれた指』

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 楼主| 发表于 2008-11-28 15:28:23 | 显示全部楼层
「第1部 愚者」が終わりました。どうも~
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发表于 2009-5-25 14:25:35 | 显示全部楼层
辛苦楼主咯。我放到电子辞典里去看了。嘿嘿
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发表于 2009-6-6 21:51:50 | 显示全部楼层
すご~い。自分でいちいち入力しましたか。感心しました。
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发表于 2009-6-17 17:59:03 | 显示全部楼层
感谢楼主分型~~!
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发表于 2009-8-21 13:20:36 | 显示全部楼层
阿里嘎多,楼主撒嘛!!!
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发表于 2009-9-10 21:13:31 | 显示全部楼层
感谢suru
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发表于 2010-6-1 10:48:19 | 显示全部楼层
不知道还有没有第二部??
那么多的文章内容 一个字一个字打
版主辛苦了
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发表于 2011-2-19 21:32:06 | 显示全部楼层
。。。。。。。。
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 楼主| 发表于 2011-12-30 16:14:12 | 显示全部楼层
皆さん、ご無沙汰です。
元旦後、この小説を続けてアップロードします。楽しみにしてね!
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发表于 2012-1-6 10:18:55 | 显示全部楼层
楼主真的不是一般人!你太牛了!继续坚持吧,支持你!
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 楼主| 发表于 2012-1-9 09:18:13 | 显示全部楼层
スキャンしようと思ってたが、はっきり見えないので、やはり手で打ちましょう。
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 楼主| 发表于 2012-1-9 11:35:36 | 显示全部楼层
第2部
魔術師
最初になすべきことは、自分の環境のなかでいかに生きるかを生ぶことだろう。
アルフレッド・ダグラス

1
 昨夜はあまりよく眠れなかった。刑務所の居房にくらべれば天国だが、ビジネスホテルの快適さにはほど遠い。二間の和室のうち南側を貸してもらい、風が少しでも通るようにと、間の戸襖はどちらも開け放したまま、もちろん、すべての窓も全開にしておいたが、あきれるほどに暑かった。風のかわりに街の音がどんどん入りこんできた。車のエンジン音、クラクション、酔っぱらいの歌声、しゃべり声、ラジオの音、犬のおたけび、物のぶつかるような音、何かの電子音、正体不明の地鳴りのような鈍い音。
 なかなか寝つけないまま、布団の上をごろりごろりとして、一年の間に街の夜の物音をすっかり忘れてしまったのだろうかと考えた。蒲田のアパートは京急の線路に近かったので電車の音がしょっちゅう聞こえたが、夜半は静かなものだった。川崎大師の近くの家は宵の口からひっそりとしていた。赤坂は、そのどちらの街とも違う。うるさい。いつまでも、うるさい。夜の街全体が、鈍いどんよりとしたスモッグのような騒音のハーモニーに包まれて、眠りにつくことを拒否している。
 つけっぱなしの天井の電灯、二つの輪の蛍光灯を一つに絞り、しばらくしてから豆球だけにし、やはり落ちつかなくて白々と明るくした。
 昼間薫は仕事で出かけていた。遅くなるから先に寝ていてくれといい置いて、四時過ぎに家を出ていった。もし、何か困ったことがあったらここに連絡してくれと、「なかもと」という小料理屋の電話番号をメモしていった。相変わらず親切で気のまわる男だった。
 いつのまにか、うつらうつらしていたらしい。玄関のドアの閉まる音で目が覚めた。階段をのぼる小さな足音。辻は眠ったふりをしているべきか、「おかえり」と迎えるべきか迷った。そのうちに、エキゾチックな香水のような匂いが鼻をつき、ぎょっとして目を開けたが、出かけた時の白いシャツに黒いチノパンの昼間薫の姿だった。足音を忍ばせて部屋に入ってきて、電灯のひもを引いて豆球にした。辻はぎゅっと目を閉じた。なぜか、起きていることを知られたくなくて息をひそめて身を硬くしていた。
 それからは、さらに浅い眠りになった。ふと目覚めると、暗がりと、戸を開け放した隣の部屋の昼間薫の寝帰りの音と、南国の花のようなかすかな匂いが気にかかった。眠りの中ではいくつかの夢を見た。誰かに追われていたり、誰かに追いかけていたりする忙しい疲れる夢で、そのどちらもぜんぜんうまくいかないで息切ればかりするのだった。
 今日も暑くなりそうだ、と午前八時過ぎに、三沢屋敷の門を出ながら、辻は思った。約束通りにに朝食を作ろうとしたのだが、なにしろ、肝心の家主が一向に起きる気配がない。台所をのぞいてみれば、もう何年も人の訪れない山小屋のように調理器具も食材もなく、がらんとして荒れ果てていた。鍋の一つも買ってこないと、と辻は考えた。だが、まず、昼間薫が本当に自分をしばらく置いてくれるつもりがあるのかどうか確かめないといけない。落ちつかない一夜を過ごしたあと、白日のもとで三沢屋敷を見ると、昼間とのやりとりの何もかもが夢か冗談のようにも思われてくるのだった。
 千代田線の赤坂駅から綾瀬行きの電車に乗った。さて、どこへ行こう。どうやって連中を捜そう?いざとなると、これはもう、曇をつかむような頼りない話だった。とりあえず、連中に会った西武新宿線に乗ってみることぐらいしか思いつかない。奴らの縄張りは、どのあたりなのだろう?高校生ぐらいに見えたが、同じ学校の生徒なのだろうか。川越、所沢、小平、池袋、大宮——辻は、幾つかの町をポイントにして、頭の中で、東京と埼玉の接する地域におおまかな線を引いてみる。西武新宿線、西武池袋線、東武東上線、川越線。電車で考えたほうがわかりやすい。そうだな。とっつきとして、このあたりのラインを乗りまわしてみるとするか。
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 楼主| 发表于 2012-1-9 15:44:44 | 显示全部楼层
 辻が三沢屋敷にたどりついたのは、「夕焼小焼」のメロディーが非常時用スピーカーを通って町中に響く午後五時だった。それはまさにたどりつくという表現がぴったりで、肩はずきずき痛む、頭はがんがん痛む、足の筋肉はみしみし痛む、埼玉ではなくタクラマカン砂漠から帰還してきたような悲惨なくたびれ方だった。
 無駄な一日だった。捜す連中のにおいも嗅げなければ、財布の一つも取れない。名古屋まで遠征した無理がたたって肩の状態は良くないし、一年を超える監禁生活による体力の低下も馬鹿にならない。とにかく、くたびれた。一刻も早くどこかで横になりたい。帰れる場所があるのがめっぽうありがたかった。
 開いた門を通り、芝生の小道を上っていくと、いきなり雨だれが頭や顔にふりかかってきた。驚いて明るい空を見上げると、
「おい、君!君!」
 背後から大音響がとどろいた。まるで青大将かなにかのようにゴムホースを鷲づかみにしてぶんぶんふりまわしている三沢医師のがっしりとした老体が目に飛び込んできた。ホースの先端からは水が出ていて、空中にSの字を連続して描いている。医師は、白衣ではなく、藍色の作務衣のような服を着こんでいた。
「君はどうして三角巾を取っちまうんだ?」
 警告のために指をつきつけるつもりだったのかもしれない。たまたま、その指に散水中のホースが握られていただけなのだろう。疲れきったスリの青年のみけんを水が直撃した。爆弾のように顔中ではじけた。
 辻は悲鳴を上げた。許可なく三角巾をはずした罰にしてはいささか厳しかった。「なんたるこた!」
 医師は詫びるどころか、いよいよ憤慨した声で叫んだ。被害者は、左腕で顔をぬぐい、口に入った水をぺっぺと吐き出した。「じいさん」
 何度も瞬きをして、ようやくあたりの景色が見えるようになると辻は呼びかけた。医師は診療所の入口近くにいて、水道の栓を止めている様子だった。「じいさんよ」
 振り向くのを待ってもう一度声をかけた。
「あのボロ家に風呂がないからって、シャワーの出前を頼んだ覚えはないぜ」
「洒落たことを言うじゃないか」
 早足でのしのし戻ってきた医師は、辻の前で足を止め、ふんぞりかえって腰にてを当てた。
「お前さん、何だって、ここにいるんだ?」
「泊まり賃を払ったのさ」
 辻は駅前のマクドナルドで買ってきた夕食が無事かどうか確かめながら答えた。幸いにもぬれていなかった。
「君に貸した覚えはないぞ」
「親切な人が、ひとりいるのさ」
「それは契約違反だ」
「かたいこと言うなよ」
 疲労と空腹と水をかけられた腹立ちで、三沢医師のむこうずねを蹴飛ばしたくてうずうずしてきた。
「占い師の先生は得体の知れない男だが、身許ははっきりしている。君のことは何もわからん。診療を受けられただけでも幸運だと思うべきだ」
 医師は一言一言に威厳をこめるように重々しく申し述べた。辻が言い返す言葉を考えていると、三沢屋敷の玄関のドアが開き、和装の中年の婦人が、そして白い頭巾に白いドレスの異様な姿の人物が続いて現れた。
 辻はぽかんと口を開いた。和洋折衷の新種の花嫁衣装か何かだろうか?目があった。見覚えのある印象的な薄い色の瞳だ。
「え?昼間さん?」
「あれはマルチェラだ」
 三沢医師の渋い口調にはかすかに笑いのようなものが混じっていた。
「そんなこともしらんのか?」
 いかにも水商売の女性らしい、しなしなとした色気にあふれた和服の婦人は、露骨な好奇心を表して辻のほうを見つめた。こちらは金縛りにあったように目のやりどころもわからない。
「おい。マルチェラさん」
 三沢医師は意地の悪い口調で呼びかけた。
「わしに無断で男を連れ込んだりしないでほしいね」
 すると、和服の婦人も意地の悪い笑顔になった。
「あらやだ」
 あらやだ、と辻も言いたくなった。占い師の性別はともかくとして、ノーマルにもアブノーマルにも自分とはいっさい性的関係はないのだときっぱり弁解しなかった。
「彼は友人ですよ」
 占い師マルチェラはいささかも動揺を見せずに涼しい顔でそう言った。
「東京に出てきたばかりで住む場所を探しているんです。決まるまでしばらくここに滞在しますのでよろしくお願いします」
 大家に向かってエレガントに一礼したが、
「ふん。どっから出てきたんだか」
 三沢は勘の鈍いところを見せた。
「それでは、また。いつでもお電話下さい」
 占い師は三沢の言葉を無視して、お客の婦人に挨拶をした。婦人は白粉をこってりと塗った顔にあまり上等とはいえない笑みを浮かべて辻の脇を通り過ぎ、門から出ていった。いい勝負だな、とこちらに近寄ってきた占い師の顔の人工的な白さを見て辻は考えた。三日月にくっきりと描いた眉、バラ色にやつやつ光る唇、尼さんのような白い頭巾、ロングタイトの白いドレス。覚えのある淡い香水のにおい。
「いいかね、昼間さん、身許不明の男に部屋を又貸ししないでほしい」
 三沢医師は断固たる口調で言い切った。いかつい顔は、占い師に対する強い否定的感情と不信感にあふれていた。
「三沢さん」
 占い師は落ちつき払って、やりかえした。
「私の顧客の前での先ほどのあなたの言動は、明らかな営業妨害と悪意の誹謗中傷として告訴の対象となりますよ」
「だから、なんだっていうんだ!」
 医師はがなりたてた。
「辻くんの身許は私が保証します。あなたの患者でもあるわけだし怪我が良くなるまで三沢医院の隣で療養していても、何も不自然なことはないでしょう。それをあたかも二人が特別な間柄であるようなことを気安く口にする、私の顧客の前でですよ、しかも、同性愛のほのめかしをするというのは、明らかないやがらせ、営業妨害、人権侵害……」
「やかましい!」
 かんしゃくを破裂させてさえぎった。
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 楼主| 发表于 2012-1-10 11:36:53 | 显示全部楼层
「なんておしゃべりな男なんだ。化粧して街角に立つ男が、得体の知れない野良犬みたいな男を部屋に引っ張りこんで、そいつがのうのうと居座ってるんだ。どんな大家でも黙っちゃいないぞ」
「言葉に気をつけて下さい。刑法二三○条。名誉毀損罪。純然たる私事・私行に関する場合は、事実が真実であっても社会的評価を低下させた場合は名誉毀損として不法行為になる、という解釈が適用されますよ。まあ、刑事事件にはならないでしょうが民事的にも問題にできますから、精神的苦痛に対する慰謝料を請求しますよ」
「昼間!」
 よく通る若々しい声が呼びかけた。
「おい、昼間。そういう台詞は司法試験に通ってからのほうが効き目があるぞ」
 紺サージのマーツいっぱいに中身が詰まっているといったふうな小太りの明るい目をした男が門から姿を現していた。
「来年は再受験するんだよな?な?」
 マルチェラこと昼間薫は、アイラインとマスカラで際立たせた目をさらに大きく見開いて、強い困惑の表情を浮かべた。
「中本。何しに来た?」
 昼間の低い声と丁寧さのないその口調は辻の聞いたことのないものだった。
「何しに来ただと?来てほしくなけりゃ、心配させるような真似をするんじゃないよ。おい、いったいどんなドラブルに巻き込まれたんだ?」
 そこで声をひそめたのだが、わざわざボリュームを下げたことによって、いっそう劇的効果を添えて周囲の耳に鳴り響いた。
「姉さんに五十万も借金して」
 昼間は目を閉じて嘆息した。
「まったく口の軽い・・・・・・」
「そうじゃないんだよ!」
 中本は通常の倍の身振りで忙しくかぶりをふった。
「薫に最近何か変わったことはないかって、冬美さんが僕に聞くんだよ。あの冬美さんがだ!わかるだろ?僕は断然追及したよ」
「何もないよ。こういう商売だ。波がある」
「うまくいってないのか?」
「そういうわけじゃないよ」
「じゃあ、何だ?」
「何でもないよ。税務署に転職する気か?」
「少しは腹を割った話し合いをしろよ!友達だろう?」
 そうか。友達なのか。この真面目で勇ましい太っちょ野郎は。辻はなんだかおかしくなってニヤニヤした。すると、そのニヤニヤを素早く見とがめて、中本は質問した。
「何を笑っているんだ。君は、昼間の借金と関係あるのかな?」
「知らねえな」と辻は答えた。
「昼間さん、金ないのは知ってるけど、なんでないのかは知らないよ」
 今度は占い師がニヤニヤする番だった。
 中本は憤慨したよな心を傷つけられたような顔になった。
「君は会うたびに、どんどん変な方向へねじ曲がっていくんだな。人の話を聞こうともしないで。グレたふるをしているうちに本当にグレちまったらどうするつもりだ?」
 その声があまりに真剣で、悲痛な響きすらあったので、昼間薫は過保護な母親を持て余す少年のように恥ずかしそうに顔をそむけた。
「ねえ、大家さん。三沢さんでしたっけ」
 中本は医師のほうへ向き直った。
「昼間のトラブルのことを何かご存知ですか?」
「さあね」
 三沢は無愛想に答えた。先刻まで怒りに凝り固まっていた老人が——怒った顔はそのままだが——、一歩間違うと笑い出すのではないかという奇妙な印象を辻は抱いた。
 三沢はわざとらしく一度咳払いした。
「家賃をなかなか払わん。このうさんくさい男をかくまってる」
 トラブルを二つ挙げてみせた。
 中本は背筋をぴんと伸ばした。
「いったい君は何者なんだ?」
 改めて辻の顔をのぞきこむようにして仰々しい尋ね方をした。
「辻ってもんだよ」
 辻がさりげなく名乗ると、
「何をやらかしたんだ?」
 新米の警官みたいに率直に尋問した。
「よしてくれよ」
 辻はうんざりした声を出した。
「俺はガイシャなんだからよ。やられたほうだよ。知らないガキにいきなりぶん投げられて、腕がオシャカになっただけだよ」
 まったく、このいまいましい話を何度繰り返すはめになるのだろう。
「三沢先生の患者さんですよ」
 昼間が言葉を添えた。いつもの声とじゃべり方に戻っていた。
「倒れて動けなくなっているのを私が連れてきたんです」
「K札には届けたのか?」
 中本は意気込んで尋ね、返事を聞かないうちにまた続けた。
「示談にするにしても、相手のタチが悪いとつまらない目にあうから、三沢先生にちゃんと診断書をもらって、場合によっては弁護士をたててだな・・・・・・」
「捜してるんだよ」
 辻は中本の言葉をさえぎって、そっと肩に手をやってさするようにした。
「僕が引き受けようか?」
 ついさっきまで辻を犯罪者扱いしていたのを忘れたかのように、中本は大真面目に申し出た。
「弁護士じゃねえよ。犯人のほうだよ」
「なんだ。逃げられたのか?K札はなんて言ってるんだ?」
「サツの世話にはならねえよ。こんなケチな話でサツが動くもんか」
「やけに詳しいじゃないか」
 三沢の目が面白そうに光った。
「俺は、だいたい、じいさんが思ってる通りの男だよ」
 辻はゆっくりと言った。そして、反応を楽しむように、三沢の目をまっすぐに見据えてニヤりとした。もう、とっくに腹はくくっていた。この成り行きでは居候を決め込むことは無理だった。今夜は公園のベンチで寝ればいい。明日になって、もう少し元気がでたらしばらく泊めてくれそうな友達か昔の女を訪ねてみればいい。問題は早田咲の知らない古い知り合いが存在するかどうかだった。その点では三沢屋敷は絶好の隠れ家だったが。
 辻の挑発を受けても、三沢は表情を変えずに落ちついて質問した。
「君らはどういう取引をしたんだ?家賃をこの男が代わりに持ってきて、部屋に居座っている。友達だと言うが、そうは見えん。恋人同士にも見えん」
「友人ですよ。彼は今住むところを捜しているので、空いている部屋を使ってもらっています。又貸ししているわけじゃない。問題ないでしょう?」
 三沢の顔つきは、問題ないというには程遠ものだった。
「僕は話がよくわからないが、冬美さんへの借金について説明してくれないか?」
 中本が口を出した。
「トランプだよ」
 昼間は簡単に答えた。中本は理解できないというように眉をしかめた。
「ブラック・ジャック。特別に運の悪い日だったね。いつもはあんな下手な勝負はしないけれどね」
「スッた奴はみんなそう言うよ」
 辻は面白くなさそうにつぶやいた。
 ユスりの相手は捕まることも諦めることも死ぬこともあるが、博打狂は不治の病だ。その恐ろしさは知り抜いている。昼間の借金の原因は、やっぱりギャンブルか、と辻はいやな気分になった。
「そんなにみんなで困った顔をしないで下さい。これからは真面目に働きますから」
 占い師姿の、人を食った男が真面目に言えば言うほど、その言葉はおよそ不真面目に響いた。中本は心配そうに眉をひそめ、三沢は呆れたように肩をすくめた。
「おや信用がないですね。私が真面目に働いたら、どのくらい稼げるかを知らないんですね。なかなかのものですよ。三沢さん、少しの間、片目をつぶって見ていてくださいよ。もう家賃の滞納はなませんから」
 三沢は返事をしなかった。
「もう、いいよ。昼間さん」
 と辻は言い出した。
「俺は出ていくよ」
 三沢は辻をじろじろと眺めた。
「その前に肩を見せなさい。今度、三角巾をはずしているところを見つけたら、水の代わりに熱湯をかけるぞ」
 昼間の顔に感謝するような微笑みが浮かんだ。
「三沢さん、ありがとうございます」
 医者は露骨に顔をしかめた。このじいさんは見かけより、だいぶ、気立てがいいのではないかと辻は考えながら、やはり感謝するようにぺこりとお辞儀をした。
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 楼主| 发表于 2012-1-11 16:33:03 | 显示全部楼层
2
 九月は長雨と台風の季節だった。三沢屋敷の壊れかけた屋根や、はずれかけた鎧戸や、抜けかかった床にとって、大変危険な季節だった。建設会社は応急処置には乗り気でなかった。ちょっとした修復作業が被害を拡大させる恐れがあることを強調し、やるならば根本的、徹底的にリフォームする必要があるが、それは新たに家一軒を建てるよりも金がかかることをはっきりと告げた。古い家屋の維持は巨大な費用がかかるのである。
 三沢にとっては年中行事のようなものらしい。九月が来る度に借家人は不平を訴え、建設会社は本格的改築を勧める。小金はあるが大金はないと大家は言い続けてお茶を濁してきたが、今年ばかりは様子が違っていた。借家人が不平を言うかわりに、自ら屋根に登ってしまったのだ。
 その男は雨漏りをバケツで耐えることを拒否して、庭から梯子を立てて、遺跡のような屋根に修繕に出かけた。まだ肩が完治していないというのに。昼間薫ははらはらしながら同居人が屋根から転がり落ちてくるのをじっと待った。奇跡的に彼は五体満足で梯子を降りてきた。その日を境に雨漏りはぴたりとやんだ。彼が直したのは屋根だけではない。芸術的に変形した鎧戸を開閉可能にし、廊下の床の穴もベニヤ板で補強した。大工顔負けの腕前だった。
 男を見る大家の目が明らかに変わった。ただのゴロツキから、役に立つゴロツキに昇格したようだ。だが、昼間は思っていた。あのヒネクレじいさんは最初から辻牧夫が気にいっているんだろう。彼はどこか妙に人好きのするところがある。そうでなければ、いくら自分が巧みにそそのかしても、肩の治療はともかく、隣に住んで良しとまでは言わないだろう。
 占い師とスリの同居生活は一カ月を経過した。辻牧夫はとんと出てゆく気配を見せず、右手が使えるようになると、鍋やらフライパンやら食材やらを買い込んできて料理をおっぱじめた。本格的に居座るつもりだろうかと昼間薫は呆れた。
 スリのプライドとは大変なものである。彼は本気で復讐するつもりだった。一見あっさりした気性に見えるだけに、あてのない探索を日々繰り返す執念、その無駄な根気とも言うべきものが、昼間には不思議に思えた。
 休日以外はほとんど顔を合わせる機会がなかった。昼間が起きる頃には辻はすでに外出しており、街占から戻る頃にはすでに眠っている。彼はこの家で占いの顧客と絶対に鉢合わせしないように神経質なまでに気を配っていた。
 お互いに相手の詮索はしなかった。過去のことも未来のことも知らない。一つ屋根のしたにいても、行きずりの他人だという距離間がこの奇妙な同居生活を支えていた。
 九月の最後の週は毎日雨が降った。街占に出られない夜はトランプ・ゲームと決めていたが、現在、借金返済のため自粛中である。仕方がないので、得意客と飲んだり、占いの出前に行って過ごした。ふだんは断るような気前のいいチップも受け取り、いつも以上ににこやかに振舞い、喜ぶ相手には必要以上のお世辞を並べ、あまり深刻でない相談の時はイカサマまがいの良いカードをどんどん繰り出した。お金はたまったが疲れもたまった。
 その日、昼間薫は、夕闇の中を降りしきる雨を客間の北側の窓から眺めながら、客用のソファーにぐんにゃりと伸びていた。顧客の国会議員が株の投資について占いの出前を求めていたが気が進まなかった。恋愛問題、人生問題であれば、洞察力、分析力、己の美学、哲学を総動員して、カードを足掛りに何かを語ることはできる。経済問題についてはお手上げだった。株の何たるかもよく知らない。もちろん、顧客も相場についての実践的なアドバイスを望んでいるわけではないので、知りたいのは、今は良い時期か悪い時期かということなのだ。潮が来ているかどうか。占い師としては、己の霊感をずばり試されることになる。やはり、中本や姉が言う通り、司法試験に再トライすべきだろうか。弁護士になれば霊感を問われることはまずなかろう。
 突然、胸の奥から突き上げるように、カードがやりたい、と思った。タロットではなくトランプである。七ならべでもいい。一勝負十円でもいい。「カスバ」に行きたい。自分ややらなくても、人の勝負を見ているだけでもいい。グラスにジム・ビーム、つまみにピーナッツ、BGMにバド・パウエル、封を切ったばかりのトランプのにおい、軽口の応酬、運と金のささやかなやりとり。
 仕事に行けばおそらく十万、霊感が当ればご祝儀にプラス二十五万。博打に行けばおそらく五万、運が悪ければマイナス五万。最高の差額で三十五万か。それは辻牧夫に借りたのとほぼ同じくらいの金額で、やはり金というのはアブクに似ていると妙に醒めた気持ちで思うのだった。
 雑念を排除し、集中力が戻ってくるよう、目を閉じて雨音に耳を傾けているうちに、いつのまにかうたたねをしたらしい。ジンジンジンと鳴る旧式の電話のベル音に昼間は跳ね起きた。くだんの国会議員が約束をキャンセルする電話で、当方より先方のほうが霊感がありそうだと昼間は思った。
 窓の外は暗がりだった。ひたひたと陰気な雨の音が続いていた。強い空腹を感じた。こうなると、禁を破るのはいともたやすい。世界中で自分のいる場所が「カスバ」以外にあるとは思われなかった。意志の弱さを嘲笑った。ついでに喜びのあまりバグズ・グルーブのテーマを口笛で吹きそうになった。
 イタリア製の猫足の電話台の引き出しを開け、生活費を入れている古びた革の札入れを取り出した。二十万くらい入っているはずだ。万札を五枚勘定して抜き取ろうとした時、玄関で物音がした。ぎょっとして、お札を丸めてズボンの後ろポケットにねじこみ、あわてて引き出しを閉めた。廊下を通り台所に向かっていく軽い足音。
 昼間はふうと息を吐き出した。自分の金をどう使おうと自分の勝手じゃないか。盗みの現場を見つかった泥棒のように泡を食うことはない。しかし、まさに、そんな感じがした。借金を返さずにいる以上、手持ちの金は本来みな辻牧夫のものだともいえる。
 客間を出て、玄関から続く廊下の左側の台所に首をつっこむと、辻が冷蔵庫茶色い卵を並べているところだった。
「よう」
 とふりむいて彼は言った。挨拶に「よう」と言う人間はいそうでいないものだが、と昼間は妙なことを考えた。
「飯、食う?チャーハンでも作るけど」
 一瞬うなずきそうになった。彼のチャーハンはうまかった。チャーシューもザーサイもネギも特別なものではないというのに、味付けの秘訣か、中華鍋の揺すり方のコツか、店の味とも家庭の味とも違う独特のうまさがあった。昼間が誉めると、中華屋で育ったからさ、と辻は照れた。どこの町にもあるケチな中華食堂だよ、わかるだろ?
「出かけるから」
 と昼間は断った。食べてから出かけてもいいのだが、それではなんだか二重の裏切りになるような気がした。さりげなく言ったつもりが、声はそっけなく響き、辻は相手の口調などをいちいち気にするタチではないと思いつつ、かすかな自己嫌悪を覚えた。
「今夜は仕事がないから、ゆっくり銭湯にでも行って、ぶらぶらしてきますよ」
 うかつに言い訳を初めて、おや、これでは「カスバ」の前に銭湯に寄らないといけなくなったなと少しいらいらした。
「風呂なんか、隣で借りればいいじゃん」
「隣はどうもね・・・・・・」
 昼間は口ごもった。じいさん、風呂貸してよ、とずかずか乗り込んでいく辻の人なつこさはとてもじゃないが真似できない。
「ここから壊れたんだってな。台風で真っ二つ」
 三沢から話を聞いてきたのか、辻はそんなことを言い出した。
「つぶれちまったほうにあったのが、食堂に風呂場?昔は豪勢なお屋敷だったそうじゃないの」
「よほど愛着があるんでしょうね」
 と昼間はうなずいた。
「半分だけでも残そうとするんだから。十年くらい前らしいですけど、大正時代の擬西洋館を完全に修理、復元するのは、まあ天文学的なお金が必要だということで、三沢さん、あきらめたわけですよ。それで、住み心地のいいレプリカをこしらえた。こちらは個人に貸すつもりじゃなかったみたいですね。公共の財団とかね。何かの資料館とか文庫とか美術館とかそんなものを作りたかったらしい」
「とんでもないジジイだ。お化け屋敷がいいとこだ」
「まあね」
 昼間は笑った。それじゃ、と辻に背を向けて玄関のほうに行こうとすると、
「昼間さん」
 と呼びとめられた。辻がいつのまにか背後に歩み寄っていた。振り向くと、彼の長い指が肩のあたりにあり、その二本の指の間にしわくちゃのお札が一枚はさまれてひらひらと揺れていた。
「ハンカチじゃないからな。ポケットからのぞかしちゃダメさ」
 昼間はハッとしてズボンの後ろポケットに手をやった。強いショックを感じた。身につけている物を盗られるという、しかも魔術のように軽々と鮮やかにスリとられるというのは、どこか、人前で裸にされたような恥ずかしい頼りない悔しい感情的体験だった。そんな思いが露骨に顔に現れていたのだろうか。辻は一歩後ずさると、照れと後悔の入り混じったニヤニヤ笑いを浮かべた。
 昼間はいつものように場をやり過ごす適当な台詞を口にできなかった。それほどショックが大きかった。あるいは、禁を破って博打に出かけようとしている後ろめたさのようなものも尾をひいていたのかもしれない。自分がどんな男といっしょに暮らしているのか、初めて本当にわかった気がした。
「あんたは財布を持たないタイプじゃないと思うけどね」
 辻はぽつんと言った。彼らは人を見る時に第一にそんなことを考えるのだろう。財布を持っているか、どこに持っているか、どんな中身の財布なのか。
「ええ。たいがい持ちますけどね」
 これ以上の沈黙は不当な非難になると思って、昼間は答えた。
「俺の育ての親は言ってたよ。博打に行く時はでっかい財布を持ってけってね」
 辻は言った。博打という言葉に昼間は再びショックを受けた。
「現ナマをバラして持ってると、もうその金を捨てたもんだと、てめえのもんじゃないとどっかでそういう考えがあるんだとさ」
「博打をよくやる人なんですか?」
 けだし至言だ、と昼間は感心した。
「すきだよねえ」
 溜め息をつくように辻は答えた。
「でもね、早田のお父ちゃんはわけのわかったギャンブラーだよ。風向きの悪い時には無理しない。負けても引ける。でかい勝負はしないし、まあお母ちゃん恐いからな」
「趣味、の域ですね」
「俺の親父のほうはそうはいかなかったよ」
 辻は台所の窓から闇の中を降りしきる雨を見やりながら、つぶやいた。
「俺の親父と早田のお父ちゃんは家が隣で博打仲間だったんだけど、親父のほうは完全にイカれていたね。とっつかれてた。仕事もやめちまってさ。けっこう腕のいい時計職人だったらしいんだけど、俺が物心ついた頃はもう博打一本よ。カミさんには逃げられて。ガキは隣ンチに放り込んで」
 思いがけず身の上話が始まり、昼間はいささか緊張してスリの青年の横顔を見つめた。
「競輪競馬くらいにしときゃ良かったんだけどよ、ヤクザもんと無茶なレートの麻雀をやりだして、後はもう地獄までまっさかさま。二月の朝に、新宿の横丁で、ぐでんぐでんに酸っぱらって、凍死体で見つかったわけよ」
「それは・・・・・・事故ですか?」
「まあね。身体に傷とかなかったからね」
 辻は昼間のほうに視線を戻すと、急にはにかんだように笑った。
「つまんねえ話だけどさ。俺としては、誰かが博打をやってると、凍死体にならねえといいなと、ついつい気になるわけよ」
 軽い口調だが心がこもっていた。
「私は・・・・・・」
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