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自 北杜夫[幽靈]
原文:
黄昏
いつしか黄昏がちかづいていた。
空の清らかな水色が次第に陰影をおび、早春のたそがれに似た寒気が静かに伝わってきた。太陽は目くるめく輝きを収め、島々谷の左方の稜線にかかっている。
とおく立ち並ぶアルプスの尾根々々の立体感は薄らぎ、平面的に夢幻的に、きびしさを消し去った表情に変わり始めた。
やがてその山々は濃紫色のひとつらなりとなり、余光と夕映えのなかに、影絵のように浮かび上がってくるのだろう。
すでに先ほどの少女の面影はすっかり消え失せていた。この一見なごやかな展望、一切の起伏や輻輳の没しさった天地の静寂のなかに、ぼくは自分のたましいに呼びかける山霊のこえを聞いたように思った。
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譯文:
黃昏
不覺中黃昏已經來臨。
清澈如水的天空慢慢蒙上了灰紗,亦靜靜傳來了早春傍晚般的涼意。陽光漸漸收斂了她的鋒芒,染紅了島島谷山稜的左邊一方。
遠處聳立的阿爾卑斯的峯峯巒巒,逐漸失去了她們的層次,畫一般,夢一般,開始卸妝自己的橫眉厲顏。
那些山嵐怕也即將變為濃濃的紫色,連成一線,在餘暉夕陽中,剪影般雕現在天邊。
剛剛那少女般的面龐早已消失的瞭無蹤跡。這看來恰似恬靜的眺望,卻在這淹沒了所有波瀾和喧擁的天地間的寂靜中,我宛如聽到了山的精靈向我靈魂襲襲呼喚的餘音。 |
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