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楼主 |
发表于 2008-5-8 11:30:26
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仏頂面をしていた源内は、新免武蔵のこととなると、急に|饒舌《じょうぜつ》になった。しゃべらずにはいられない対象であるらしいが、しかし好意の感じられない|語《ご》|韻《いん》であった。
「すると、武蔵どのが是非参陣したいとおしかけて申される。ほかのときではない、ともあれいちじは世にきこえた剣客、いくさならば使いようがあろうと、一応軍監の名目で加わってもらったが」
源内は肩をすくめた。
「何の役にも立たなんだな」
「そんなことはありますまい」
「貴公、このいくさを見ていたとあれば、寄手の難儀ぶりの一通りではなかったことは知っておろう。たかが百姓一揆、とたかをくくっていたが、どうしてどうして、きゃつら、殺しても殺しても、クルスとやらをささげ、魔軍のように刃向うてくる。たびたびの夜襲は神出鬼没、十二万余の寄手が顔色を失って逃げまどったことさえあった。もっとも、城に籠っておったのは百姓ばかりではない、敵にもなかなかの軍師がある。天草四郎という小わっぱの知恵ではあるまい、たしか森宗意軒とかいう豊臣方の遺臣が采配をふるっておるときいた。――」
海風がつよくなり、|吐《はき》|気《け》をもよおすような匂いがいよいよ濃くなった。
「とにかく、それを見ながら、武蔵どのは、何をするというでもない。あの音にきこえた二刀流とやらをふるって敵を|斬《き》りちらすどころかよ、まるで石ころのように座っているばかり」
「なんぞ、ふかいお考えでもあったのでござりましょうか」
「といって、べつに兵略軍法を進言するというわけでもない。なんのための軍監か、わけがわからん。……もっとも臨時やといの軍師にうごかされるわが小笠原藩でもないが。――ともあれ、いくさは終わった。武蔵どのも、まずこれでおはらい箱じゃな」
波の音がしだいに高くなった。原城の北方の島原湾沿いに布陣している小笠原軍であった。
「感心したのは、江戸から救援にこられた老中の松平伊豆守どのだ。あのお方は政務に練達のおひととはきいておったが、兵法の達者とはきいたことがない。しかるにそのお方が総大将となられるや、いままでてんでんばらばらであった諸大名が、まるで|織《は》|機《た》のようにうごき出した。――」
「知恵伊豆、と申される」
「それを、如実に見たぞ。要するに、もはや戦国時代の軍略兵法はあまり用をなさんな。ましてや古怪な剣法のごときをやだ。いわゆる剣豪、などというものは、これからさきは、いくさにおいても|案《か》|山《か》|子《し》同様だ、ということがわかった。……お、あそこだ、新免武蔵どのの幕屋は」
ふいに内藤源内は、声をひそめて、かなたを指さした。
長い攻撃戦であったので、寄手もそれにそなえて、たんなる野営ではない、本格的な陣屋をつらねていたが、そこの海ぎわにぽつんとひとつ離れて、小さなむしろ張りの小屋があった。海から吹く風にむしろがめくれて、粗末な燭台にあぶら皿の火がゆらめいている。 |
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