咖啡日语论坛

 找回密码
 注~册
搜索
楼主: uin61

[其他翻译] 日本語小説「怪人二十面相」

[复制链接]
 楼主| 发表于 2008-11-26 10:02:19 | 显示全部楼层

回复 75# uin61 的帖子

「それから、警部さん、主人が貴方にお渡ししてくれと言って、こんなものを書いていったんですが。」
コックの虎吉が、十徳の胸を開いて、揉みくちゃになった一枚の紙切れを取り出し、係長の前に差し出しました。
中村係長は、引っ手繰るようにそれを受け取ると、皺を伸ばして、素早く読み下しましたが、読みながら、係長の顔色は、憤怒のあまり、紫色に変わったかと見えました。
そこには、次のような馬鹿に仕切った文言が書き付けてあったのです。
「小林君によろしく伝えてくれたまえ。あれは実に偉い子供だ。僕はかわいくて仕方がないほどに思っている。だが、いくらかわいい小林君のためだって、僕の一身を犠牲にすることはできない。勝利によっているあの子供には気の毒だが、少々実世間の教訓を与えてやったわけだ。子供のやせ腕でこの二十面相に敵対することは、もう諦めたが良いと伝えてくれたまえ。これに懲りないと、とんだことになるぞと、伝えてくれたまえ。ついでながら、警官諸公に、少しばかり僕の計画を漏らしておく。羽柴氏は少し気の毒になった。もうこれ以上悩ます事はしない。実を言うと、僕はあんな貧弱な美術室に、何時までも執着しているわけにはいかないのだ。それがどのような大事業であるかは、近日、諸君の耳にも達する事だろう。では、そのうちまたゆっくりお目にかかろう。
                            二十面相
中村善四郎君                               」

読者諸君、かくして二十面相と小林少年の戦いは、残念ながら、結局、怪盗の勝利に終わりました。しかも二十面相は、羽柴家の宝庫を貧弱と嘲り、大事業に手をそめていると威張っています。彼の大事業とはいったい、何を意味するのでしょうか。今度こそ、もう小林少年などの手におえないかもしれません。待たれるのは、明智小五郎の帰国です。それもあまり遠いことではありますまい。
ああ、名探偵明智小五郎と怪人二十面相の対立、知恵と知恵の一騎うち、その日が待ち遠しいではありませんか。

                   美術城

伊豆半島の修善寺温泉から四キロほど南、下田街道に沿った山の中に、谷口村と言うごく寂しい村があります。その村外れの森の中に、妙なお城のような厳しい屋敷が建っているのです。
周りには高い土塀を築き、土塀の上には、ずっと先の鋭く尖った鉄棒を、まるで針の山みたいに植えつけ、土塀の内側には、四メートル幅ほどの溝が、ぐるっと取り巻いていて、青々とした水が流れています。深さも背が立たぬほど深いのです。これはみな人を寄せ付けぬための用心です。たとい針の山の土塀を乗り越えても、その中に、とても飛び越す事のできないお堀が、堀めぐらしてあるというわけです。
そして、その真ん中には、天守閣こそありませんが、全体に厚い白壁造りの、窓の小さい、まるで土蔵をいくつも寄せ集めたような、大きな建物が建っています。
その付近の人たちは、この建物を「日下部のお城」と呼んでいますが、無論本当のお城ではありません。こんな小さな村にお城などあるはずはないのです。
回复 支持 反对

使用道具 举报

 楼主| 发表于 2008-12-5 10:38:16 | 显示全部楼层

回复 76# uin61 的帖子

では、このばかばかしく用心堅固な建物は、いったい何者の住まいでしょう。警察のなかった戦国時代ならば知らぬこと、今の世に、どんなお金持ちだって、これほど用心深い邸宅に住んでいるものはありますまい。
「あすこには、いったいどういう人が住んでいるのですか。」
旅のものなどが訪ねますと、村人は決まったように、こんなふうに答えます。
「あれですかい。ありゃ、日下部の気ちがい旦那のお城だよ。宝物を盗まれるのが怖いと言ってね、村とも付き合いをしねえ変わり者ですよ。」
日下部家は先祖代々、この地方の大地主だったのですが、今の左門氏の代になって、広大な地所もすっかり人手に渡ってしまって、残るのはお城のような邸宅と、その中に所蔵されている夥しい古名画ばかりになってしまいました。
左門老人は気ちがいのような美術収集家だったのです。美術と言っても主に古代の名画で、雪舟とか探幽とか、小学校の本にさえ名の出ている、古来の大名人の作は、ほとんど漏れなく集まっていると言ってもいいほどでした。何百幅という絵の大部分が、国宝にもなるべき傑作ばかり、価格にしたら数十億円にもなろうと言う噂でした。
これで、日下部家の屋敷が、お城のように用心堅固に出来ているわけがお分かりでしょう。左門老人は、それらの名画を命よりも大事がっていたのです。もしや泥棒に盗まれはしないかと、そればかりが、寝ても覚めても忘れられない心配でした。
堀を掘っても、塀の上に針を植えつけても、まだ安心が出来ません。しまいには、訪問者の顔を見れば、絵を盗みに来たのではないかと疑いだして、正直な村の人たちとも、交際をしないようになってしまいました。
そして、左門老人は、年中お城の中に閉じこもって、集めた名画を眺めながら、ほとんど外出もしないのです。美術に熱中するあまり、お嫁さんももらわず、したがって子供もなく、ただ名画の番人に生まれてきたような生活が、ずっと続いて、何時しか六十の坂を越してしまったのでした。
つまり、老人は美術のお城の、奇妙な城主というわけでした。
今日も老人は、白壁の土蔵のような建物の、奥まった一室で、古今の名画に取り囲まれて、じっと夢見るように座っていました。
戸外には暖かい日光が浦々と輝いているのですが、用心のために鉄ごうしを嵌めた小さい窓ばかりの室内は、まるで牢獄のように冷たくて、薄暗いのです。
「旦那様、開けておくんなせえ。お手紙が参りました。」
部屋の外に年取って下男の声がしました。広い屋敷に召使いと言っては、この爺やとその女房の二人きりなのです。
「手紙?珍しいな。ここへ持ってきなさい。」
老人が返事をしますと、重い板戸がガラガラと開いて、主人と同じように皺くちゃの爺やが、一通の手紙を手にして入って来ました。
左門老人は、それを受け取って裏を見ましたが、妙な事に差出人の名前がありません。
「誰からだろう。見慣れぬ手がだが……。」
宛名は確かに日下部左門様となっているので、ともかく封を切って、読み下してみました。
「おや、旦那様、どうしただね。何か心配な事が書いてありますだかね。」
爺やが思わず、頓狂な叫び声を立てました。それほど、左門老人の様子が変わったのです。ひげのない皺くちゃの顔が、萎びたように色を失って、歯の抜けた唇がブルブル振るえ、老眼鏡の中で、小さな目が不安らしく光っているのです。
回复 支持 反对

使用道具 举报

发表于 2008-12-5 12:02:40 | 显示全部楼层
谢谢楼主,另外,想知道答案的童鞋们可以去看电影,日本有这个电影,我看过,在电驴上下的。
回复 支持 反对

使用道具 举报

发表于 2008-12-15 17:54:11 | 显示全部楼层

楼主。厉害

楼主好厉害啊
我现在也正准备开始翻译一些东西
还请多多关照啊!!!
回复 支持 反对

使用道具 举报

 楼主| 发表于 2008-12-25 09:57:05 | 显示全部楼层

回复 77# uin61 的帖子

「いや、な、なんでもない。お前には分からん事だ。あっちへ行っていなさい。」
震える声で叱り付けるように言って、じいやを追い返しましたが、なんでもないどころか、老人は気を失って倒れなかったのが、不思議なくらいです。
その手紙には、実に、次のような恐ろしい言葉が、認めてあったのですから。
「紹介者もなく、突然の申し入れをお許しください。しかし、紹介者などなくても、小生が何者であるかは、新聞紙上でよくご承知の事と思います。
用件を簡単に申しますと、小生は貴家ご秘蔵の古画を、一幅も残さず頂戴する決心をしたのです。きたる十一月十五日夜、必ず参上いたします。
突然推参して、ご老体を驚かしてはお気の毒と存じ、あらかじめご通知します。 
                        二十面相
  日下部左門殿                              」
ああ、怪盗二十面相は、とうとう、この伊豆の山中の美術収集狂に、目をつけたのでした。彼が警官に変装して、戸山ヶ原の隠れ家を逃亡してから、ほとんど一ヶ月になります。その間、怪盗がどこで何をしていたか、誰も知るものはありません。おそらく新しい隠れ家を作り、手下のものたちを集めて、第二、第三の恐ろしい陰謀を企んでいたのでしょう。そして、まず白羽の矢を立てられたのが、意外な山奥の、日下部家の美術城でした。
「十一月十五日の夜と言えば、今夜だ、ああ、わしはどうすればよいのじゃ。二十面相に狙われたからには、もう、わしの宝物はなくなったも同然だ。あいつは、警視庁の力でも、どうする事もできなかった恐ろしい盗賊じゃないか。こんな片田舎の警察の手に終える者ではない。
ああ、わしはもう破滅だ。この宝物を取られてしまうくらいなら、いっそ死んだ方が増しじゃ。」
左門老人は、いきなり立ち上がって、じっとしていられぬように、部屋の中をぐるぐる歩き始めました。
「ああ、運のつきじゃ。もう逃れるすべはない。」
いつの間にか、老人の青ざめた皺くちゃな顔が、涙に濡れていました。
「おや、あれは何だったかな……ああ、わしは思い出したぞ。わしは思い出したぞ。どうして、今まで、そこへ気が付かなかったのだろう。
……神様は、まだこのわしをお見捨てなさらないのじゃ。あの人さえいてくれたら、わしは助かるかもしれないぞ。」
回复 支持 反对

使用道具 举报

发表于 2009-1-3 02:07:22 | 显示全部楼层
不错, 辛苦了, 顶了再看
回复 支持 反对

使用道具 举报

 楼主| 发表于 2009-1-9 10:47:51 | 显示全部楼层

回复 80# uin61 的帖子

何を思いついたのか、老人の顔には、にわかに生気がみなぎってきました。
「おい、作蔵、作蔵はいないか。」
老人は部屋の外へ出て、パンパンと手を叩きながら、しきりと、爺やを呼び立てました。
ただならぬ主人の声に、爺やが駆けつけてきますと、
「早く、『伊豆日報』を持ってきてくれ。確かおとといの新聞だったと思うが、何でもいいから三ー四日分纏めて持ってきてくれ。早くだ、早くだぞ。」
と、恐ろしいけんまくで命じました。作蔵が、慌てふためいて、その『伊豆日報』と言う地方新聞の束を持ってきますと、老人は取る手ももどかしく、一枚一枚と社会面を見ていきましたが、やっぱりおとといの十三日の消息欄に、次のような記事が出ていました。
『  明智小五郎氏来修
 民間探偵の第一人者明智小五郎氏は、長らく、外国に出張中であったが、このほど使命を果たして帰京、旅の疲れを休めるために、本日修繕寺温泉冨士屋旅館に投宿、四-五日滞在の予定である。                             』
「これだ。これだ。二十面相に敵対できる人物は、この明智探偵のほかにはない。羽柴家の盗難事件では、助手の小林とかいう子供でさえ、あれほどの働きをしたんだ。その先生明智探偵ならば、きっとわしの破滅を救ってくれるに違いはないて。どんな事があっても、この名探偵を引っ張ってこなくてはならん。」
老人は、そんな独り言を呟きながら、作蔵爺やの女房を呼んで着物を着替えますと、宝物部屋の頑丈な板戸をぴったり閉め、外から鍵をかけ、二人の召使いに、その前で見張り番をしているように、固く言いつけて、ソソクサと屋敷を出かけました。
言うまでもなく、行く先は、近くの修繕寺温泉富士屋旅館です。そこへ行って、明智探偵に面会し、宝物の保護を頼もうと言うわけです。
ああ、待ちに待った名探偵明智小五郎が、とうとう帰ってきたのです。しかも、時も時、所も所、まるで申し合わせでもしたように、ちょうど、二十面相が襲おうという、日下部氏の美術城のすぐ近くに、入湯に来ていようとは、左門老人にとっては、実に、願ってもない幸せといわねばなりません。

              名探偵明智小五郎
ネズミ色のトンビに身を包んだ、小柄の左門老人が、長い坂道をチョコチョコと走らんばかりにして、富士屋旅館に着いたのは、もう午後一時ごろでした。
「明智小五郎先生は?」
と訪ねますと、裏の谷川へ魚釣りに出かけられましたとの答え。そこで、女中を案内に頼んで、またテクテクと、谷川へ降りていかなければなりませんでした。
クマザサなどの茂った、危ない道を通って、深い谷間に下りると、美しい水がせせらぎの音をたてて流れていました。
流れのところどころに、飛び石のように、大きな岩が頭を出ています。その一番大きな平らな岩の上に、どてら姿の一人の男が、背を丸くして、たれた釣竿の先をじっと見つめています。
「あの方が、明智先生でございます。」
女中が先に立って、岩の上をピョイピョイと飛びながら、その男の側へ近づいていきました。
「先生、あの、このお方が、先生にお目にかかりたいと言って、わざわざ遠方からおいでなさいましたのですが。」
その声に、どてら姿の男は、うるさそうにこちらを振り向いて、
「大きな声をしちゃいけない。魚が逃げてしまうじゃないか。」と叱り付けました。
モジャモジャに乱れた頭髪、鋭い目、どちらかと言えば青白い引き締まった顔、高い鼻、ひげはなくて、キッと力のこもった唇、写真で見覚えのある明智名探偵に違いありません。
「あたしはこういうものですが。」
左門老人は名刺を差し出しながら、
「先生に折り入ってお願いがあってお尋ねしたのですが。」
と、小腰をかがめました。
すると明智探偵は、名刺を受け取ることは受け取りましたが、よく見もしないで、さも面倒くさそうに、
「ああ、そうですか。で、どんなご用ですか。」
回复 支持 反对

使用道具 举报

 楼主| 发表于 2009-1-20 12:14:27 | 显示全部楼层

回复 82# uin61 的帖子

と言いながら、また釣竿の先へ気を取られています。
老人は女中に先へ帰るように言いつけて、その後ろ姿を見送ってから、
「先生、実は今日、こんな手紙を受け取ったのです。」
と、懐から例の、二十面相の予告状を取り出して、釣竿ばかり見ている探偵の顔の前へ、突き出しました。
「ああ、また逃げられてしまった・・・・・。困りますねえ、そんなに釣りの邪魔をなすっちゃ。手紙ですって?いったいその手紙が、僕にどんな関係があるとおっしゃるのです。」
明智はあくまでぶあいそうです。
「先生は二十面相と呼ばれている賊をご存じないのですかな。」
左門老人は、少々むかっ腹を立てて、鋭く言い放ちました。
「ホウ、二十面相ですか。二十面相が手紙を寄こしたとおっしゃるのですか。」
名探偵はいっこう驚くようすもなく、相変わらず釣竿の先を見つめているのです。
そこで、老人は仕方なく、怪盗の予告状を、自分で読み上げ、日下部家の「お城」にどのような宝物が秘蔵されているかを、詳しく物語りました。
「ああ、貴方が、あの奇妙なお城のご主人でしたか。」
明智はやっと興味をひかれたらしく、老人の方へ向き直りました。
「はい、そうです。あの古名画類は、わしの命にも代えがたい宝物です。明智先生、どうかこの老人を助けてください。お願いです。」
「で、僕にどうしろとおっしゃるのですか。」
「すぐに、私の宅までお越し願いたいのです。そして、わしの宝物を守っていただきたいのです。」
「警察へお届けになりましたか。僕なんかにお話になるよりも、まず、警察の保護を願うの順序だと思いますが。」
「いや、それがですて、こう申しちゃなんだが、わしは警察よりも先生をたよりにしておるのです。二十面相を向こうに回して、ひけを取らぬ探偵さんは、先生のほかにないということを、わしは信じておるのです。
それに、ここには小さい警察分署しかありませんから、腕利きの刑事を呼ぶにしたって、時間がかかるのです。何しろ二十面相は、今夜わしのところをおろうと言うのですからね。ゆっくりはしておられません。
ちょうどその日に、先生がこの温泉に来ておられるなんて、まったく神様のお引き合わせと申すものです。先生、老人が一生のお願いです。どうかわしを助けてください。」
左門老人は、手をあわさんばかりにして、かきくどくのです。
「それほどにおっしゃるなら、ともかくお引き受けしましょう。二十面相は僕にとっても敵です。早く現れてくれるのを、待ちかねていたほどです。
では、ご一緒に参りましょうか、その前に、一応は警察とも打ち合わせをしておかなければなりません。宿へ帰って僕から電話を掛けましょう。そして、万一の用意に、ニ-三人刑事の応援を頼むことにしましょう。貴方は一足先へお帰りください。僕は刑事と一緒に、すぐ駆けつけます。」
明智の口調は、にわかに熱を帯びてきました。もう釣竿なんか見向きもしないのです。
「ありがとう、ありがとう。これでわしも百万の見方を見た思いです。」
老人は胸を撫で下ろしながら、繰り返し繰り返し、お礼を言うのでした。
回复 支持 反对

使用道具 举报

 楼主| 发表于 2009-1-22 14:14:11 | 显示全部楼层

回复 83# uin61 的帖子

              不安の一夜
日下部左門老人が、修繕寺で雇った自動車を飛ばして、谷口村の「お城」へ帰ってから、三十分ほどして、明智小五郎の一行が到着しました。
一行は、ぴったりと身に合う黒の洋服に着替えた明智探偵のほかに、背広服の屈強な紳士が三人、みな警察分署づめの刑事で、それぞれ肩書きつきの名刺を出して、左門老人と挨拶を交わしました。
老人はすぐさま、四人を奥まった名画の部屋へ案内して、壁にかけ並べた掛け軸や、箱に収めて棚に積み重ねてある、夥しい国法的傑作を示し、いちいちその由緒を説明するのでした。
「こりゃあどうも、実に驚くべきご収集ですねえ。ぼくも古画は大好きで、暇があると、博物館や寺院の宝物などを見て回るのですが、歴史的な傑作が、こんなに一室に集まっているのを、見た事がありませんよ。
美術好きの二十面相が目をつけたのは、無理もありませんね。僕でも涎がたれるようですよ。」
明智探偵は、感嘆に耐えぬもののように、一つ一つの名画について、賛辞を並べるのでしたが、その批評の言葉が、その道の専門家も及ばぬほど詳しいのには、さすがの左門老人もびっくりしてしまいました。そして、名探偵への尊敬の念が、ひとしお深くなるのでした。
さて、少し早めに、一同夕食を済ませると、いよいよ名画守護の部署に付くことになりました。
明智は、テキパキした口調で、三人の刑事に指図をして、一人は名画室の中へ、一人は表門、一人は裏口に、それぞれ徹夜をして、見張り番をして、怪しいものの姿をみとめたら、直ちに呼子を吹き鳴らすと言う合図まで決めたのです。
刑事たちが、めいめいの部署につくと、明智探偵は名画室の頑丈な板戸を、外からピッシャリ閉めて、老人に鍵を掛けさせてしまいました。
「僕は、この戸の前に、一晩中頑張っていることにしましょう。」
名探偵はそういって、板戸の前の畳廊下に、どっかり座りました。
「先生、大丈夫でしょうな。先生にこんな事を申しては、失礼かもしれませんが、相手はなにしろ、魔法使いみたいなやつだそうですからね。わしは、なんだかまだ、不安心なような気がするのですが」。
老人は明智の顔色を見ながら、言い難そうに訪ねるのです。
「ハハハ・・・・・・、ご心配なさる事はありません。僕はさっき、十分調べたのですが、部屋の窓には厳重な鉄ごうしがはめてあるし、壁は厚さが三十センチもあって、ちっとやそっとで破れるものではないし、部屋の真ん中には刑事君が、目を見張っているんだし、そのうえ、たった一つの出入り口には、僕自身ががんばっているんですからね。これ以上、用心の仕様はないくらいですよ。
貴方は安心して、お休みなすったほうがいいでしょう。ここにおいでになっても、同じ事ですからね。」
明智が勧めても、老人はなかなか承知しません。
「いや、わしもここで徹夜することにしましょう。寝床へ入ったって、眠られるものではありませんからね。」
そういって、探偵の傍らへ座り込んでしまいました。
「なるほど、では、そうなさる方がいいでしょう。僕も話し相手ができて好都合です。絵画論でも戦わしましょうかね。」
さすが百戦錬磨の名探偵、にくらしいほど落ち着き払っています。
回复 支持 反对

使用道具 举报

 楼主| 发表于 2009-1-23 10:30:12 | 显示全部楼层

回复 84# uin61 的帖子

それから、二人はらくな姿勢になって、ポツポツ古名画の話を始めたものですが、しゃべるのは明智ばかりで、老人はソワソワと落ち着きがなく、ろくろく受け答えもできない有り様です。
左門老人には、一年もたったかと思われるほど、長い長い時間のあとで、やっと、十二時が打ちました。真夜中です。
明智は時々、板戸ごしに、室内の刑事に声をかけていましたが、その都度、中からはっきりした口調で、異状はないという返事が聞こえてきました。
「アーア、僕は少し眠くなってきた。」
明智はあくびをして、
「二十面相のやつ、今夜はやってこないかもしれませんよ。こんな厳重な警戒の中へ飛び込んでくる馬鹿でもないでしょうからね・・・・・・。ご老人、いかがです。眠気覚ましに一本。外国ではこんな贅沢なやつを、スパスパやっているんですよ。」
と、煙草入れをパチンと開いて、自分も一本つまんで、老人の前に差し出すのでした。
「そうでしょうかね。今夜は来ないでしょうかね。」
左門老人は、差し出されたエジプトタバコを取りながら、まだ不安らしく言うのです。
「いや、ご安心なさい。あいつは、決して馬鹿じゃありません。僕が、ここに頑張っていると知ったら、まさかノコノコやってくるはずはありませんよ。」
それからしばらく言葉か途絶えて、二人はてんでの考え事をしながら、おいしそうにタバコをすっていましたが、それがすっかり灰になったころ、明智はまたあくびをして、
「僕は少し眠りますよ。貴方もお休みなさい。なあに、大丈夫です。武士はくつわの音に目を覚ますって言いますが、僕は職業がら、どんな忍び足の音にも目を覚ますのです。心まで眠りはしないのですよ。」
そんなことを言ったかと思うと、板戸の前に長々と横になって、目を塞いでいました。そして、間も無く、スヤスヤと穏やかな寝息が聞こえ始めたのです。
あまりなれきった探偵のしぐさに、老人は気が気ではありません。眠るどころか、ますます耳をそばだてて、どんなかすかな物音も聞き漏らすまいと、一生懸命でした。
何か妙な音が聞こえてくるような気がします。耳鳴りかしら、それとも近くの森の梢に当たる風の音かしら。
そして、耳を澄ましていますと、しんしんと夜の更けていくのが、はっきり分かるようです。
頭の中が段々空っぽになって、目の前がもやのように霞んでいきます。
ハッと気が付くと、その薄白いもやの中に、目ばかり光らした黒装束の男が、朦朧と立ちはだかっているではありませんか。
「アッ、明智先生、賊です、賊です。」
思わず大声を上げて、寝ている明智の方を揺さぶりました。
「なんです。騒々しいじゃありませんか。どこに賊がいるんです。夢でもご覧になったのでしょう。」
探偵は身動きもせず、叱り付けるようにいうのでした。
なるほど、今のは夢か、それとも幻だったのかもしれません。いくら見回しても、黒装束の男など、どこにもいやしないのです。
老人は少し決まりが悪くなって、無言のままもとの姿勢に戻り、また耳を澄ましましたが、するとさっきと同じように、頭の中がスーッと空っぽになって、目の前にもやがむらがり始めるのです。
そのもやが少しずつ濃くなって、やがて、黒雲のように真っ暗になってしまうと、体が深い深い地の底へでも落ち込んでいくような気持ちがして、老人は、何時しかウトウトと眠ってしまいました。
回复 支持 反对

使用道具 举报

 楼主| 发表于 2009-2-9 12:13:34 | 显示全部楼层
どのくらい眠ったのか、その間中、まるで地獄へでも落ちたような、恐ろしい夢ばかり見続けながら、ふと目を覚ましますと、びっくりした事には、あたりがすっかり明るくなっているのです。
「ああ、わしは眠ったんだな。しかし、あんなに気を張り詰めていたのに、どうして寝たり何ぞしたんだろう。」
左門老人はわれながら、不思議で仕方がありませんでした。
見ると、明智探偵は昨夜のままの姿で、まだスヤスヤと眠っています。
「ああ、助かった。それじゃ二十面相は、明智探偵に恐れをなして、とうとうやってこなかったと見える。ありがたい、ありがたい。」
老人はほっと胸を撫で下ろして、静かに探偵を揺り起こしました。
「先生、起きてください。もう夜が明けましたよ。」
明智はすぐ目を覚まして、
「ああ、よく眠ってしまった・・・・・・。ハハハ・・・・・・、御覧なさい。何事もなかったじゃありませんか。」
と言いながら、大きな伸びをするのでした。
「見張り番の刑事さんも、さぞ眠いでしょう。もう大丈夫ですから、ご飯でも差し上げて、ゆっくり休んでいただこうじゃありませんか。」
「そうですね。では、この戸をあけてください。」
老人は、言われるままに、懐中から鍵を取り出して、締りを外し、ガラガラと板戸を開きました。
ところが、戸を開いて、部屋の中を一目見たかと思うと、老人の口から「ギャーッ。」という、まるで絞め殺されるような、叫び声が迸ったのです。
「どうしたんです。どうしたんです。」
明智も驚いて立ち上がり、部屋の中を覗きました。
「あ、あれ、あれ・・・・・・。」
老人は口を利く力もなく、妙な片言を言いながら、震える手で、室内を指差しています。
見ると、ああ、老人の驚きも決して無理ではなかったのです。部屋の中の古名画は、壁に掛けてあったのも、箱に収めて棚に積んで合ったのも、一つ残らず、まるでかき消すようになくなっているではありませんか。
番人の刑事は、畳の上に打ちのめされたように倒れて、なんというざまでしょう。グウグウ高いびきをかいているのです。
「せ、先生、ぬ、ぬ、盗まれました。ああ、わしは、わしは・・・・・・。」
左門老人は、一瞬間に十年も年を取ったような、凄まじい顔になって、明智の胸ぐらをとらんばかりです。

            悪魔の知恵

ああ、またしてもありえないことが起こったのです。二十面相というやつは、人間ではなくて、えたいの知れないお化けです。まったく不可能な事を、こんなにやすやすとやって退けるのですからね。
明智はツカツカと部屋の中へ入っていって、いびきをかいている刑事の腰の辺りを、いきなり蹴飛ばしました。賊のために出し抜かれて、もうすっかり腹を立てている様子でした。
「おい、おい、起きたまえ。僕は君に、ここでお休みくださいって頼んだんじゃないんだぜ。見たまえ、すっかり盗まれてしまったじゃないか。」
回复 支持 反对

使用道具 举报

 楼主| 发表于 2009-2-11 10:59:48 | 显示全部楼层

回复 86# uin61 的帖子

刑事は、やっと体を起こしましたが、まだ夢うつつの有様です。
「ウ、ウ、何を盗まれたんですって?ああ、すっかり眠ってしまった・・・・・・。おや、ここはどこだろう。」
寝ぼけた顔で、キョロキョロ部屋の中を見回す始末です。
「しっかりしたまえ。ああ、分かった。君は麻酔剤でやられたんじゃないか。思い出してみたまえ、昨夜どんな事があったか。」
明智は刑事の肩を掴んで、乱暴に揺さぶるのでした。
「こうッと、おや、ああ、あんた明智さんですね。ああ、ここは日下部の美術城だった。しまった。僕はやられたんですよ。そうです。麻酔剤です。昨夜真夜中に、黒い影のようなものが、僕の後ろへ忍び寄ったのです。そして、そして、なんか柔らかい嫌なにおいのするもので、僕の鼻と口を塞いでしまったのです。それっきり、それっきり、僕は何も分からなくなってしまったんです。」
刑事はやっと目の覚めた様子で、さも申し訳なさそうに、空っぽの絵画室を見回すのでした。
「やっぱりそうだった。じゃあ、表門と裏門を守っていた刑事諸君も、同じ目に合っているかもしれない。」
「明智は独り言を言いながら、部屋を駆け出していきましたが、しばらくすると、台所の方で大声に呼ぶのが聞こえてきました。
「日下部さん。ちょっと来てください。」
何事かと、老人と刑事とが、声のするほうへ行ってみますと、明智は下男部屋の入り口に立ってその中を指差しています。
「表門にも裏門にも、刑事君たちの影も見えません。そればかりじゃない。御覧なさい、かわいそうに、この始末です。」
見ると、下男部屋の隅っこに、作蔵爺やとそのおかみさんとが、高手小手に縛られ、猿轡まで噛まされて、転がっているではありませんか。無論賊の仕業です。じゃまだてをしないように、二人の召使いを縛り付けておいたのです。
「ああ、なんと言う事じゃ。明智さん、これはなんということです。」
日下部老人は、もう半狂乱のていで、明智に詰め寄りました。命よりも大切に思っていた宝物が夢のように一夜のうちに消えうせてしまったのですから、無理もないことです。」
「いや、なんとも申し上げようもありません。二十面相がこれほどの腕前とは知りませんでした。相手をみくびっていたのが失策でした。」
「失策?明智さん、あんたはしっさくですむじゃろうが、このわしは、一体どうすればよいのです。・・・・・・名探偵、名探偵と評判ばかりで、何だこのざまは・・・・・・。」
老人は真っ青になって、血走った目で明智を睨みつけて、今にも、飛び掛らんばかりの剣幕です。
明智はさも恐縮したように、指し俯いていましたが、やがて、ヒョイとあげた顔を見ますと、これはどうしたというのでしょう、名探偵は笑っているではありませんか。その笑いが顔一面に広がっていって、しまいにはもう可笑しくて可笑しくてたまらぬと言うように、大きな声を立てて、笑い出したではありませんか。
日下部老人は、あっけに取られてしまいました。明智は賊に出し抜かれた悔しさに、気でも違ったのでしょうか。
「明智さん、あんた何が可笑しいのじゃ。これ、何が可笑しいのじゃというに。」
回复 支持 反对

使用道具 举报

发表于 2009-2-11 18:37:20 | 显示全部楼层

やっと版主の更新を見た、うれしい~~~~

  やっと版主の更新を見た、うれしい~~~~  中学の頃、この小説の中国語訳を読んだ。今になって、ここで原作を読めるとは思わなかった これからストーリーの展開、二十面相と名智探偵の勝負、楽しみにしてるよ~~~ 頑張ってね(^_-)-☆
回复 支持 反对

使用道具 举报

 楼主| 发表于 2009-2-12 10:31:00 | 显示全部楼层

回复 87# uin61 的帖子

「ワハハハ・・・・・・、可笑しいですよ。名探偵明智小五郎、ざまはないですね。まるで赤子の手をねじるように、やすやすとやられてしまったじゃありませんか。二十面相というやつは偉いですねえ。僕はあいつを尊敬しますよ。」
明智の様子は、いよいよ変です。
「これ、これ、明智さん、どうしたんじゃ、賊を褒めたてている場合ではない。ちぇッ、これはまあなんというざまだ。ああ、それに、作蔵たちを、このままにしておいては可愛そうじゃ。刑事さん、ぼんやりしていないで、早く縄を解いてやってください。猿轡も外して。そうすれば作蔵の口から賊の手がかりもつくと言うもんじゃないか。」
明智が、いっこう頼りにならぬものですから、あべこべに、日下部老人が探偵みたいに指図をする始末です。
「さあ、ご老人の命令だ、縄を解いてやりたまえ。」
明智が刑事に妙な目配せをしました。
すると、今までぼんやりしていた刑事が、俄かにシャンと立ち直って、ポケットから一束の捕縄を取り出したかと思うと、いきなり日下部老人の後ろに回って、パッと縄を掛け、グルグルと縛り始めました。
「これ、何をする。ああ、どいつもこいつも、気違いばかりじゃ。わしを縛ってどうするのだ。わしを縛るのではない。そこに転がっている、二人の縄を解くのじゃ。これ、わしではないと言うに。」
しかし、刑事はいっこう手を緩めようとはしません。無言のまま、とうとう老人を高手小手に縛り上げてしまいました。
「これ、気違いめ。これ、何をする。あ、痛い痛い。痛いというに、明智さん、あんた何を笑っているのじゃ。止めてくださらんか。この男は気が違ったらしい。早く、縄を解くように行ってください。これ、明智さんと言うに。」
老人は、何がなんだかわけが分からなくなってしまいました。みんな揃って気違いになったのでしょうか。でなければ、事件の依頼者を縛り上げるなんて法はありません。またそれを見て、探偵がニヤニヤ笑っているなんて馬鹿な事はありません。
「ご老人、誰をお呼びになっているのです。明智とかおっしゃったようですが。」
明智自身が、こんな事を言い出したのです。
「何を冗談を言っているのじゃ。明智さん、あんた、まさか自分の名を忘れたのではあるまい。」
「この僕がですか。この僕が明智小五郎だとおっしゃるのですか。」
明智は澄まして、いよいよ変なことを言うのです。
「決まっておるじゃないか。何を馬鹿な事を・・・・・・。」
「ハハハ・・・・・・、ご老人、貴方ころ、どうかなすったんじゃありませんか。ここには明智なんて人間いやしませんぜ。」
老人はそれを聞くと、ポカンと口を開けて、きつねにでも摘まれたような顔をしました。
あまりの事に急には口もきけないのです。
「ご老人、貴方は以前に明智小五郎とお会いになった事があるのですか。」
「会ったことはない。じゃが、写真を見てよく知っておりますわい。」
「写真?写真ではちと心細いですねえ。その写真に僕が似ているとでもおっしゃるのですか。」
「・・・・・・・・・・・・」
「ご老人、貴方は、二十面相がどんな人物かと言う事を、お忘れになっていたのですね。二十面相、ほら、あいつは変装の名人だったじゃありませんか。」
回复 支持 反对

使用道具 举报

发表于 2009-2-13 13:30:52 | 显示全部楼层
この小説が全部の興味を引き付けられたわ!早く更新お願いします!期待していますね!本当にお疲れ様でした!
回复 支持 反对

使用道具 举报

您需要登录后才可以回帖 登录 | 注~册

本版积分规则

小黑屋|手机版|咖啡日语

GMT+8, 2024-4-20 11:36

Powered by Discuz! X3.4

© 2001-2017 Comsenz Inc.

快速回复 返回顶部 返回列表