咖啡日语论坛

 找回密码
 注~册
搜索
楼主: uin61

[其他翻译] 日本語小説「怪人二十面相」

[复制链接]
 楼主| 发表于 2009-3-19 09:59:55 | 显示全部楼层

回复 105# xieguifang 的帖子

家のパソコンではQQを使うことはできません。

[ 本帖最后由 uin61 于 2009-3-19 10:02 编辑 ]
回复 支持 反对

使用道具 举报

发表于 2009-3-23 20:52:43 | 显示全部楼层
好久不见,还在坚持哪~~
佩服佩服!加油
回复 支持 反对

使用道具 举报

发表于 2009-3-24 10:31:09 | 显示全部楼层
真的太厉害了.
回复 支持 反对

使用道具 举报

 楼主| 发表于 2009-3-26 10:48:30 | 显示全部楼层

回复 104# uin61 的帖子

しあわせと、その自動車の運転手がまた、心きいた若者でした。車は新しく、エンジンに申し分はありません。走る、走る、まるで鉄砲玉みたいに走り出したのです。
悪魔のように疾走する二台の自動車は、道行く人の目をみはらせないでは起きませんでした。
見れば、後ろの車には、一人のお巡りさんが、及び腰になって、一心不乱に前方を見つめ、何か大声に喚いているではありませんか。
「捕り物だ、捕り物だ!」
野次馬が叫びながら、車と一緒に駆け出します。それにつれて犬が吠える。歩いていた群衆がみな立ち止まってしまうと言う騒ぎです。
しかし、自動車は、それらの光景をあとに見捨てて、通り魔のように、ただ、先へ先へと跳んで行きます。
いく台の自動車を追い抜いた事でしょう。いくたび自動車にぶつかりそうになって、危うく避けたことでしょう。
細い道ではスピードが出せないものですから、賊の車は大環状線に出て、王子の方角に向かって疾走し始めました。賊は無論追跡を気づいてます。しかし、どうすることもできないのです。白昼の都内では、車を飛び降りて身を隠すなんて芸当は、出来っこありません。
池袋を過ぎたころ、前の車からパーンという激しい音響が聞こえました。アア、賊はとうとう我慢しきれなくなって、例のポケットのピストルを取り出したのでしょうか。
いや、いや、そうではなかったのです。西洋のギャング映画ではありません。にぎやかな町の中でピストルなど撃ってみたところで、いまさら逃れられるものではないのです。
ピストルではなくて、車輪のパンクした音でした。賊の運が尽きたのです。
それでも、しばらくの間は、無理に車を走らせていましたが、何時しか速度がにぶり、ついにお巡りさんの自動車に追い抜かれてしまいました。逃げる行く手に当たって、自動車を横にされては、もうどうする事もできません。
車は二台とも止まりました。忽ちその周りに黒山の人だかり。やがて付近のお巡りさんも駆けつけてきます。
ああ、読者諸君、辻野氏は、とうとう捕まってしまいました。
「二十面相だ、二十面相だ!」
誰言うとなく、群集の間にそんな声が起こりました。
賊は、付近から駆けつけた、二人のお巡りさんと、戸塚の交番の若いお巡りさんと、三人に周りを取り巻かれ、叱り付けられて、もう抵抗する力もなく項垂れています。
「二十面相が捕まった!」
「なんて、ふてぶてしつらをしているんだろう。」
「でも、あのお巡りさん、偉いわねえ。」
「お巡りさん、ばんざーい。」
群衆の中に巻き起こる歓声の中を、警官と賊とは、追跡してきた車に同乗して、警視庁へと急ぎます。管轄の警察署に留置するには、あまりに大物だからです。
警視庁に到着して、事の次第が判明しますと、庁内にはドッと歓声が沸きあがりました。手を焼いていた希代の凶賊が、なんと思いがけなく捕まったことでしょう。これというのも、今西刑事の機敏な処置と、戸塚署の若い警官の奮戦のおかげだというので、二人は胴上げされんばかりの人気です。
この報告を聞いて、誰よりも喜んだのは、中村捜査係長でした。係長は羽柴家の事件の際、賊のためにまんまと出し抜かれた恨みを、忘れる事が出来なかったからです。
さっそく調べ室で、厳重な取調べが始められました。相手は、変装の名人の事ですから、誰も顔を見知ったものがありません。何よりも先に、一違いでないがどうかを確かめるために、証人を呼び出さなければなりませんでした。
明智小五郎の自宅に電話が掛けられました。しかし、ちょうどその時、名探偵は外務省に出向いて、留守中でしたので、代わりに小林少年が出頭することになりました。
やがてほどもなく、厳しい調べ室に、りんごのような頬の、可愛らしい小林少年が現れました。そして、賊の姿を一目見るや否や、これこそ、外務省の辻野氏と偽名した、あの人物に違いないと証言しました。
回复 支持 反对

使用道具 举报

 楼主| 发表于 2009-3-27 09:54:20 | 显示全部楼层

回复 109# uin61 的帖子

          「わしがほんものじゃ」
「この人でした。この人に違いありません。」
小林君は、きっぱりと答えました。
「ハハハ・・・・・・、どうだね、きみ、子供の眼力にかかっちゃかなわんだろう。君が、なんと言い逃れようとしたって、もうだめだ。君は二十面相に違いないのだ。」
中村係長は、恨み重なる怪盗を、とうとう捕らえたかと思うと、嬉しくて仕方がありませんでした。勝ち誇ったように、こういって、真正面から賊を睨みつけました。
「ところが、違うんですよ。こいつあ、困ったことになったな。わしは、あいつが有名な二十面相だなんて、少しも知らなかったのですよ。」
紳士に化けた賊は、あくまでそらとぼけるつもりらしく、へんな事を言い出すのです。
「何だって?君の言う事は、ちっともわけが分からないじゃないか。」
「わしもわけが分からんのです。すると、あいつがわしに化けてわしを替え玉に使ったんだな。」
「おいおい、いい加減にしたまえ。いくらそらとぼけたって、もうその手には乗らんよ。」
「いやいや、そうじゃないんです。まあ、落ち着いて、わしの説明を聞いてください。わしは、こういうものです。決して二十面相なんかじゃありません。」
紳士はそう言いながら、今さら思い出したように、ポケットから名刺入れを出して、一枚の名刺を差し出しました。それには『松下庄兵衛』とあって、杉並区のあるアパートの住所も、印刷してあるのです。
「わしは、このとおり松下というもので、少し商売に失敗しまして、今はまあ失業者という身の上、アパート住まいの独り者ですがね。昨日の事でした。日比谷公園をぶらぶらしていて、一人の会社員風の男と知り合いになったのです。その男が、妙な金儲けがあるといって、教えてくれたのですよ。
つまり、今日一日、自動車に乗って、その男のいうままに、東京中を乗り回してくれれば、自動車代はただの上に、五千円の手当てを出すというのです。うまい話じゃありませんか。わしはこんな身なりはしていますけれど、失業者なんですからね、五千円の手当てがほしかったですよ。
その男は、これには少し事情があるのだといって、何かクドクドと話しかけましたが、わしはそれを押し止めて、事情なんか聞かなくても良いからといって、早速承知してしまったのです。
そこで、きょうは朝から自動車でほうぼう乗り回しましてね、お昼は鉄道ホテルで食事しろという、ありがたい言いつけなんです。たらふくご馳走になって、ここでしばらく待っていてくれというものだから、ホテルの前に自動車を止めて、その中に腰掛けて待っていたのですが、三十分もしたかと思うころ、一人の男が鉄道ホテルから出てきて、わしの車をあけて、中へ入ってくるのです。わしは、その男を一目見て、びっくりしました。気が違ったのじゃないかと思ったくらいです。なぜといって、そのわしの車へ入ってきた男は、顔から、背広から、外套からステッキまで、このわしと一分一厘も違わないほど、そっくりそのままだったからです。まるでわしが鏡に映っているような、へんてこな気持ちでした。
呆気に取られて見ていますとね、ますます妙じゃありませんか。その男は、わしの車へ入ってきたかと思うと、こんどは反対側のドアを開けて、外へ出て行ってしまったのです。
つまり、そのわしとそっくりの紳士は、自動車の客席を、通り過ぎただけなんです。その時、その男は、わしの前を通り過ぎながら、妙な事を言いました。
回复 支持 反对

使用道具 举报

发表于 2009-3-29 19:18:25 | 显示全部楼层
做个书签
回复 支持 反对

使用道具 举报

 楼主| 发表于 2009-4-17 09:14:46 | 显示全部楼层
本帖最后由 uin61 于 2009-4-17 09:32 编辑

『さあ、すぐに出発してください。どこでも構いません。全速力で走るのですよ。』
こんな事を言い残して、そのまま、ご存知でしょう、あの鉄道ホテルの前にある、地下室の理髪店の入り口へ、スッと姿を隠してしまいました。わしの自動車は、ちょうどその地下室の入り口の前に止まっているのですよ。
なんだか変だなとは思いましたが、とにかく先方の言うままになると言う約束ですから、わしはすぐ運転手に、フル・スピードで走るように言いつけました。
それから、どこをどう走ったか、よくも覚えませんが、早稲田大学の後ろの辺で、後から追っかけてくる自動車があることに気づきました。何がなんだか分からないけれど、わしは、妙に恐ろしくなりましてな。運転手に走れ走れと怒鳴ったのですよ。
それから後は、ご承知のとおりです。お話を伺って見ると、わしはたった五千円の礼金に目がくれて、まんまと二十面相のやつの替え玉に使われたというわけですね。
いやいや、替え玉じゃない。わしの方が本物で、あいつこそわしの替え玉です。まるで、写真にでも写したように、わしの顔や服装を、そっくり真似やがったんです。
それが証拠に、ほら、御覧なさい。このとおりじゃ。わしは正真正銘の松下庄兵衛です。わしが本物で、あいつの方が偽者です。お分かりになりましたかな。」
松下氏はそう言って、ニューッと顔を前に突き出し、自分の頭の毛を、力任せに引っ張って見せたり、頬をつねって見せたりするのでした。
ああ、なんと言う事でしょう。中村係長は、またしても、賊のためにまんまといっぱい担がれたのです。警視庁をあげての、凶賊逮捕の喜びも、ぬか喜びに終わってしまいました。
のちに、松下氏のアパートの主人を呼び出して、調べて見ますと、松下氏は少しも怪しい人物でない事が確かめられたのです。
それにしても、二十面相の用心深さはどうでしょう。東京駅で明智探偵を襲うためには、これだけの用心がしてあったのです。部下を空港ホテルのボーイに住み込ませ、エレベーター係りを見方にしていたうえに、この松下という替え玉紳士まで雇い入れて、逃走の準備を整えていたのです。替え玉といっても、二十面相に限っては、自分に良く似た人を探し回る必要は、少しもないのでした。なにしろ、恐ろしい変装の名人の事です。手当たりしだいに雇い入れた人物に、こちらで化けてしまうのですから、わけはありません。相手は誰でも構わない。口車に乗りそうなお人よしを探しさえすればよかったのです。
そういえば、この松下という失業紳士は、いかにものんき者の好人物に違いありませんでした。
回复 支持 反对

使用道具 举报

 楼主| 发表于 2009-4-21 11:01:50 | 显示全部楼层
                二十面相の新弟子
明智小五郎の住宅は、港区竜土町の閑静な屋敷町にありました。名探偵は、まだ若くて美しい文代夫人と、助手の小林少年と、お手伝いさん一人の、質素な暮らしをしているのでした。
明智探偵が、外務省からある友人の宅へ立ち寄って帰宅したのは、もう夕方でしたが、ちょうどそこへ警視庁へ呼ばれていた小林君も帰ってきて、洋館の二階にある明智の書斎へ入って、二十面相の替え玉事件を報告しました。
「たぶん、そんなことだろうと思っていた。しかし、中村君には気の毒だったね。」
名探偵は、苦笑いを浮かべて言うのでした。
「先生、僕は少し分からないことがあるんですが。」
小林少年は、いつも、ふに落ちないことは、出来るだけ早く、勇敢に訪ねる習慣でした。
「先生が二十面相をわざと逃がしておやりになったわけは、僕にも分かるのですけれど、なぜあの時、僕に尾行させてくださらなかったのです。博物館の盗難を防ぐのにも、あいつの隠れ家が知れなくては、困るんじゃないかと思いますが。」
明智探偵は少年助手の非難を、嬉しそうにニコニコして聞いていましたが、立ち上がって、窓のところへ行くと、小林少年を手招きしました。
「それはね。二十面相のほうで、僕に知らせてくれるんだよ。
なぜだか分かるかい。さっきホテルで、僕はあいつを、十分辱めてやった。あれだけの凶賊を、探偵が捉えようともしないで逃がしてやるのが、どんなひどい侮辱だか、君には想像も出来ないくらいだよ。
二十面相は、あの事だけでも、僕を殺してしまいたいほど憎んでいる。その上、僕がいては、これから思うように仕事も出来ないのだから、どうかして僕と言う邪魔者を、なくしようと考えるに違いない。
ごらん、窓の外を。ホラ、あすこに紙芝居屋がいるだろう。こんな寂しいところで、紙芝居が荷を降ろしたって、商売になるはずはないのに、あいつはもうさっきから、あすこに立ち止まって、この窓を、見ぬようなふりをしながら、一生懸命に見ているのだよ。」
言われて、小林君が、明智邸の門前の細い道路を見ますと、いかにも、一人の紙芝居屋が、胡散臭い様子で立っているのです。
「じゃ、あいつ二十面相の部下ですね。先生の様子を探りに来ているんですね。」
「そうだよ。それごらん。別に苦労をして探し回らなくても、先方からちゃんと近づいてくるだろう。あいつについていけば、しぜんと、二十面相の隠れ家も分かるわけじゃないか。」
回复 支持 反对

使用道具 举报

 楼主| 发表于 2009-4-23 11:09:30 | 显示全部楼层
本帖最后由 uin61 于 2009-4-23 11:20 编辑

「じゃ、ぼく、姿を変えて尾行して見ましょうか。」
小林君は気が早いのです。
「いや、そんなことしなくても良いんだ。僕に少し考えがあるからね。相手は、なんと言っても恐ろしく頭の鋭いやつだから、うかつな真似はできない。
ところでねえ、小林君、明日当たり、僕の身辺に、少し変わった事が、起こるかもしれないよ。だが、決して驚くんじゃないぜ。僕は、決して二十面相なんかに、出し抜かれやしないからね。たとえば僕の身が危ないような事があっても、それも一つの策略なのだから、決して心配するんじゃないよ。いいかい。」
そんなふうに、しんみりと言われますと、小林少年は、するなといわれても、心配しないわけにはいきませんでした。
「先生、何か危ない事でしたら、僕にやらせてください。先生に、もしもの事があっては大変ですから。」
「ありがとう。」
明智探偵は、暖かい手を少年の肩に当てて言うのでした。
「だが、君には出来ない仕事なんだよ。まあ、僕を信じていたまえ。君も知っているだろう。僕が一度だって失敗したことがあったかい・・・・・・。心配するじゃないよ。心配するんじゃないよ。」
さて、その翌日の夕方の事でした。
明智探偵の門前、ちょうど、きのう紙芝居が立っていたへんに、きょうは一人の乞食が座り込んで、ほんの時たま通りかかる人に、何か口の中でモグモグ言いながら、お辞儀をしております。
にしめたような汚い手ぬぐいで頬かむりをして、方々に次の当たった、ぼろぼろに破れた着物を着て、一枚のござの上に座って、寒そうにブルブル身震いしている有様は、いかにも哀れに見えます。
ところが、不思議なことに、往来に一通りが途絶えますと、この乞食の様子が一変するのでした。今まで低く垂れていた首を、ムクムクもたげて、顔一面の無精ひげの中から、鋭い目を光らせて、目の前の明智探偵の家を、ジロジロと眺め回すのです。
明智探偵は、その日午前中は、どこかへ出かけていましたが、三時間ほどで帰宅すると、往来からそんな乞食が見張っているのを、知ってか知らずにか、表に面した二階の書斎で、机に向かって、しきりに何か書き物をしています。その位置が窓のすぐ近くなものですから、乞食のところから、明智の一挙一動が、手に取るように見えるのです。
それから夕方までの数時間、乞食は根気よく地面に座り続けていました。明智探偵のほうも、根気よく窓から見える机に向かい続けていました。
午後はずっと、一人の訪問客もありませんでしたが、夕方になって、ひとりの異様な人物が、明智邸の低い石門の中へ入っていきました。
その男は、伸び放題に伸ばした髪の毛、顔中を薄黒く埋めている無精ひげ、汚い背広服を、メリヤスのシャツの上にじかに着て、縞目も分からぬ鳥打帽子を被っています。浮浪人と言いますか、ルンペンと言いますか、見るからに薄気味の悪いやつでしたが、そいつが門を入って暫くしますと、突然恐ろしい怒鳴り声が門内から漏れてきました。
「やい、明智、よもや俺の顔を見忘れやしめえ。おらあお礼を言いに来たんだ。さあ、その戸を開けてくれ。おらあうちの中へ入って、おめえにもお上さんにも、ゆっくりお礼が申してえんだッ。なんだと、おれに用はねえ?そっちで用がなくっても、こっちにゃ、ウントコサ用があるんだ。さあ、そこをどけ。おらあ、貴様のうちへ入るんだ。」
回复 支持 反对

使用道具 举报

 楼主| 发表于 2009-4-24 09:43:51 | 显示全部楼层
本帖最后由 uin61 于 2009-4-24 09:52 编辑

どうやら明智自身が、洋館のポーチへ出て、応対しているらしいのですが、明智の声は、聞こえません。ただ浮浪人の声だけが、門の外まで響き渡っています。
それを聞くと、往来に座っていた乞食が、ムクムクと起き上がり、ソッとあたりを見回してから、石門のところへ忍び寄って、電柱の影から中の様子を窺い始めました。
見ると、正面のポーチの上に明智小五郎が突っ立ち、そのポーチの石段へ片足かけた浮浪人が、明智の顔の前で握りこぶしを振り回しながら、しきりと喚きたてています。
明智は少しも取り乱さず、静かに浮浪人を見ていましたが、ますますつのる暴言に、もう我慢が出来なくなったのか、
「馬鹿ッ。用がないといったらないのだ。出て行きたまえ。」
と、怒鳴ったかと思うと、いきなり浮浪人を突き飛ばしました。
突き飛ばされた男は、ヨロヨロとよろめきましたが、グッと踏みこたえて、もう死にものぐるいで、
「ウヌ!」とうめきざま、明智めがけて組み付いていきます。
しかし、格闘となってはいくら浮浪人が乱暴でも、柔道三段の明智探偵にかなうはずはありません。忽ち、腕を捩じ上げられ、ヤッとばかりに、ポーチの下の敷石の上に、投げつけられてしまいました。男は、投げつけられたまま、暫く、痛さに身動きも出来ない様子でしたが、やがて、ようやく起き上がったときには、ポーチのドアは硬く閉ざされ、明智の姿は、もうそこには見えませんでした。
浮浪人はポーチへ上がっていって、ドアをガチャガチャ言わせていましたが、中から締りがしてあるらしく、押せども引けども、動くものではありません。
「ちくしょうめ、覚えていやがれ。」
男は、とうとう諦めたものか、口の中で呪いの言葉をブツブツ呟きながら、門の外へ出てきました。
最前からの様子を、すっかり見届けた乞食は、浮浪人をやり過ごしておいて、そのあとからそっとつけていきましたが、明智邸を少し離れたところで、いきなり、
「おい、おまえさん。」
と、男に呼びかけました。
「エッ。」
びっくりして振り向くと、そこに立っているのは、汚らしい乞食です。
「なんだい、おこもさんか。おらあ、施しをするような金持じゃあねえよ。」
浮浪人は言い捨てて、立ち去ろうとします。
「いや、そんなことじゃない。少し君に聞きたい事があるんだ。」
「何だって?」
乞食の口の聞き方が変なので、男は訝しげに、その顔を覗き込みました。
「俺はこう見えても、本物の乞食じゃないんだ。実は、君だから話すがね。俺は二十面相の手下のものなんだ。けさっから、明智の野郎の見張りをしていたんだよ。だが、君も明智には、よっぽど恨みがあるらしい様子だね。」
ああ、やっぱり、乞食は二十面相の部下の一人だったのです。
「恨みがあるどころか、おらあ、あいつのために刑務所へ打ち込まれたんだ。どうかして、この恨みを返してやりたいと思っているんだ。」
浮浪人は、またしても、握りこぶしを振り回して、憤慨するのでした。
「名前はなんていうんだ。」
「赤井寅三ってもんだ。」
「どこの身内だ。」
「親分なんてねえ。一本たちよ。」
「フン、そうか。」
乞食は暫く考えておりましたが、やがて、何を思ったか、こんなふうに切り出しました。
「二十面相という親分の名前を知っているか。」
「そりゃあ聞いているさ。すげえ腕まえだってね。」
「すごいどころか、まるで魔法使いだよ。今度なんか、博物館の国宝を、すっかり盗み出そうと言う勢いだからね・・・・・・。ところで、二十面相の親分に取っちゃ、この明智小五郎って野郎は、敵も同然なんだ。明智に恨みのある君とは、同じ立場なんだ。君、二十面相の親分の手下になる気はないか。そうすりゃあ、うんと恨みが返せようというもんだぜ。」
赤井寅三は、それを聞くと、乞食の顔を、まじまじと眺めていました、やがて、ハタと手を打って、
「よし、おらあそれに決めた。兄貴、その二十面相の親分に、一つ引き合わせてくんねえか。」
と、弟子入りを所望するのでした。
回复 支持 反对

使用道具 举报

 楼主| 发表于 2009-5-12 10:25:35 | 显示全部楼层
本帖最后由 uin61 于 2009-5-14 10:16 编辑

「うん、引き合わせるとも。明智にそんな恨みのある君なら、親分はきっと喜ぶぜ。だがな、その前に、親分へのみやげに、一つ手柄をたてちゃどうだ。それも、明智の野郎を引っさらう仕事なんだぜ。」
乞食姿の二十面相の部下は、あたりを見回しながら、声を低めて言うのでした。
                 名探偵の危急
「ええ、なんだって、あの野郎を引っさらうんだって、そいつあおもしれえ。願ってもないことだ。手伝わせてくんねえ。ぜひ手伝わせてくんねえ。で、それはいったい、何時の事なんだ。」
赤井寅三は、もう夢中になって訪ねるのです。
「今夜だよ。」
「え、え、今夜だって、そいつあすてきだ。だが、どうして引っさらおうと言うんだね。」
「それがね、やっぱり二十面相の親分だ、うまい手立てを工夫したんだよ。と言うのはね、子分の中に、素敵もねえ美しい女があるんだ。この女を、どっかの若い奥さんに仕立てて、明智の野郎の喜びそうな、込み入った事件を拵えて探偵を頼みに行かせんだ。
そして、すぐに家を調べてくれと言って、あいつを自動車に乗せて連れ出すんだ。その女と一緒にだよ。無論自動車の運転手も仲間の一人なんだ。
難しい事件の大好きなあいつのこった。それに、相手がかよわい女なんだから、油断をして、この計画には、引っかかるに決まっているよ。
で、俺たちの仕事はと言うと、ついこの先の青山墓地へ先回りをして、明智を載せた自動車がやってくるのを待っているんだよ。あすこを通らなければならないような道順にしてあるんだ。
俺たちの待っている前へ来ると、自動車がぴったり止まる。すると俺と君とが、両側からドアを開けて、車の中へ飛び込み、明智のやつを身動きのできないようにして、麻酔剤を嗅がせるという段取りなんだ。麻酔剤もちゃんとここに用意している。
それから、ピストルが二丁あるんだ。もう一人仲間が来ることになっているもんだから。
しかし、かまやしないよ。そいつは明智に恨みがあるわけでもなんでもないんだから、君に手柄をさせてやるよ。
さあ、これがピストルだ。」
乞食に化けた男は、そういって、敗れた着物の懐から、一丁のピストルを取り出し、赤井に渡しました。
「こんなもの、おらあ打ったことがねえよ。どうすりゃいいんだい。」
「なあに、弾丸は入ってやしない。引き金に指を当てて打つような格好をすりゃいいんだ。二十面相の親分はね、人殺しが大嫌いなんだ。このピストルはただ脅かしだよ。」
弾丸が入っていないと聞いて、赤井は不満らしい顔をしましたが、ともかくもポケットに収め、「じゃ、すぐに青山墓地へ出かけようじゃねえか。」
と、促すのでした。
「いや、まだ少し早すぎる。七時半という約束だよ。それより少し遅れるかもしれない。まだ二時間もある。どっかで飯を食って、ゆっくり出かけよう。」
乞食は言いながら、小わきに抱えていた、汚らしい風呂敷包みを解くと、中から一枚の釣鐘マントを出して、それを破れた着物の上から、羽織りました。
二人が、最寄の安食堂で食事を済ませ、青山墓地へたどり着いた時には、トップリ日が暮れて、疎らな街燈のほかは真の闇、お化けでも出そうな寂しさでした。
回复 支持 反对

使用道具 举报

 楼主| 发表于 2009-5-13 09:41:08 | 显示全部楼层
約束の場所と言うのは、墓地の中でももっとも寂しいわき道で、宵のうちでもめったに自動車の通らぬ、闇の中です。
二人はその闇の土手に腰を下ろして、じっと時の来るのを待っていました。
「遅いね。第一、こうしていると寒くってたまらねえ。」
「いや、もうじきだよ。さっき墓地の入り口のところの店屋の時計を見たら七時二十分だった。あれからもう十文以上、確かに経っているから、今にやってくるぜ。」
時々ポッリポッリと話し合いながら、また十分ほど待つうちに、とうとう向こうから自動車のヘッド・ライトが見え始めました。
「おい、来たよ。来たよ、あれがそうに違いない。しっかりやるんだぜ。」
案の定、その車は二人の待っている前まで来ると、ギギ-とブレーキの音をたてて止まったのです。
「それッ。」
というと、二人は、やにわに、闇の中から飛び出しました。
「君は、あっちへ回れ。」
「よしきた。」
二つの黒い影は、忽ち客席の両側のドアへ駆け寄りました。そして、いきなりガチャンとドアを開くと客席の人物へ、両方からニューッと、ピストルの筒口を突きつけました。
と同時に、客席にいた洋装の婦人も、いつの間にかピストルを構えています。それから、運転手までが、後ろ向きになって、その手にはこれもピストルが光っているではありませんか。つまり四丁のピストルが、筒先をそろえて、客席にいる、たった一人の人物に、狙いを定めたのです。
その狙われた人物と言うのは、ああ、やっぱり明智探偵でした。探偵は、二十面相の予想に違わず、まんまと計略にかかってしまったのでしょうか。
「身動きすると、ぶっ放すぞ。」
誰かが恐ろしい剣幕で、怒鳴りつけました。
しかし、明智は、観念したものか、静かに、クッションにも垂れたまま、逆らう様子はありません。あまりおとなしくしているので、賊の方が不気味に思うほどです。
「やっつけろ!」
低いけれど力強い声が響いたかと思うと、乞食に化けた男と、赤井寅三の両人が、恐ろしい勢いで、車の中に踏み込んできました。そして、赤井が明智の上半身を抱きしめるようにして抑えていると、もう一人は、懐から取り出した、一塊の白布のようなものを、手早く探偵の口に押し付けて、暫くの間力を緩めませんでした。
それから、やや五分もして、男が手を離したときには、さすがの名探偵も、薬物の力にはかないません。まるで死人のように、グッタリち気を失ってしまいました。
「ホホホ、もろいもんだわね。」
同乗していた洋装婦人が、美しい声で笑いました。
「おい、縄だ。早く縄を出してくれ。」
乞食に化けた男は、運転手から、一束の縄を受け取ると、赤井に手伝わせて、明智探偵の手足を、たとえ蘇生しても、身動きも出来ないように、縛り上げてしまいました。
「さあ、よしと。こうなっちゃ、名探偵もたわいがないね。これでやっと俺たちも、なんの気がねもなく仕事ができると言うもんだ。おい、親分が待っているだろう。急ごうぜ。」
ぐるぐる巻きの明智の体を、自動車の床に転がして、乞食と赤井とが、客席に収まると、車はいきなり走り出しました。行く先はいわずと知れた二十面相の巣窟です。
回复 支持 反对

使用道具 举报

 楼主| 发表于 2009-5-14 10:15:41 | 显示全部楼层
本帖最后由 uin61 于 2009-5-14 10:16 编辑

                   怪盗の巣窟
賊の手下の美しい婦人と、乞食と、赤井寅三と、気を失った明智小五郎とを乗せた自動車は、寂しい町寂しい町とえらびながら、走りに走って、やがて、代々木の明治神宮を通り過ぎ、暗い雑木林の中にポッンと建っている、一軒の住宅の門前に止まりました。
それは七間か八間ぐらいの中流住宅で、門の柱には北川十郎という表札がかかっています。もう家中が寝てしまったのか、窓から明かりもささず、さも慎ましやかな家庭らしく見えるのです。
運転手(むろんこれも賊の部下なのです)が真っ先に車を降りて、門の呼び鈴を押しますと、程もなくカタンという音がして、門の扉に作ってある小さな覗き窓が開き、そこに二つの大きな目玉が現れました。門燈の明かりで、それが、物凄く光って見ます。
「ああ、きみか、どうだ、しゅびよくいったか。」
目玉の主が、ささやくような小声で訪ねました。
「ウン、うまくいった。早く開けてくれ。」
運転手が答えますと、はじめて門の扉がギイーと開きました。
見ると、門の内側には、黒い洋服を着た賊の部下が、油断なく身構えをして、立ちはだかっているのです。
乞食と赤井寅三とが、グッタリとなった明智探偵の体を抱え、美しい婦人がそれを助けるようにして、門内に消えると、扉はまた元のようにピッタリと閉められました。
一人残った運転手は、からになった自動車に飛び乗りました。そして、車は、矢のように走り出し、忽ち見えなくなってしまいました。どこか別のところに、賊の車庫があるのでしょう。
門内では、明智を抱えた三人の部下が、玄関のこうし戸の前に立ちますと、いきなり軒の電燈が、パッと点火されました。目も眩むような明るい電燈です。
この家へはじめての赤井寅三は、あまりの明るさに、ギョッとしましたが、彼をびっくりさせたのは、そればかりではありませんでした。
電燈がついたかと思うと、こんどは、どこからともなく、大きな人の声が聞こえてきました。誰もいないのに、声だけがお化けみたいに、空中から響いてきたのです。
「一人人数が増えたようなだな。そいつはいったい、誰だ。」
どうも人間の声とは思われないような、へんてこな響きです。
新米の赤井は薄気味悪そうに、キョロキョロあたりを見回しています。
すると、乞食に化けた部下が、ツカツカと玄関の柱の側へ近づいて、その柱のある部分に口をつけるようにして、
「新しい見方です。明智に深い恨みを持っている男です。十分信用していいのです。」
と、独り言をしゃべりました。まるで電話でも掛けているようです。
「そうか、それなら、入ってもよろしい。」
また変な声が響くと、まるで自動装置のように、こうし戸が音もなく開きました。
「ハハハ・・・・・・、驚いたかい。今のは奥にいる首領と話をしたんだよ。一目につかないように、この柱の影に拡声器とマイクロホンが取り付けてあるんだ。首領は用心深い人だからね。」
乞食に化けた部下が教えてくれました。
「だけど、おれがここにいるってことが、どうして知れたんだろう。」
赤井は、まだ不審が晴れません。
「ウン、それも今に分かるよ。」
回复 支持 反对

使用道具 举报

发表于 2009-5-14 10:35:43 | 显示全部楼层
おはよう~最近、更新は早かったの。
回复 支持 反对

使用道具 举报

发表于 2009-5-17 23:25:48 | 显示全部楼层
很不错,顶一个
回复 支持 反对

使用道具 举报

您需要登录后才可以回帖 登录 | 注~册

本版积分规则

小黑屋|手机版|咖啡日语

GMT+8, 2024-5-2 18:21

Powered by Discuz! X3.4

© 2001-2017 Comsenz Inc.

快速回复 返回顶部 返回列表