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物価上昇拡大 「しょうがない」では済まない
消費者物価上昇が拡大してきた。今年3月は生鮮食品を除いた全国の総合指数で前年同月比1・2%の上昇となった。消費税率引き上げで上昇幅が高まった時期を除けば、14年7カ月ぶりの上げ幅だ。
ガソリン税の暫定税率廃止が反映している4月の東京都区部の物価は生鮮食品を除いた総合指数で同0・7%上昇である。前月より0・1ポイント高い。穀物市況高騰に伴うパンやめん類などの価格引き上げなど生活関連物価の上昇のためである。
原油などの資源にせよ、穀物にせよ、このところの市況は投機的色彩が濃い。ただ、途上国の経済発展を考えれば、中長期的には上昇傾向が続くと見ざるを得ない。
これまでの政府のデフレ脱出戦略は経済活動の活性化が、賃金上昇などを通じて消費拡大をもたらし、需要サイドから物価が正常化していくというものだった。ただ、原油価格の急騰がきっかけであっても、日本はもはやデフレ経済ではない。国際的にも新価格体系に移行中であることも間違いない。
当然、経済政策はこうしたことを前提に進められなければならない。
ガソリンへの暫定税率が復活する見通しであることなどを考慮すれば、1~2%程度の消費者物価上昇は当面続くとみられる。ただ、商品市況が過熱するなどの事態になれば、上昇が加速することもあり得る。欧州中央銀行がこのところ物価重視の姿勢を強めているのも、そうした危険性をにらんでのことだ。米金融当局も景気一本やりではない。国際的にもインフレを事前に抑え込むことが重要課題になっているのだ。
福田康夫首相は最近の物価上昇を「しょうがない」と表現したが、その認識は誤っている。1~2%の消費者物価上昇ならば、日本銀行にとっても、インフレ目標設定論者にとっても、望ましい水準だ。ただ、その場合でも、中身をよく見なければならない。
デフレ下で明らかになったことは、技術進歩の速い情報技術(IT)関連商品・サービスの物価下落と、教育費などの上昇である。食料や衣料品の物価水準は大きく変わっていない。パソコンや薄型テレビ、携帯電話料金などの大幅値下がりによるデフレだ。
生活実感では、物価はそれほど下がっていなかったということだろう。このところの、1%に満たなかった上昇でも、家計への影響は大きかった。物価が上昇しても、賃金がそれ相応に上がれば、家計が苦しくなることはないが、今年の春闘での賃上げは昨年を下回った。
それだけに、物価安定は一層、重要になっている。景気が微妙な局面に入りつつあることは事実だが、政府も日本銀行も従来以上に、物価に軸足を置いた政策運営を心掛けるべきだ。
毎日新聞 2008年4月30日 東京朝刊 |