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2010年10月8日(金)付
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ノーベル化学賞を受ける鈴木章さん(80)、根岸英一さん(75)の功績は、つまりは研究室と工場をつないだことである。研究の成果は今、医薬や農薬、液晶などの生産に生かされているという▼有機化合物を効率よく結合させる手法が、人の健康を支え、衣食住を変える。お陰で命拾いした人もいれば、生きているのがますます楽しくなった人もいよう。学問と生活の両方に貢献できる科学者は幸せだ▼この分野は日本のお家芸で、研究者も実績も豊かと聞いた。産業への橋渡しをした鈴木さんは「見つかる時は割と簡単、ラッキー」といい、夫人も「当たっちゃったわねえ」と同じ感慨を口にした。だが「幸運な発見」に出会うには、豊かな発想と、それを見逃さない注意深さが要る▼「我々の反応」という言葉に愛着がにじむが、「国のお金で研究したのだから」と特許は取らずじまい。開かれた成果は各国で実用化され、果実の一つ、血圧を下げる薬を鈴木さんも服用中というオチがつく▼敗戦国を勇気づけた湯川秀樹博士の受賞から61年。日本から出た自然科学系のノーベル賞は15人になった。ここ10年は年1人のハイペースだが、数十年前の業績が目立つ。夜空に輝く星々がはるか昔の姿であるように、産業立国の過去の栄光を見るようでもある▼鈴木さんは「理科離れを止めたい」という。在米の根岸さんは、留学生が減っている現実を「日本は居心地がいいから」と残念がる。快挙を見た若者が一念発起し、次々に理系で海外に雄飛する「鈴木・根岸反応」に期待したい。 |
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