偶然に歌集一冊が手に入れた。俵万智の「サラダ記念日」だった。読み終わると、「ああ、そういうものがあるか」というふうに飛ばしたいほど喜んだ。あふれるように、という表現ではまだるっこしい、噴き出すように短歌ができるようであった。自分の内部に眠っていた自らの音楽が、彼女の短歌に出会うことで目覚め、始動し、鳴動し始めたのであった。
@俵万智 一九六二(昭和三七)年― 大阪府門真市生まれ。歌人。早稲田大学在学中に、歌人佐佐木幸綱の影響を受け、短歌を始める。一九八七年に第一歌集『サラダ記念日』を出版しベストセラーとなる。同歌集は、第三二回現代歌人協会賞を受賞。
『サラダ記念日』の跋で佐佐木幸綱は、俵万智が歌を始めた頃のことを次のように記している。
作品抜粋:
まだあるか 信じたいもの ほしいもの 砂地に並んで寝そべっている
真っ青な太陽昇れ 秋という季節に 君を失う予感
「寒いね」と話しかければ 「寒いね」と答える人のいる 暖かさ
「俺は別にいいよ」って 何がいいんたかわからないまま うなずいている
どうしても歩幅の合わぬ 石役を登りつづけている 夢の中
「この味がいいね」と 君が言ったから 七月六日はサラダ記念日
---「サラダ記念日」より |