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水曜の午後ピクニック(6)
我々は林を抜けてICUのキャンパスまで歩き、いつものようにラウンジに座ってホットドッグをかじった。午後の二時で、ラウンジのテレビには三島由紀夫の姿が何度も何度も繰り返し映し出されていた。ヴォリュームが故障していたせいで、音声は殆んど聞き取れなかったが、どちらにしてもそれは我々にとってはどうでもいいことだった。我々はホットドッグを食べてしまうと、もういっぱいずつコーヒーを飲んだ。一人の学生が椅子に乗ってヴォリュームのつまみをしばらくいじっていたが、あきらめて椅子から下りるとどこかに消えた。
我们从那树林里走出来,来到学校的草坪,和往常一样坐到休息室,吃着热狗。在下午二点,在休息室的电视里不停地反复地放映着三岛由纪夫的身影。音量控制按钮的原因吧,听不到电视的声音。可是那反正和我们也无关。我们吃完热狗后,又各自喝了满满一杯的咖啡。有一位学生站在椅子上,拨弄了音量的按钮,作罢之后从椅子上溜下来消失到什么地方去。
「君が欲しいな」と僕は言った。
“你想做吗?”我问她。
「いいわよ」と彼女は言って微笑んだ。
“很想呀。”她回答着微笑一下。
我々はコートのポケットに手をつっこんだままアパートまでゆっくりと歩いた。
我们把手插到大衣的口袋中慢慢地走到公寓中。
僕がふと目覚めた時、彼女は声を出さずに泣いていた。毛布の下で細い肩が小刻みに震えていた。僕はストーブの火を点け、時計を見た。午前二時だった。空のまんなかにまっ白な月が浮かんでいた。
我突然醒来的时候,她正在那里哭着却并没有发生声。被子下面她瘦弱的肩在轻轻地震动着。我点着取暖炉子,看了看钟表。已是凌晨二点。在天空的中央浮动着清白的月亮。
彼女が泣きやむのを待ってから湯を沸かしてティーバッグで紅茶を淹れ、二人でそれを飲んだ。砂糖もレモンもミルクもない、ただの熱い紅茶だ。それから二本ぶんの煙草に火を点けて、一本を彼女にわたした。彼女は煙を吸いこんで吐きだし、それを三回つづけてからひとしきり咳き込んだ。
等到她停止哭泣之后,烧开水泡上了袋装红茶,两人在喝着。没有砂糖、柠檬和牛奶,也只是热红茶。然后点了两支香烟,把一支递给她。她把烟吸进去又喷吐出来,这样连续三次。过了一会儿她又咳嗽起来。
「ねえ、私を殺したいと思ったことある?」と彼女が訊ねた。
“那个,你曾经想过要杀我吗?”她问。
「君を?」
“杀你?”
「うん」
“对。”
「どうしてそんなことを訊くんだ?」
“你怎么会问这个问题?
彼女は煙草を口にくわえたまま指の先で瞼をこすった。
她嘴里叼着烟,用手指尖擦了一下眼帘。
「ただなんとなくよ」
“这个也无所谓。”
「ないよ」と僕は言った。
“真的没有。”我回答说。
「本当に?」
“真的吗?”
「何故僕が君を殺さなくちゃいけないんだ?」
“是什么原因我一定要把你杀了?”
「そうね」と彼女は面倒臭そうに肯いた。「ただ、誰かに殺されちゅうのも悪くないなってふと思っただけ。ぐっすり眠っているうちにさ。」
“是这样。”她很有一种无奈地点头。“我只是想,被谁杀了也无所谓。就在这酣睡之中。”
「そう?」
“怎么会这样想?”
「たぶんね」
“就是这样。”
彼女は笑って煙草を灰皿につっこみ、残っていた紅茶を一口のみ、それから新しい煙草に火を点けた。
「二十五まで生きるの」と彼女は言った。「そして死ぬの」
“我要活到25岁。”她说。“到那个时候就死。”
一九七八年七月彼女は二十六で死んだ。
在1978年7月她26岁的时候死了。
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