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1 鯨(くじら)のペニス、三つの職業を持つ女(4)
僕が彼女に(あるいは彼女の耳に)めぐり会ったのは、妻と別れた直後――八月のはじめだった。僕はコンピューターのソフトウェア会社の広告コピー下請け仕事をしていて、そこではじめて彼女の耳と対面することになった。
我和她(或者说耳朵)相会,是和妻子分别后紧接着的八月初。我在承做某计算机软件公司的广告时,在那里才正式面对她的耳朵。
広告代理のディレクターが机の上に企画書(きかくしょ)と何枚かの大伴のモノクロ写真を置いて、一週間のうちにこの写真につけるヘッド?コピーを三種類用意してくれ、と言った。三枚の写真はどれも巨大な耳の写真だった。
广告代理的领导说,在桌子上放有计划书和几张特大的黑白特写照片,在一个星期内对这些照片准备好三种版本的广告。这三张照片都是非常巨大的耳朵的照片。
耳?
耳朵?
「どうして耳なんですか?」と僕は訊ねてみた。
“怎么全是耳朵呢?”我尝试问一下。
「知るもんか。ともかく耳なんだよ。君は一週間耳について考えてりゃいいんだよ」
“还不知道吗?这全都是耳朵。在这一个星期你专门来研究耳朵如何?”
そんなわけで僕は一週間、耳の写真だけを眺めて暮らした。机の前の壁にセロハンテープでその三枚の巨大な耳の写真を貼り付け、煙草を吸ったりコーヒーを飲んだりサンドウィッチを食べたり爪を切ったりしながら、その写真を眺めた。
为此,在这一个星期,我是专门看着耳朵度过的。用透明胶带把三张巨大的耳朵照片贴在办公桌前面的墙壁上,一边吸着烟、喝着咖啡、吃着零食、剪着指甲,一边看着那照片。
一週間でなんか仕事は片付いたが、その後でも耳の写真を壁に貼りつけられたままになっていた。はがすのが面倒だったせいもあるし、耳の写真を眺めることが僕の日常的習慣になってしまったせいもある。しかしボクがその写真をはがして引き出しの奥に放り込んでしまわなかった本当の理由は、その耳があらゆる面で僕を魅了したからだった。それはまったく夢のような形をした耳だった。百パーセントの耳といっていいだろう。拡大された人体の一部(もちろん**も含めて)にこれほど強い力でひきつけられたのははじめての体験だった。それは僕に何かしら運命的な巨大な渦のようなものを思わせた。
在一个星期里总算把工作给交了。而那些耳朵照片还依旧贴在墙壁上。把照片揭下来费劲,还有盯着那耳朵照片已经变成日常的习惯了。但没有把它揭下来放入到抽屉里真正的理由是,那耳朵的各个部位都让我入了迷。它完全就像梦中耳朵的形状那样。可以说那真是100%的耳朵。被放大的人体的一部分(当然也包括**官)用这么强大的吸引力所吸引那可是真正第一次体验。它使我陷入了什么命运巨大的旋涡。
あるカーブはあらゆる想像をこえた大胆さで画面を一気に横切り、あるカーブは秘密めいた細心さで一群の小さな翳を作りだし、あるカーブは古代の壁画のように無数の伝説を描き上げていた。耳たぶの滑らかさは全くの曲線を超え、そのふっくらとした肉のあつみは全くの生命を凌駕していた。
一个曲线用超越所有想像的胆量一下子橫贯画面,一个曲线用包含秘密的细心制造出微小的折皱,一个曲线就像古代的壁画那样描写出无数的传说。而耳垂的圆滑则超越所有的曲线,其丰满的肉的厚度凌驾于所有生命之上。
僕は何日か後でその写真を撮ったカメラマンに電話をかけて耳の持ち主の名前と電話番号を教えてもらうことにした。
在几天之后我和拍摄耳朵照片的摄影师打了电话,找到了拥有这对耳朵人的名字和电话号码。
「まだどうして?」とカメラマンは訊ねた。
“你这是怎么回事?”摄影者问。
「興味があるんだよ。とても素敵な耳だからさ」
“我很感兴趣。特别美丽的耳朵。”
「そりゃまあ、たしかに耳はね」とカメラマンはもごもごと言った。「でも人物の方はあまりぱっとしない女の子だよ。若い子とデートしたいんなら、このあいだ撮った水着のモデルを紹介してやるよ」
“真的吗?那耳朵真不错。”摄影师嘟哝地说。“不过,她人可不怎么起眼。若是想和年轻女孩约会的话,倒可以给你介绍最近拍摄的穿泳衣的模特。”
「どうもありがとう」と言って僕は電話を切った。
“谢谢。不用了。”说后我掛断电话。
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