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7 限定された執拗な考え方について(4)
「ねえ、いいか。仕事を広げろって言ってるわけじゃないんだぜ。縮小しろっていってるんだ。昔やってた産業革命以前の翻訳手仕事だよ。君が一人と女の子が一人、外注(がいちゅう)で下訳のアルバイトを五、六人とプロを二人。できないわけがないだろう」
「君は俺のことをよくわかっていないんだよ」
十円玉がかたんと言う音を立てて落ちた。僕はあと三枚の硬貨(こうか)を入れた。
「俺は君とは違うんだ」と彼は言った。「君は一人でやっていける。でも俺はそうじゃないんだよ。誰かにぐちを言ったり、相談したりしていないと前に進めないんだ」
僕は受話器を押えてため息をついた。堂々めぐりだ。黒山羊が白山羊の手紙を食べて、白山羊が黒山羊の手紙を食べて……
「もしもし」と彼は言った。
「聞いてるよ」と僕は言った。
電話の向こうで二人の子供がテレビのチャンネルをめぐって言い争っている声が聞こえた。
「子供のことを考えろよ」と僕は言ってみた。フェアな展開ではないが、それ以外に手はなかった。「弱音を吐いてなんていられないだろう。君が駄目だと思ったら、それでもうみんなおしまいなんだぜ。世界に対して文句があるんなら子供なんて作るな。きちんと仕事をして、酒なんか飲むな」
彼は長いあいだ黙っていた。ウェイトレスが灰皿を持ってきてくれた。僕は手まねでビールを注文した。
「たしかに君の言うとおりだよ」と彼は言った。「なんとかやってみるよ。うまくいくかどうかは自信がないけれどね」
「うまくいくさ。六年前だって、金もないネコもなしで、あれだけやれたんじゃにあか」
僕はグラスにビールをついで一口飲んでからそう言った。
「君は俺が君と一緒にいることでどれくらい安心していたかを知らないんだ」と相棒は言った。
「そのうちにまた電話するよ」
「うん」
「長いあいだどうもありがとう。楽しかったよ」と僕は言った。
「もし用事が終って東京に帰ってきたら、また一緒に組んで仕事をしよう」
「そうだな」
そして僕は電話を切った。
しかし僕が二度と仕事に戻らないだろうということは僕にも彼にもわかっていた。六年も一緒に働いていればそれくらいのことはわかるようになる。
僕はビールの瓶とグラスを持ってテーブルに戻り、つづきを飲んだ。
職を失ってしまうと気持はすっきりした。僕は少しずつシンプルになりつつある。僕は街を失くし、十代を失くし、友だちを失くし、妻を失くし、あと三ヵ月ばかりで二十代を失くしそうとしていた。六十になった時僕はいったいどうなっているんだろう、としばらく考えてみた。考えるだけ無駄だった。一ヵ月先のことさえわからないのだ。
僕は家に帰って歯を磨いてパジャマに着替え、ベッドに入って「シャーロック?ホームズの事件薄」のつづきを読んだ。そして十一時に電気を消してぐっすりと眠った。朝まで一度も起きなかった。
“不,可以的。并没有说让你扩大工作事项,而是说要缩小。就是过去所做的产业革命以前的翻译工作。你一人和女孩一人,加上外联初稿翻译打工五六人和专业两人,就足够了。”
“你并不完全理解我。”
十元的硬币叮啷一声掉了下去。我又往里投了三枚硬币。
“我和你不一样。”他说。“你一个人做是可行的。可是我做不到。若不跟谁发牢骚,不相互交谈的话就不能前进。”
我捂着话筒喘了一口气。围绕这一点反复说。黑山羊吃着白山羊的信,白山羊吃着黑山羊的信……
“喂,喂。”他说。
“我听着。”我说。
电话的另一端,听到两孩子为换电视频道的争吵声。
“考虑一下孩子的事情吧。”我说了一声。也不能再展开,除此之外也没什么可说的了。“也不用说没用的话了。如果你想不可行的话,那么大家也就完蛋了。对世界有什么意见的话那别生什么孩子。好好地工作,酒就不要喝了。”
他沉默了好长时间。女服务员给我拿来了烟灰缸。我打手势点了啤酒。
“你说的很有道理。”他说。“那就试着做点什么,但能否做好的确没有信心。”
“肯定能行。在六年前,没有钱也没有门路,在这种状态下不是也做成了吗?”
我向杯子里倒了啤酒,喝了一口之后这样说。
“你不知道吗?我和你在一起做事有多么放心吗?”同事说。
“其它的事再打电话吧。”
“好吧。”
“这么长时间的合作,非常感谢!也很快乐。”我说。
“假如事情做完了再回到东京的话,我们还是一起组合工作吧。”
“就按你说的。”
然后我掛断了电话。
但是我第二次重新工作是不可能的了。别管是我还是他都很明白。已经在一起工作六年了,相互之间都应明白这件事。
我拿着啤酒瓶和玻璃杯回到了桌子上,继续喝着。
把工作辞去之后精神很轻松。我稍微有点单纯了一点。我失去了故乡,失去了十年,失去了朋友,失去了妻子,再过三个月将要进入三十岁。到了六十岁的时候能变成什么样呢?就这样想了一会。只是想是没有用的。连一个月之后的事都还不明白呢。
回到家里刷了牙,穿着睡衣就躺到了床上,读了《柯南 道尔事件》续集。到了十一点关掉电源酣睡起来。直到早上一次也没有起床。 |
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