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2 羊博士登場 (7)
「建物は北海道綿羊協会の持ちものでありまして、これは昭和四十二年まで続いたのですが、まあ道内の綿羊事業不振という状況もあり、閉館ということになったんです」と男は言ってワインを一口飲んだ。「その時に館長を勤めておりましたのが実は私の父親でして、父親は自分は愛着(あいちゃく)を持つ綿羊会館をこのまま閉館させるには忍びないと申しまして、綿羊に関する資料を保存(ほぞん)するという条件で、この建物と土地を比較的安い値段で協会から払い下げてもらったわけです。だから今でもこの建物の二階は全部綿羊資料室になっております。もっとも資料とはいっても古いものですから何の役に立つというものでもなし、まあ老人の趣味のようなものでして、残りの部分を私がホテルに運用しておるという次第(じだい)です」
「偶然だな」と僕は言った。
「偶然と申しますと?」
「実は僕の探している人物は羊に関係してるんですよ。手がかりと言えば彼は送ってきた一枚の羊の写真だけでね」
「ほう」と彼は言った。「よろしければ拝見したいですな」
僕はポケットから手帳にはさんだ羊の写真を出して男にわたした。男はカウンターから眼鏡を持ってきて、じっと写真を眺めた。
「これは覚えがありますね」と彼は言った。
「覚えがある?」
「たしかにあります」男はそう言って電灯の下にかけっぽなしになっていた梯子をはずして反対側の壁にたてかけ、天井近くにかかっていた額を手に取り、梯子を下りた。そして額につもったほこりを雑巾で拭(ふ)きとってから、我々にそれをわたしてくれた。
「これと同じ景色じゃありませんか?」
額自体も十分古びていたが、中の写真はもっと古びて茶色く変色していた。その写真にもやはり羊が写っていた。全部で六十頭くらいはいるだろう。柵(さく)があり、白樺林があり、山があった。白樺林の形は鼠の写真とはまるっきり違っていたが、背景の山はたしかに同じ山だった。写真の構図までがそっくり同じだった。
「やれやれ」と僕は彼女に言った「我々は毎日この写真の下を通りすぎていたんだよ」
「だからいるかホテルにするべきだって言ったじゃない」と彼女はこともなげに言った。
「さて、それで」と僕は一息ついてから男に尋ねた。「この風景の場所はどこですか?」
「知りません」と男は言った。「この写真は綿羊会館時代からずっと同じ場所にかかっていたんです」
「ふうん」と僕は言った。
「しかし知るてだてはあります」
「どんな?」
「私の父親に訊いてみて下さい。父親は二階に部屋を持っていて。そこで寝起きしてるんです。殆んど二階にこもって、ずっと羊の資料を読んでるんです。私はもう半月近く顔を会わしていませんが、食事をドアの前に置いておくと三十分後には空になっているので、生きてることはたしかみたいです」
「お父さんに聞けばこの写真の場所がわかるんですか?」
「たぶんわかると思います。前にも申しましたように父親は綿羊会館の館長を勤めて降りましたし、なにしろ羊に関することならなんでも知ってるんです。世間では羊博士と呼ばれているくらいですから」
「羊博士」と僕は言った。
“这建筑原属北海道绵羊協會,一直持续到昭和42年。因为道内绵羊事业不振,就要关闭这个会馆。”男的一边说着喝了一口葡萄酒。“那个时候担任馆长的实际上是我的父亲。父亲述说他不能忍受把自己所喜欢的绵羊会馆就这样关掉,把保存有关绵羊资料当做条件,较便宜地把这个建筑和土地从協会买了过来。所以到现在楼的二层全部当成了绵羊的资料室。虽说那是资料但那是很陈旧资料,也没有起到什么作用,那也只是老人有兴趣的东西,我把所剩的部分房间用于宾馆。”
“太偶然了。”我说。
“你说偶然什么的?”
“实际上我要寻找的人物是和羊有关的。要说线索什么的就是他送来的一张羊的照片。”
“原来如此。”他说。“若可以的话我想看一看。”
我从口袋里取出用笔记本夹着的羊的照片并交给他。他从服务台上把眼镜拿过来,死盯着照片。
“对这个我有记忆。”他说。
“真记得?”
“的确还记得。”他一边说着把打开着放在电灯下面的梯子移开,靠到对面的墙上,取下靠近天花板的一幅镜框画,从梯子上下来。然后用擦布把堆积到镜框画的尘土擦下来之后交给我们。
“和这个景色不一样吗?”
镜框自己本身也十分古老,其中的照片变得更陈旧的茶色。照片中所记载的也是羊,全部约有60头。有护栏,有白桦林,也有山。白桦林的形状和老鼠照片中的内容完全不一样。而背景的山却完全一样。包括照片的构思完全一样。
“哎呀呀。”我对她说。“我们每天都从这张照片的下面走过去。”
“但是,我不是说过必须在这个海豚宾馆办事吗?”她满不在乎地说。
“那么,这个,”稍待一会儿之后我问那位男的。“这个风景的地点在什么地方?”
“不知道。”男的说。“这幅真片从绵羊会馆那个时候开始就一直掛在同一个地方。”
“是这样。”我说。
“但是想知道的方法还是有的。”
“你说什么?”
“请你问问我的父亲。父亲有二楼的房间,在那里生活。几乎在二楼闭门不出,一直在读羊的资料。我已经近半个月没有会面了。把吃饭的家伙放到其门前,30分钟后就吃完。看来其生存的确是存在的。”
“若问你父亲的话就能知道拍这张照的地方?”
“应该能知道。就像刚才所说的那样父亲担任绵羊大会馆的馆长,有关羊的事情什么的没有不知道的。在这个范围内被称为羊博士。”
“叫羊博士?”我说。
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