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7 羊男来る(3)
「あんたが女を混乱させたんだよ」と羊男は今度は静かに言った。「とてもいけないことだ。あんたには何もわかってないんだ。あんたは自分のことしか考えてないよ」
「彼女はここに来るべきじゃなかったってことだね?」
「そうだよ。あの女はここに来るべきじゃなかったんだ。あんたは自分のことしか考えてないんだよ」
僕はソファーに沈みこんだままウィスキーをなめた。
「でもま、それはいいさ。なんにしても終っちまったんだものな」と羊男は言った。
「終った?」
「あんたはあの女にはもう二度と会えないよ」
「僕が自分のことしか考えなかったから?」
「そうだよ。あんたが自分のことしか考えなかったからだよ。その報いだよ」
羊男は立ちあがって窓際に行き、片手で重い窓をぐいと押しあげて外の空気を吸った。たいした力だった。
「そんな晴れた日は窓を開けとかなくちゃ」と羊男は言った。それから羊男は部屋をぐるりと半周して書棚の前に立ち、腕組みしたまま本の背表紙を眺めた。衣裳の尻の部分には小さな尻尾(しっぽ)まではえていた。後から見ると本物の羊が二本足で立ちあがっているとしか見えなかった。
「友だちを探してるんだ」と僕は言った。
「へえ」と羊男は背中を向けたまま興味なさそうに言った。
「ここにしばらく住んでいたはずなんだよ。つい一週間前までさ」
「知らないねえ」
羊男は暖炉の前に立って棚の上のトランプをぱらぱらとめくった。
「背中に星の印がついた羊のことも探してるんだ」と僕は言った。
「見たこともないよ」と羊男は言った。
しかし羊男が鼠と羊について何かを知っていることは明らかだった。彼は無関心さを意識しすぎていた。答え方のタイミングが早すぎたし、口調も不自然だった。
僕は作戦を変え、いかにも相手にもう興味をなくしたという風をよそおってあくびをし、机の上の本を取ってページを繰(く)った。羊男は少しそわそわした感じでソファーに戻った。そして僕が本を読んでいるのをしばらく黙って眺めていた。
「本を読むのって面白いかね?」と羊男は訊ねた。
「うん」と僕は簡単に答えた。
羊男はそれからもまだぐずぐずしていた。僕はかまわずに本を読みつづけた。
「さっきは大声出して悪かったよ」と羊男は小さな声で言った。「ときどきね、その、羊的なものと人間なものとがぶつかってああなっちゃうんだよ。べつに悪気があったわけじゃないんだ。それにあんただっておいらを責めるようなことを言うから」
“是你把那女的头脑搞混乱了。”羊男这次说话平和了些。“这是绝对不允许的。你真是什么都不懂。你只是考虑自己的事情。”
“那么,她不能来到这里吗?”
“是的。她绝对不能来到这里。你只会考虑自己的事情。
我深深地陷入沙发里,喝了点威士忌。
“那么,就那样了。无论如何只能这样结束了。”羊男说。
“就这样结束了?”
“你不能再和那位女的见面了。”
“因为我也只考虑自己的事情了?”
“是的。因为你只考虑自己的事情。这是对你的报复。”
羊男站起来走到窗边,用一只手砰地一声推开那沉重的窗户,呼吸外面的空气。他的力量也太大了。
“在这么晴朗的日子要打开窗户呀。”羊男说。然后羊男在房间转了半圈站到书架前,抱着手看那书的封皮。在衣服的后尾部露出一个小的尾巴。从后面看他是像是一只真羊用两条腿站立着。
“我正在找朋友。”我说。
“是吗?”羊男背对着不动有兴趣的样子说。
“他在这里应该住了一段时间。大约不到一周前。”
“这个不清楚呀。”
羊男站在暖炉前哗啦哗啦翻着架子上的扑克牌。
“也在寻找后背有星印的羊。”我说。
“这个也没有见过。”羊男说。
但是羊男已经完全表现出了他知道有关老鼠和羊之事。他把无关心的意识表现地太过分了。回答得也过快了,而且语气也很不自然。
我改变了作战方式,装成对他也完全不感兴趣地的样子,打起哈欠,拿起放在桌子的书翻弄起来。羊男稍微慌张起来回到沙发上。然后不出声地看了一会儿正在读书的我。
“对读书很有趣?”羊男问。
“是的。”我简单地回答说。
羊男然后还在叨叨。我毫无关系似的继续地看书。
“刚才那么大的声,不好吧。”羊男小声说。“偶尔呢,也碰到过羊的和人的事。也没有别的恶意。为此你也说了像是责怪我的事。” |
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