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「薄いのよ」と彼女は小さな声で言う。彼女が僕の発言を無視したのか、あるいは全然耳に入らなかったのかは、僕にはわからない。でも彼女の声の小ささが僕を緊張させる。どうしてかはわからないけれど、そこには僕を緊張させる何かがふくまれている。「ときどきすうっと薄くなるのよ。そして私とはぜんぜん違う空気をあなたが吸っているんだと思うの。そう認識するの」
「データが不足しているんだ」と僕は言う。
「私があなたについて何も知らないということかしら、それ?」
「僕自身も自分についてよくわかってないんだ」と僕は言う。「本当にそうなんだよ。別に哲学的な意味で言ってるんじゃない。もっと実際的な意味で言ってるんだ。全体的にデータが不足している」
「でもあなたもう三十三でしょう?」と彼女は言う。彼女は二十六だ。
「三十四」と僕は訂正する。「三十四歳と二カ月」
彼女は首を振る。そしてベッドを出て、窓のところに行き、カーテンを開ける。窓の外には高速道路が見える。道路の上には骨のように白い午前六時の月が浮かんでいる。彼女は僕のパジャマを着ている。
「月に戻りなさい、君」と彼女はその月を指し示して言う。
「寒いだろう?」と僕は言う。
「寒いって、月のこと?」
「違うよ。今の君のことだよ」と僕は言う。
今は二月なのだ。彼女は窓際に立って白い息を吐いている。僕がそう言うと、彼女はやっと寒さに気づいたようだった。
彼女は急いでベッドに戻る。僕は彼女を抱き締める。そのパジャマはすごくひやりとしている。彼女は鼻先を僕の首に押し付ける。その鼻先もとても冷たい。「あなたのこと好きよ」と彼女は言う。
僕は何か言おうと思うのだけれど、上手く言葉が出てこない。僕は彼女に好意を抱いている。こうしてふたりでベッドの中にいると、とても楽しく時を過ごすことができる。僕は彼女の体を温めたり、髪をそっと撫でていたりするのが好きなのだ。彼女の小さな寝息を聞いたり、朝になって彼女を会社に送りだしたり、彼女が計算した――と僕が信じている――電話料金の請求書を受け取ったり、僕の大きなパジャマを彼女が着ているのを見たりするのが好きなのだ。でもそういうことって、いざとなると一言で上手く表現できない。愛しているというのではもちろんないし、好きというのでもない。
何と言えばいいのだろう?
“是稀薄。”她小声地说。她无视我的发言呢?还是全然没有听到耳朵去?我也不明白。可是她声音小得让我紧张。虽不明白为什么,但在那里包含着让我紧张的什么东西。“经常变得稀薄。而且我认为你和我所呼吸的空气完全不一样。这样认识的。”
“资料不充分。”我说。
“我对你什么也不了解。是不是?”
“我对我自己也并不完全了解。”我说。“的确就是那样。并不是说从哲学的意义。是更实际的意义。整体的资料不充分。”
“你已经三十三岁了吧。”她说。她二十六岁。
“三十四岁。”我改正说。“三十四岁加两个月。”
她摇头。然后离开床,走到窗边,拉开窗帘。在那里可以看到窗外的高速公路。像骨头那样的清白的早上六点的月亮悬在那道路的上空。她穿着我的睡衣。
“回到月球上吧。你。”她指着月亮说。
“那里多冷呀。”我说。
“冷吗?月球上?”
“不对。是说现在的你。”我说。
现在是二月。她站在窗边吐着白色哈气。我这样说后她才意识到寒冷。
她急忙回到床上。我紧紧抱住她。那睡衣非常的凉。她用鼻尖顶住我的脖子。那鼻尖也非常凉。“我非常喜欢你。”她说。
虽然我想说什么了,但并没有流利地说出口。我对她抱有好意。就这样两人同床而卧时,就能度过美好的时光。我非常喜欢温暖她的身体,抚摸梳理她的头发。非常喜欢听她睡觉时的均匀呼吸,喜欢早上把她送到公司,喜欢收到她计算——我这样认为——制作的电话付费单,喜欢看她穿着我宽大的睡衣。像这样的事情,一旦紧急地时候就不能用一句话流畅地表现出来。并不是说在爱着,也并不说在喜欢。
说什么为好呢? |
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