読書メモ:「長崎ぶらぶら節」(なかにし礼) (六)
あらすじ:
一緒に長崎の古い歌を探そうと約束したのに、それからだいぶ日が立ったが古賀十二郎からなにも言ってこなかった。愛八さんが不審でたまらないのも決して無理ではない。一体、古い歌を探そうとはどういうことなのか?どんな歌を、どういうふうに探したら良いのか?そんな歌って、なんの価値があるのか?そんなことが愛八さんにはさっぱり分からない。そして、古賀というやつは本当にまともな男だろうかーーここまで読んで、愛八さんだけではなくて、読者も思わざるを得ないだろう。
一方、ワシントン軍縮条約はいよいよ具体的な姿を現してきたようで、三菱の長崎造船所は五千五百人のリストラ(当時、リストラという言葉はまだなかったのか、「整理」と言っている)。大日本帝国海軍の四万トンの戦艦「土佐」も自沈というひどい目に合わされた。
その日、「土佐」を自沈する場所まで曳航する、つまり戦艦を墓場に連れ込むという役の担当者――海軍の士官たちが料亭花月で派手な宴会を開き、「土佐」への餞別とも言えるような宴をやった。芸者もたくさん呼び寄せたのは無論のこと、愛八さんも呼ぼれて、得意の「横綱の土俵入り」を披露した。それはまたただの披露ではなく、その場の空気に合わせて、即興の歌も付け加えたので、当たり前のように、喝采を博した。
翌日の朝、ドアにノックされた音で愛八は目が覚めた。開けたら、ずっと会いたくてたまらない古賀十二郎が目の前に立っていた。それに、「土佐ば見送に行こうじゃなかね」と誘われた。まだ朝五時のこと。
港で二人並んで、姿逞しい「土佐」が小さくなるのを見て、手にしている小旗や手ぬぐいを振って、「万歳!」をも叫んだ。
お仕舞いに、古賀さんは「おうちとは気が合いそうじゃけん、歌さがしの仕事はきっとよかごと行くじゃろう」といったので、相棒の確認が済んだようで、次の章から、本格的に二人三脚の形で仕事を始めるだろう。
2016-06-28
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