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23(6)
「馬鹿みたい」とユキは言った。
「羊の皮をかぶった人の話をして」と僕は言った。
「羊男のことね?」
「どうして知ってるの、その名前を?」
「あなたが言ったのよ、このあいだ電話で。羊男って」
「そうだっけ?」
「そうよ」とユキは言った。
道路は渋滞していて、僕は信号を二回ずつ待たなくてはならなかった。
「羊男の話をして。何処で羊男に会ったの?」
ユキは肩をすぼめた。「私、その人に会ったわけじゃないの。ただふとそう思っただけなの。あなたを見ていて」そして細いまっすぐな髪を指にくるくるとまきつけた。「そういう感じがしたの。羊の皮をかぶった人がいるような。そういう気配がしたの。あなたにあのホテルで会う度に、そういう風に感じたの。だからそう口に出して言ってみたの。それについてとくに何かを知ってるってわけではないの」
僕は信号待ちをする間そのことについてしばらく考えてみた。考える必要がある。頭のねじを巻く必要がある。きりきりと。
「そう思った、ということは」と僕はユキに聞いた。「つまり君にはその姿が見えたっていうことかな、羊男の姿が?」
「うまく言えない」と彼女は言った。「どう言えばいいのかな。その羊男という人の姿が目にありありと浮かぶというんじゃないの。わかるかな?何かこう、そういうものを見た人の感情がこっちに空気みたいに伝わってくるのよ。それは目には見えないものなの。目には見えないんだけど、それを私は感じて、かたちに置き換えることができるの。でもそれは正確にはかたちじゃないの。かたちのようなものなの。もし誰かにそれをそのまま見せることができたとしても、他の人には何がなんだかわからないと思う。それはつまりね、私だけにしかわからないかたちなの。ねえ、上手く説明なんかできないわよ。馬鹿みたいだわ。ねえ、私の言ってることわかる?」
「漠然としかわからない」と僕は正直に言った。
ユキは眉をしかめながら僕のサングラスのつるを噛んでいた。
「つまり、こういうことなのかな?」と僕は聞いてみた。「君は僕の中にある、あるいは僕にくっついて存在している感情なり思念なりを感じとって、それを例えば象徴的な夢みたいに映像化できるということ?」
「思念?」
「強く考えられたこと」
“胡说了。”雪说。
“请讲一讲穿羊皮的人。”我说。
“羊男的事?”
“你怎么知道那个名字?”
“是你说的呀。在之前你用电话说。羊男。”
“是吗?”
“是的。”雪说。
道路拥堵,我等待了两次信号灯。
“讲一讲羊男的事。在什么地方跟他见过面?
雪耸耸肩。“我怎么会和那样的人见面。只是那样随便想了一下。在见你的时候,”她用手指滑溜溜地卷住细直的头发。“就有那种感觉。穿羊皮的人是有的。我有那种感觉。在那宾馆和你见面的时候有那种感觉。所以就随便那么说了。对有关那些事什么的,具体我也不清楚。”
在等信号的时候我对那件事想了一会儿。有必要性思考的。有必要对脑袋的发条拧紧。使劲地拧紧。
“你那样想,也就是说,”我问雪。“也就是说你能看到他的模样,羊男的模样?”
“不能那样说。”她说。“怎么说才好呢?那羊男的身影在眼中不能清清楚楚地浮现。明白吗?什么呢,看到那些的人的感情像空气那样传递过来。那是用眼睛看不见的东西。虽然用眼看不见,但我能感觉到,能置换其形状。那并不是正确的形状。形状相似的东西。我想,既便谁能看到,其他人也不会明白那是什么。那也就是说,只有我能弄清楚。那个,不能很好地说明。像点傻吧。我说的事你明白了吧。”
“笼统地明白了。”我就直接说。
雪皱着眉头咬着我的太阳镜腿。
“就是说,大概是这样的吧。”我问道。“你在我的体内,或者说你和我紧紧地贴在一起能感到我存在的感情或思念,举例说的话就是像征性梦的图像吧。”
“思念?”
“强烈思考之事。” |
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