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25(9)
五時に僕は原宿まで散歩して、竹下通りでエルヴィスのバッジを捜した。でもエルヴィスのバッジは簡単にはみつからなかった。キッスやジャーニーやらアイアンメイデンやらAC/DCやらモーターベッドやらマイケルジャクソンやらプリンスやら、そういうのはいっぱいあったが、エルヴィスのはなかった。でも三軒目の店でやっと「ELVIS?THE KING」というのをみつけて、それを買った。僕は冗談で店員にスライ&ザファミリーストーンのバッジはないかと尋ねてみた。小型の風呂敷くらいあるリボンをつけた十七か十八の女の店員が唖然とした顔で僕を見た。
「それ何?聞いたことない。ニューウェーブとかパンクとかそういうの?」
「まあ、だいたいその中間くらいだけど」
「最近新しいのいっぱい出てくんのよね。ホント。ウソみたい」と彼女は言って舌打ちした。「とてもついてけない」
「まったく」と僕は同意した。
僕はそれから『つる岡』でビールを飲み、天麸羅を食べた。そのようにして漫然と時が流れ、日が沈んだ。サンライズサンセット。僕は一人の平面的パックマンとしてあてもなくただぱくぱくと点線を食べ続ける。事態は全然進展していないように感じられる。僕は何処にも近づいていないように思える。途中からどんどん伏線が増えてきてしまった。そして肝心のキキとつながる線はぷっつりと跡絶えてしまった。僕は脇道をどんどん進んでいるような気がする。メインイベントにたどりつく前に付属演芸に関わって時間と労力を無駄に費やしているような気がする。でもいったいメインイベントは何処でやっているんだろう?そして本当にやっているんだろうか?
夜中までやることがなかったので、七時から渋谷の映画館でポールニューマンの『評決』を見た。悪くない映画だったが途中で何度も考え事をしたので映画の筋がずたずたに分断されてしまった。スクリーンを見ていると、そこにキキの裸の背中がふっと現れるような気がしてきて、それでつい彼女のことをいろいろと考えてしまうのだ。キキ――君は僕に何を求めているのだ?
映画のエンドマークが出ると、僕は殆ど筋のわからないままに席を立って外に出た。街を少し歩き、時々行くバーに入ってナッツを齧りながらウォッカギムレットを二杯飲んだ。そして十時過ぎに家に戻って、本を読みながら五反田君からの電話を待った。僕は時々電話機の方にちらっと目をやった。電話機がじっと僕を見ているような気がしたからだ。神経症的だ。
僕は本を放り出してベッドに仰向けに寝転び、土に埋めた猫のいわしのことを考えてみた。あれはもう骨だけになってしまっているんだろうな、と僕は思った。土のなかは静かだろう。そして骨もまた静かだ。骨は真っ白で綺麗だ、と刑事は言った。そして何も語らない。僕は林の中の土の下にそれを埋めたのだ。西友ストアの紙袋につめて。
何も語らない。
気がつくと無力感が静かに音もなく、水のように部屋に満ちていた。僕はその無力感をかきわけるようにして浴室に行き、『レッドクレイ』を口笛で吹きながらシャワーを浴び、台所に立って缶ビールを飲んだ。そして目を閉じてスベイン語で一から十まで数え、声を出して「おしまい」と言って、手をぱんと叩いた。それで無力感は風に吹き飛ばされるようにさっと消えた。これが僕のおまじないなのだ。一人で暮らす人間は知らず知らずいろんな能力を身につけるようになる。そうしないことには生き残っていけないのだ。
五点钟我散步到原宿,在竹下大街去找エルヴィス证章。可是エルヴィス的证章并不是那么容易找到。キッスやジャーニー、メイデン、AC/DC、モーターベッド、マイケルジャクソン、プリンス等等这些多得是,而エルヴィス却没有。终于在第三个店找到了ELVIS?THE KING,然后把它买下。我开玩笑地问没有ストーンのバッジ吗?戴扎有蝴蝶结的十七八岁的女店员以哑然的模样看着我。
“你说的是什么呢?我没有听说过。是ウェーブ或者パンク吗?”
“对,大概就是类似那些东西。”
“最近新的东西出了很多。真的。层出不穷。”她说着还咂嘴。“多得不得了。”
“真的。”我同意。
之后我在“つる岡”喝啤酒,吃天麦罗。就这样很悠闲地消磨时光,到太阳落下。日出、日落。我当成一个人的平面美容?无目的的连续大口吃着。让人觉得事态完全没有进展那样。使我想什么地方也不能靠近。在进展途中不停地增加埋伏。接着最重要的与奇奇的连线突然断绝了。让人觉得在不正确的道路上突飞猛进。在达到主要事件之前在向相关的演艺中无用地花费时间和劳力。可是主要的事件到底在何处才能做呢?而且真的在做吗?
到晚上无事可做,七点钟在渋谷电影院看了ポールニューマン的《评决》。虽不是很坏的电影但在途中几次想什么事,电影的情节被零碎地中断。在看银幕过程中,觉得突然出现奇奇的裸背,由此就想到她很多的事情。奇奇——你到底在向我企求什么?
等到电影打出结束字幕之后,几乎在没有弄清梗概状态下离开座位站起来走出去。在大街上走几步,走进经常去的酒吧嗑着果仁,喝了两杯鸡尾酒。过十点之后回到家,一边看书一边等五反田打来的电话。我时不时地朝电话机那里瞅一眼,倒觉得电话机在死盯着我那样。神经病。
我把书放下仰躺在床上,回想起了被埋在地下的叫沙丁鱼猫。我想它只剩下骨头了吧。地下是很安静的。所以骨头也很安静。刑警曾说过,骨头因为白而很美丽。而且什么话也不说。我把它埋到了树林中地下。被包在西友店的纸袋中。
无语。
注意到,那种无力感就像安静无声地水淹满了屋子。为了推开那种无力感,我走到浴室,用口哨吹着“レッドクレイ”一边淋浴,然后站在厨房喝罐装啤酒。接着闲上眼用西班牙语从一数到十,之后说出“结束”,拍了一下手。这时那无力感被风吹跑了似的突然消失了。这并不是我的风。一个独立生活的人完全不知道自己已有各种各样的能力。若不这样的话就无法生存下去。
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