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《出生的苦恼》八

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发表于 2005-10-24 10:46:44 | 显示全部楼层 |阅读模式
君、君はこんな私の自分勝手な想像を、私が文学者であるという事から許してくれるだろうか。私の想像はあとからあとからと引き続いてわいて来る。それがあたっていようがあたっていまいが、君は私がこうして筆取るそのもくろみに悪意のない事だけは信じてくれるだろう。そして無邪気な微笑をもって、私の唯一の生命である空想が勝手次第に育って行くのを見守っていてくれるだろう。私はそれをたよってさらに書き続けて行く。 你,你一定允许我作为文学家发挥这种自己认为适当的想象吧。我的想象一个接着一个绵延不断地涌上来,虽然它未必真实可靠,但是你大概不会怀疑我这样执笔的意图存在恶意,也许还会面带纯洁的微笑注视我视作唯一生命的幻想自由自在地想象下去。我将寻着这条思路继续进行创作。  鰊(にしん)の漁期――それは北方に住む人の胸にのみしみじみと感ぜられるなつかしい季節の一つだ。この季節になると長く地の上を領していた冬が老いる。――北風も、雪も、囲炉裏も、綿入れも、雪鞋(つまご)も、等しく老いる。一片の雲のたたずまいにも、自然のもくろみと予言とを人一倍鋭敏に見て取る漁夫たちの目には、朝夕の空の模様が春めいて来た事をまざまざと思わせる。北西の風が東に回るにつれて、単色に堅く凍りついていた雲が、蒸されるようにもやもやとくずれ出して、淡いながら暖かい色の晴れ雲に変わって行く。朝から風もなく晴れ渡った午後なぞに波打ちぎわに出て見ると、やや緑色を帯びた青空のはるか遠くの地平線高く、幔幕(まんまく)を真一文字に張ったような雪雲の堆積(たいせき)に日がさして、まんべんなくばら色に輝いている。なんという美妙な美しい色だ。冬はあすこまで遠のいて行ったのだ。そう思うと、不幸を突き抜けて幸福に出あった人のみが感ずる、あの過去に対する寛大な思い出が、ゆるやかに浜に立つ人の胸に流れこむ。五か月の長い厳冬を牛のように忍耐強く辛抱しぬいた北人の心に、もう少しでひねくれた根性にさえなり兼ねた北人の心に、春の約束がほのぼのと恵み深く響き始める。 在鲱鱼的渔期——那是令居住在北方的人们心荡神驰的季节。每年到了这个季节,主宰那块土地的漫长冬天日渐衰弱下去,——北风、大雪、地炉、棉衣,雪鞋也统统跟着衰弱下去。渔夫们仅凭一片云彩通常比常人更能捕捉大自然的意蕴和预言。在他们的目光中,从早晚的天气情况就真切感受到了春天的气息。随着西北风转为东风,冻得结实的灰色云彩好似气蒸热熨一般,隐隐约约开始崩溃,虽然很淡很淡,但已经变成了暖色的晴云。从清晨起直到晴朗无风的午后,只要来到海岸线上放眼一望,就能见到在略带绿色的蓝天下,遥远的地平线高高隆起,日光照耀在恰如一字排开的帷幔的雪云上,到处闪耀蔷薇的红色,那是多么美妙的景色啊!冬天到了遥远的彼方。想到这里,正像熬出灾难陡然遇见幸福的人们所感受的、一种对于往事的宽容回忆,静静地流进站立在海滨上的人们的心坎里。在犹如老黄牛一般坚韧忍受了五个月漫长严寒的北方人的心中,在性格梗直得不能再梗直的北方人的心中,依稀响起了春天无比慈爱的脚步。  朝晩の凍(し)み方はたいして冬と変わりはない。ぬれた金物がべたべたと糊(のり)のように指先に粘りつく事は珍しくない。けれども日が高くなると、さすがにどこか寒さにひびがいる。浜べは急に景気づいて、納屋の中からは大釜(おおがま)や締框(しめわく)がかつぎ出され、ホック船やワク船をつとのようにおおうていた蓆(むしろ)が取りのけられ、旅烏(たびがらす)といっしょに集まって来た漁夫たちが、綾(あや)を織るように雪の解けた砂浜を行き違って目まぐるしい活気を見せ始める。  鱈(たら)の漁獲がひとまず終わって、鰊(にしん)の先駆(はしり)もまだ群来(くけ)て来ない。海に出て働く人たちはこの間に少しの間(ま)息をつく暇を見いだすのだ。冬の間から一心にねらっていたこの暇に、君はある日朝からふいと家を出る。もちろんふところの中には手慣れたスケッチ帳と一本の鉛筆とを潜まして。 在这个季节里,早晨和傍晚仍然和冬天一样结着冰,潮湿的金属器具还像浆糊那样粘粘乎乎沾着手指。但是只要太阳升起来,寒冷到底减轻了许多,海岸上骤然亮起一道风景,大锅和鱼筐从简陋的仓库里抬了出来,盖在吊船和框船上,好似草袋的席子被取了下来。当地和外来的渔夫汇集在一起,穿梭在冰雪融化的沙滩上,犹如织着锦缎呈现出色彩缤纷的勃勃生机。 鳕鱼的渔期刚刚结束,鲱鱼的渔期尚未正式到来。出海捕鱼的人们这时有了暂时喘息的机会,你从冬季里就一直瞅着这个空隙。一天清晨,你偶然离开家门,你的怀中当然揣着熟悉的速写本和一支铅笔   家を出ると往来には漁夫たちや、女でめん(女労働者)や、海産物の仲買いといったような人々がにぎやかに浮き浮きして行ったり来たりしている。根雪が氷のように磐(いわ)になって、その上を雪解けの水が、一冬の塵埃(じんあい)に染まって、泥炭地(でいたんち)のわき水のような色でどぶどぶと漂っている。馬橇(ばそり)に材木のように大きな生々しい薪(まき)をしこたま積み載せて、その悪路を引っぱって来た一人の年配な内儀(かみ)さんは、君を認めると、引き綱をゆるめて腰を延ばしながら、戯れた調子で大きな声をかける。 离开家门来到大街上,渔夫、做日工的妇女、海产公司的经纪人兴高采烈,来来往往,热闹非凡。残雪变成了冰岩,上面沾染一冬的尘土,雪水污浊得就像从泥炭地冒出的脏水。一位年老的妇人拉着堆满大根大根湿漉柴薪的马爬犁走在泥泞的路上,她认出你,松开肩上的拉绳,伸直腰,用戏谑的口吻高声嚷道:  「はれ兄(あん)さんもう浜さいくだね」  「うんにゃ」  「浜でねえ? たらまた山かい。魚を商売にする人(ふと)が暇さえあれば山さ突っぱしるだから怪体(けたい)だあてばさ。いい人でもいるだんべさ。は、は、は、‥‥。うんすら妬(や)いてこすに、一押し手を貸すもんだよ」  「口はばったい事べ言うと鰊様(にしんさま)が群来(くけ)てはくんねえぞ。おかしな婆様(ばさま)よなあお前も」  「婆様だ!? 人聞(ふとぎ)きの悪い事べ言わねえもんだ。人様(ふとさま)が笑うでねえか」 “这位大哥又是去海边吧。” “是啊。” “海边有什么啊?都是些乱山。打鱼人有空就往山里跑,真是个怪人。不过,看上去人倒不坏。哈哈哈哈……连我都怪妒忌你的。喂,烦你给我推一推。” “乱讲要把鲱鱼赶跑的,你真是个怪婆子。” “婆子?不要讲这样难听的话,别人要笑话的。”  実際この内儀さんの噪(はしゃ)いだ雑言(ぞうごん)には往来の人たちがおもしろがって笑っている。君は当惑して、橇(そり)の後ろに回って三四間ぐんぐん押してやらなければならなかった。  「そだ。そだ。兄(あん)さんいい力だ。浜まで押してくれたらおらお前に惚(ほ)れこすに」  君はあきれて橇から離れて逃げるように行く手を急ぐ。おもしろがって二人の問答を聞いていた群集は思わず一度にどっと笑いくずれる。人々のその高笑いの声にまじって、内儀さんがまただれかに話しかける大声がのびやかに聞こえて来る。 事实上,老妇人的调侃引得行人哈哈大笑,你难为情地转到马爬犁的后面使劲推了六、七米。 “好呐,好呐,这位大哥力气挺大。如果一直推到海边的话,说不定我会迷上你。” 你逃也似地从马爬犁旁边慌乱向前边跑掉了,兴趣盎然倾听二人答讪的行人顿时哄然大笑。在爽朗的笑声中夹杂着老妇人同其他人搭话的欢快声音。  「春が来るのだ」  君は何につけても好意に満ちた心持ちでこの人たちを思いやる。  やがて漁師町をつきぬけて、この市街では目ぬきな町筋に出ると、冬じゅうあき屋になっていた西洋風の二階建ての雨戸が繰りあけられて、札幌(さっぽろ)のある大きなデパートメント・ストアの臨時出店が開かれようとしている。藁屑(わらくず)や新聞紙のはみ出た大きな木箱が幾個か店先にほうり出されて、広告のけばけばしい色旗が、活動小屋の前のように立てならべてある。そして気のきいた手代が十人近くも忙(いそが)しそうに働いている。君はこの大きな臨時の店が、岩内じゅうの小売り商人にどれほどの打撃であるかを考えながら、自分たちの漁獲が、資本のないために、ほかの土地から投資された海産物製造会社によって捨て値で買い取られる無念さをも思わないではいられなかった。「大きな手にはつかまれる」‥‥そう思いながら君はその店の角(かど)を曲がって割合にさびれた横町にそれた。 “春天果真到了。” 你抱着对任何事情都是一颗善良的想法猜测那些人。 不久你来到渔夫街。这条街道有一条繁华的大道。在整个冬季里清一色全是空着的二层西洋小楼撑开了挡雨板,札幌的一家百货店的临时分店即将开张,大木箱里堆满了草屑和报纸扔在店头,花里胡哨的广告彩旗并立在活动小棚的前面,十来个机灵的勤杂工正在忙忙碌碌。你盘算着这家大型临时分店将会给岩内的小商贩们带来多大的打击,心里不禁联想到渔夫们因为没有资金,由外地投资建设的海产制造公司以极低价格贱买时的懊丧。渔夫们原来被捏在别人的手板心里……你这样思索着,从这家分店的拐角拐进了僻静的胡同。  その横町を一町も行かない所に一軒の薬種店があって、それにつづいて小さな調剤所がしつらえてあった。君はそこのガラス窓から中をのぞいて見る。ずらっとならべた薬種びんの下の調剤卓の前に、もたれのない抉(く)り抜(ぬ)きの事務椅子(じむいす)に腰かけて、な聞榨蕙螗趣蛴鹂棨盲裤d(ゆううつ)そうな小柄な若い男が、一心に小形の書物に読みふけっている。それはKと言って、君が岩内の町に持っているただ一人の心の友だ。君はくすんだガラス板に指先を持って行ってほとほととたたく。Kは機敏に書物から目をあげてこちらを振りかえる。そして驚いたように座を立って来てガラス障子をあける。  「どこに」  君は黙ったまま懐中からスケッチ帳を取り出して見せる。そして二人は互いに理解するようにほほえみかわす。  「君はきょうは出られまい」  君は東京の遊学時代を記念するために、だいじにとっておいた書生の言葉を使えるのが、この友だちに会う時の一つの楽しみだった。 沿着这条胡同向里走不到一百米有一家药材铺,药材铺的隔壁是一间狭小的配药房。你从配药房的玻璃窗向里望去,在摆放一大排药材瓶的下面,有一张配药的药案,案子前面有一位身穿黑色工作褂、表情忧郁的矮小青年,坐在没有靠背、掏了几个洞的椅子上,正在入迷地看一本小册子。他就是K,是你在岩内镇的唯一一位知心朋友。你用手指死劲地敲了敲发毛的玻璃板,K机敏地从小册子里抬头扭身向你望来,惊讶地离开座位打开了玻璃门。 “去什么地方?” 你没有回答,而是从怀中掏出速写本给他看。二人会心地笑了, “你今日不想出门?” 因为怀念在东京学习的时代,你用那种学生腔说,与知心朋友相会是一种快乐。  「だめだ。このごろは漁夫で岩内の人数が急にふえたせいか忙(せわ)しい。しかし今はまだ寒いだろう。手が自由に動くまい」  「なに、絵はかけずとも山を見ていればそれでいいだ。久しく出て見ないから」  「僕は今これを読んでいたが(と言ってKはミケランジェロの書簡集を君の目の前にさし出して見せた)すばらしいもんだ。こうしていてはいけないような気がするよ。だけどもとても及びもつかない。いいかげんな芸術家というものになって納まっているより、この薄暗い薬局で、黙りこくって一生を送るほうがやはり僕には似合わしいようだ」  そう言って君の友は、悒鬱(ゆううつ)な小柄な顔をひときわ悒鬱にした。君は励ます言葉も慰める言葉も知らなかった。そして心とがめするもののようにスケッチ帳をふところに納めてしまった。  「じゃ行って来るよ」  「そうかい。そんなら帰りには寄って話して行きたまえ」  この言葉を取りかわして、君はその薄よごれたガラス窓から離れる。 “出不去。最近,岩内的渔民大增,忙碌无暇。不过,今日天冷,手也不会听使唤的。” “什么呀,画不了画,去看山也行啊。好久没有出去观赏了。” “我现在正在看这个(说着,K把米开朗基罗的书简集伸到你的面前),写得太好了。我觉得不应该这样呆下去,可是又委实做不到。与其做一个普通的艺术家倒不如在这间晦暗的药房里了此一生,这种生活或许更适合我。” 说着,你朋友的瘦峭脸上露出更深的忧郁。你不知道应该如何鼓励和安慰他,内疚地把速写本收进自己的怀中。 “我走了。” “嗯,行,回来的时候再来聊一聊。” 说完,你从有些肮脏的玻璃窗口离开了。  南へ南へと道を取って行くと、節婦橋という小さな木橋があって、そこから先にはもう家並みは続いていない。溝泥(どぶどろ)をこね返したような雪道はだんだんきれいになって行って、地面に近い所が水になってしまった積雪の中に、君の古い兵隊長靴(へいたいながぐつ)はややともするとすぽりすぽり[#「すぽりすぽり」に傍点]と踏み込んだ。  雪におおわれた野は雷電峠のふもとのほうへ爪先上(つまさきあ)がりに広がって、おりから晴れ気味になった雲間を漏れる日の光が、地面の陰ひなたを銀と藍(あい)とでくっきりといろどっている。寒い空気の中に、雪の照り返しがかっかっと顔をほてらせるほど強くさして来る。君の顔は見る見る雪焼けがしてまっかに汗ばんで来た。今までがんじょうにかぶっていた頭巾(ずきん)をはねのけると、眼界は急にはるばると広がって見える。 你沿着小路一直向南走,那里有一座节妇桥,从节妇桥往前便没有人家了。满是泥泞的雪道逐渐好走起来。积雪下面挨着地面的地方化成了雪水,你的旧长统靴时常深一脚浅一脚地陷入积雪里。 大雪覆盖的原野向着雷电岭脚下像爪尖那样翘着延伸而去,阳光从偶尔晴朗的云彩间射出来,地面上轮廓分明地映着向阳和背阴的银蓝二色。寒冷的空气反射着强烈的阳光,暖洋洋地烤在你的面颊上,古铜色的脸庞汗水渍渍。你摘掉头上严实的头巾,眼界豁然开阔,直到很远很远。  なんという広大なおごそかな景色だ。胆振(いぶり)の分水嶺から分かれて西南をさす一連の山波が、地平から力強く伸び上がってだんだん高くなりながら、岩内の南方へ走って来ると、そこに図らずも陸の果てがあったので、突然水ぎわに走りよった奔馬が、そろえた前脚(まえあし)を踏み立てて、思わず平頸(ひらくび)を高くそびやかしたように、山は急にそそり立って、沸騰せんばかりに天を摩している。今にもすさまじい響きを立ててくずれ落ちそうに見えながら、何百万年か何千万年か、昔のままの姿でそそり立っている。そして今はただ一色の白さに雪でおおわれている。そして雲が空を動くたびごとに、山は居住まいを直したかのように姿を変える。君は久しぶりで近々とその山をながめるともう有頂天になった。そして余の事はきれいに忘れてしまう。 那是多么辽阔庄严的景色啊。从胆振的分水岭岔开,指向西南方向的连绵山峦从平地上威严地跷脚而立,一峰高过一峰。来至岩内的南边时嘎然变成陆地的尽头,巍峨屹立,高可摩天,好似飞奔的烈马猛然立定在悬崖峭壁,双腿整齐有力地踩在海岸上仰天长啸。虽然眼看就要天崩地裂一般轰然倒塌,可是几百万年,几千万年以来,它就一直那样雄伟地耸立着,没有丝毫变化。它现在银装素裹,每时每刻随着空中的云彩变幻着多姿多彩的山姿。你欣喜若狂地目睹久违的闪着银光的山姿,忘掉了一切地完全陶醉在它的磅礴气势里。  君はただいちずにがむしゃらに本道から道のない積雪の中に足を踏み入れる。行く手に氦螭且姢à霕@(にれ)の切り株の所まで腰から下まで雪にまみれてたどり着くと、君はそれに兵隊長靴(へいたいながぐつ)を打ちつけて足の雪を払い落としながらたたずむ。そして目を据(す)えてもう一度雪野の果てにそびえ立つ雷電峠を物珍しくながめて魅入られたように茫然(ぼうぜん)となってしまう。幾度見てもあきる事のない山のたたずまいが、この前見た時と相違のあるはずはないのに、全くちがった表情をもって君の目に映って来る。この前見に来た時は、それは厳冬の一日のことだった。やはりきょうと同じ所に立って、凍える手に鉛筆を撙质陇猡扦骸Ⅻaったまま立って見ていたのだったが、その時の山は地面から静々と盛り上がって、雪雲に閉ざされた空を確(し)かとつかんでいるように見えた。その感じは恐ろしく執念深く力強いものだった。君はその前に立って押しひしゃげられるような威圧を感じた。きょう見る山はもっと素直な大きさと豊かさとをもって静かに君をかきいだくように見えた。ふだん自分の心持ちがだれからも理解されないで、一種の変屈人のように人々から取り扱われていた君には、この自然が君に対して求めて来る親しみはしみじみとしたものだった。君はまたさらに目をあげて、なつかしい友に向かうようにしみじみと山の姿をながめやった。 你离开大路猛然踏入没有人走的积雪里,前方有一棵榆树墩子。你在没齐腰深的雪地里艰难地走到那里,全身沾满了雪花。你用军用长靴叩打树墩,抖落脚上的雪花,然后伫立在那里,眼睛又一次鲜亮地眺望耸立在雪野尽头的雷电岭,表情痴迷,宛如神灵附体。永远也看不厌的大山尽管与上次见到时没有二样,但是在你看来却是截然不同的风景。上次来的时候也是在一个寒冬,也同样站在今天这个地方,冻僵的手连铅笔也拿不稳,你就默默地站在那里。那次的山从地面静静地隆起,看上去就像牢牢地抓住雪云紧锁的天空。站在它的面前,你有一种仿佛要被压碎的威严之感。那种感觉非常执着,强而有力。今天见到的山看上去更显得纯朴雄浑,巍巍壮观,你好像依偎在它恬静的怀抱里。平时没有人理解你的内心世界,把你当成一位性格怪僻的人,大自然却坦诚地惠与你孜孜以求的亲切感。你再一次抬起头,就像面对久别重逢的友人饱含深情地眺望着山姿。  ちょうど親しい心と心とが出あった時に、互いに感ぜられるような温(あたた)かい涙ぐましさが、君の雄々しい胸の中にわき上がって来た。自然は生きている。そして人間以上に強く高い感情を持っている。君には同じ人間の語る言葉だが英語はわからない。自然の語る言葉は英語よりもはるかに君にはわかりいい。ある時には君が使っている日本語そのものよりももっと感情の表現の豊かな平明な言葉で自然が君に話しかける。君はこの涙ぐましい心持ちを描いてみようとした。  そして懐中からいつものスケッチ帳を取り出して切り株の上に置いた。開かれた手帖と山とをかたみがわりに見やりながら、君は丹念に鉛筆を削り上げた。そして粗末な画学紙の上には、たくましく荒くれた君の手に似合わない繊細な線が描かれ始めた。 亲密无间的心灵交融,激动的热泪涌动在你博大的胸怀里。大自然是有生命的,而且具有比人更强烈、更高昂的激情。你和你的同类一样,讲的是相同的日语而不是英语,但与英语相比你却能切身体会到大自然的语言。有时大自然比你讲的日语还要富有感情,富有表现力。它用更丰富简明的语言同你交流。你要用画来表达自己热泪盈眶的那种激动心情。 你从怀中掏出平时的速写本放置在树墩上,眼睛交替地打量翻开的速写本和山姿,仔细削好铅笔。然后开始在简陋的学画纸上描绘与你强壮粗糙的手不相称的纤细线条。  ちょうど人の肖像をかこうとする画家が、その人の耳目鼻口をそれぞれ綿密に観察するように、君は山の一つの皺(しわ)一つの襞(ひだ)にも君だけが理解すると思える意味を見いだそうと努めた。実際君の目には山のすべての面は、そのまますべての表情だった。日光と雲との明暗(キャロスキュロ)にいろどられた雪の重なりには、熱愛をもって見きわめようと努める人々にのみ説き明かされる貴(たっと)いなぞが潜めてあった。君は一つのなぞを解き得たと思うごとに、小おどりしたいほどの喜びを感じた。君の周囲には今はもう生活の苦情もなかった。世間に対する不安も不幸もなかった。自分自身に対するおくれがちな疑いもなかった。子供のような快活な無邪気な一本気な心‥‥君のくちびるからは知らず知らず軽い口笛が漏れて、君の手はおどるように調子を取って、紙の上を走ったり、山の大きさや角度を計ったりした。 正如画人体肖像的画家要仔细观察人的每一个细微表情,你努力地端详山的每一个皱褶和裂纹,品味它们的意义。事实上,在你的眼睛里,山的每一个侧面都有自己的表情,被日光和云彩映染的积雪上,它的明暗层次都蕴含着只有那些满怀深情,潜心探求的人才能明白的崇高的神秘。每次揭下一层神秘的色彩,在你的心中顿时都涌出欣喜若狂的感动。在你的周围,现在已经没有了生活的烦恼,没有了对于世俗的不安和不幸,没有了时常对于自身不合时宜的怀疑,就像孩子那样只有一颗天真无瑕的心。……你不知不觉吹起了口哨,你挥舞着手,在纸上飞快地移动,比量山的大小和角度。  そうして幾時間が過ぎたろう。君の前には「時」というものさえなかった。やがて一つのスケッチができあがって、軽い満足のため息とともに、働かし続けていた手をとめて、片手にスケッチ帳を取り上げて目の前に据(す)えた時、君は軽い疲労――軽いと言っても、君が船の中で働く時の半日分の労働の結果よりは軽くない――を感じながら、きょうが仕事のよい収穫であれかしと祈った。画学紙の上には、吹き変わる風のために乱れがちな雲の間に、その頂を見せたり隠したりしながら、まっ白にそそり立つ峠の姿と、その手前の広い雪の野のここかしこにむら立つ針葉樹の木立ちや、薄く炊煙を地になびかしてところどころに立つ惨(みじ)めな農家、これらの間を鋭い刃物で断ち割ったような深い峡間(はざま)、それらが特種な深い感じをもって特種な筆触で描かれている。君はややしばらくそれを見やってほほえましく思う。久しぶりで自分の隠れた力が、哀れな道具立てによってではあるが、とにかく形を取って生まれ出たと思うとうれしいのだ。  しかしながら狐疑(こぎ)は待ちかまえていたように、君が満足の心を充分味わう暇もなく、足もとから押し寄せて来て君を不安にする。君は自分にへつらうものに対して警戒の眼を向ける人のように、自分の満足の心持ちをきびしく調べてかかろうとする。そして今かき上げた絵を容赦なく山の姿とくらべ始める。 时间大约过去了几个小时。时间在你的面前消失了。不久你画完了一幅画,稍微满足地叹了口气。同时你停下手中的笔,一只手拿起学画纸悬在眼前,虽然有点儿疲劳——尽管有点儿疲劳,但是与你在海上半天的劳作相比,你感到收获并不小,你祈求今天的工作有一个好收获。在你的学画纸上,山峰在狂风乱卷、乌云翻飞中时隐时现;还有那座鬼斧神工般劈开的深邃峡谷。所有这些你都是怀着特殊的深厚感情,用特殊的笔触描绘出来的。你端详了一会儿,心里露出微笑。好久没有发挥潜藏在自己身上的力量了。虽然使用的是可怜的绘画工具,但却捕捉到了你心中的风景。一想到这里你就兴奋不已。 然而,狐疑就像等在那儿,不等你尽情回味便从脚下悠然而生,使你不安起来。你开始警惕,戒备的目光好似严厉地审视投其所好的献媚者,审察自己得意的心情,苛刻地比较刚才完成的画和山姿。  自分が満足だと思ったところはどこにあるのだろう。それはいわば自然の影絵に過ぎないではないか。向こうに見える山はそのまま寛大と希望とを象徴するような一つの生きた塊的(マッス)であるのに、君のスケッチ帳に縮め込まれた同じものの姿は、なんの表情も持たない線と面との集まりとより君の目には見えない。  この悲しい事実を発見すると君は躍起となって次のページをまくる。そして自分の心持ちをひときわ謙遜(けんそん)な、そして執着の強いものにし、粘り強い根気でどうかして山をそのまま君の画帖(がじょう)の中に生かし込もうとする、新たな努力が始まると、君はまたすべての事を忘れ果てて一心不乱に仕事の中に魂を打ち込んで行く。そして君が昼弁当を食う事も忘れて、四枚も五枚ものスケッチを作った時には、もうだいぶ日は傾いている。 自己觉得满意的地方在哪儿呢?要说的话,它也许只是对大自然的临摹。呈现在对面的山象征着赤裸裸的博大和希望,是一群活生生的山峦,而浓缩在你速写本中的同样的山峦却没有任何表情,仅仅是点和线的集合体,它们的灵魂更没有在你的画中表现出来。 发现了这个可悲的事实之后,你立即翻开下一页,怀着一颗更加谦逊执着的心情,以不屈不挠的毅力竭力要把它栩栩如生地描绘在你的速写本中。新的努力一旦开始,你又进入到忘我的境地,聚精会神地投入到工作中去了。你甚至忘记了午饭,画完四、五幅后,时间早已是夕阳西下了。  しかしとてもそこを立ち去る事はできないほど、自然は絶えず美しくよみがえって行く。朝の山には朝の命が、昼の山には昼の命があった。夕方の山にはまたしめやかな夕方の山の命がある。山の姿は、その線と陰日向(かげひなた)とばかりでなく、色彩にかけても、日が西に回るとすばらしい魔術のような不思議を現わした。峠のある部分は鋼鉄のように寒くかたく、また他の部分は気化した色素のように透明で消えうせそうだ。夕方に近づくにつれて、やや煙り始めた空気の中に、声も立てずに粛然とそびえているその姿には、くんでもくんでも尽きない平明な神秘が宿っている。見ると山の八合目と覚しい空高く、小さなさ悚菠藙婴い戚啢蛎瑜い皮い搿¥饯欷弦挥黏未篾悾à铯罚─诉`いない。目を定めてよく見ると、長く伸ばした両の翼を微塵(みじん)も動かさずに、からだ全体をやや斜めにして、大きな水の渦(うず)に仱盲靠荬烊~のように、その鷲は静かに伸びやかに輪を造っている。山が物言わんばかりに生きてると見える君の目には、この生物はかえって死物のように思いなされる。ましてや平原のところどころに散在する百姓家などは、山が人に与える生命の感じにくらべれば、惨(みじ)めな幾個かの無機物に過ぎない。 昼は真冬からは著しく延びてはいるけれども、もう夕暮れの色はどんどん催して来た。それとともに肌身(はだみ)に寒さも加わって来た。落日にいろどられて光を呼吸するように見えた雲も、煙のような白と淡藍(うすあい)との陰日向を見せて、雲とともに大空の半分を領していた山も、見る見る寒い色に堅くあせて行った。そして欤à猡洌─趣庋预Δ伽·つぃà蓼─茸匀护趣伍gを隔てはじめた。 然而,大自然无穷无尽地展示着它的美丽,令你怎么也不能从那里离开。清晨的山有清晨的生命,中午的山有中午的生命,傍晚的山也有傍晚幽静的山的生命。山色不仅与线条和阴阳向背有关,还有色彩方面。太阳偏西后,山色变幻着魔术师精湛的神奇。山峦的某处如钢铁般坚硬冷彻,其它的部分又像汽化了似地没有任何颜色,变成完全透明的了。随着傍晚临近,在生起薄雾的空气中缄默无语,威严耸立的山峦上蕴藏着某种交织在一起,绵绵不尽的平明的神秘。放眼望去,山顶附近有一个小小的黑点悄悄地划着圆圈。那一定是一只大鹫。定睛而视,长长伸展的双翼一动不动,整个身体微微前倾,像一头栽在大水臼上的枯叶一般,那只鹫恬静快活地划着圆圈。山峦生动地仿佛在述说什么。在你的眼里,这只生物反而像失去了生命;而且与山峦给予人的生命的感觉相比,散落在原野各处的农户也不过变成了几个可怜的无机物。从严冬时分开始,白天显著延长了,但是傍晚的暮色已经匆匆露出征兆。同时寒气开始袭人体肤,被落日染上色彩,好像呼吸着阳光的云彩,呈现出烟雾那样的白色和淡蓝色的阴阳背向,同云彩一起统领大半天空的山峦,眼看着不可遏止地褪成寒色。雾的薄膜开始把你和大自然隔开了。   君は思わずため息をついた。言い解きがたい暗愁――それは若い人が恋人を思う時に、その恋が幸福であるにもかかわらず、胸の奥に感ぜられるような――が不思議に君を涙ぐましくした。君は鼻をすすりながら、ばたん[#「ばたん」に傍点]と音を立ててスケッチ帳を閉じて、鉛筆といっしょにそれをふところに納めた。凍(い)てた手はふところの中の温(ぬく)みをなつかしく感じた。弁当は食う気がしないで、切り株の上からそのまま取って腰にぶらさげた。半日立ち尽くした足は、動かそうとすると電気をかけられたようにしびれていた。ようようの事で君は雪の中から爪先(つまさき)をぬいて一歩一歩本道のほうへ帰って行った。はるか向こうを見ると山から木材や薪炭(しんたん)を積みおろして来た馬橇(ばそり)がちらほらと動いていて、馬の首につけられた鈴の音がさえた響きをたててかすかに聞こえて来る。それは漂浪の人がはるかに故郷の空を望んだ時のようななつかしい感じを与える。その消え入るような、さびしい、さえた音がことになつかしい。不思議な誘惑の世界から突然現世に帰った人のように、君の心はまだ夢ごこちで、芸術の世界と現実の世界との淡々しい境界線をたどっているのだ。そして君は歩きつづける。 你不禁叹了口气。一种难以说清的暗愁——那是年轻人思恋情人时,虽说那种爱情是幸福的,但是正如内心深处所感受的那样——让你莫明其妙地热泪盈盈。你啜泣着,叭地一声合上速写本,连同铅笔一起揣入怀中,冻僵的双手令人留恋地感到了怀中的温暖。你没有心思吃饭,从树墩上拿起来看也没看就别在了腰上。站立了半天的双腿只要挪动就像触电似的麻木。你好不容易从雪中抽出脚尖,一步一步返回大道。在远处的对面,装载木材和柴薪的马爬犁从山下稀稀拉拉地移动着,吊在马脖子上的铃铛发出清脆的声响微弱地传来,它勾起了宛如漂泊在外的人遥望故乡天空的思念之情。那种弱得几乎听不见的、孤独的清脆声响尤其勾人魂魄,你好像刚从光怪陆离的世界突然返回到现实中,心依然沉浸在梦景里,徜徉在艺术和现实二个世界的模糊分界线上。你继续徜徉着。  いつのまにか君は町に帰って例の調剤所の小さな部屋(へや)で、友だちのKと向き合っている。Kは君のスケッチ帳を興奮した目つきでかしこここ見返している。  「寒かったろう」 とKが言う。君はまだほんとうに自分に帰り切らないような顔つきで、  「うむ。‥‥寒くはなかった。‥‥その線の鈍っているのは寒かったからではないんだ」 と答える。  「鈍っていはしない。君がすっかり何もかも忘れてしまって、駆けまわるように鉛筆をつかった様子がよく見えるよ。きょうのはみんな非常に僕の気に入ったよ。君も少しは満足したろう」  「実際の山の形にくらべて見たまえ。‥‥僕は親父(おやじ)にも兄貴にもすまない」 と君は急いで言いわけをする。  「なんで?」  Kはけげんそうにスケッチ帳から目を上げて君の顔をしげしげと見守る。 不知在什么时候你回到了小镇。你又在那个配药房里与朋友K见面了。K用兴奋的目光一页一页反复打量你的速写本。 “很冷吧?”K问。你脸上露出还没有完全苏醒的神色答道:“不……,冷倒不冷……这条线发涩不是因为天冷。” “不是说线涩。你太入迷了,从这幅里明显看得出你手握铅笔飞快临摹的神态。今天的画我都很满意,你也很满足吧。” “同现实中的山相比,你觉得怎样?……实在对不住父亲和哥哥。”你急忙愧疚地说道。 “为什么?” K诧异地从速写本里抬起目光频频注视着你。  君の心の中には苦(にが)い灰汁(あくじる)のようなものがわき出て来るのだ。漁にこそ出ないが、ほんとうを言うと、漁夫の家には一日として安閑としていい日とてはないのだ。きょうも、君が一日を絵に暮らしていた間に、君の家では家じゅうで忙(いそが)しく働いていたのに違いないのだ。建網(たてあみ)に損じの有る無し、網をおろす場所の海底の模様、大釜(おおがま)を据(す)えるべき位置、桟橋(さんばし)の改造、薪炭(しんたん)の買い入れ、米塩の甙帷⒅儋Iい人との契約、肥料会社との交渉‥‥そのほか鰊漁(にしんりょう)の始まる前に漁場の持ち主がしておかなければならない事は有り余るほどあるのだ。  君は自分が絵に親しむ事を道楽だとは思っていない。いないどころか、君にとってはそれは、生活よりもさらに厳粛な仕事であるのだ。しかし自然と抱き合い、自然を絵の上に生かすという事は、君の住む所では君一人だけが知っている喜びであり悲しみであるのだ。ほかの人たちは――君の父上でも、兄妹(きょうだい)でも、隣近所の人でも――ただ不思議な子供じみた戯れとよりそれを見ていないのだ。君の考えどおりをその人たちの頭の中にたんのう[#「たんのう」に傍点]ができるように打ちこむというのは思いも及ばぬ事だ。 一股草木灰汁的苦涩情感涌上你的心头。虽然没有出海,但是坦白地说,渔夫的家庭没有一天是安闲的。今天,当你画画花费一天工夫的时候,在你的家里,全家人正在忙着干活。渔网是否破损,准备布网的海底情况,大锅应该垒砌的位置,栈桥的改造,木材的购买,米盐的搬运,与经纪人的合约,同肥料公司的交涉……此外,在拦捕鲱鱼之前作为渔场的所有人必须办理的各种手续,事情应有尽有。 你不以为热衷于画画只是一种娱乐,相反,对你来说,那是比生活更加庄重的工作。可是同大自然相互拥抱,让大自然活灵活现地生活在画中,在你居住的地方,那是只有你才能体味的喜悦和悲伤。其他的人们——无论是你的父亲、兄妹,还是左邻右舍——都把画画当成是令人费解的孩子们的游戏,不屑一顾。在他们的头脑中无法接受,也从来没有想过要接受你的思维方式。  君は理屈ではなんら恥ずべき事がないと思っている。しかし実際では決してそうは行かない。芸術の神聖を信じ、芸術が実生活の上に玉座を占むべきものであるのを疑わない君も、その事がらが君自身に関係して来ると、思わず知らず足もとがぐらついて来るのだ。  「おれが芸術家でありうる自信さえできれば、おれは一刻の躊躇(ちゅうちょ)もなく実生活を踏みにじっても、親しいものを犠牲にしても、歩み出す方向に歩み出すのだが‥‥家の者どもの実生活の真剣さを見ると、おれは自分の天才をそうやすやすと信ずる事ができなくなってしまうんだ。おれのようなものをかいていながら彼らに芸術家顔をする事が恐ろしいばかりでなく、僭越(せんえつ)な事に考えられる。おれはこんな自分が恨めしい、そして恐ろしい。みんなはあれほど心から満足して今日今日を暮らしているのに、おれだけはまるで陰证扦猡郡椁螭扦い毪瑜Δ耸冀K暗い心をしていなければならないのだ。どうすればこの苦しさこのさびしさから救われるのだろう」  平常のこの考えがKと向かい合っても頭から離れないので、君は思わず「親父(おやじ)にも兄貴にもすまない」と言ってしまったのだ。 从某种意义上说你不应该羞愧,但是在现实生活中决不是那么回事。把艺术视若神明,应该在实际生活中占据宝座,你对此深信不疑,可是一旦与你本人联系进来便不知不觉犹豫不定了。 “我要是坚信自己能成为一位艺术家,就会毫不动摇地抛弃现实生活,牺牲家庭亲人,向着既定目标前进……但是每当看到全家人在现实生活中不遗余力,自己便轻易地怀疑自己是否具备那种天才。虽然画着自己想画的画,但对他们摆出一副艺术家的面孔不仅是可怕的,而且也是过分的。我讨厌同时也害怕自己这样做。虽然充实地度过了今天一天,偏偏始终觉得自己在做一件见不得人的事似地心情暗淡。怎样做才能从这种痛苦和孤独中解脱出来呢?” 这种平时就有的想法哪怕是当作K的面也不能从头脑中消除,所以你才说“对不住父亲和哥哥。”  「どうして?」と言ったKも、君もそのまま黙ってしまった。Kには、物を言われないでも、君の心はよくわかっていたし、君はまた君で、自分はきれいにあきらめながらどこまでも君を芸術の捧誓者(ほうせいしゃ)たらしめたいと熱望する、Kのさびしい、自己を滅した、温(あたた)かい心の働きをしっくりと感じていたからだ。  君ら二人の目は悒鬱(ゆううつ)な熱に輝きながら、互いに瞳(ひとみ)を合わすのをはばかるように、やや燃えかすれたストーブの火をながめ入る。  そうやって黙っているうちに君はたまらないほどさびしくなって来る。自分を憐(あわ)れむともKを憐れむとも知れない哀情がこみ上げて、Kの手を取り上げてなでてみたい衝動を幾度も感じながら、女々(めめ)しさを退けるようにむずかゆい手を腕の所で堅く組む。  ふとすすけた天井からたれ下がった電球が光を放った。驚いて窓から見るともう往来はまっ暗になっている。冬の日の舂(うすず)き隠れる早さを今さらに君はしみじみと思った。掃除(そうじ)の行き届かない電球はごみと手あかとでことさら暗かった。それが部屋(へや)の中をなお悒鬱(ゆううつ)にして見せる。 无论是问“为什么”的K还是你此时都缄默无语。对K来说,即使不把事情挑明也十分清楚你的心情,你也一样。K尽管果断地忍痛割爱,但又热切地希望你成为一名艺术的殉道者。你深切地感受到了他那颗凄凉的,毁灭自我又不乏温暖的心理活动。 你们二人的眼睛闪耀着忧郁的热情,就像害怕对方的目光,低头盯在微微燃烧的炉火上。 你在沉默中变得寂寞难奈,脸上涌动的悲哀表情不知是在哀怜自己还是在哀怜K。你几次冲动地想抚摸K的手,但那是女人的软弱,你刺痒的双手牢牢地架在胸前。 忽然,熏黑的屋顶上悬挂的电灯亮了。你吃惊地从窗口向外望去,路上已是漆黑一团。你更深切地感受到了冬天夕阳匆匆落下的速度。没有打扫过的电灯由于尘土和手垢越发昏暗,使房间更加显得郁闷。  「飯だぞ」  Kの父の荒々しいかん走った声が店のほうからいかにもつっけんどんに聞こえて来る。ふだんから自分の一人むすこの悪友でもあるかのごとく思いなして、君が行くとかつてきげんのいい顔を見せた事のないその父らしい声だった。Kはちょっと反抗するような顔つきをしたが、陰性なその表情をますます陰性にしただけで、きぱきぱと盾(たて)をつく様子もなく、父の心と君の心とをうかがうように声のするほうと君のほうとを等分に見る。  君は長座をしたのがKの父の気にさわったのだと推すると座を立とうとした。しかしKはそういう心持ちに君をしたのを非常に物足らなく思ったらしく、君にもぜひ夕食をいっしょにしろと勧めてやまなかった。  「じゃ僕は昼の弁当を食わずにここに持ってるからここで食おうよ。遠慮なく済まして来たまえ」 と君は言わなければならなかった。  Kは夕食を君に勧めながら、ほんとうはそれを両親に打ち出して言う事を非常に苦にしていたらしく、さればとてまずい心持ちで君をかえすのも堪えられないと思いなやんでいたらしかったので、君の言葉を聞くと活路を見いだしたように少し顔を晴れ晴れさせて調剤室を立って行った。それも思えば一家の貧窮がKの心に染(し)み渡(わた)ったしるしだった。君はひとりになると、だんだん暗い心になりまさるばかりだった。 “吃饭了。” 从店里传来K父冷落粗暴的吼叫。他平时就把你视作自己独子的一位坏友,只要你去便没有好脸色,今天也是如此。K尽管显出些许反抗,但是除了脸色更加阴沉外没有其它办法,不敢明目张胆反抗。他左右为难地一会望望发出吼叫的那个方向一会望望你。 你猜测自己时间呆久了,引起K父的不满,想离开座位。但是K心情痛苦之极,不想让你离开,无奈地劝你务必一起吃晚饭。 “这样吧,我还没有吃午饭,就带在身边,顺便在这里吃了吧。你也不必客气,先吃完饭再聊。”你说道。 K虽然劝你吃晚饭,实际上一颗酸涩的心既苦于很难向父母提出来,又恼于不能让你走;因此听了你的话像找到了出路,脸上露出微弱的亮色离开了配药房。凭心而论,那也是由于家庭的贫寒刺痛着K的心的印迹。你一个人呆在那里,心里越发黯然了。  それでも夕飯という声を聞き、戸のすきから漏れる焼きざかなのにおいをかぐと、君は急に空腹を感じだした。そして腰に結び下げた弁当包みを解いてストーブに寄り添いながら、椅子(いす)に腰かけたままのひざの上でそれを開いた。  北海道には竹がないので、竹の皮の代わりにへぎで包んだ大きな握り飯はすっかり凍(い)ててしまっている。春立(はるだ)った時節とは言いながら一日寒空に、切り株の上にさらされていたので、飯粒は一粒一粒ぼろぼろに固くなって、持った手の中からこぼれ落ちる。試みに口に持って行ってみると米の持つうまみはすっかり奪われていて、無味な繊維のかたまりのような触覚だけが冷たく舌に伝わって来る。  君の目からは突然、君自身にも思いもかけなかった熱い涙がほろほろとあふれ出た。じっとすわったままではいられないような寂寥(せきりょう)の念がまっ暗に胸中に広がった。 虽说如此,听到吃晚饭的声音,闻到从门缝散出的烤鱼香味,你顿时觉得腹中空空,于是紧挨着火炉坐在椅子上,解下别在腰上的便当包放在膝盖上打开。 北海道因为没有竹子,包饭团的竹皮是用薄木纸代替的,大团大团的饭团早已冻硬了。虽说是立春之后的时节,但在凛冽的天空下,在树墩上放了一天,饭粒就像一颗颗砂粒,冰冷地顺着舌头进到了喉咙里。 你的眼睛里忽然溢出你自己都没有想到的滚滚热泪。那种不能再这样呆下去了的寂寥念头在你的胸中悲哀地弥散开来。 你悄悄离开座位,又把便当像先前那样包好别在腰间,怀揣速写本蹑手蹑脚去到门口穿上长靴。长靴的外层被傍晚的寒气冻成了铁皮,冰冷僵硬。  君はそっと座を立った。そして弁当を元どおりに包んで腰にさげ、スケッチ帳をふところにねじこむと、こそこそと入り口に行って長靴(ながぐつ)をはいた。靴の皮は夕方の寒さに凍(こお)って、鉄板のように堅く冷たかった。  雪は燐(りん)のようなかすかな光を放って、まっ四氦旃皮考摇─挝莞颏Δ皮い俊¥丹婴筏い长魏犷先摔斡挨庖姢护胜盲俊¥筏肖椁瘹iいて例のデパートメント・ストアの出店の角(かど)近くに来ると、一人の男の子がスケート下駄(げた)(下駄の底にスケートの歯をすげたもの)をはいて、でこぼこに凍った道の上をがりがりと音をさせながら走って来た。その子はスケートに夢中になって、君のそばをすりぬけても君には気がついていないらしい。  「氷の上がすべれだした時はほんとに夢中になるものだ」  君は自分の遠い過去をのぞき込むようにさびしい心の中にもこう思う。何事を見るにつけても君の心は痛んだ。  デパートメント・ストアのある本通りに出ると打って変わってにぎやかだった。電灯も急に明るくなったように両側の家を照らして、そこには店の者と購買者との影が綾(あや)を織った。それは君にとっては、その場合の君にとっては、一つ一つ見知らぬものばかりのようだった。そこいらから起こる人声や荷橇(にぞり)の雑音などがぴんぴんと君の頭を針のように刺激する。見物の前に引き出された見世物小屋の野獣のようないらだたしさを感じて、君は眉根(まゆね)の所に電光のように起こる痙攣(けいれん)を小うるさく思いながら、むずかしい顔をしてさっさとにぎやかな往来を突きぬけて漁師町(りょうしまち)のほうへ急ぐ。 天色大黑,在每家每户的屋顶上积雪发出鬼火一般的微光,冷清的胡同里不见一个人影。穿过胡同来到那家百货店分店的拐角附近,一个男孩脚蹬冰鞋木屐(在木屐的底下安上冰刀做成的鞋子),在高高低低的冻路上发出“叽哩叽哩”的声音飞快地滑过来。男孩如痴如梦地滑着冰,从你身边闪过去甚至没有发现你。 “滑冰的确叫人着迷。” 你好像回到了自己遥远的过去,在寂寞的心中这样想到。你无论看到任何事情都感到钻心的疼痛。 来到百货店分店的大道上,周围的景象为之一变,热闹非凡。电灯格外明亮,照着道路二侧的人家,店员和顾客的身影织着斜纹,对你来说,这里的一切仿佛都不存在。这一带的人声和货橇发出的杂音犹如银针频频乱剌着你的脑海。你感到自己是关在马戏团里的一头野兽被强行拉出来在观众面前示众,心中烦躁不安。你一边觉得自己的眉角电光闪闪,令人生厌地抽搐,一边哭丧着脸迅速穿过喧哗的大道匆忙向渔夫街走去。  しかし君の家が見えだすと君の足はひとりでにゆるみがちになって、君の頭は知らず知らず、なお低くうなだれてしまった。そして君は疑わしそうな目を時々上げて、見知り越しの顔にでもあいはしないかと気づかった。しかしこの界隈(かいわい)はもう静まり返っていた。  「だめだ」  突然君はこう小さく言って往来のまん中に立ちどまってしまった。そうして立ちすくんだその姿の首から肩、肩から背中に流れる線は、もしそこに見守る人がいたならば、思わずぞっとして異常な憂愁と力とを感ずるに違いない不思議に強い表現を持っていた。  しばらく釘(くぎ)づけにされたように立ちすくんでいた君は、やがて自分自身をもぎ取るように決然と肩をそびやかして歩きだす。  君は自分でもどこをどう歩いたかしらない。やがて君が自分に気がついて君自身を見いだした所は海産物製造会社の裏の険しい崕(がけ)を登りつめた小山の上の平地だった。 然而当你家的房子出现在你面前的时候,你却不由自主地放慢了脚步,头更加低垂下去。你偶尔抬起可疑的目光,生怕遇到什么熟人,不过这一带早已经变得一片静寂了。 “算了。” 你突然低声地对自己说道,在路中停下来。你就那样呆然若失地站着,从头到肩,从肩到后背,勾勒着一种不可思议的强烈气势。假如有人在那里注视你的话,一定会颤栗地感受到你异常的忧愁和力量。 你犹如铁钉钉住了似的一动不动站立了片刻,毅然决然地高耸双肩,猛然挣脱铁钉一般迈开大步。 你甚至不知道自己怎样在走,走在何方。不久,当你发现自己,意识清醒的时候,你正走在海产制造公司后面的悬崖峭壁顶上一座小山包的平地上。  全く夜になってしまっていた。冬は老いて春は来ない――その壊(こわ)れ果てたような荒涼たる地の上高く、寒さをかすかな光にしたような雲のない空が、息もつかずに、凝然として延び広がっていた。いろいろな光度といろいろな光彩でちりばめられた無数の星々の間に、冬の空の誇りなる参宿(オライオン)が、微妙な傾斜をもって三つならんで、何かの凶徴のようにひときわぎらぎらと光っていた。星は語らない。ただはるかな山すそから、干潮になった無月の潮騒(しおざい)が、海妖(かいよう)の単調な誘惑の歌のように、なまめかしくなでるように聞こえて来るばかりだ。風が落ちたので、凍りついたように寒く沈み切った空気は、この海のささやきのために鈍く震えている。  君はその平地の上に立ってぼんやりあたりを見回していた。君の心の中にはさきほどから恐ろしい企図(たくらみ)が目ざめていたのだ。それはきょうに始まった事ではない。ともすれば君の油断を見すまして、泥沼(どろぬま)の中からぬるりと頭を出す水の精のように、その企図は心の底から現われ出るのだ。君はそれを極端に恐れもし、憎みもし、卑しみもした。男と生まれながら、そんな誘惑を感ずる事さえやくざな事だと思った。しかしいったんその企図が頭をもたげたが最後、君は魅入られた者のように、もがき苦しみながらも、じりじりとそれを成就するためには、すべてを犠牲にしても悔いないような心になって行くのだ、その恐ろしい企図(たくらみ)とは自殺する事なのだ。 那时已是夜色深沉。冬天即将过去春天还没有到来——在这个极其荒凉破败的地方,头顶上的高空浑然凝成一体,没有一丝寒云,繁星闪烁。在星星与星星之间,夸耀在冬夜中的狮子座带着微妙的倾斜排列成三字,仿佛预示着不祥,格外晃眼地闪着光芒。星星连成一片,没有月光;在脚底深处的山脚下只有退潮的涛声,就像海怪单调诱惑的歌声那样柔媚抚爱。寒冷无风的空气仿佛冻结一般,由于大海的絮语在迟缓地颤抖着。 你站在那块平地上茫然地环视四周。就在刚才,一种可怕的企图从你的心中复苏了。那不是从今天才有的。那个企图时常瞅准你的松懈,就像从泥沼中滑溜溜钻出头来的水怪从你的心底冒了出来。你感到极端恐惧、憎恨、厌恶,认为男人与生俱来只有懦夫才受到那种诱惑。然而那个企图一旦抬头,其结果你就像被迷住了一样,尽管痛苦挣扎,但是心里还是想充分成全它,哪怕牺牲一切也决不后悔。这个可怕的企图就是自杀。  君の心は妙にしんと底冷えがしたようにとげとげしく澄み切って、君の目に映る外界の姿は突然全く表情を失ってしまって、固い、冷たい、無慈悲な物の積み重なりに過ぎなかった。無際限なただ一つの荒廃――その中に君だけが呼吸を続けている、それがたまらぬほどさびしく恐ろしい事に思いなされる荒廃が君の上下四方に広がっている。波の音も星のまたたきも、夢の中の出来事のように、君の知覚の遠い遠い末梢(まっしょう)に、感ぜられるともなく感ぜられるばかりだった。すべての現象がてんでんばらばらに互いの連絡なく散らばってしまった。その中で君の心だけが張りつめて死のほうへとじりじり深まって行こうとした。重錘(おもり)をかけて深い井戸に投げ込まれた灯明のように、深みに行くほど、君の心は光を増しながら、感じを強めながら、最後には死というその冷たい水の表面に消えてしまおうとしているのだ。  君の頭がしびれて行くのか、世界がしびれて行くのか、ほんとうにわからなかった。恐ろしい境界に臨んでいるのだと幾度も自分を警(いまし)めながら、君は平気な気持ちでとてつもないのんきな事を考えたりしていた。そして君は夜のふけて行くのも、寒さの募るのも忘れてしまって、そろそろと山鼻のほうへ歩いて行った。 你异常冷静刺痛地冰冷到了心底。你眼前的世界霎时完全失去了表情,变成了一堆僵硬寒冷、没有慈悲的堆积物。在无边无际的唯一的荒废——中,只有你在呼吸。不能忍受的凄凉和恐怖的荒废在你的周围扩展开来,没有波涛的声音,没有星星的闪耀,就像梦中的事件在你的遥远的知觉末梢,不用感觉也能感觉到。所有的现象各自散落,毫无关联。在那里,只有你的心一步一步脆弱地逼近了死亡,就像挂着秤砣被投入深井的供灯一样,越是去到深处,你的心越是增添了光辉越是感受强烈,最后几乎消失在死亡这个冰冷的水面上。 你全然闹不清楚是你的头脑麻木了呢还是世界麻木了呢?你一边无数次告诫自己面临着可怕的境界,一边又以平静的心态思考着丧失理智,漫不经心的事情。你忘掉了夜色深沉,寒冷加剧,慢慢地向山峦突出的地方走去。 脚下是又深又黑的海滨悬崖,远处的波浪在鸣响。  足の下遠くぱ忆氦姢à撇à芜h音が響いて来る。  ただ一飛びだ。それで煩悶(はんもん)も疑惑もきれいさっぱり帳消しになるのだ。  「家(うち)の者たちはほんとうに気が違ってしまったとでも思うだろう。‥‥頭が先にくだけるかしらん。足が先に折れるかしらん」  君はまたたきもせずにぼんやり崖(がけ)の下をのぞきこみながら、他人の事でも考えるように、そう心の中でつぶやく。  不思議なしびれはどんどん深まって行く。波の音なども少しずつかすかになって、耳にはいったりはいらなかったりする。君の心はただいちずに、眠り足りない人が思わず瞼(まぶた)をふさぐように、崖(がけ)の底を目がけてまろび落ちようとする。あぶない‥‥あぶない‥‥他人の事のように思いながら、君の心は君の肉体を崖(がけ)のきわからまっさかさまに突き落とそうとする。  突然君ははね返されたように正気に帰って後ろに飛びすざった。耳をつんざくような鋭い音響が君の神経をわななかしたからだ。 只要纵身一跳,由此带来的烦恼、疑惑就将彻底地一笔勾销。 “家里人也许认为我真的发疯了。……说不定头先着地,也说不定是腿先被折断。 你的眼睛眨也不眨,茫然向着悬崖下面望去,就像在琢磨他人的事情,你在心中嘟噜道。 不可思议的麻木迅速加深下去。波涛的声音一点点变小,耳畔已经听不见了。在你的心里,你完全变成了睡眠不足那样茫然的人不由得闭上双眼,要向悬崖的深底滚落下去。危险……,危险……,你像在考虑他人的事情,你的心里要把你的肉体从悬崖边倒栽下去。 就在这一刹那,你突然清醒过来向后退去,因为刺破耳鼓的尖锐声响使你的神经颤栗了。  ぎょっと驚いて今さらのように大きく目を見張った君の前には平地から突然下方に折れ曲がった崖の縁(へり)が、地球の傷口のように底深い口をあけている。そこに知らず知らず近づいて行きつつあった自分を省みて、君は本能的に身の毛をよだてながら正気になった。  鋭い音響は目の下の海産物製造会社の汽笛だった。十二時の交代時間になっていたのだ。遠い山のほうからその汽笛の音はかすかに反響(こだま)になって、二重にも三重にも聞こえて来た。  もう自然はもとの自然だった。いつのまにか元どおりな崩壊したようなさびしい表情に満たされて涯(はて)もなく君の周囲に広がっていた。君はそれを感ずると、ひたと底のない寂寥(せきりょう)の念に襲われだした。男らしい君の胸をぎゅっと引きしめるようにして、熱い涙がとめどなく流れ始めた。君はただひとり真夜中の暗やみの中にすすり上げながら、まっ白に積んだ雪の上にうずくまってしまった、立ち続ける力さえ失ってしまって。 你吓了一跳,仿佛如梦初醒似地瞠目结舌。在你的面前,从平地往下有一个陡直崎岖的悬崖边沿,就像是地球的创口,张着幽深的大嘴。回想茫然靠近那儿的自己,你本能地毛骨悚然,恢复了理智。 尖锐的声响是下面海产制造公司的汽笛,那是午夜转钟交接班时间。远山微弱地播扬着汽笛的回音,听起来好像在一遍遍地鸣叫。 自然还是原来的自然,不知什么时候又充满了先前崩溃那样的凄然表情,无尽地弥漫在你的周围。你刚一感到它就立刻被带入无底的寂寥的观念里。你猛然收紧男子汉刚强的胸膛,热泪开始无休止地流下来。你独自一人在午夜的黑暗中一边啜泣一边蹲在雪白的积雪上,连站立的力气也没有了。
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