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楼主 |
发表于 2005-12-22 17:20:52
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画材屋で買い物を済ませ、、店を出たところでばったり芽実とはちあわせた。向こうは珍しく学校の帰りだった。ぼくは間に入りジョバンナに芽実を紹介したが、芽実のことを恋人と紹介しなかったのはぼくの失敗だった。彼女のことを友達といったのが芽実の機嫌を損ねさせる原因となった。先生には芽実の気の強さが分かるようで、自分に対して向けられた嫉妬心を回避するように、
「用事を思い出したので、私はここから一人で行くわ。ジュンセイ、それを工房に届けておいてくれたら、今日は上がって構わないわよ」
と言った。芽実さん、今度ゆっくり三人でご飯でも食べましょう。先生はそう付け足すとぼくたちに背中を向けた。二人きりになると芽実はぼくをそこにおいて、先生とは反対の方向へと歩き出してしまった。
「どうして君はそんなに子供なんだい」
追いかけ、彼女の横顔に向かって説得するように告げると、芽身は勢いよく振り返り声を浴びせた。
「子供なのは、君じゃない。どうしてぼくの恋人ですってちゃんと紹介できないのよ。何よ友達って、私はいつから君のただの友達になったの。ねえ、いつから。ここはイタリアなんだからね。気を使う必要ないじゃない。いくら先生だからって、本人を前に友達呼ばわりは失礼だわ。君が逆の立場だったら、どうかしら。順正はわたしのただの友達なんですよって……。酷すぎる。最低。君がそんな卑怯な男だとは思わなかった。」
ぼくは、画材の詰まった袋を抱えなおすとさっさと歩き出した芽実を慌てて追いかけた。すれ違う人々がそんなぼくたちに微笑を投げてくる。振り返ると遠くに先生の後姿が見える。先生には聞こえないとは思うが、気が気ではない。
「みんな見てるから、あんまり大きな声を出さないの」
「何でそこで日本の男になるの、大きな声を出させているのは君でしょ」
何を言っても無駄だった。仕方なく、ぼくは一人でカッカする芽実の後を黙ってついていくしかなかった。
あおいと交際していた頃、芽実のようになるのはいつもぼくの方だった。あおいは感情を剥き出しにするようなことはなかった。いつも、どんなことがあっても誰より冷静だった。
あの頃のぼくは芽実ほどひどくはないにしても、男としてまだ何も出来上がってはおらず、青臭かった。あおいが、改めて真剣に付き合ったに等しい女性だったので、力加減が分からず、力を込めすぎた。いつでも彼女に自分を見ていてほしかった。
かつてぼくは激しく嫉妬したことがある。あおいがぼくの知らない男子学生と文連ハウスの階段前で親しげに立ち話をしているのを目撃した直後のこと。ぼくがジョバンナといるところを目撃した芽実のような気持ちである。一瞬気まずい顔をあおいがしたような気がして、その瞬間からぼくの心は頑なになってしまった。
あおいはその男にぼくのことを、阿形君、と紹介し、相手のことを、武田君、と同じ調子で説明したのだった。すると男が、
「武田君なんて言い方されると照れるな、いつもの呼び方でいいのに」
と微笑んだ。男が去った後、ぼくは芽身に負けないくらい大きな声で、青いに当り散らした。あの男の子とを君はどんなに親しげに普段読んでいるんだろうな、と。
あおいは冷静を少しも崩さず、そんなぼくの嫉妬心を包み込むような微笑を口元に湛えて、 「彼とは幼なじみなんだもの」と低い声で告げるだけだった。
そういう一方的なけんかは絶えなかった。いつでもあおいは姉のような態度で、激しく嫉妬するぼくを宥めた。今思い返すと、あれでは長続きはしないはずだった。
ぼくは後悔している。でも時間は後戻りはしない。どんどん前へ、前へ突き進んでいくだけなのだ。ぼくは少しずつ離れていく芽実の背中を見ながら、小さいが途切れることのない嘆息を漏らすしかなかった。
ぼくと芽実はあてもなく古都フィレンツェの町中をさまよい歩いた後、アルノ川沿いにあるレストランに入った。窓際の席に向かい合って座ったが、芽実は相変わらず視線を合わせてはくれなかった。ワインを水のように飲み、酔いつぶれていっそうぼくに絡むつもりのようだった。それから、とても二人では食べきれない量の料理を注文した。
芽実は、まずキャベツと豆と香味野菜を古くなったパンと一緒に長時間に込んだリボッリータと呼ばれる料理を食べ、次に白インゲンのパスタを胃に流れ込み、最後に、代表的なトスカーナ料理の、小牛の胃袋のトマトに込み、トリッパ・アラ・フィオレンティーナを平らげてしまったのだった。とても女の子が普段食べる量ではないので、店員も目を丸くして芽実を見つめていた。
ぼくは途中で、いい加減にしたらどうだい、と小声で窘めたが、彼女はその忠告に耳を傾けるどころか、ぼくが何か言えば言うだけ向きになって、いっそう口の中にものを押し込む始末だった。
ワインもほとんど一人で一本近く空けてしまった芽実を、結局ぼくは担いで彼女のアパートまで送り届けなければならず、画材を左手に、芽実は右手で抱き支えて、すっかり暮れたフィレンツェの街を歩いたのだった。
それでも不思議なもので、何故かこんな子供のような芽実でも、嫌いになれなかった。どれほど彼女のことを好きか、自分でも計りかねていることは確かだったが、むしろ彼女が子供であればあるほど、あおいとは違った角度で、ぼくは芽身の中にかつての自分に似た匂いをかぐことができた。
芽身の温もりをぼくは右腕の内側に感じながら、彼女のアパートへと上がる坂道を登った。身体中から滲みしてくる汗も、決して不快ではなかった。誰かのためにこうして生きたことがなかった自分を少し反省するほどに、芽実は今のぼくにとって誰よりも人間らしい純朴な人なのだと理解できた。
アパートにはインスーがいた。ぼくはことのてん末を素早く彼女に告げ、二人で芽実をベッドに運んだ。最後の余力で暴れまわっていため実が眠りに落ちたとき、ぼくは彼女に対して、少し今までとは違う感情を持つことができた。それはなんと表現したらいいのだろう、まるで父親のような気持ち、とでも呼ぶべきか。
インスーが淹れてくれた紅茶を啜った後、ぼくは後のことをインスーに任せて、そこを出た。画材を抱えて登った坂道を、坂下から誰かに引っ張られるように下がった。初夏のさわやかな夜が雅川から吹き上げてきて、ぼくのシャツの中で膨らんだ。汗が少し抑えられて、ぼくはそこで初めて深々と呼吸をすることができた。 |
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