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楼主: shixinglan

[好书推荐] 窓際のトットちゃん(每日更新....全文完!)

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 楼主| 发表于 2006-4-7 18:30:58 | 显示全部楼层
校歌
  トットちゃんには、本当に、新しい驚きで、いっぱいの、トモエ学園での毎日が過ぎていった。
相変わらず、学校に早く行きたくて、朝が待ちきれなかった。そして、帰ってくると、犬のロッキーと、ママとパパに、「今日、学校で、どんなことをして、どのくらい面白かった」とか、「もう、びっくりしちゃった」とか、しまいには、ママが、
「話は、ちょっとお休みして、おやつにしたら?」
というまで、話をやめなかった。そして、これは、どんなにトットちゃんが、学校に馴れてもやっぱり、毎日ように、話すことは、山のように、あったのだった。
(でも、こんなに話すことがたくさんあるってことは、有難いこと)
と、ママは、心から、嬉しく思っていた。
ある日、トットちゃんは、学校に行く電車の中で、突然、
「あれ?オモエに校歌って、あったかな?」と考えた。そう思ったら、もう、早く学校に着きたくなって、まだ、あと二つも駅があるのに、ドアのところに立って、自由が丘に電車が着いたら、すぐ出られるように、ヨーイ・ドンの格好で待った。ひとつ前の駅で、ドアが開いたとき、乗り込もうとした、おばさんは、女の子が、ドアのところで、ヨーイ・ドンの形になってるので、降りるのか、と思ったら、そのままの形で動かないので、
「どうなっちゃってるのかね」
といいながら、乗り込んできた。
こんな具合だったから、駅に着いたときの、トットちゃんの早く降りたことといったら、なかった。若い男の車掌さんが、しゃれたポーズで、まだ、完全に止まっていない電車から、プラットホームに片足をつけて、おりながら、
「自由が丘!お降りの方は……」
といったとき、もう、トットちゃんの姿は、改札口から、見えなくなっていた。
学校に着いて、電車の教室に入ると、トットちゃんは、先に来ていた、山内泰二君に、すぐ聞いた。
「ねえ、タイちゃん。この学校って、校歌ある?」
物理の好きなタイちゃんは、とても、考えそうな声で答えた。
「ないんじゃないかな?」
「ふーん」
と、トットちゃんは、少し、もったいをつけて、それから、
「あったほうが、いいと思うんだ。前の学校なんて、すごいのが、あったんだから!」
といって、大きな声で歌い始めた。
「せんぞくいけはあさけれどいじんのむねをふかくくみ(洗足池は浅けれど、偉人の胸を深く汲み)」
これが、まえの学校の校歌だった。ほんの少ししか通わなかったし、一年生には、難しい言葉だったけど、トットちゃんは、ちゃんと、覚えていた。
(ただし、この部分だけだったけど)
聞き終わると、泰ちゃんは、少し感心したように、頭を二回くらい、軽く振ると、
「ふーん」
といった。その頃には、他の生徒も着ていて、みんなも、トットちゃんの、難しい言葉に尊敬と、憧れを持ったらしく、
「ふーん」
といった。トットちゃんは、いった。
「ねえ、校長先生に、校歌、作ってもらおうよ」
みんなも、そう思ったところだったから、
「そうしよう、そうしよう」
といって、みんなで、ゾロゾロ校長室に行った。
校長先生は、トットちゃんの歌を聞き、みんなの希望を聞くと、
「よし、じゃ、明日の朝までに作っておくよ」
といった。みんなは、
「約束だよ」
といって、また、ゾロゾロ教室に戻った。
さて、次の日の朝だった。各教室に、校長先生から、“みんな、校庭に集まるように”という、ことづけがあった。トットちゃん達は、期待でむねを、ワクワクさせながら校庭に集まった。校長先生は、校庭の真ん中に、黒板を運び出すと、いった。
「いいかい、君達の学校、トモエの校歌だよ」
そして黒板に、五線を書くと、次のように、オタマジャクシを並べた。
それから、校長先生は、手を指揮者のように、大きく上げると、
「さあ、一緒に歌おう!」
といって、手を振り下ろした。全校生徒、五十人は、みんな、先生の声に合わせて、歌った。
「トモエ、トモエ、トーモエ!」
「……これだけ?」
ちょっとした間があって、トットちゃんが聞いた。校長先生は、得意そうに答えた。
「そうだよ」
トットちゃんは、ひどく、がっかりした声で、先生に言った。
「もっと、むずかしいのが、よかったんだ。センゾクイケハアサケレドーみたいなの」
先生は、顔を真っ赤にして、笑いながらいった。
「いいかい?これ、いいと思うけどな」
結局、他の子供達も、
「こんなカンタンすぎるのなら、いらない」
といって、断った。先生は、ちょっと残念そうだったけど、別に怒りもしないで、黒板けしで、消してしまった。トットちゃんは、すこし(先生に悪かったかな)と思ったけど(ほしかったのは、もっと偉そうなヤツだったんだもの、仕方がないや)と考えた。\
本当は、、こんなに簡単で『学校を、そして子供たち』を愛する校長先生の気持ちがこもった校歌はなかったのに、子供達には、まだ、それが分からなかった。そして、その後、子供たちも校歌のことは忘れ、先生も要らないと思ったのか、黒板けしで消したまま、最後まで、トモエには、校歌って、なかった。
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 楼主| 发表于 2006-4-8 22:19:57 | 显示全部楼层
今日は、トットちゃんにとって、大仕事の日だった。どうしてかっていうと、いちばん大切にしてる、お財布を、トットちゃんは、学校のトイレに落としてしまったからだった。お金は、ぜんぜんはいっていなかったけど、トイレに持っていくくらい、大切なお財布だった。それは、赤とか黄色とか緑とかのチェックのリボン地で出来ていて、形は四角いペタンコで、三角形のベロ式の蓋がついていて、ホックのところに、銀色のスコッチ・テリアの形のブローチみたいのがついてる、本当に、しゃれたものだった。
だいたい、トットちゃんは、トイレに行って、用事が済んだ後、下をのぞきこむ、不思議なクセが、小さいときからあった。そのために、小学校に上がる前に、すでに、麦わらのとか、白いレースとかの帽子を、いくつも下に落としていた。今のように水洗いではなく、その頃は、汲み取り式で、下は水槽になっていたから、帽子はたいがい、そこに浮かんで、そのままになった。だから、ママは、いつも、「用事が済んでも、下を見ないこと!」と、トットちゃんに、いっていた。
それなのに、この日、学校が始まる前にトイレに行って、つい、見てしまったのだ。その途端持ち方が悪かったのか、その大切なお財布が、“ポチャン”と下に落ちてしまい、トットちゃんが、
「あーあ!!」
と悲鳴をあげたとき、したの暗やみの、どこにも、もうお財布は、見えなかった。
そこで、トットちゃんが、どうしたかって言うと、泣いたり、あきらめたりはしなくって、すぐ、小使いの小父さん(今の用務員さん)の物置に走っていった。そして、水まき用の、ひしゃくを、担いで持ってきた。まだ小さいトットちゃんには、ひしゃくの柄が,体の倍くらいあったけど、そんなこと、かまわなかった。トットちゃんは、学校の裏に回ると、汲み取り口を探した。トイレの外側の壁のあたりにあるかと思ったけど、どこにもないので、随分さがしたら壁から一メートルぐらい離れた、地面に、丸いコンクリートの蓋があり、それが、どうやら、汲み取り口らしいと、トットちゃんは判断した。やっとこ、それを動かすと、ポッカリ穴が開いて、そこは、紛れもなく、汲み取り口だった。頭を突っ込んで、のぞいてから、トットちゃんは、いった。
「なんだか、九品仏の池くらい大きい」
それから、トットちゃんの、大仕事が始まった。ひしゃくを中に、突っ込んで、汲み出し始めたのだった。初めは、だいたい落ちた方向のあたりをしゃくったけれど、何しろ、深いのと、暗いのと、上は三つのドアで区切ってあるトイレが、下はひとつの池になっているのだから、かなりの大きさだった。そして、頭を突っ込み過ぎると、中に落ちそうになるので、何でもいいから、汲むことにして、汲み出したものは、穴の周りに、つみあげた。勿論、一しゃくごとに、お財布が、混じってないか、検査をした。(すぐあるか)と思ったのに、どこに隠れたのか、お財布は、ひしゃくの中に入ってこない。そのうち、授業の始まるベルの鳴るのが聞こえてきた。
(どうしようかな?)
と、トットちゃんは考えたけど、
(せっかく、ここまで、やったんだもの)
と、仕事を続けることにした。その代わり、前より、もっと、頑張って、汲んだ。
かなりの山が出来たときだった。校長先生が、トイレの裏道を通りかかった。先生は、トットちゃんのやってることを見て、聞いた。
「なにしてんだい?」
トットちゃんは、手を休める時間もおしいから、ひしゃくを、突っ込みながら答えた。
「お財布、落としたの」
「そうかい」
そういうと、校長先生は、手を、体のうしろに組んだ、いつもの散歩の恰好で、どっかに行ってしまった。
それから、また、しばらくの時間が経った。お財布は、まだ見つからない。山は、どんどん、大きくなる。
その頃、また校長先生が通りかかって聞いた。
「あったかい?」
汗びっしょりで、真っ赤なほっぺたのトットちゃんは、山に囲まれながら、「ない」と答えた。先生は、トットちゃんの顔に、少し、顔を近づけると、友達のような声で、いった。
「終わったら、みんな、もどしとけよ」
そして、また、さっきと同じように、どっかに歩いていった。
「うん」
と、トットちゃんは元気に答えて、また仕事に取り掛かったけど、ふと、気がついて、山を見た。
「終わったら、全部戻すけど、水のほうは、どうしたらいいのかなあ?」
本当に、水分のほうは、どんどん地面に吸い込まれていて、この形は、もうなかった。トットちゃんは、働く手を止めて、地面に、しみてしまった水分を、どうしたら、校長先生との約束のように、戻せるか、考えてみた。そして、結論として、(しみてる土を、少し、もどしておけば、いい)と決めた。
結局、うずたかく山が出来て、トイレの池は、ほとんどからになったというのに、あのお財布はとうとう出て来なかった。もしかすると、ヘリとか、底に、ぴったり、くっついていたのかも知れなかった。でも、もうトットちゃんには、なくても、満足だった。自分で、これだけ、やってみたのだから。本当は、その満足の中に、『校長先生が、自分のしたことを、怒らないで、自分のことを信頼してくれて、ちゃんとした人格を持った人間として、扱ってくれた』ということがあったんだけど、そんな難しいことは、トットちゃんには、まだ、わからなかった。
普通なら、このトットちゃんの、してる事を見つけた時、「なんていうことをしてるんだ」とか「危ないから、やめなさい」と、たいがいの大人は、いうところだし、また、反対に、「手伝ってやろうか?」という人もいるに違いなかった。それなのに、
「終わったら、みんな、もどしておけよ」
とだけ言った校長先生は、(なんて、素晴らしい)と、ママは、この話をトットちゃんから聞いて思った。
この事件以来、トットちゃんは“トイレに入ったとき、絶対に下を見なくなった”。それから校長先生を、“心から信頼できる人”と思ったし、“前よりももっと先生を好き”になったのだった。
トットちゃんは、校長先生との約束どおり、山を崩して、完全に、元のトイレの池に、もどした。汲むときは、あんなに大変だったのに、戻すときは早かった。それから、水分のしみこんだ土も、ひしゃくで削って、少し、もどした。地面を平らにして、コンクリートの蓋を、キチンと、元の通りにして、ひしゃくも、物置に返した。
その晩、眠る前に、トットちゃんは、暗やみに落ちていく、きれいなお財布の姿を思い出して、やっぱり(なつかしい)と考えながら、昼間の疲れで、早く、眠くなった。
その頃、トットちゃんが奮闘したあたりに地面は、まだ濡れていて、月の光の下で、美しいもののように、キラキラ光っていた。
お財布も、どこかで、静かにしているに違いなかった。
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 楼主| 发表于 2006-4-9 11:13:02 | 显示全部楼层
トットちゃんの本当の名前は「徹子」という。どして、こういう名前になったのかというと、生まれて来るとき、親戚の人や、ママやパパの友達たち、みんなが、
「男の子に違いない!」
とか、いたものだから、初めて子供を持つパパとママが、それを信用して、
「徹」
と決めた。そしたら、女の子だったので、少しは困ったけど、「徹」の字が、二人も気に入っていたから、くじけずに、それに早速、「子」をつけて、「徹子」としたのだった。
 そんな具合で、小さいときから、周りの人は、「テツコちゃん」と呼んだ。ところが、本人は、そう思っていなくて、誰かが、
「お名前は?」
と聞くと、必ず、
「トットちゃん!」
と答えた。小さいときって、口が回らない、ってことだけじゃなくて、言葉をたくさん、知らないから、人のしゃべってる音が、自分流に聞こえちゃう、ってことがある。トットちゃんの幼馴染みの男の子で、どうしても、「石鹸のあぶく」が、「ちぇんけんのあぶけ」になっちゃう子や、「看護婦さん」のことを、「かんごくさん」といっていた女の子がいた。そんなわけで、トットちゃんは、
 「テツコちゃん、テツコちゃん」と呼ばれるのを、
「トットちゃん、トットちゃん」
と思い込んでいたのだった。おまけに、「ちゃん」までが、自分の名前だと信じていたのだった。そのうち、パパだけは、いつ頃からか、
「トット助」
と呼ぶようになった。どうしてだかは、分からないけど、パパだけは、こう呼んだ。
「トット助!バラの花についてるそう鼻虫を取るの、手伝ってくれない?」
というふうに。結局、小学生になっても、パパと、犬のロッキー以外の人は、
「トットちゃん」
と呼んでくれたし、トットちゃんも、ノートには、
「テツコ」
と書いたけど、本当は、「トットちゃん」だと、思っていた。
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 楼主| 发表于 2006-4-9 11:13:51 | 显示全部楼层
トットちゃんは、昨日、とても、がっかりしてしまった。それは、ママ
「もう、ラジオで落語を聞いちゃダメよ」
と、いったからだった。
トットちゃんの頃のラジオは、大きくて、木で出来ていた。だいたいが、縦長の四角で、てっぺんが、丸くなっていて、正面はスピーカーになってるから、ピンクの絹の布などが張ってあり、真ん中に、からくさの彫刻があって、スイッチが二つだけ、ついている、とても優雅な形のものだった。学校に入る前から、そのラジオのピンクの部分に、耳を突っ込むようにして、トットちゃんは、落語を聞くのが好きだった。落語は、とても面白いと思ったからだった。そして昨日までは、ママも、トットちゃんが落語を聞くことについて、何も言わなかった。
ところが、昨日の夕方、弦楽四重奏の練習のために、パパのオーケストラの仲間が、トットちゃんの家の応接間に集まったときだった。チェロの橘常定さんが、トットちゃんに、
「バナナを、おみやげに持ってきてくださった」
とママが入ったので、トットちゃんは、大喜びのあまり、こんな風に言ってしまったのだ。つまり、トットちゃんは、バナナをいただくと、丁寧に、お辞儀をしてから、橘さんに、こういった。
「おっ母あ、こいつは、おんのじだぜ」

それ以来、落語を聞くのは、パパとママが留守のとき、秘密に、ということになった。噺家が上手だと、トットちゃんは、大声で笑ってしまう。もし、誰か大人が、この様子を見ていたら、「よく、こんな小さい子が、この難しい話で笑うな」と思ったかも知れないけど、実際の話、子供は、どんなに幼く見えても、本当に面白いものは、絶対に、わかるのだった。
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 楼主| 发表于 2006-4-9 16:54:01 | 显示全部楼层
今日、学校の昼休みに、
「今晩、新しい電車、来るわよ」
と、ミヨちゃんが、いった。ミヨちゃんは、校長先生の三番目の娘で、トットちゃんと同級だった。
教室用の電車は、すでに、校庭に六台、並んでいたけれど、もう一台、来るという。しかも、それは、「図書室用の電車」ミヨちゃんは、教えてくれた。みんな、すっかり興奮してしまった。そのとき、誰かが、いった。
「どこを走って学校に来るのかなあ……」
これは、すごい疑問だった。
ちょっと、シーン、としてから誰かがいった。
「途中まで、大井町線の線路を走って来て、あそこの踏切から、外れて、ここに来るんじゃないの?」
すると、誰かが言った。
「そいじゃ、脱線みたいじゃないか」
もうひとりの誰かが言った。
「じゃ、リヤカーで運ぶんじゃないかな?」
すると、すぐ誰かが言った。
「あんなに大きな電車が、乗っかるリヤカーって、ある?」
「そうか……」
と、みんなの考えが止まってしまった。確かに、今の国電の車輌一台分が乗るヤリカーもトラックだって、ないように思えた。
「あのさ……」
と、トットちゃんは、考えたあげくに、いった。
「路線をさ、ずーっと、学校まで敷くんじゃないの?」
誰かが聞いた。
「どこから?」
「どこからって、あのさ、今、電車が、いるところから……」
トットちゃんは、いいながら、(やっぱり、いい考えじゃなかった)と思った。
だって、どこに電車があるのか、分からないし、家やなんかを、ぶっこわして、まっすぐの線路を、学校まで敷くはず、ないもの、と思ったからだった。
それから、しばらくの間、みんなで、「ああでもない」「こうでもない」と、いいあった結果、とうとう、
「今晩、家に帰らないで、電車が来るところを、見てみよう」
ということになった。代表として,ミヨちゃんが,お父さんである校長先生に、夜まで、みんなが学校にいてもいいか、聞きに行った。しばらくして、ミヨちゃんは、帰って来ると、こういった。
「電車が来るの、夜、うんと遅くだって。走ってる電車が終わってから。でも、どうしても見たい人は、一回、家に帰って、家の人に聞いて、“いい”といわれたら、パジャマと、毛布を持って晩御飯食べてから、学校にいらっしゃいって!」
「わーい!!」
みんなは、さらに興奮した。
「パジャマだって?」
「毛布だって?」
その日の午後は、もう、みんな、勉強してても、気が気じゃなかった。放課後、トットちゃんのクラスの子は、みんな、弾丸のように、家に帰ってしまった。お互いに、パジャマと毛布を持って集まれる幸運を祈りながら……。\
家に着くなり、トットちゃんは、ママに言った。
「電車が来るの、どうやって来るか、まだ、わかんないけど。パジャマと、毛布。ねえ、行っても、いいでしょう?」
この説明で、事情のわかる母親は、まず、いないと思うけど、トットちゃんのママも、意味は、わからなかった。でも、トットちゃんの真剣な顔で、(何か、かなり変わったことが起きるらしい)と察した。
ママは、いろいろと、トットちゃんに質問した。そして、とうとう、どういう話なのか、これから、何が起きようとしているのか、よく、わかった。そして、ママは、そういうのを、トットちゃんが見ておく機会は、そうないのだかたら、見ておくほうがいいし、
(私も見たいわ)
と思ったくらいだった。
ママは、トットちゃんのパジャマと毛布を用意すると、晩御飯を食べてから、学校まで、送っていった。
学校に、集まったのは、噂を聞きつけた上級生も少しいて、全部で、十人くらいだった。トットちゃんのままの他にも、二人くらい、送ってきたお母さんがいて、“見たそう”にしてたけど校長先生に、子供たちをお願いして、帰っていった。
「来たら、起こしてあげるよ」
と、校長先生に言われて、みんな講堂に、毛布に包まって、寝ることになった。
(電車が、どうやって運ばれるのか、それを考えると、夜も寝られない)とも思ったけど、それまでの興奮で、疲れてきて、
「絶対に起こしてよ」
といいながら、だんだん、みんな、眠くなって、とうとう、寝てしまった。
「来た!来た!」
ガヤガヤ言う声で、トットちゃんは、飛び起きて、校庭から門の外のところまで走って行った。ちょうど、朝もやの中に、電車が、大きな姿を現したところだった。なんだか、まるで夢みたいだった。線路のない、普通の道を、電車が、音もなく、走ってきたのだもの。
この電車は、大井町の操車場から、トラクターで、運ばれてきたのだった。トットちゃんたちは自分達の知らなかった、この、リヤカーより大きいトラクターというものの存在を知って、そのことにも感動した。
この大きなトラクターで、誰もいない朝の町を、ゆっくりと、電車は、運ばれて来たのだった。\
ところが、それからが大騒ぎだった。まだ大型クレーンなど、ない時代だったから、電車をトラクターから、下ろすというか、はずして、決められた校庭の隅に、移すというのが、大変な作業だったのだ。運んできたお兄さん達は、太い丸大を、何本も電車の下に敷いて、少しずつ、その上を、転がすようにして、電車を、トラクターから、校庭へと下ろしていった。
「よく見ていなさい。あれは、コロといって、転がす力を応用して、あんな大きな電車を動かすんだよ」
校長先生は、子供たちに説明した。
子供たちは真剣に、見物した。
お兄さん達の、「よいしょ、よししょ」の声に、合わすように、朝の光が、のぼり始めた。
たくさんの人達を乗せて,忙しく働いてきた,この電車は、すでに、この学校に来ている他の六台の電車と同じように、車輪かはずされていて、もう走る必要もなく、これから、子供たちの笑い声や叫び声だけをのせて、のんびりすれば、いいのだった。
子供たちは、パジャマ姿で、朝日の中にいた。そして、この現場に居合わせたことを、心から幸福に思った。あんまり、嬉しいので、次々に、校長先生の肩や腕に、ぶら下がったり飛びついたりした。
校長先生は、よろけながら、嬉しそうに笑った。校長先生の笑う顔を見ると、子供たちも、また、嬉しくなって笑った。誰も彼もが笑った。
そして、このとき笑ったことを、みんなは、いつまでも、忘れなかった。
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 楼主| 发表于 2006-4-10 19:19:58 | 显示全部楼层
 
トットちゃんにとって。今日は記念すべき日だった。というのは、生まれて初めて、プールで泳いだのだから。しかも、裸んぼで。
 今日の朝のことだった、校長先生が、みんなにいった。
「急に暑くなったから、プールに水を入れようと思うんだ!」
「わーい」
と、みんな、飛び上がった。一年生のトットちゃん達も、もちろん、
「わーい」
といって、上級生より、もっと、飛び上がった。トモエのプールは、普通のみたいに四角じゃなくて、(地面の関係から、らしかったけど)先のほうが、少し細かくなってるボールみたいな形だった。でも、大きくて、とても立派だった。場所は、教室と講堂の、ちょうど、あいだにあった。
 トットちゃん達は、授業中も、気になって、何度も電車の窓からプールを見た。水が入っていないときのプールは、枯れた葉っぱの運動場みたいだったけど、お掃除して、水が入り始めると、それは、はっきりと、プールとわかった。
 いよいよ、お昼休みになった。みんなが、プールの周りに集まると、校長先生が言った。
「じゃ、体操してから、泳ごうか?」
トットちゃんは考えた。
(よくわかんないけど、普通泳ぐときって、海水着って言うの、着るんじゃないの?もうせん、パパとママと鎌倉に行ったとき、海水着とか、浮袋とか、いろんなもの、持っていったんだけど……今日、持って来るように、って先生言ったかなあ?……)
 すると、校長先生は、トットちゃんの考えれることが、わかったみたいに、こういった。
「水着の心配は、いらないよ。講堂に行ってごらん?」
 トットちゃんと他の一年生が走って講堂に行ってみると、もう大きい子供達が、キャアキャア叫びながら、洋服を脱いでるところだった。そして、脱ぐと、お風呂に入るときと同じように裸んぼで、校庭に、次々と、飛び出して行く。トットちゃん達も、急いで脱いだ。熱い風が吹いていたから、裸になると気持ちがよかった。はだしで、階段を、駆け降りた。
 水泳の先生は、ミヨちゃんのお兄さん、つまり、校長先生の息子で、たいそうの専門家だった。でも、トモエの先生ではなくて、よその大学の水泳の選手で、名前は、学校と同じ、ともえ(巴)さん、といった。トモエさんは、海水着を着ている。
 体操をして、体に水をかけてもらうと、みんな、「キィー!」とか、「ヒャー!」とか、「ワハハハ」なんて、いろんな声を出しながら、プールに、とびこんだ。トットちゃんも、少し、みんなの入るを見て、背が立つとわかってから、入ってみた。お風呂は、お湯だけど、プールは、水だった。でも、プールは大きくて、どんなに手を伸ばしても、どこまでも、水だった。
 細っこい子も、少しデブの子も、男の子も女の子も、みんな、生まれたまんまの姿で、笑ったり、悲鳴をあげたり、水にもぐったりした。トットちゃんは、
「プールって、面白くて、気持ちがいい」
と考え、犬のロッキーが、一緒に学校に来られないのを、残念に思った。だって、海水着を着なくてもいい、ってわかったら、きっとロッキーも、プールに入って、泳ぐのにさ。
 校長先生が、なぜ、海水着なしで泳がしたか、って言えば、それに別に、規則ではなかった。だから、海水着を持って来た子は、来てもよかったし、今日みたいに、急に「泳ごうか?」となった日は、用意もないから、裸でかまわなかった。で、なぜ裸にしたか、といえば、「男の子と女の子が、お互いに体の違いを、変な風に詮索するのは、よくないことだ」ということと、「自分の体を無理に、他の人から、隠そうとするのは、自然じゃない」、と考えたからだった。
 (どんな体も美しいのだ)
 と校長先生は、生徒達に教えたかった。トモエの生徒の中には、泰明ちゃんのように、小児麻痺の子や、背が、とても小さい、というような、ハンディキャップを持った子も、何人かいたから、裸になって、一緒に遊ぶ、ということが、そういう子供達の羞恥心を取り除き、ひいては、劣等意識を持たさないのに役立つのではないか、と、校長先生は、こんなことも考えていたのだった。そして、事実、初めは恥ずかしそうにしていたハンディキャップを持っている子も、そのうち平気になり、楽しいことのほうが先にたって、「恥ずかしい」なんて気持ちは、いつのまにか、なくなっていた。
 それでも、生徒の家族の中には、心配して、「必ず着るように!」と言い聞かせて、海水着を持たす家もあった。でも、結局は、トットちゃんみたいに、初めから、(泳ぐのは裸がいい)、と決めた子や、「海水着を忘れた」といって、泳いでいる子を見ると、そのほうがいいみたいで、一緒に裸で泳いでしまって、帰るときに、大騒ぎで、海水着に水をかけたり、ということになるのだった。そんなわけで、トモエの子供達は、全身、真っ黒に陽焼けしちゃうから、海水着を跡が白く残ってる、ってことは、たいがい、なかった。
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 楼主| 发表于 2006-4-11 19:55:08 | 显示全部楼层
トットちゃんは、今、ランドセルをカタカタいわせながら、わき見もしないで、駅から家に向かって走っている。ちょっと見たら、重大事件が起こったのか、と思うくらい。学校の門を出てから、ずーっと、トットちゃんは、こうだった。
 家に着いて、玄関の戸を開けると、トットちゃんは、
 「ただいま」
 といってから、ロッキーを探した。ロッキーは、ベランダに、お腹をぺったりとつけて、涼んでいた。トットちゃんは、黙って、ロッキーの顔の前に座ると、背中からランドセルを卸し、中から、通信簿を取り出した。それは、トットちゃんが、始めてもらった、通信簿だった。トットちゃんは、ロッキーの目の前に、よく見えるように、成績のところを開けると、
 「見て?」
 と、少し自慢そうにいった。そこには、甲とか乙とか、いろんな字が書いてあった。最もトットちゃんにも、甲より乙のほうがいいのか、それとも、甲のほうがいいのか、そういうことは、まだ、わからなかったのだから、ロッキーにとっては、もっと難しいことに違いなかった。でも、トットちゃんは、この、初めての通信簿を、誰よりも先にロッキーに見せなきゃ、と思ってたし、ロッキーも、きっと、喜ぶ、と思っていた。
 ロッキーは、目の前の紙を見ると、においをかいで、それから、トットちゃんの顔を、じーっと見た。トットちゃんは、いった。
 「いいと思うでしょ?ちょっと漢字が多いから、あんたには、難しいとこも、あると思うけど」
 ロッキーは、もう一度、紙を、よく眺める風に頭を動かして、それから、トットちゃんの手を、なめた。
 トットちゃんは、立ち上がりながら、満足気名調子で言った。
 「よかった。じゃ、ママたちに見せてくる」
 トットちゃんが行っちゃうと、ロッキーは、もう少し涼しい場所を探すために、起き上がった。そして、ゆっくり、すわると、目を閉じた。それは、トットちゃんじゃなくても、ロッキーが通信簿について考えている、と思うような、目の閉じ方だった。
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发表于 2006-4-11 20:51:43 | 显示全部楼层
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 楼主| 发表于 2006-4-11 21:25:00 | 显示全部楼层
 「明日、テントを張って、野宿をします。毛布とパジャマを持って、夕方、学校に来てください」
 こういう校長先生からの手紙を、トットちゃんは、学校から持って帰って、ままに見せた。明日から、夏休み、という日のことだった。
 「野宿って、なあに?」
 トットちゃんは、ママに聞いた。ママも、考えていたところだったけど、こんな風に答えた。
 「とっか、外にテントを張って、その中に寝るんじゃないの?テントだと、寝ながら、星とかお月様が見られるのよ。でも、どこにテントを張るのかしらね。交通費っていうのがないから、きっと学校の近くよ」
その夜、ベッドに入っても、トットちゃんは、野宿のことを考えると、ちょっと、怖いみたいな、ものすごく冒険みたいな、なんかドキドキする気持ちで、いつまでも、眠くならなかった。

次の日、目が覚めると、もう、トットちゃんは、荷物を作り始めた。そして、パジャマを入れたリュックの上に、毛布を乗せてもらうと、少し、つぶされそうになりながら、夕方、ママとパパにバイバイをすると、出かけていった。\
学校にみんなが集まると、校長先生は、
「みんな講堂においで」
といい、みんなが講堂に集まると、小さいなステージの上に、ゴワゴワしたものを、持って上がった。それは、グリーン色のテントだった。先生は、それを広げると、いった。
「これから、テントの張り方を教えるから、よく見てるんだよ」
そして、先生は、一人で、“ふんふん”いいながら、あっちの紐をひっぱったり、こっちに柱を建てたりして、あっ、という間に、とてもステキな三角形のテントを張ってしまった。そして、いった。
「いいかい。これから君達は、みんなで講堂に、たくさん、テントを張って、野宿だ!」
ママは、たいがいの人が考えるように、外のテントを張るのだと思ったのだけれど、高校先生の考えは、違っていた。
“講堂なら、雨が降っても、少々、夜中に寒くなっても、大丈夫!”
子供たちは、一斉に「野宿だ!野宿だ!」と叫びながら、何人かずつ、組になり、先生達にも手伝ってもらって、とうとう、講堂の床に、みんなの分だけのテントを張ってしまった。ひとつのテントは、三人くらいずつ寝られる大きさだった。トットちゃんは、はやばやと、パジャマになると、あっちもテント、こっちょのテントと、入り口から、はいずって、出たり入ったり、満足のいくまでした。みんなも同じように、よそのテントを訪問しあった。
全部が、パジャマになると、校長先生は、みんなが見える、真ん中に座って、先生が旅をした外国の話しをしてくれた。
子供達は、テントから首を半分だした寝転んだ形や、きちんと、座ったり、上級生の膝に、頭を持たせかけたりしながら、行ったことは勿論、それまで見たことも、聞いたこともない外国の話しを聞いた。先生の話はめずらしく、ときには、海の向こうの子供達が、友達のように思えるときも、あった。
そして、たったこれだけのことが……講堂にテントを張って、寝ることが……子供たちにとっては、一生、忘れることの出来ない、楽しくて、貴重な経験になった。校長先生は、確実に、子供たちの喜ぶことを知っていた。
先生の話が終わり、行動の電気が消えると、みんなは、ゴソゴソと、自分のテントの中に入った。
あっちのテントからは、笑い声が……、こっちのテントからは、ヒソヒソ声が、それから、向こうのテントでは、取っ組み合いが……。それもだんだんと静かになっていった。
星も月もない野宿だったけど、心のそこから満足した子供たちが、小さい講堂で、野宿をしていた。
そして、その夜、たくさんの星と、月の光は、講堂を包むように、いつまでも、光っていたのだった。
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 楼主| 发表于 2006-4-13 18:54:43 | 显示全部楼层
谢谢鼓励!
昨天上不了网,没有贴。抱歉!!
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 楼主| 发表于 2006-4-13 19:16:39 | 显示全部楼层
 講堂での野宿の次の次の日、とうとう、トットちゃんの大冒険の日が来た。それは、泰明ちゃんとの約束だった。そして、その約束は、ママにもパパにも、泰明ちゃんの家の人にも、秘密だった。その約束が、どういうのか、というと、それは、「トットちゃんの木に、泰明ちゃんを招待する」というものだった。トットちゃんの木、といっても、それはトモエの校庭にある木で、トモエの生徒は、校庭のあっちこっちに自分専用の、登る木を決めてあったので、トットちゃんのその木も、校庭の端っこの、九品仏に行く細い道に面した垣根のところに生えていた。その木は、太くて、登るときツルツルしていたけど、うまく、よじ登ると、下から二メートルくらいのところが、二股になっていて、その、またのところが、ハンモックのように、ゆったりとしていた。トットちゃんは、学校の休み時間や、放課後、よく、そこに腰をかけて、遠くを見物したり、空を見たり、道を通る人たちを眺めたりしていた。
 そんなわけで、よその子に登らせてほしいときは、
「ごめんくださいませ。ちょっとお邪魔します」
という風にいって、よじ登らせてもらうくらい、“自分の木”って、決まっていた。
でも、泰明ちゃんは、小児麻痺だったから、木に登ったことがなく、自分の木も、決めてなかった。だから、今日、トットちゃんは、その自分の木に、泰明ちゃんを招待しようと決めて、泰明ちゃんと、約束してあったのだ。トットちゃんが、みんなに秘密にしたのは、きっと、みんなが反対するだろう、と思ったからだった。トットちゃんは、家をでるとき、
 「田園調布の、泰明ちゃんの家に行く」
 とママに言った。嘘をついてるので、なるべくママの顔を見ないで、靴のヒモのほうを見るようにした。でも、駅までついてきたロッキーには、別れるとき、本当のことを話した。
「泰明ちゃんを、私の木に登らせてあげるんだ!」
トットちゃんが、首からヒモで下げた定期をバタバタさせて学校に着くと、泰明ちゃんは、夏休みで誰もいない校庭の、花壇のそばに立っていた。泰明ちゃんは、トットちゃんより、一歳、年上だったけど、いつも、ずーっと大きい子のように話した。
 泰明ちゃんは、トットちゃんを見つけると、足を引きずりながら、手を前のほうに出すような恰好で、トットちゃんのほうに走って来た。トットちゃんは、誰にも秘密の冒険をするのだ、と思うと、もう嬉しくなって、泰明ちゃんんの顔を見て、
 「ヒヒヒヒヒ」
 と笑った。泰明ちゃんも、笑った。それからトットちゃんは、自分の木のところに、泰明ちゃんを連れて行くと、ゆうべから考えていたように、小使いの小父さんの物置に走っていって、立てかける梯子を、ズルズルひっぱって来て、それを、木の二股あたりに立てかけると、どんどん登って、上で、それを押さえて、
 「いいわよ、登ってみて?」
 と下を向いて叫んだ。でも泰明ちゃんは、手や足の力がなかったから、とても一人では、一段目も登れそうになかった。そこで、トットちゃんは、物凄い早さで、後ろ向きになって梯子を降りると、今度は、泰明ちゃんのお尻を、後ろから押して、上に乗せようとした。ところが、トットちゃんは、小さくて、やせている子だったから、泰明ちゃんのお尻を押さえるだけが精いっぱいで、グラグラ動く梯子を押さえる力は、とてもなかった。泰明ちゃんは、梯子にかけた足を降ろすと、だまって、下を向いて、梯子のところに立っていた、トットちゃんは、思っていたより、難しいことだったことに、初めて気がついた。
 (どうしよう……)
 でも、どんなことをしても、泰明ちゃんも楽しみにしている、この自分の木に、登らせたかった。トットちゃんは、悲しそうにしている泰明ちゃんの顔の前にまわると、頬っぺたを膨らませた面白い顔をしてから、元気な声でいった。
 「待ってって?いい考えがあるんだ!!」
 それから、次々と引っ張り出してみた。そして、とうとう、脚立を発見した。
 (これなら、グラグラしないから、押さえなくても大丈夫)
 それから、トットちゃんは、その脚立を、引きずって来た。それまで、「こんなに自分が力持ちって知らなかった」と思うほどの凄い力だった。脚立を立ててみると、ほとんど、木の二股のあたりまで、とどいた。それから、トットちゃんは、泰明ちゃんのお姉さんみたいな声でいった。
 「いい?こわくないのよ。もう、グラグラしないんだから」
 泰明ちゃんは、とてもビクビクした目で脚立を見た。それから、汗びっしょりのトットちゃんを見た。泰明ちゃんも、汗ビッショリだった。それから、泰明ちゃんは、木を見上げた。そして、心を決めたように、一段目に足をかけた。
 それから、脚立の一番上まで、泰明ちゃんが登るのに、どれくらいの時間がかかったか、二人にもわからなかった。夏の日射しの照りつける中で、二人とも、何も考えていなかった。とにかく、泰明ちゃんが、脚立の上まで登れればいい、それだけだった。トットちゃんは、泰明ちゃんの足の下にもぐっては、足を持ち上げ、頭で泰明ちゃんのお尻を支えた。泰明ちゃんも、力の入る限り頑張って、とうとう、てっぺんまで、よじ登った。
 「ばんざい!」
 ところが、それから先が絶望的だった。二股に飛び移ったトットちゃんが、どんなに引っ張っても、脚立の泰明ちゃんは、木の上に移れそうもなかった。脚立の上につかまりながら、泰明ちゃんは、トットちゃんを見た。突然、トットちゃんは、泣きたくなった。
 「こんなはずじゃなかった。私の木に泰明ちゃんを招待し手、いろんなものを見せてあがたいと思ったのに」
 でも、トットちゃんは、泣かなかった。もし、トットちゃんが泣いたら、泰明ちゃんも、きっと泣いちゃう、と思ったからだった。
 トットちゃんは、泰明ちゃんの、小児麻痺で指がくっついたままの手を取った。トットちゃんの手より、ずーっと指が長くて、大きい手だった。トットちゃんは、その手を、しばらく握っていた。そして、それから、いった。
 「寝る恰好になってみて?ひっぱってみる」
 このとき、脚立の上に腹ばいになった泰明ちゃんを、二股の上に立ち上がって、引っ張り始めたトットちゃんを,もし、大人が見たら、きっと悲鳴をあげたに違いない。それくらい、二人は、不安定な恰好になっていた。
 でも、泰明ちゃんは、もう、トットちゃんを信頼していた。そして、トットちゃんは、自分の全生命を、このとき、かけていた。小さい手に、泰明ちゃんの手を、しっかりとつかんで、ありったけの力で、泰明ちゃんを、引っ張った。
 入道曇が、時々、強い日ざしを、さえぎってくれた。
 そして、ついに、二人は、向かい合うことが出来たのだった。トットちゃんは、汗で、ビチャビチャの横わけの髪の毛を、手でなでつけながら、お辞儀をしていった。
 「いらっしゃいませ」
 泰明ちゃんは、木に、よりかかった形で、少し恥ずかしそうに笑いながら、答えた。
 「お邪魔します。」
 泰明ちゃんにとっては、初めて見る景色だった。そして、
「木に登るって、こういうのか、って、わかった」
って、うれしそうにいった。
それから、二人は、ずーっと木の上で、いろんな話しをした。泰明ちゃんは、熱を込めて、こんな話しもした。
「アメリカにいる、お姉さんから、聞いたんだけど、アメリカに、テレビジョンていうのが出来たんだって。それが日本に来れば、家にいて、国技館の、お相撲が見られるんだって。箱みたいな形だって」
遠くに行くのが大変な泰明ちゃんにとって、家にいて、いろんなものが見られることが、どんなに、嬉しいことか、それは、まだトットちゃんには、わからないことだった。だから、
(箱の中から、お相撲が出るなんて、どういう事かな?お相撲さんで、大きいのに、どうやって、家まで来て、箱の中に入るのかな?)
と考えたけど、とっても、変わってる話だとは、思った。まだ、誰もテレビジョンなんて知らない時代のことだった。トットちゃんに、最初にテレビの話しを教えてくれたのは、この泰明ちゃんだった。
セミが、ほうぼうで鳴いていた。
二人とも、満足していた。
そして、泰明ちゃんにとっては、これが、最初で、最後の、木登りになってしまったのだった。
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发表于 2006-4-14 10:11:44 | 显示全部楼层
加油哦,
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 楼主| 发表于 2006-4-14 20:19:45 | 显示全部楼层
「こわくて、くさくて、おいしいもの、なあに?」。このナゾナゾは何度やっても面白いので、トットちゃん達は、答えを知ってるのに、
 「ねえ、“こわくて”っていう、あのナゾナゾ、出して?」
と、お互いに出しあっては、よろこんだ。答えは、
「鬼か、トイレで、おまんじゅう食べているところ」
というのだけれど。
さて、今晩のトモエの“肝試し”は、こんなナゾナゾみたいな結果になった。
「こわくて、痒くて、笑っちゃうもの、なあに?」
っていう風に。
講堂にテントを張って野宿した、あの晩、校長先生が、
「九品仏のお寺で、夜、“肝試し”やるけど、お化けになりたい子、手をあげて!」
といって、男の子が七人くらい、きそって、オバケになる、ということになっていた。今日の夕方、みんなが学校に集まると、オバケになる子は、思い思いに、自分で作ったオバケの衣裳を用意して、
「こわくするぞー!!」
とかいって、九品仏のお寺のどこかに、隠れに行った。後の三十人くらいの子は、五人くらいずつのグループに分かれて、少しずつ時間をずらして学校を出発、九品仏のお寺とお墓を回って、学校まで帰って来る。つまり、
「どれだけ、こわいのを我慢できるかの、“肝試し”だけど、こわくなったら、途中で帰って来てちっともかまわない」
と、校長先生は説明した。
トットちゃんは、ママから懐中電灯を借りて来た。「なくさないでね」とママは言った。男の子の中には、
「オバケをつかまえる」
といって、蝶々を採るアミとか、
「オバケを、しばってやる」
といって、縄を持ってきた子もいた。
校長先生が、説明したり、ジャンケンでグループを決めているうちに、かなり暗くなってきて、いよいよ、第一のグループは、
「出発していい」
ということになった。みんな興奮して、キイキイいいながら、校門を出て行った。そして、いよいよ、トットちゃん達のグループの番になった。
(九品仏のお寺に行くまで、オバケ出ない、と先生はいったけど、絶対に、途中で出ないかな……)
とビクビクしながら、やっと仁王様の見える、お寺の入り口に、たどりついた。夜のお寺は、お月様が出ていても、暗いみたいで、いつもは広広として気持ちのいい境内なのに、今日は、どこからオバケが出て来るか判らないと思うと、もう、トットちゃん達は、こわくてこわくて、どうしようもなかった。だから、ちょっと風で木が揺れると、「キャーッ!!」。足で、グニャッとしたものを踏むと、「出たア!」。しまいには、お互いに手をつないでいる相手さえも、(オバケじゃないか!?)と心配になったくらいだった。トットちゃんは、もう、お墓まで行かないことにした。オバケは、お墓で待ってるに決まってるし、もう、充分に、(キモダメシが、どんなのか)ってわかったから、帰ったほうがいい、と考えたからがった。偶然、グループのみんなも同じ考えだったので、トットちゃんは、(よかった、一人じゃなくて)と思い、帰り道、みんなは、もう一目散だった。
学校に帰ると、前に行った組も、帰って来ていて、みんなも、怖いから、ほとんどお墓まで行かなかった、とわかった。
そのうち、白い布を頭から、かぶった男の子が、ワアワア泣きながら、先生に連れられて、門から入って来た。その子は、オバケになって、ずーっと、お墓の中にしゃがんで、みんなを待っていたけど、誰も来ないし、だんだん、こわくなって、とうとうお墓から外に出て、道で泣いてるところを、巡回してた先生に見つけられ、帰って来たのだった。みんなが、その子を慰めていると、また泣きながら、違うオバケと男の子が帰って来た。オバケの子は、誰かがお墓に入って来たので、「オバケ!」と言おうと思って前に飛び出したら、走って来たその男の子と正面衝突して、二人とも、びっくりしたのと、痛いのとで、オイオイ泣きながら、一緒に走って来たのだった。みんな、おかしいのと、怖かったのが終わった安心とで、ゲラゲラ笑った。オバケも、泣きながら笑った。そこに、新聞紙で作ったオバケをかぶった。トットちゃんと同級生の右田君が、
「ひどいよ、ずーっと待ってたのにさ」
といいながら帰って来て、蚊に食われた、足や手を、ボリボリ掻いた。それを見て、
「オバケが、蚊に食われてる!」
と誰かが言ったから、みんな、また笑った。五年生の受け持ちの丸山先生が、
「じゃ、そろそろ残ってるオバケを連れて来ましょう」
と出かけて行った。そして、外灯の下でキョロキョロしてたオバケや、こわくって、家まで帰っちゃったオバケを、全部、連れて帰って来た。
この夜のあと、トモエの生徒はは、オバケを、怖くないと思った。
だって、オバケだって、こわがっているんだ、って、わかったんだからさ。
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 楼主| 发表于 2006-4-14 20:20:41 | 显示全部楼层
明天可能不能上来,今天一起贴了
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 楼主| 发表于 2006-4-14 20:20:58 | 显示全部楼层
トットちゃんは、お行儀よく歩いている。犬のロッキーも、たまにトットちゃんの顔を見上げながら、やっぱり、お行儀よく歩いている。こんなときは、パパの練習所を、のぞきに行くときに決まっていた。普段のトットちゃんは、大急行で走っているとか、落としたものを探すためにキョロキョロしながら行ったり来たりとか、よその家の庭を、次々と、突っ切って、垣根から、もぐって出たり入ったりしながら進んで行く、という風だった。だから、今日みたいな恰好で歩いているのは珍しく、そういうときは、「練習所だナ」って、すぐわかった。練習所は、トットちゃんの家から、五分くらいの所にあった。
トットちゃんのパパは、オーケストラの、コンサート・マスターだった。コンサート・マスターっていうのは、ヴァイオリンを弾くんだけど、トットちゃんが面白いと思ったのは、いつか、演奏会に連れってもらった時、みんなが拍手したら、汗ビッショリの指揮者のおじさんが、クルリと客席のほうに振り向くと、指揮台を降りて、すぐ隣に座って弾いていたトットちゃんのパパと握手したことだった。そして、パパが立つと、オーケストラのみんなが、一斉に立ち上がった。
「どうして、握手するの?」    
小さい声でトットちゃんが聞くと、ママは、
「あれは、パパ達が一生懸命、演奏したから、指揮者が、パパに代表して、『ありがとう』という意味で握手をしたのよ」
と教えてくれた。
トットちゃんが練習所が好きなわけは、学校は子供ばっかりなのに、ここは大人ばっかり集まっていて、しかも、いろんな楽器で音楽をやるし、指揮者のローゼンシュトックさんの日本語が面白いからだった。
ローゼンシュトックは、ヨーゼンシュトックといって、ヨーロッパでは、とても有名な指揮者だったんだけど,ヒットラーという人が、こわいことをしようとするので、音楽を続けるために、逃げて、こんな遠い日本まで来たのだ、とパパが説明してくれた。パパは、ローゼンシュトックさんを尊敬しているといった。トットちゃんには、まだ世界情勢がわからなかったけど、この頃、すでに、ヒットラーは、ユダヤ人の弾圧を始めていたのだった。もし、こういうことだなかったら、ローゼンシュトックは、日本に来るはずもない人だったし、また、山田耕作が作った、このオーケストラも、こんなに急速に、世界的指揮者によって、成長することもなかったのかも知れない。とにかく、ローゼンシュトックは、ヨーロッパの一流オーケストラと同じ水準の演奏を要求した。だから、ローゼンシュトックは、いつも練習の終わりには、涙を流して泣くのだった。
「私が、これだけ一生懸命やってるのに、君達、オーケストラは、それに、こたえてくれない」
すると、ローゼンシュトックが、練習で休んだりしたときに、代理で指揮をする、チェロのトップの斉藤秀雄さんが、一番、ドイツ語が上手だったので、
「みんなは、一生懸命やっているのだけど、技術が、おいつかないのです。絶対に、さざとではないのです」
と代表して、気持ちを伝え、慰めるのだった。こういうときさつは、トットちゃんは知らなかったけど、時々、ローゼンシュトックさんが、顔を真っ赤にして、頭から湯気が出るみたいになって、外国語で、どなっているのをみることがあった。そういう時、トットちゃんは、ほおづえをついて、いつも、のぞいている自分用の窓から頭を引っ込め、ロッキーと一緒に地面にしゃがんで息を潜め、また音楽の始まるのを待つのだった。
でも、普段のローゼンシュトックさんは、やさしく、日本語は、面白かった。みんなの演奏がうまくいくと、
「クロヤナキサン!トテモ、イイデス」
とか
「スバラシイデス!」
とかいった。
トットちゃんは、一度も練習所の中に入ったことはなかった。いつも、そーっと、窓からのぞきながら、音楽を聴くのが好きだった。だから休憩になって、みんなが煙草を吸いに、外に出たとき、
「あっ!トット助、来てたのか?」
って、パパが気がつくことって、よくあた。ローゼンシュトックさんは、トットちゃんを見つけると、
「オハヨーゴザイマス」
とか、
「コニチワ」
といって、もう大きくなったのに、少し前の小さかったときみたいに抱き上げて、ほっぺたをくっつけたりした。ちょっと恥ずかしかったけど、トットちゃんは、細い銀のふちの眼鏡をかけて、鼻が高く、背の低いローゼンシュトックさんが好きだった。芸術家とすぐわから、立派な美しい顔だった。
洗足池のほうから吹いてくる風は、練習所の音楽をのせて、とても遠いところまで運んでいった。時々、その中に金魚~~~ええ~~~金魚!という金魚屋さんの声が、まざることもあった。とにかく、トットちゃんは、少し西洋館風で、かたむいている、この練習所が気に入っていた。
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