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发表于 2006-4-13 19:16:39
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講堂での野宿の次の次の日、とうとう、トットちゃんの大冒険の日が来た。それは、泰明ちゃんとの約束だった。そして、その約束は、ママにもパパにも、泰明ちゃんの家の人にも、秘密だった。その約束が、どういうのか、というと、それは、「トットちゃんの木に、泰明ちゃんを招待する」というものだった。トットちゃんの木、といっても、それはトモエの校庭にある木で、トモエの生徒は、校庭のあっちこっちに自分専用の、登る木を決めてあったので、トットちゃんのその木も、校庭の端っこの、九品仏に行く細い道に面した垣根のところに生えていた。その木は、太くて、登るときツルツルしていたけど、うまく、よじ登ると、下から二メートルくらいのところが、二股になっていて、その、またのところが、ハンモックのように、ゆったりとしていた。トットちゃんは、学校の休み時間や、放課後、よく、そこに腰をかけて、遠くを見物したり、空を見たり、道を通る人たちを眺めたりしていた。
そんなわけで、よその子に登らせてほしいときは、
「ごめんくださいませ。ちょっとお邪魔します」
という風にいって、よじ登らせてもらうくらい、“自分の木”って、決まっていた。
でも、泰明ちゃんは、小児麻痺だったから、木に登ったことがなく、自分の木も、決めてなかった。だから、今日、トットちゃんは、その自分の木に、泰明ちゃんを招待しようと決めて、泰明ちゃんと、約束してあったのだ。トットちゃんが、みんなに秘密にしたのは、きっと、みんなが反対するだろう、と思ったからだった。トットちゃんは、家をでるとき、
「田園調布の、泰明ちゃんの家に行く」
とママに言った。嘘をついてるので、なるべくママの顔を見ないで、靴のヒモのほうを見るようにした。でも、駅までついてきたロッキーには、別れるとき、本当のことを話した。
「泰明ちゃんを、私の木に登らせてあげるんだ!」
トットちゃんが、首からヒモで下げた定期をバタバタさせて学校に着くと、泰明ちゃんは、夏休みで誰もいない校庭の、花壇のそばに立っていた。泰明ちゃんは、トットちゃんより、一歳、年上だったけど、いつも、ずーっと大きい子のように話した。
泰明ちゃんは、トットちゃんを見つけると、足を引きずりながら、手を前のほうに出すような恰好で、トットちゃんのほうに走って来た。トットちゃんは、誰にも秘密の冒険をするのだ、と思うと、もう嬉しくなって、泰明ちゃんんの顔を見て、
「ヒヒヒヒヒ」
と笑った。泰明ちゃんも、笑った。それからトットちゃんは、自分の木のところに、泰明ちゃんを連れて行くと、ゆうべから考えていたように、小使いの小父さんの物置に走っていって、立てかける梯子を、ズルズルひっぱって来て、それを、木の二股あたりに立てかけると、どんどん登って、上で、それを押さえて、
「いいわよ、登ってみて?」
と下を向いて叫んだ。でも泰明ちゃんは、手や足の力がなかったから、とても一人では、一段目も登れそうになかった。そこで、トットちゃんは、物凄い早さで、後ろ向きになって梯子を降りると、今度は、泰明ちゃんのお尻を、後ろから押して、上に乗せようとした。ところが、トットちゃんは、小さくて、やせている子だったから、泰明ちゃんのお尻を押さえるだけが精いっぱいで、グラグラ動く梯子を押さえる力は、とてもなかった。泰明ちゃんは、梯子にかけた足を降ろすと、だまって、下を向いて、梯子のところに立っていた、トットちゃんは、思っていたより、難しいことだったことに、初めて気がついた。
(どうしよう……)
でも、どんなことをしても、泰明ちゃんも楽しみにしている、この自分の木に、登らせたかった。トットちゃんは、悲しそうにしている泰明ちゃんの顔の前にまわると、頬っぺたを膨らませた面白い顔をしてから、元気な声でいった。
「待ってって?いい考えがあるんだ!!」
それから、次々と引っ張り出してみた。そして、とうとう、脚立を発見した。
(これなら、グラグラしないから、押さえなくても大丈夫)
それから、トットちゃんは、その脚立を、引きずって来た。それまで、「こんなに自分が力持ちって知らなかった」と思うほどの凄い力だった。脚立を立ててみると、ほとんど、木の二股のあたりまで、とどいた。それから、トットちゃんは、泰明ちゃんのお姉さんみたいな声でいった。
「いい?こわくないのよ。もう、グラグラしないんだから」
泰明ちゃんは、とてもビクビクした目で脚立を見た。それから、汗びっしょりのトットちゃんを見た。泰明ちゃんも、汗ビッショリだった。それから、泰明ちゃんは、木を見上げた。そして、心を決めたように、一段目に足をかけた。
それから、脚立の一番上まで、泰明ちゃんが登るのに、どれくらいの時間がかかったか、二人にもわからなかった。夏の日射しの照りつける中で、二人とも、何も考えていなかった。とにかく、泰明ちゃんが、脚立の上まで登れればいい、それだけだった。トットちゃんは、泰明ちゃんの足の下にもぐっては、足を持ち上げ、頭で泰明ちゃんのお尻を支えた。泰明ちゃんも、力の入る限り頑張って、とうとう、てっぺんまで、よじ登った。
「ばんざい!」
ところが、それから先が絶望的だった。二股に飛び移ったトットちゃんが、どんなに引っ張っても、脚立の泰明ちゃんは、木の上に移れそうもなかった。脚立の上につかまりながら、泰明ちゃんは、トットちゃんを見た。突然、トットちゃんは、泣きたくなった。
「こんなはずじゃなかった。私の木に泰明ちゃんを招待し手、いろんなものを見せてあがたいと思ったのに」
でも、トットちゃんは、泣かなかった。もし、トットちゃんが泣いたら、泰明ちゃんも、きっと泣いちゃう、と思ったからだった。
トットちゃんは、泰明ちゃんの、小児麻痺で指がくっついたままの手を取った。トットちゃんの手より、ずーっと指が長くて、大きい手だった。トットちゃんは、その手を、しばらく握っていた。そして、それから、いった。
「寝る恰好になってみて?ひっぱってみる」
このとき、脚立の上に腹ばいになった泰明ちゃんを、二股の上に立ち上がって、引っ張り始めたトットちゃんを,もし、大人が見たら、きっと悲鳴をあげたに違いない。それくらい、二人は、不安定な恰好になっていた。
でも、泰明ちゃんは、もう、トットちゃんを信頼していた。そして、トットちゃんは、自分の全生命を、このとき、かけていた。小さい手に、泰明ちゃんの手を、しっかりとつかんで、ありったけの力で、泰明ちゃんを、引っ張った。
入道曇が、時々、強い日ざしを、さえぎってくれた。
そして、ついに、二人は、向かい合うことが出来たのだった。トットちゃんは、汗で、ビチャビチャの横わけの髪の毛を、手でなでつけながら、お辞儀をしていった。
「いらっしゃいませ」
泰明ちゃんは、木に、よりかかった形で、少し恥ずかしそうに笑いながら、答えた。
「お邪魔します。」
泰明ちゃんにとっては、初めて見る景色だった。そして、
「木に登るって、こういうのか、って、わかった」
って、うれしそうにいった。
それから、二人は、ずーっと木の上で、いろんな話しをした。泰明ちゃんは、熱を込めて、こんな話しもした。
「アメリカにいる、お姉さんから、聞いたんだけど、アメリカに、テレビジョンていうのが出来たんだって。それが日本に来れば、家にいて、国技館の、お相撲が見られるんだって。箱みたいな形だって」
遠くに行くのが大変な泰明ちゃんにとって、家にいて、いろんなものが見られることが、どんなに、嬉しいことか、それは、まだトットちゃんには、わからないことだった。だから、
(箱の中から、お相撲が出るなんて、どういう事かな?お相撲さんで、大きいのに、どうやって、家まで来て、箱の中に入るのかな?)
と考えたけど、とっても、変わってる話だとは、思った。まだ、誰もテレビジョンなんて知らない時代のことだった。トットちゃんに、最初にテレビの話しを教えてくれたのは、この泰明ちゃんだった。
セミが、ほうぼうで鳴いていた。
二人とも、満足していた。
そして、泰明ちゃんにとっては、これが、最初で、最後の、木登りになってしまったのだった。 |
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