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发表于 2006-5-11 18:40:01
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トットちゃんは、放課後、学校を出ると、誰にも話しかけず、さよならもいわずに、、口の中でブツブツ何かを言いながら、急ぎ足で自由が丘の駅まで来た。まるで落語のようだけど、トットちゃんは、いま、
「トドロキケイコクハンゴウスイサン」
という難しい言葉を、言い続けているのだった。だって、もし誰かが隣に来て、
「ジュゲムジュゲムゴコウのスリキレ」
なんていったら、とたんに忘れちゃうに決まっているし、「よいしょ」なんて水たまりを飛び越えたら、もう、わかんなくなっちゃうから、とにかく口の中で、繰り返しているのが一番いいと考えたのだった。ありがたいことに、電車の中でも誰にも話しかけられず、なるたけ面白そうなことも見つけようとしなかったので、「あれ?」と思うことも起らないで済んで、家に帰る駅で、電車を降りた。でも駅を出るとき、顔なじみの駅のおじさんが、
「おかえり」
といったとき、もう少しで、
「ただいま」
といおうと思ったけど、いっちゃうと、そのあとから、
「ただいまスイサン」
なんて、なっちゃいそうだったんで、右手でバイバイをして、左手で口お押さえて、走って家まで帰ったのだった。
帰るなり、トットちゃんは、玄関でママに、すごい声で叫んだ。
「トドロキケイコクハンゴウスイサン!」
一瞬ママは、四十七士の討ち入りか、道場破りの真似かと思った。でも、すぐママには、わかった。
「等々力渓谷、飯盒炊爨!」
等々力というのは、トットちゃんの小学校のある自由が丘から三つ先の駅で、そこに、東京名所のひとつである、滝と小川とか林の美しい”等々力渓谷”と呼ばれる所があり、そこで、ご飯を炊いて食べるのだ、と理解したのだった。
(それにしても)
とママは思った。
(こんなに難しい言葉を、よく憶えること。子供というのは、自分に興味のある事なら、しっかり憶えるものなのね)
トットちゃんは、やっと難しい言葉から解放されたので、次から次と、ママに話しかけた。今度の金曜に、朝、学校に集まって行く。もって行くものは、お茶碗と、おわんと、お箸と、お米を一合。
「一合っていうのは、お茶碗に、ちょうど、一杯くらいだって、そして、炊くと、お茶碗二杯くらいになるんだって」
と忘れずに、付け加えた。それから、豚汁を作るので、中に入れるお肉とか、お野菜。それから、おやつも、少し持って行っていい。
その日から、トットちゃんは、台所で仕事をするママに、ぴったりくっついて、包丁の使い方、おなべの持ち方、ご飯のよそい方、などを研究した。ママが働いているのを見るのは、とても気持ちがよかったけど、中でもトットちゃんの気に入ったのは、ママが、おなべのふたなどを手に持って、
「あちちちち……」
なんていったとき、その手を、急いで耳たぶに持っていくことだった。
「耳たぶが冷たいからよ」
とママは説明した。トットちゃんは、この動作が何よりも、大人っぽく、台所の専門家がすることのように見えたから、
(私も、ああいう風に、トドロキケイコクハンゴウスイサンのときには、やしましょう)
と決めた。
いよいよ、その日が来た。電車から降りて、みんなが、等々力渓谷に到着すると、林の中で、校長先生は生徒を見た。高い木の上から差し込む光の中で、子供たちの顔はピカピカと光って、可愛かった。どの子もリュックサックをふくらませて、校長先生の言うことも待っていた。生徒たちの、後ろには、有名な滝の、豊かな水が、力強く、そして美しいリズムを作っていた。先生は言った。
「いい会。何人でグループを作って、まず、先生たちが持ってきたレンガを使って、カマドを作ろう。それから、手分けして、河でお米を洗って、火にかけたら、あとは豚汁だ。さあ、始めようか!」
生徒たちは、ジャンケンとか、いろんな方法で、グループに分かれた。全校生徒で五十人たらずなのだから、六つくらいのグループが、すぐ出来た。穴を掘って、レンガを、かこいのように積む。その上に鉄の細いさんのようなものを乗せて、おなべと飯盒を載せる台を作る。誰かさん達は、その間に、林の中で、たくさん、落ちている薪を拾って来る。それから、河にお米をとぎに行く子。いろんな役目を自分たちで作って分担した。トットちゃんは、自分で推薦して、お野菜を切る、「豚汁のかかり」になった。もう一人、トットちゃんより二年上の男の子も野菜を切る役目だったけど。この子がやると、すごく大きいのや小さいのや、目茶苦茶な形になった。でも、その男の子は、鼻の頭に汗をいっぱいかいて、格闘していた。トットちゃんは、みんなの持ってきた、おなすや、じゃがいも、お葱、ごぼうなどを、ママがするように、上手に、食べやすい大きさに切った。それから思いついて、キューリとおなすを薄く切って、お塩でもんで、ご丁寧に、お漬物まで作った。そして、時々、格闘してる上級生に、「こうやれば?」なんて教えたりもした。だから、なんとなく、もう、お母さんに、なったような気さえした。みんなは、トットちゃんの、お漬物に感心した。トットちゃんは、両手を腰にあてて、謙遜した風にいった。
「ちょっと、やってみただけよ」
豚汁の味付けは、みんなの意見で決めることのした。どのグループからも、「キャア!」とか、「わあーい」とか「いやだあー」とか、笑う声がしていた。林の中の、いろんな鳥たちも、一緒に大騒ぎをしているように、さえずっていた。そのうちに、どの、おなべからも、いいにおいがしてきた。これまで、ほとんどの子は、自分の家で、おなべをじーっと見つめたり、火加減を自分でするって言うことはなく、たいがい、テーブルに出されたものを食べるのに馴れていた。だから、こんな風に自分たちで作る、ということの楽しさと、当時に、大変さと、それから食べ物が出来るまでの、さまざまな、ものの変化などを知ったのは、大発見だった。いよいよ、どのカマドも完成した。校長先生は、草の上に、丸くなって座るように、場所を作ろう、といった。おなべや、飯盒が、それぞれのグループの前に運ばれた。でも、トットちゃんのグループは、トットちゃんが絶対にしようと決めていた、あの動作……おなべのふたを取って、
「あちちちち……」
をするまで、出来上がりを運ぶのを待たなければならなかった。そして、トットちゃんが、少し、わざとらしく、\
「あちちちち……」
といって、両手の指を両耳たぶにつけて、それから、
「いいわよ」
といったので、なんだかわからないけど、運んだのだった。この耳たぶの動作を、誰も「ステキ」とは言ってくれなかったけど、トットちゃんは、もう満足していた。
みんなは、自分の前のお茶碗と、おわんの中の湯気の立っているものを、見つめた。お腹も空いていたし、第一に、自分たちで作ったお料理なんだから。
よーく 噛めよ たべものを……の歌に続いて、「いただきまーす」といったあと、林の中は、急に静かになった。滝の音だけになった。 |
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