どんなに暑くても、どんなに寒くても、よほどのことがない限りこれは定年で退職するまで変わらなかった。

　父のことを思い出すと、決まって思い出すにおいがある。昼のにおいがある。正確には夏の夕暮れのにおいとでも呼ぶべきだが、私にとってその懐かしいにおいは「昼のにおい」である。

　夏の夕暮れ、父の汗まみれになって帰ってくると、汗拭かずに私と兄を大声で呼んだ。庭弄りがたった一つの趣味だった父が、夕ご飯までの時間、私と兄を庭へ呼んで、その手伝いをさせるのである.「こことそこはこんなふうに、あそこは」と父の言うままに、草を抜き土を運んでいた私と兄は、「ご飯ができましたよ」という母の声を聞くと、お互いの顔を見てニッコリうなすぎあったものである。「じゃあ最後に水をやって、それから手を洗って食事にしようと、ようやく父の手伝いが終わるからである。