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夜の繁華街。
道ばたで若い男がだらしなく座っていた。暇そうに大あくびをして、足を伸ばしている。道行く人たちは彼を邪魔そうにしながら、避けて歩いていた。睨んでいるのもいる。しかし誰一人、注意しようとしない。
若い男は、周りの迷惑など気にも留めず、呑気に煙草を吸い出した。
暫く眺めていたが、私はムッとしてきた。注意してやろうと、彼に近づいた。
「貴様! 道ばたでごろごろするんじゃない。ここは通行する場所であり、休む場所ではないぞ。しかも寝っ転がるなんて言語道断じゃないか」
若者は何の反応をしない。あぐらをかいたまま、私の方を見ようとせず、口に銜えた煙草を路上に捨てた。火はついたままだ。
「くそ、なんだキサマは。煙草の火も消そうともしないで。火事になったら、どうするんだ」私は自分の靴で煙草の火を消した。「この、うすら馬鹿野郎。周りの迷惑を考えろ」
「うっせーな」
「うるせぇ? そりゃ当然だ。叱っているんだからな。静かに叱る阿呆がどこにいるんだ。怒鳴ればうるさいに決まっているだろうが。当たり前な事を言うな。どこの馬鹿だおまえは」
「うぜぇ」
「理解不能だ。その言葉は辞書に登録されてないぞ。おまえらが勝手に使用し勝手に理解し解釈しているだけの非言語的な日本語だ。意味をなさない言葉を平然と活用し、己の低脳を恥じることをせずに、愚かズラしてるんじゃない」
「俺の勝手だ」
「ああ、勝手だよ。貴様が猿よりも下等な頭脳を持ち合わせている哀れな人間であることは既知の事実であるが、だからといって、公衆の場で不逞に寛いで良いという道理などないぞ。休むなら、そこのマクドナルドに行ってろ。もちろん、無賃で休むな。コーヒーを買って椅子に座れ。分かったな?」
「あんたには、関係ないだろ」
「確かに私と貴様は無関係の間柄だ。他人に無関心な現世で、見知らぬ馬鹿にわざわざ注意する人間がいる事自体が貴重な存在なのだ。ありがたく思え。普通なら感謝すべきものだが、貴様のような愚人に礼を言われてもこれっぽっちも嬉しくないから、言う必要はないぞ。周りに迷惑なんだから、何も言わずにさっさと去れ」
「死ね」
「ウザイだの勝手だの関係ないだの死ねだの、なにオウムの真似事みたいな幼稚なセリフしか吐かないんだ。貴様の語彙の空っぽさは生まれたての赤ん坊に匹敵するな。この歳まで何を学んできた。同情するよ。貴様の愚鈍さにな」
若者は悔しそうに黙った。
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